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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第六百三十八話 圧倒的実力差

「氷がやんでないか!?」


「本当だ! ミオが倒したんだよ! やったぁ!」


「ということは鳥はあの三匹だけだったのか」


「きっとレア魔物だったんだよ! ああいう魔物セットは珍しいってロイス君から聞いたことあるよ! ミオ! 倒したんなら戻っておいで!」


 リヴァーナは崖の下に向かって呼びかける。


「骨も減ってきたな。アンデッドも結局十体そこらだったみたいだし」


「魔力の限界なんじゃない? それか在庫が切れそうとか」


「在庫ってなんだよ?」


「あの黒い玉の中に住んでるのかもしれないし」


「え……そんなことあり得るのか?」


「ダルマンさんは魔工ダンジョンのこと知らないの? あれがダンジョンコアとなる水晶玉で、ダンジョンから魔物が出てきてるって考えたら色々納得できるもん」


「……」


 ダルマンは魔工ダンジョンという存在を知ってるだけで、それ以上の情報はほぼなにも知らないに等しい。


「ドラゴンも死んだかな?」


「……どうだろう。氷や雪がやんだせいで火魔法をやめただけかもしれない。それよりさっきの魔法はあれか? マグマゴーレムを倒すときに使ってたのと同じやつだよな?」


「基本はね。でもあれよりはかなり雑だけど。広範囲を優先したから威力も抑えめだし」


 土魔法で岩を作り出す。

 同時に風魔法で岩を切り刻んで細かくする。

 細かくなった岩を風魔法に乗せて放出する。


 簡単なように思えるが、二つ以上の魔法を同時に発動できる者は少ない。

 しかもリヴァーナはただ発動させただけではなく、二つの魔法を組み合わせて一つの魔法のように仕立て上げている。

 マグマゴーレムが使ってくるような、土魔法の岩に火魔法を纏わせただけのものとは難易度が大違いだ。


 そのマグマゴーレム相手に使ったリヴァーナの魔法はさらに難易度が高かった。

 岩を作り出し風魔法で切り刻むところまでは同じだが、できた岩はさっきの物よりかは少し大きく、先は鋭く尖ったものだ。

 その岩の一つ一つ全てを風魔法で勢いよく回転させ、その回転のまま風魔法に乗せて相手に放つ。

 回転させることで威力は数倍にも上がるそうだ。


 リヴァーナがそれほどの威力を持った土と風の合成魔法を完成させたのはつい数日前のこと。

 ミオもこの魔法と似たような仕組みの武器を持っているが、その武器とリヴァーナの合成魔法、どちらが先に生み出されたかはまだリヴァーナとミオしか知らない。


「霧が晴れてきたな」


 ガイコツドッグの姿も完全に見当たらなくなっていた。


 そしてみんなが崖の下、氷上の真ん中に視線を向ける。


 手前のほうから少しずつ見えてくる光景は、霧がかかる前のものとは少し変わっていた。

 マグマスライムが凍らされてた氷ほどではないが、大きな氷の塊がいくつか増えているのだ。

 割れている氷や、地面に穴が開いている場所も見受けられる。


 みんなはメタリンやミオが鳥たちと戦闘をした跡だろうと推測する。

 ということはその先にマグマスライムの氷の塊と、その上にあの女がいるはず。


「ミオ!?」


 突然リヴァーナが大きな声をあげた。


「どこだ!?」


「あの氷! 氷の中!」


「なにっ!?」


 そして大きな氷の塊の一つ、その中にミオがいた。


「「「「……」」」」


 誰もが言葉を失った。


 氷の中のミオはぐったりとした体勢でピクリとも動かない。


「あれ? どうかした?」


「「「「!?」」」」


 あの女の声だ。

 だが声は上から聞こえた。


 女はミオの遥か上、空中にいた。

 リヴァーナたちよりも高い位置にいる。


 その女の上には黒い鳥。

 プチダークドラゴンではなく、鳥だ。

 三匹の鳥の一匹ではなく、別の鳥だ。


