第六百十五話 解除
メタリンといっしょに再び地下に転移した。
そのまま部屋の隅にある出入り口へと進む。
だがメタリンは通れなかった。
仕方なく一人で長い階段を上っていき、最後は梯子を上る。
天井の蓋に付いてる取っ手を握り、そのまま上へ押すようにしてゆっくりと持ち上げた。
そしておそるおそる顔だけを出してみる。
……果物エリアだ。
確かに木の上だな。
でもこれで封印魔法は解除されたんだよな?
一度外に出てみるか?
……あ、魔物がいる。
やはり出るのはやめとこう……。
ん?
あれはミアミーアか?
もしかするとここではフェネックスも出たりするんじゃないか?
というか一向に果物の魔物の姿を見ないな。
でもおそらく魔石としてこのエリアのどこかに転がってるはずだ。
あとでこの魔石は全部回収させてもらおう。
ハリルが仲間になるんなら、そのハリルが倒して得た魔石を貰ってもなんの問題もないもんな。
「キュ(早く戻るのです)」
「うぉっ!?」
いつのまにかメタリンが梯子の下にいた。
慌てて蓋を閉める。
今の驚いた声で敵に気付かれたかもしれないからな。
そして梯子を降り、長い階段を下っていく。
部屋に着き、元の転移魔法陣に触れようとしたところで思いとどまる。
「誰かいたら驚くだろうから先に挨拶してこようか。いてもおそらく一人だし」
「キュ(それがいいのです)」
そして秘密の部屋へと繋がってるであろう転移魔法陣へ手を触れた。
……だが転移した先には誰もいなかった。
休憩中なんだろうか。
それにしても凄く殺風景な部屋だ。
「キュ(転移魔法陣が二つあるのです)」
「二つ? ……あ、端っこの地面か」
正面の壁の転移魔法陣しか見えてなかった。
二つとも光ってる。
ということは入れるかは別として、接続はされてるということだ。
壁にある転移魔法陣の先はおそらく地下遺跡だろう。
なら地面のはなんだ?
下に繋がってるのか?
メタリンに見に行かせてもいいんだが、一方通行だとマズいしな……。
……でもなんだかこの部屋おかしくないか?
秘密の部屋って確か本とかがいっぱいあるって言ってたよな?
ところが今この部屋にはなにもない。
さっき俺がいた地下の部屋よりは広いが、雰囲気は似てる。
てっきり本棚とかでこの大きな転移魔法陣が隠されてるものかと思ってた。
この転移魔法陣を見つけるために全部外に持ちだしたのかな?
でもネックレスを持った人しか入れないんだし、一人でそんな大変なことはしないか。
せいぜい横にどけておく程度だよな。
「戻るぞ」
まぁ誰もいないのであれば都合はいい。
遠慮なく破壊させてもらおう。
そして地下を経由してピラミッド側に戻る。
「大丈夫でした?」
「あぁ。それとついでにこの奥も見てきた」
「……どうでしたか?」
カトレアは一瞬厳しい目を向けてきた。
相談もなしに勝手にそんなことするなということだろう。
「誰もいなかった。それどころか転移魔法陣以外なにもない部屋だった」
「……おかしいですね」
「だよな。俺もてっきりウチの地下室みたいに本棚ばかりの部屋かと思ってたからさ」
「……まぁいいでしょう。ではダルマンさん、お願いします」
どうやら解除はダルマンさんが行うようだ。
万が一破壊による影響があっても盾で防げるからということなんだろう。
ダルマンさんのすぐ横でガボンさんが大盾を持って構えている。
それならガボンさんが解除をすればいいんじゃないのか?
まぁボネに封印魔法の壁を作ってもらう必要はなさそうか。
「ではまず右手を真ん中に当ててください」
カトレアの指示で解除作業が始まった。
ダルマンさんは指示通りに手を動かしていく。
そしていよいよ最後の作業になった。
「……押すぞ?」
ダルマンさんはガボンさんから受け取った盾を右手で持ち、左手でボタンを押そうとしている。
「お願いします」
カトレアの合図で、ダルマンさんはボタンを押した。
…………ん?
