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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第六百二十四話 しばらくの拠点

 住居用ピラミッドの地下二階にやってきた。


「ご苦労様です!」


「どうもお疲れ様です。ウチのカトレアがいる部屋はここですか?」


「そうです! どうぞお入りください!」


 夜なのに元気な衛兵さんだな。

 パラディン隊の夜勤の人たちもこんなテンション高くいられるのだろうか。


 部屋の中は狭かった。

 とは言ってもこのピラミッドで二人で生活する人に割り当てられる部屋は全部この広さらしい。

 さすがにベッドは出せなかったか。


「!?」


「デルフィさん、お疲れ様です。カトレアの様子はどうですか?」


「……」


 デルフィさんはゆっくりと頷いた。

 特に問題はないということだろう。


「看病ありがとうございました。あとワタの世話も」


「……」


 ワタはデルフィさんの膝の上で眠っている。


「果物エリアに俺たちの寝床を用意しましたので移動しましょう。地上からみんなも合流してきて今食事してますから」


「!」


 無事にトンネルが繋がったことが嬉しいのだろう。


「ゲンさん」


「ゴ(おう。……む? 狭くて入れそうにないからここまでお前が運べ)」


 さすがに壁を破壊するわけにはいかないもんな。


「カトレア、少し持ち上げるからな?」


 一応断っておく。


 ……う~ん、ベッドやソファじゃなくて地面に寝てる人間を抱えるのって難しいな。

 俺の腰は耐えられるだろうか。


 そして少し本気で、いや、かなり力を入れてカトレアを両手で抱え上げた。


 ……ん?

 ユウナより少し重いな。


 とか考えただけでもいきなり目が開いて睨まれそうだから絶対に表情に出してはいけない。


 カトレアを起こさないようになるべく振動を少なくして部屋を出る。


「ゴ? (そのままお前が運んでやったらどうだ?)」


「無理だって。俺はハリルを運ばないといけないし」


「ゴ(そうだったな。じゃあ貸せ)」


 カトレアをゲンさんに渡す。


 ……カトレアが小さいとはいえ、完全に子供サイズだな。

 俺がボネを抱くようなサイズ感なのかな。


 そして来た道を戻る。

 ティアリスさんはボネを、デルフィさんはワタを抱えたまま歩いている。

 それを見てメタリンが羨ましそうにしてたので、空いてる俺が抱えてやることにした。

 ウチの魔物たち、少し甘やかしすぎかもしれない。


 ……でもピピはずっとゲンさんの肩に乗ったままだ。

 というか俺と再会してからまだ一言も話してないよな?


「ピピ?」


「……」


 目を逸らされた。


 どうしたんだろう?

 体調でも悪いのか?

 地上にいたから午後は比較的ゆっくりできたはずなんだが。


「キュ(ピピさん、ずっとなにか考え事してるのです)」


 メタリンが小声で教えてくれる。


 考え事か。

 今日はダルマンさんと再会してあんな話をしたばかりだし、爺ちゃんのことでも思い出してるのかもな。

 しばらくそっとしておくか。


 再び食料保管用ピラミッドに戻ってきた。

 厨房に行くと、メンデスさんたちが城の料理人たちにちょうど引継ぎの挨拶をしてるところだった。

 これでお役御免ってわけか。

 なんだか感動的な場面なので邪魔しないようにしよう。


 戻って手前の入り口からハリルが寝てるベッドに近付く。


 そしてボネが封印魔法を解き、俺がハリルを抱えた。

 一応ベッドも回収しておこう。

 魔物が寝てたベッドを嫌がる人もいるかもしれないし。


 ……ん?

 おそらくハリルは風呂なんて入ってないだろうから結構臭うな。

 あのジョウロで水浴びとかしなかったのだろうか。

 あとで体を拭いてやろう。


 部屋を出たところの通路で待ってると、みんなが厨房から出てきた。


「お疲れ様です」


「うん、疲れたよ」


 メンデスさんはそう言いながらも満足そうに笑っている。


「でもロイス君のほうが大変だったみたいだね」


「いえ、ただ休憩してるだけの時間でしたから」


「はははっ! 言うね~。もっと話を聞きたいところだけど、とりあえず小屋に行こうか」


「あ、ダルマンさんたちまだ帰って来てませんか? このピラミッドの上の調査に行ってると聞いたんですけど」


「あれ? 聞いてない?」


「え?」


「この上のことだよ」


「いえ……」


「魔物がいたらしいよ」


「魔物!?」


「うん。その話も下に行ってからでいいかな? 早く座りたいんだよ」


「あ、すみません……。行きましょう」


 魔物がいただと?