 その鳥はなにか棒のような物を両足で掴んで宙を飛んでいる。

 その棒に引っ掛けられている布のような物に女が座っていた。

 女の左手に黒い玉はない。


「思ってたよりだいぶやるじゃない。これ以上は弾を消費したくないからこのへんにしてあげる」


「……ミオは生きてるの?」


「ミオか。可愛い名前。死んでなければ生きてるんじゃない?」


「……」


「早く助けなくていいの? 仮に生きてるとしたら、こうしてる間にもどんどん体温奪われてるよ?」


「「「「……」」」」


 誰も動かない。

 いや、動けなかった。


 それほど女の威圧感が凄い。

 女だけではなく、その上にいる鳥もだ。


「さっきの三匹の鳥たちはね、かなりのレア物だったの。そんなに強くはないけど、三匹の連携は見てて面白いところがあったのになぁ~。まぁこんな女の子一人に殺されるようじゃただの雑魚なんだけどね。でもそんな雑魚でも一応私の大事なレア物コレクションの一つだったのに。だからそれを奪ったその子にはそれ相応の報いを受けてもらわないと」


「「「「……」」」」


「ねぇ、さっきまでもっと威勢良かったよね? 私に向かってお得意の雷魔法でも使ってみたらどう?」


「……」


 リヴァーナは格の違いを感じてしまっていた。

 例え全力の雷魔法を放ったところでただの魔力の無駄遣いになるだろうということも。


「あ、この子貰っていいよね?」


「「「「!?」」」」


 女はローブの中からメタリンを取り出した。


 メタリンは気を失っているようだ。


「この子、メタリックスライムってやつでしょ? あの雑魚の鳥たちよりこの子のほうがよっぽどレアっぽいしね。きっと魔物使いなんかより私のほうが強く育ててあげられる。あ、そうだ、いいこと考えた。もしあなたたちがこの場から逃げられたら、次に会ったときはこの子にあなたたちを殺すように命令してあげよっか?」


「「「「……」」」」


「……なんてね。冗談だから本気にしないで。こんなただ色が珍しくて速いだけのスライムなんて役に立つわけないし。私が求めてるのは強い魔物なの」


「「「「あっ!?」」」」


 女はメタリンから手を離した。


 メタリンはそのまま下に向かって落ちていく。

 そしてミオが閉じこめられている氷の塊にぶつかり、向こう側に転がっていった。


「「「「……」」」」


 こんな光景を見せられても、誰も動くことはできなかった。


「さて、そろそろ遊びも終わりにしよっか。私こう見えても忙しいの。……あれ? そういえばあいつの姿が見えないわね」


 女は下を見た。

 あいつとはおそらくマグマスライムのことだろう。


 だがそこにあの大きなマグマスライムの氷の塊はない。

 あったと思われる場所にはポッカリと穴が開いていた。


「あ、思い出した。連れ帰ったところで調教に失敗して私の大事な魔物たちに被害が出てもあれだから、さっき奈落の底に突き落としたんだっけ」


 いかにも演技のようなわざとらしい発言ではあるが、一同にはそれが恐怖にしか感じなかった。


「あっ、今落ちたスライムもその穴に落ちちゃったかも……ごめんね……」


「「「「……」」」」


 みんなの間に絶望感が漂う。


「この下にマグマが残ってたらどうしよう……。噴火するような火山のマグマってね、ここよりもっと地中深くにたくさん溜まってるものなの。ここらへんにある山のほとんどは、そのマグマが大地を地下から押し上げてできたものなのは知ってる? つまりこの山だけじゃなくてほかの山も全部火山の可能性があるの」


「……マグマスライムがマグマを生み出してるわけじゃないのか?」


 ダルマンが口を開いた。


「ふふふっ、そんなわけないでしょ。……え? 嘘? もしかして、本気でそう思ってたの? 全員が? ……まさかあいつを倒しに来たのは、あいつが噴火の原因となるマグマを生み出してると思ったからってこと? あいつさえ倒せばもう噴火は起きないと思ったの? 嘘でしょ? バカなの? 冗談だよね?」


