第六百二十二話 寝床確保
衛兵が運転するトロッコに乗り、転移魔法陣がたくさんある広場まで戻ってきた。
そこではたくさんの人が引っ切り無しに左右の転移魔法陣を行き来していた。
今から食事を食べに行く人や、食べ終わって仮住まいに戻る人たちだろう。
みんな不安と安心が入り混じったような顔してる。
補佐官さんたちとはここで別れた。
あとで俺たちにも部屋を用意してくれるらしい。
その前に、俺たちは食料保存用ピラミッドの厨房に行くために今来た道を少し戻る。
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ!」
すると交差点でとめられた。
どうやら一般の人が両ピラミッドの地下部分に入らないように見張ってるらしい。
それにトロッコが通るから、急に人が飛び出したりしないように見張りは必要だ。
「関係者です。大樹のダンジョンのロイスと申します」
「えっ!? ……失礼しました。どうぞ」
すぐに通してくれた。
顔も知らないのに通して大丈夫なのだろうか。
でも俺が無実だったことはもう知ってくれているようだ。
そして転移魔法陣から食料保存用ピラミッドに入り、右側のなにもない部屋に入る。
……今は二段ベッドやテーブルがたくさんあるな。
おそらくウチの物だから、ヒューゴさんたちが設置したのだろう。
というかもう人がたくさん寝てるじゃないか……。
「お城で雇ってる料理人らしいよ。そっちの奥は女性専用だから入ったらダメみたい」
リヴァーナさんが小声で話しかけてくる。
そうか、城ともなれば料理人くらい雇ってて当然なのか。
これなら明日からは任せて良さそうだな。
モーリタ村から人を呼ぶ必要もないかもしれない。
でもこの人たちはずっとここで生活するわけじゃないよな?
住居用ピラミッドに家族とかもいるだろうし。
あくまでここは料理人のための休憩、食事、仮眠スペースといったところか。
この部屋の使い方としてはこれがベストな気がする。
音を立てないように静かに歩き、マグマハリネズミの元に着いた。
……まだ寝てるのか。
まさかこのまま目を覚まさないなんてことはないよな……。
「ロイス君」
「ん?」
ミオが久しぶりに口を開いた。
「果物エリアに小屋設置しよう」
「お? それいいな。そっちのほうがゆっくりできそうだ」
こいつもそっちのほうがゆっくり寝れるだろうしな。
でも小屋の外で寝かせてやったほうが起きたときに安心できるか?
「あ、そういやボネは?」
「ゲンさんたちといっしょ」
「どこにいるんだ?」
「地上とのトンネルで作業中」
「作業? ゲンさんが土魔法で頑丈にしてきてるってことか?」
「それはあとで話す。とりあえず外出よう」
寝てる人を起こしてもマズいもんな。
ボネがいないと封印魔法を解除できないから、マグマハリネズミは一旦置いていくしかないか。
厨房に入ろうと思ったが、メンデスさんたち以外にも人がたくさんいて、みんな忙しそうだったから覗くだけにして部屋の外に出る。
ミオにグラシアさんを呼んできてもらうように頼み、俺とリヴァーナさんは先に果物エリアに行くことにした。
地下二階の部屋を少し覗いてみたが、食料はまだまだあるようだ。
でも明日か明後日にはなくなるんだろうな。
おそらくフィリシアは今のナミの町の人口がまさか一万人もいることまで想定していなかっただろうから。
そして果物エリアへ繋がる転移魔法陣の前にやってきた。
そこには見張りの衛兵が二人いた。
「あっ!? ロイスさん! ご無事でしたか、本当に良かった~」
誰だっけ?
薄暗いからよく見えない……ってダイフクに怪我させられたあの人か。
「まぁなんとか助かりましたよ」
「すみません、なにも力になれなくて……」
「いえ。状況的に俺が大臣や補佐官だったとしても俺を疑いますから気にしないでください」
「はい……。ラシダさんも出してもらえたのでしょうか?」
「えぇ。今はもう仕事に戻られましたよ。牢屋で一日以上もゆっくり休めたからしばらくは寝なくても大丈夫だとか言って」
「ははっ……さすがラシダさんですね」
「で、ここ通してもらってもいいですか?」
「もちろんです。外は真っ暗だと思いますがモーリタ村に行かれるんですか? まさかダンジョンじゃないですよね?」
「いえ、果物エリアに寝床を作ろうと思いまして。このすぐ外のところにです」
「え……でも魔物が出ると聞いてますが……」
「浄化してから封印魔法を使いますので大丈夫だと思います」
「あ、そうですよね! 心配してすみません!」
「このあとも冒険者が行き来しますけど通してもらえるんですよね?」
「ここはロイスさんのお仲間さんとモーリタ村の住人以外は通すなと言われてるんです。なので厨房にいた冒険者の方以外は、外からここに入ってきたときに確認させていただくことになります」
「じゃあ衛兵さんたちもここを通れないんですか?」
「そうなんです。ダルマンさんが衛兵隊長たちに強く言ったものですから……」
「ダルマンさんが? なんて言ったんですか?」