どうなった?
音はなにも聞こえなかった。
転移魔法陣の強い光のせいで壁の状態もよく見えないし。
あっ?
転移魔法陣が消えた。
その向こうでは砂煙のようなものがあがっている。
そしてしばらくすると、向こう側の部屋が見えた。
破壊された場所は丸いトンネルのようになっている。
というかこんなに近い距離だったんだな。
たった3メートルくらいじゃないか。
ちょうど下の部屋と同じくらいだ。
つまり地下の部屋の長さ分の距離しかなかったわけだ。
まぁ転移魔法陣の設定もそれが一番簡単だったのかもな。
「凄い封印結界ですね。音も振動も全くしないとは」
「この威力の衝撃をゼロにするのはさすがにエマでも無理じゃないか?」
「エマちゃんはまだこれから成長するんです。でもメネアさんのような大魔道士と呼ばれてもおかしくなかった人と比べてはいけませんよ?」
「はいはい。エマはエマだよな」
「わかってるんならいいです。封印魔法に頼りきりになるのは危険ですからね」
お説教が始まるのはごめんなので、早々に離脱してボネたちの元へと行く。
起こさないようにボネをそっと左手に抱え、ワタを右手でそっとつかんだ。
テーブルやベッドはアリアさんが片付けてくれてる。
「ありがとうございます。じゃあ行きましょうか」
アリアさんに声をかけトンネルを見ると、既にカトレアたちは向こうの部屋に行っていた。
少しくらい待っててくれてもいいのに。
「やはり最初は私たちが犯人扱いされるんですかね?」
「そうなるでしょうね。ラシッドさんたちに疑われた状況とは少し違うかもしれませんが、あんな話をしたあとのタイミングの噴火で、しかも俺たちがピラミッドのほうから現れたら誰でも疑いたくなると思います」
「そうですよね……」
まぁ多少汚い言葉を浴びせられることは覚悟しておかないとな。
話してわかってくれるといいんだが。
トンネル部分はきれいに転移魔法陣の形で破壊されたようで、入るには地面から少し段差がある。
なので土を撒き、適度な傾斜になるように足で踏みならして固めておく。
これで子供もお年寄りも安全だ。
「細かいですね」
「俺は気遣いのできる男ですから」
「……そうですね」
なんだ今の間と適当な返事は?
まさかこの程度の段差のことなんか気にしなくていいのにとか思ってるのか?
町や人々を守るパラディン隊としてはいただけない発言だぞ?
って発言まではしてないけど。
グチグチ言って辞められても困るから言わないけど。
あ、辞めたら冒険者になってくれるかな?
でも気まずいだろうから大樹のダンジョンには来ないよな。
そんなことを考えながらトンネルを通る。
そしてさっきの部屋にやってきた。
カトレアは壁の転移魔法陣を見ている。
「キュ(この地面の転移魔法陣はこの下へ行き来できるものらしいのです)」
「一方通行じゃないってことか? なら一瞬ちょっと見てきてくれ」
メタリンは転移魔法陣に飛び乗り、十秒後には戻ってきた。
「キュ(たぶんピラミッドのほうへ通路が延びてるのです。地下遺跡側は行き止まりなのです)」
「通路? ……あ、もしかして排水用水路の点検用の道かもな」
その可能性は高い気がする。
でも調査はあとだ。
「そっちの転移魔法陣はどうなんだ? ネックレスが必要か?」
「……」
「ん? どうした?」
「……普通の転移魔法陣に見えます」
「普通?」
「そこの地面にあるものと同じということです」
「「「「え?」」」」
……ということは誰でも通れるってことか?
「メタリン」
「キュ! (はいなのです!)」
なにも言わなくてもメタリンは転移魔法陣に飛び込む。
そして消えた。
「どういうことだ?」
「そんなのわかりませんよ……」
すぐにメタリンが戻ってきた。
「キュ! (本がいっぱいあったのです!)」
「え……」
どうやら秘密の部屋はもう一つ先だったようだ。