「「「「……」」」」


「……ふふっ。まぁ全部が全部間違ってるわけじゃないか。あいつは地下からマグマを呼び込むことができるみたいだし、自分の火魔法を利用してあたかもマグマを自分の魔法かのように操ってたし。だからあいつがいなければここまでの噴火にはなってないかもしれないね」


 この女が話す内容とフィリシアの日記に書かれていたことが微妙に違うことで、みんなはどちらを信じればいいのかがわからなくなっていた。


「あ、そういや私が来たときには上から水が流れてきてたの。その水がこの下のマグマに当たるせいで小規模の爆発がずっと続いててね。水と油って言えば伝わる? たぶん天井とか壁の鉱石は、その小爆発でマグマが飛び散ったものが蓄積されてできたんだと思う。あいつは魔物であろうが躊躇なく殺してたから、マグマの中には魔石もたくさん混じってただろうしね」


 その水は排水攻撃のことに違いない。

 だが爆発といったことは日記には書かれていなかった。


「だから私もね、もっと水を与えたらどうなるんだろうと思って、ちょっとした出来心で大量の水を落としてみたの。そしたらあの噴火だから少し驚いちゃった、ははっ。それからね、……まぁそんなことはどうでもいっか。じゃあ私はもう帰る。あなたたちが生きてここを出られたらまたいつか遊んであげるから」


 そう言うと、女は宙を上昇し始めた。

 もちろん黒い鳥が上に進んでいるからだ。


「おい! お前は何者なんだ!? 魔王側でいいんだな!? まさか魔王なのか!?」


 ダルマンが一歩前に踏み出し、大きな声で問いかけた。

 すると黒い鳥がとまり、女はダルマンを睨んでくる。


「……私は人間が大嫌い。人間が滅びようがそんなのどうでもいい」


 女の冷徹な口調に、ダルマンだけではなく全員の背筋が凍る。


「……あ、そうそう、魔物使いさんに伝えてくれる? ……次に会ったとき、ボコボコにしてあげるって」


「「「「……」」」」


 女はそう言い残すと、颯爽と上空へ消えていった。


 女が去っても、まだ体の震えがとまらない一同。


「……ミオとメタリンちゃんを助けないと」


 リヴァーナがどうにかして体を動かそうとする。


「ねぇ、少し揺れてない?」


 ティアリスの言葉に、リヴァーナの動きがとまる。


「もしかして……噴火とか?」


「「「「え……」」」」


 そして揺れはどんどんと大きくなる。


「早くしないと!」


「行きましょう!」


「待て! 危険だ!」


 とめようとするダルマンの手を振り払い、リヴァーナとアリアが崖の下へ飛び降りようとする。

 だが二人は崖のすぐ手前でなにかにぶつかり、しりもちをついた。


「なに!?」


「これは!?」


 そこには封印魔法の壁が作られていた。


「まさかボネちゃん!?」


「なんでですか!?」


 二人はティアリスを見る。

 ティアリスの肩にはボネが乗っていた。

 これまでずっとフードの中に隠れて姿を見せようとしなかったボネが。


 そのときだった。


「「「「きゃっ!?」」」」


「「「「うわっ!?」」」」


 激しい揺れが一行を襲う。

 思わず全員がその場にしゃがみ込んだ。


 そして次の瞬間。


「「「「!?」」」」


 崖の下から上に向かって、赤いなにかが大量に上っていく。


 誰がどう見てもマグマだ。


「ミオが死んじゃう! ねぇボネちゃん! 早く封印魔法を……え」


 リヴァーナは崖の下を見て愕然とする。


 そこにさっきまであったはずの氷がなかった。

 ミオがいた氷の塊だけではなく、地面一面に敷き詰められていたはずの氷がだ。


「ミオ……」


 崖の下はマグマの海と化していた。


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