「自分たちが果物エリアに入ったときには溢れんばかりの魔物がいた。その魔物たちをほぼ全滅させてきたが、ナミの町の人たちのために少しでも早く地下遺跡に辿り着かなければと思ってたため、まだ魔石を全く集めていない。全部自分たちの物だから一つでも取ろうものなら盗人扱いでモーリタ村の牢屋に入ってもらうことになる。……と」
やるじゃないかダルマンさん。
俺が牢屋に入れられた以上、こっちも容赦はしないという意味でもそう言ったんだろう。
モーリタ村に牢屋があるのかは知らないが、別になくても脅しにはなるし。
とにかくこれでゆっくり魔石を集められるってわけだな。
「一応僕たち含めて何人かは見せていただいたんですけど、本当に魔石がいっぱい転がってて驚きましたよ……」
「とんでもない数の魔物でしたからね。果物や木を傷つけないようにしながら戦うのは大変でしたよ。魔物の死骸で果物が臭くなっても嫌ですからすぐに燃やすことにしましたが、今思えば食料として食べられそうな肉は回収しておくべきでした」
「いえ! ありがとうございます! 魔物の死骸の臭いが付いた果物なんて誰も食べたくないですから! 魔物の肉はこれからいくらでも補充できますし!」
よしよし。
果物は全部あげるからそれで我慢してくれ。
「ではなにかありましたら呼びに来てください」
そしてリヴァーナさんと二人で転移した。
……魔物の姿はなさそうだ。
「ちょうどこのあたりは木がありませんし、ここでいいですよね?」
「うん! とりあえず道の左右に一軒ずつ設置してみようよ!」
転移魔法陣から出てすぐの壁際に小屋を設置することにした。
小屋の入り口は木がある方を向くようにし、周りにはミニ大樹の柵を立てる。
すぐにミオとグラシアさんがやってきた。
グラシアさんには浄化魔法で周囲を浄化してもらう。
これであとはボネの封印魔法待ちだな。
小屋横にテーブルを設置し、四人でお茶休憩することにした。
グラシアさんは厨房に入ってからずっと休憩できてなかったらしい。
「えっ? 厨房にワッサムさんたちもいたんですか?」
「うん。厨房にいたのはほとんどモーリタ村の人だからね」
全く気付かなかった……。
邪魔してはいけないと思って本当に軽く覗いただけだからな。
どうやら地上の砂漠のレストランでは、夕方くらいからモーリタ村の人が二十人ほど待機してくれてたらしい。
もちろんすぐにナミの町に行けるようにだ。
でも今ここに来てるのはそのうちの十五人とのこと。
「残りの人たちはまだトンネルにいる? そういやそこでなにしてるんだよ?」
ミオにさっきの話の続きを聞くことにした。
「魔物が湧いたり入ってこないように安全エリア化してる」
「ミニ大樹の柵や魔道線を設置してるってことか?」
「うん。ボネちゃんたちもいっしょ」
ボネ、メタリン、ピピ、ゲンさんも村人たちといっしょに作業をしてるようだ。
それにアオイ丸、メネア、シファーさん、ティアリスさん。
あとはラシッドパーティ、プティパーティ、ナミ三人衆もいっしょとのこと。
「ラシッドさんはすぐにここに来たいとは言わなかったのか?」
「うん。今は各自に任されたことをやることが大事だとか言ってた」
ほう?
国王が行方不明だと知ったあとでもそういう行動を選択できるとは。
でも俺を助けてくれようとは思わなかったのかな……。
話を聞くと、ミオたちはメタリンとボネが持っていったカトレアの手紙で状況を知らされたようだ。
その手紙に俺のことは心配いらないって書かれていたらしい……。
まぁ実際こんなに早く牢屋から出てこれてるもんな。
ほんの二時間ほど休憩した場所がたまたま牢屋だったってだけにも思えてくる。
でもリヴァーナさんとミオはすぐに俺を助けに行くと言ってくれたそうだ。
だからお手伝い要員の村人たちとともにメタリン馬車ですぐにピラミッドへ向かってきてくれたらしい。
こんな俺を助けようと思ってくれるなんて実にありがたいことだ。
「あれ? それじゃワタはどこにいるんだ? ボネといっしょじゃなかったか?」
「あっ、ワタちゃんならデルフィさんが面倒見てくれてるみたい」
「え? そうなんですか?」
「うん。カトレアさんが倒れるまではカトレアさんといっしょにいたみたいだから、今は付き添ってくれてるデルフィさんが面倒見てるってわけ」
まぁデルフィさんの傍なら安全か。
補助魔法も使えるしな。
「ダルマンさんとガボンさんとアリアさんはどこにいるんですか?」
「衛兵さんたちといっしょにピラミッドの隅々まで調べるよう頼まれたみたい。まだ食料保存用ピラミッドの上とか見てなかったでしょ?」
へぇ~。
上にはなにがあるんだろうか?
たぶんなにもないだろうけどな。
「じゃあ私はそろそろ戻るね。厨房をきれいにして引き継ぎの準備しないと」
「明日の朝の食事はもういいんですか?」
「うん。あとはお城の人たちがやってくれるって」
「そうですか。補佐官さんも大臣も凄く感謝してましたよ」
「本当? それは良かった。終わったら今日はこの小屋で寝ていいんだよね?」
「もちろんです。メンデスさんたちにも伝えてください」
そしてグラシアさんは一人で転移魔法陣の先に消えていった。
ん?
村の人たちも入れたら結局何人になるんだ?
……寝床を増やすか。