 噴火によって飛んできた石でピラミッドの一部が破壊されたのか?

 それでピラミッド付近にいた魔物がマグマから逃げるために高いところに避難してきたとか?

 この砂漠には鳥系の魔物もたくさんいるから鳥の巣になってるのかも。


 続きが気になるのでつい早足で小屋に戻ってきてしまった。

 おかげでハリルを抱えてる重さがなにも気にならなかったな。


 男性側の建物に入るとみんなが食事をしていた。

 そして調理組に対して次々と労いの声がかけられる。

 このままちょっとした大宴会になりそうだ。


 俺はとりあえずハリルを奥のベッドに寝かせることにした。

 もう封印結界は必要ない。

 みんなの声が少々うるさいけど、これで目覚めてくれるのならそれもいい。


 ハリルの看病をメタリンに任せ、メンデスさんの隣に移動した。


「さっきの話、どういうことなんですか?」


「食事会場の上の階層はね、床一面が土だったらしいんだよ」


「土? ここみたいな?」


「うん。でもフカフカの土なんだって。それと野菜の種などもあったとか」


「つまり畑ってことですか?」


「そう。米とかも育てられるらしいよ」


「今はなにも植えられてないってことですか?」


「みたいだね。この果物エリアとは違ってずっと面倒見てくれる存在もいなかっただろうし」


「それはそうですね。ではその階層に魔物もいたと?」


「いや、魔物はさらにその上の階層みたい。ピラミッド周辺の外よりも明らかに魔瘴が濃いらしい。壁の強度も地下遺跡並みなんだってさ」


「え……つまり戦うためにわざと魔物を出現させてるってことですか?」


「だろうね」


 なんのために?

 ハリルに魔物と戦わせる意味を持たせた果物エリアの事情とは少し違うよな?


 ……ってこのピラミッドの意味を考えればわかるか。

 食料を保管するために造られたピラミッドだもんな。

 野菜や米も育てることができ、肉も獲れるときたか。

 保管だけじゃなくて調達もできるとは実に勝手がいい。


「そのさらに上の階層にはまた土の階層があったり、魔物の階層があったりと色々らしいよ」


「このピラミッドの高さを活かした設計にしたんですかね。ダルマンさんたちはどこの階層に?」


「三階の一番魔物が多くいる階層だね。衛兵たちが魔物の肉や皮を調達するから、助っ人に入ってほしいって頼まれたんだってさ。まだ敵の種類を完全に把握できてないし、なにより長年放置されてたわけだからなにがあるかわからないしね」


 そういうことか。

 ダルマンさん、ガボンさん、そしてアリアさんの三人に勝てる衛兵はいないだろうしな。

 それに三人とも物理攻撃タイプだし、素材を確保するには最適な人材だ。


「一度見てきたらどうだい?」


「いえ、戦えない俺が行くと邪魔者扱いされそうですからやめときます」


「ふ~ん。ロイス君って見た目は結構強そうなんだけどな」


「それはこの防具や周りにいる魔物たちのおかげですから完全に気のせいですよ。ではごゆっくりしてください。みなさん、シャワー、トイレ、洗面所、飲み物、軽食等はそちらの小屋の中にありますし、寝るならあっちのベッドにお願いします。一人用のスペースみたいに壁で区切ってますのでお好きな場所にどうぞ。女性側の建物も似たような作りになってます」


