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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第六百十九話 取り調べ

 衛兵隊長、大臣、水道長の三人が牢屋の外から俺を見下ろしてくる。


 俺は正座でもしたほうがいいのだろうか?

 でもそれだと反省してるみたいになるからあぐらでいいや。

 立って話すのはおかしいしな。

 イスに座るとまたなにか嫌味言われそうだし。


「あ、避難のほうは順調ですか?」


「……あぁ。それについては感謝する」


「仮住居用ピラミッドへは?」


「……それも君の仲間のおかげで無事中に入ることができた。温かい食事にもありつけて非常にありがたい」


「それは良かったです」


 だからといってここから出してくれるわけではないんだな。


「では取り調べを始めさせてもらう」


 すると水道長は近くにある一人用のテーブルに座った。

 書記担当のようだ。


「まずは三日前の城での会議が終わったあとの行動から順に話してくれ。誰と会ったかも詳細に」


「俺の行動だけでいいんですか?」


「いや、できれば仲間全員だ」


 それはまた面倒な……。

 どこの店で買い物してたかなんて知らないし。


 だから適当に話した。

 俺は馬車で買い物待ちしてたこと。

 ラシダさんがレア袋を返しに馬車に来たこと。

 仲間が冒険者ギルドでワッサムさんからモーリタ村の情報を仕入れてきたこと。

 ラシッドさんたちに追跡されてたから撒くために遠回りしたこと。

 荒野地帯で野宿したこと。


「馬車でのラシダとの会話内容は?」


 なに話したっけ?

 ……カトレアと盛り上がってたことは覚えてるんだが。


「まだ水が残ってたレア袋を預けました。もし水がなくなるような事態になったときに使ってくれと言って」


「水がなくなるような事態? こういう事態を想定してたってことか?」


「え? いやいや、違いますって。普通に生活してて水がなくなった場合の話に決まってるでしょう」


 むりやり話をこじつけようとするなよ……。


「前国王ハミドとは会ってないんだな?」


「会ってません。というかあの人は俺たちにもずっと隠し事をしてたんですよ? 自分だけなにもかも知ってる状態であの会議に参加してたってことですよ? それについてはなにか言ってませんでしたか?」


「……それは言えん」


 言えんってなんだよ……。

 本当に犯人がいるとしたら完全にあの爺さんだろ……。


 というか爺さんが知ってる火山ダンジョンの話はフィリシアの日記と同じ内容なのか?

 なにか本で残ってたりしたのか?


「ライサとはどうやって知り合った?」


「ライサ? ってラシダさんの妹さんですか。俺は会ったことありません。さっきいたスライムの魔物が町を散歩中に、放火魔と勘違いしてそのライサさんの杖を奪ったらしいです」


「放火魔……」


「水道が見えてなかったらそう思っても仕方なくありませんか? しゃがみこんで壁に杖を向けてるんですよ?」


「まぁ……」


「ウチの魔物たちは正義感の塊なんですから。そのあとライサさんが走って追いかけてきたから、リスと合流して懲らしめてやろうと思ったらしいです。ライサさんがウチの魔物を知っててくれたおかげでそれ以上の騒ぎにはなりませんけど」


「……わかった」


 話を聞いた限りでは凄くいい人だったみたいだからな。

 ライサさんもきっと今と同じような説明をしてくれたことだろう。


「というかラシダさんもライサさんも自分たちから魔物を誘ったって言ってるんですよね?」


「そうだが……」


「それなのになんで俺が仕向けたなんて考えになるんですか? 協力してて口裏合わせてるのならまだしも」


「協力してた可能性がないとは言えないだろ。自分の父親を憎んでた可能性もゼロだとは限らない。親が国王だと色々苦労することだってあるんだ。それに利用されたかもしれないと言ってるのは二人を庇おうとしてる連中だけだ」


 そう言われたらラシダさんもカトレアに少し愚痴ってた気がするな……。


 ……え?

 まさか本当にラシダさんたちが?

 実行犯は俺ということにして、自分たちは軽い罪ですまされるために自白したとか?

 嘘だよな?

 そんなことができる人じゃないだろ?

 って俺はまだそこまでラシダさんのことをよく知らないか……。


「俺だけがハメられてる可能性はないんですか? 三人が俺を犯人に仕立て上げようとしてる可能性です」


「……」


 ん?

 あるのか?


「そういう意見もあることにはあったが、君たちが転移魔法陣の先から現れたことでなくなったに等しい」


 まぁそうなるか……。


 でも俺やカトレアがいなければあの転移魔法陣を通れた可能性は限りなく低いぞ?

 仮に俺は来ないでカトレアだけが来てたとしても、解析やピラミッドの中でのアイテム探しに時間かかってたと思うし。


「地下通路の先にはなにがあったんですか?」


「今衛兵に奥まで入らせてる」


 大ピラミッドまで走れば一時間くらいか?

 ならそろそろなにかしらの報告があってもいいころだな。


「もし国王が見つからなかったり、死んで発見されたら俺どうなります?」


「……」


 おい?

 死刑なのか?

 そうなんだな?


 ……やっぱり逃げ出そうか。


「ウチのスライムと猫はどうしてるか知ってます?」


「……二匹で果物エリアから地上に出ると言っていた」


 ならリヴァーナさんたちが来るのも時間の問題か。

 洞窟はもう地上まで開通したかな?


 あ、バビバ婆さんを連れてきてもらうように頼んでおくべきだったか。

 知り合いの人もいるみたいだし、補佐官さんのことも知ってるみたいだったしな。

 でももう夜遅いし寝てるか。


「野宿した次の日の朝のことから話しましょうか?」


「……いや、もういい。モーリタ村に行ったというのは本当なのだろう」


 そこは信じるのか。

 まぁ今日一日で歩いてここまで来れてるんだから、国王がいなくなった日も俺たちがモーリタ村から来てたとも考えられるか。


 というか国王が死んでたら俺の無実を証明する方法はないってことだよな。

 モーリタ村の宿屋のおばさんが俺はずっと宿屋にいたとか言ってくれたとしてもこの人たちは信じなさそうだし。


 ……魔道化を条件に見逃してもらうか?

 魔道列車を繋げると言ったら案外あっさりと……ん?

 もしかしてそれが狙いじゃないだろうな?

 国王が死んだことを利用しようとしてるんじゃないか?

 ってさすがの補佐官さんでも今はそんなことしないか。


 でも自分の夫が行方不明になり、娘二人は犯罪に加担してる可能性があるとされ牢屋に入ることになった。

 立場上、国のことを優先して考えないといけないのだろうが、本当はなにも手につかないくらいの精神状態かも。

 自暴自棄になっててもなにもおかしくない。

 魔道列車のことなんかもどうでも良くて、もしかしたらこのあとあっさり俺のことを死刑宣告したりして……。


 よし、もし国王が死んでたら迷わず逃げよう。

 正々堂々と、正面から助けに来てもらってな。


 とりあえずあのレストランのところまで戻るか。

 もし衛兵が追ってくるようならモーリタ村まで一気に逃げよう。

 マグマスライムのことはそのあと考えればいいや。


 ……でもこれってナミ王国とパルド王国の関係悪化に繋がったりしないよな?

 まさか戦争になったりする?

 それかパルドもナミを支持して、俺を指名手配にしたりして……。


 そうなったら俺はもう大樹の森から一生出られないことになるな。

 地上からは封印魔法で誰も入ってこれないようにするとして、魔道ダンジョン内でのチェックも厳しくしないと。


 いっそのこと俺は死んだことにしたほうがいいか。

 俺そっくりの死体を錬金術で作れたりしないかな?

 あ、でも俺が死んだのに大樹のダンジョンや魔道ダンジョンがなくなってないのはおかしいか。


 なら実は俺には産まれたばかりの子供がいたことにしよう。

 もちろん魔物使いだ。

 それならなにも問題はない、うん。


 どうせ近いうちにこの大陸は魔瘴に覆われる。

 そうなったら砂漠や海を渡ってくることも難しいだろうしな。


 ……サハの町には申し訳ないが、魔道列車のサハへの延伸は中止だ。

 お金を貰ってるわけでもないから別にいいだろ。


 それより王都パルドへの延伸を考えたほうがいいな。

 もしかしたら俺のことを見逃してくれるかもしれないし。

 でもマッシュ村を通る山道のルートが面倒らしいんだよな。


 あ、そういやマッシュ村の村長の息子はどうなったのだろう?