 そして俺は建物の外に出た。


 ゲンさんとピピは建物の端、封印魔法がかかってるギリギリのところにいる。

 魔物を警戒してくれているんだろう。

 ボネとワタはカトレアのベッドにいるらしい。


「ロイス殿」


「ん? どうした?」


「少しいいでござるか? 地上へのトンネルのことでござる」


「あ、そうだよ。なんでそんな広そうな範囲を安全エリア化することになったんだ?」


「立ち話もなんでござるからそこに座るでござるよ」


 小屋横のテーブルにアオイ丸と向かい合わせに座る。


「今日昼食を食べたあの場所まで地下で繋がってるんだって?」


「そうでござる。それが一番安全そうでござるからな。ロイス殿たちがダンジョンに入ってからはあの場所一帯を強化してたのでござるよ」


「そこまでする必要があったのか? 暇だったからとか?」


「モーリタ村の人たちに頼まれたのでござるよ」


「村の人たちに? なんて?」


「あの場所を、ナミの町まで行くときの休憩場所にしたいから、できれば魔物が湧かないようにしてほしいとのことでござる」


「休憩場所か。モーリタ村の人たちはやっぱりパルドとかには避難する気はないのかな?」


「そのようでござるな。ナミの町の人々はどうなのでござるか?」


「向こうからはそんな話はいっさい出なかった。一応俺は避難したい人がいるかもしれないから地上までの道を繋げてる最中ってことは言ったんだけどな」


「再び火山が噴火したにも関わらずまだこんなところに住もうと思うなんて本当に不思議な人々でござるな。しかも今はマグマの正体も判明してるうえに魔瘴まで迫ってきてるというのにでござる」


「帝国やジャポングの人たちとはなにか違うよな。そんなに砂漠が好きなのかな? それとも暑いところがいいとか?」


「謎でござるな。で、休憩場所の話に戻るでござるけど、無事にピラミッドまで繋がったというカトレア殿の手紙を見て、それなら今後はそのルートでナミまで行くのが一番早くて楽だという話になったのでござるよ。当面はピラミッドで生活するはずでござるし」


 楽って……。

 人間、楽を覚えるとろくなことがないぞ……。


「だから今度は休憩場所から果物エリアへのトンネル内も安全にしてくれと言ってきたのでござる。狭い場所で魔物と戦いたくないやら、トンネルが壊れても困るし、とか言ってくるのでござる」


 ほら……。

 その次は休憩場所からモーリタ村までの高台の道もとか言うんだろ?


「できれば高台の道も、ミニ大樹の柵だけではなく、洞窟型っぽくして魔道線を張って封印魔法をかけてほしいと言ってきたでござる」


「おい……さすがに断ったよな?」


「もちろんでござる。……でも」


「……でも?」


「買うと言ってきたでござるよ」


「買う? ……魔道化セットをってことか?」


「そうでござる。村に保管してある魔石を全部やるからって。それとついでにトロッコも売ってくれと」


「トロッコも? ……まさかモーリタ村からここまで走らせる気か?」


「そうみたいでござる……」


 なんだと……。

 楽をしたいのはわかるが、それはさすがにやりすぎじゃないだろうか……。

 使われることのなくなったラクダが可哀想だとか思わないのか?

 というかアオイ丸も相談もなしに勝手に売るなよな……。


 ……まぁ大量の魔石が手に入るのなら悪くない条件かも知れないが。

 でも魔石の数次第だからな?


 ……作業は手伝ってくれるんだもんな。

 それなら多少安くはしてやってもいいか。


「ん? でもそれってつまり、昨日俺が話してたアイデアそのものを買いたいってことか?」


「その通りでござる。とは言っても自分もほかのみんなもその昨日の話を知らなかったでござるけど」


「ん? なんで聞いてないんだよ? 高台の道を作るって説明したときにトロッコを走らせる案もいっしょに話しただろ?」


「話してないでござるよ。その話はカトレア殿の部屋で、シファー殿に向かって話しただけではないでござるか?」


「え?」


 そうだっけ?


 でもアリアさんは知ってた……あ。


 知らなかったから、さっきトロッコを出したとき驚いてたのか。

 完全に俺の勘違いだったわけだ。

 色々ありすぎて記憶がごちゃごちゃになってきてるんだな……。


「ん? じゃあなんで村の人たちがその話を知ってるんだよ?」


「夕方に村の人たちが合流したあと、みんなで休憩してるときにシファー殿が言ってたのでござるよ。元々ロイス殿はこの高台の道にトロッコを走らせるつもりで考えてたと。今すぐにでも一万人全員を避難させようとしていたと。もしかしたらもうすぐ人の波が押し寄せてくるかもしれないね~、って」


 シファーさんか……。

 案外お喋りなんだな。


「確かにあのときはそう言ったけど、結局その話はなくなったんだよ」


「そうみたいでござるな。ピピ殿に怒られてたってシファー殿は笑ってたでござるよ」


 おい……。

 俺がいないところでネタにされてるとは……。


 あ、そういやピピはナミの地下遺跡へ行くことより、マグマスライムを倒すことを優先するべきって言ってたよな……。


 もしかして、だからずっと怒ってるのだろうか。

 でも先にナミの町へ向かうことに方針を変更した俺の考えは間違ってなかったよな?


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