 まだ魔工ダンジョンの水晶玉を探してるのかな?


 ってウチに残りの水晶玉は何個あったっけ?

 サハの駅で使う用だったやつをパルドに回すとして、マッシュ村はカトレアの転移魔法陣で我慢してもらうしかないな。

 駅も小規模なものになるし、おそらく宿屋案内システムも使えないがまぁいいだろ。


 一応水晶玉は魔力の中継的役割もしているが、マッシュ村になくても王都まで魔力が届くよな?

 さすがにソボク村から距離がありすぎるか?


「国王がいなくなった件について本当になにも知らないのか?」


 ん?

 まだ取り調べは続いてたのか。


「知りませんって。それに大臣さんたちは俺を一方的に犯人と決めつけてるせいで、俺たちの推測なんてなにも聞いてこないじゃないですか」


「……犯人についての推測か?」


「違いますよ。もし誰も犯人がいなかった場合、なぜ噴火が発生したのかということについてです。俺たちはこの噴火が人によって引き起こされたものではないとの仮定でずっと動いてきてますから。まさか国王が大ピラミッドに行ってるなんて思わないですし、前国王が火山の秘密を知ってたことも知らなかったんですからね。だから俺たちが封印魔法を解いたと疑われることも覚悟してここに来ましたよ」


「……聞かせてくれ」


「今この大陸の西からはすぐそこまでもう魔瘴が迫ってきてるんですよ。海から空までを覆いつくすような魔瘴が。モーリタ村付近のダンジョン内では一週間くらい前から魔瘴の影響が出てたんです。魔物の数が増えてたり、そこには出現しないはずの魔物が急に出現したり」


「……」


「ですからマグマスライムが魔瘴の影響で強くなっててもおかしくないんです。大ピラミッド内の封印魔法もいくら魔道具で魔力が維持されてるとはいえ、ずっと同じ状態を維持できるなんてことはほぼほぼ不可能でしょうから当時より多少は弱まってるはずですし。それに大ピラミッドほどの大きさの封印魔法を維持するのなんてきっと相当な魔力が必要ですよ。まぁ水道屋さんのおかげでずっと維持できてたわけですから封印魔法自体に問題はなかったのかもしれないですけどね。でも今はマグマスライムがその封印魔法を破壊できるようになったほど、魔瘴の恩恵を受けてると考えることもできますから。俺たちはこのあとマグマスライムのところに行こうと思ってたんですよ」


「え……倒せる自信があるのか?」


「あるわけないでしょう。でも戦いもしないうちから負けを認めるのは冒険者たちの気がすまないんですよ。俺は危険だからって反対してるんですけど、みんなは行くと言って聞いてくれないんです。今後魔瘴でさらに強くなったらもう手が付けられなくなるかもしれないからと。だからその間に俺は、勝てないことを想定してどう封じ込めるかを考えようと思ってたんですよ。まさか牢屋で考えることになるとは思いもしませんでしたけど」


「……」


 なんかイライラしてきたぞ。


「手が空いてる衛兵さんがいたら一度マグマスライムを見てきてもらってくれませんかね?」


「え……」


 衛兵隊長に向かって言ってみた。


「水魔法や氷魔法が有効らしいですから、まさに水道屋さんの出番じゃないですか?」


「いや……」


 水道長もまさか自分にも話がふられるとは思っていなかったようだ。


「前国王にも行ってもらえばいいじゃないですか。水魔法に相当自信があるみたいでしたし」


「「「……」」」


 あんな爺さんを戦場に行かせるなんてこいつ頭おかしいんじゃないか?

 とか思われようがどうでもいいや。


「じゃあ衛兵さんが周囲の魔物を相手して、水道屋さんがマグマスライムを討伐する。これでいきましょう。手柄は衛兵隊と水道屋さん全員のものです。大臣さん、討伐した暁にはぜひ国から褒美をあげてくださいね?」


「「「……」」」


 あ~。

 なんだか完全にやる気がなくなった。


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