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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第六百十一話 解析

 えっと、この曲がり具合のレールだとピッタリか?

 ……うん、いいカーブだ。


 よし、テストをしよう。

 ……うん、後ろの車両もちゃんと曲がれてる。


 本当は人にレールの上を通られるのは嫌なんだが仕方ないよな。

 事故だけはないように衛兵隊に交通整理をしてもらわないと。


「じゃあ俺は一度戻るから。メタリン、ゆっくり進んでくれ」


 カトレア、アリアさん、ボネとワタを残し、俺は馬車に乗り込んでピラミッドまでのレール設置作業をする。


 ピラミッド付近まで戻ると、ダルマンさん、デルフィさん、ガボンさんが乗るトロッコが向こうからやってくるのが見えた。

 ちゃんとこの付近だけで練習してくれてたようだ。


「向こうまで行ってきていいですよ! もうここまでぐるっと繋がってますから! そのまま戻ってこれます!」


「おう!」


 すれ違いざまに声をかけると、ダルマンさんではなくガボンさんが楽しそうに返事してくれた。

 ガボンさんは少し大きめのトロッコに横向きに乗っているため道の真ん中を向いて座っている。

 イスを取り外してようやく乗れたからな。

 でもまだあのくらいのサイズのトロッコなら通行する人の邪魔にはならないか。


 そして誰もいない広場まで戻ってきた。

 馬車を降り、カーブに最適なレールを組み合わせる作業に移る。

 カトレアに錬金し直してもらえば早いんだが、そんなことしてくれる暇はなさそうだしな。


 メタリンはマグマハリネズミの様子を見にいったようだ。

 ……一人になり、ふと壁の向こうのことが気になった。


 この壁を壊していくとおそらく火山まで繋がってるんだよな。

 奥までずっと壁が続いてるとは限らないけど。

 実は薄い壁一枚だけで、このすぐ先には魔物がうじゃうじゃいたりして……。


 ってそれなら音の少しくらい聞こえるか。

 魔瘴もここまで入り込んでないのなら、壁もしっかりとした素材のものなんだろう。

 まぁこの黒い色からして全部フィリシアの錬金によるものだろうけどな。

 あの果物エリアは壁も天井も普通の土のようだったから魔瘴が浸食してきたのかもしれない。


 でもそれにしては魔物の出現数が少なかった気がする。

 なんやかんや俺たちは二時間近くあのエリアにいたのに、たった二匹にしか出会ってないもんな。

 その割には転がってた魔石が多すぎないか?

 ここ最近魔物が少しずつ現れるようになったというレベルの話とは思えない。


 でも果物の魔物の発見情報はつい最近なんだよなぁ~。

 それも全部ダルマンさんたちによるものらしいから嘘は言ってないだろうし。

 実際はもっと昔から魔瘴が微かに存在してて、魔物も一日に数匹は出現していたのかもしれない。

 濃くなってきたのがつい最近で、その影響で果物の魔物が突然変異で生まれたと考えるのが自然か。


 そのへんのこともマグマハリネズミが起きたらちゃんと聞かないとな。

 なんでフィリシアの日記にはマグマハリネズミのことがいっさい書かれてなかったのかも気になるし。


 するとメタリンが戻ってきた。


 マグマハリネズミはスヤスヤ寝てるらしい。

 まぁこんな早くは起きないか。

 元気になりそうなだけでも良しとしないと。

 もし急変して亡くなったりでもしたら、とりあえずティアリスさんに土下座して謝ろうか。

 いや、それはさすがにティアリスさんも気にするよな。

 やはりちゃんと元気になってもらわないと困る。



 その後、レールの設置が完了したころにダルマンさんたちが戻ってきた。


「運転って気持ちいいな~。本当にこういう仕事があるんなら楽しいかもしれない」


「乗ってるだけでも爽快な気分だ。これ考えたやつは天才だ」


「……」


 デルフィさんも楽しんでくれたようだ。


「カトレアの調査の様子はどうでした?」


「まだっぽいなぁ。あんな大きな転移魔法陣だとより慎重になるだろうし」


 明らかに複雑な条件設定とかされてそうだからな。


 さっきカトレアはフィリシアの日記を読み返しており、そこにはこう書かれていた。



 『ピラミッドへの入り方は……それは私たちの子孫の知恵に任せます』



 知恵を絞って考えろ、か。


 これもなぞなぞっぽくなってるのかな。

 それとも普通に転移魔法陣の解析さえできれば条件がわかるのだろうか。


 ダンジョンへの道は完全に閉じると書いてあったのは、この広場が行き止まりになってることで間違いないか。


 でも食料用ピラミッドの地下二階から果物エリアを通っていけば簡単にダンジョン内に行けるんだよな……。


 あ、でも食料用ピラミッド内に入るには相互通行の転移魔法陣が使えないといけないのか。

 その接続を切ってたということはやはり一方通行の転移魔法陣に比べると難しいとされてるからかもしれない。

 そもそも地下遺跡からこの道へ来るにはそれくらい使えないと無理ってことなのかもな。

 あんなバカでかい転移魔法陣を通ってこれたってことだし。

 まぁ条件さえ知ってれば誰でも通れるのかもしれないけど。


 でも果物エリアの葉っぱのブレスレットの条件設定のこともわからなそうな感じだったし、このままカトレア一人で調べててもずっとわからずじまいってことになったりして……。


 そう考えるとカスミ丸もここにいてもらったほうが良かったな。

 アオイ丸やミオもなぞなぞ得意だったりするのか?

 とりあえず今からメタリンに連れてきてもらったほうがいいかも。


「なに考えてるんだい?」


「……え? あ、はい」


「はいじゃなくてさ……。なにか考えがあるんだったら俺たちにも話してくれよ」


「……あの転移魔法陣の設定なんですけど、フィリシアたちはどんな思いで設定したのかと思いまして」


「どんな思い、か。緊急時に使ってほしいとは思っていただろうけど、結局誰も来れてないんだもんな」


「はい。それに俺の推測では、あの転移魔法陣は秘密の部屋に繋がってるはずなんです」


「秘密の部屋?」


「そうです。地下遺跡には、あるアイテムを身に付けてないと転移できない部屋があるらしいんです。あの葉っぱのブレスレットのように。しかもそれはたった一つしか存在しないアイテムらしく、普段は国王が持ってるんです」


「国王? ……でもたった一つしかないんじゃ、それを持って転移した一人しか避難できないってことじゃないのか?」


 お?

 そのことに気付くとはやるじゃないかダルマンさん。

 って誰でもわかるか。


「そうなんです。だからあの大きな転移魔法陣にはなにかそのあたりの条件を解除するような仕組みも含まれてるかもしれないですよね。例えば条件を満たした状態で誰かがあの転移魔法陣を通ることができたら、秘密の部屋と地下遺跡の間の転移魔法陣が誰でも通れるようになるとか。そしてあの大きな転移魔法陣の設定も解除されて、誰でも通れる普通の相互通行のものになったりとか」


「設定でそんなことまでできるのか……」


「転移魔法陣ってかなり奥が深いんです。ウチのダンジョンでは冒険者全員に個人専用の指輪を装備してもらうんですけど、その指輪が持っている情報を元に個人専用の部屋に転移したりできますから」


「凄いなそれ……」


「でもそれはウチのダンジョンだからこそできることだと思いますけどね。もしあの転移魔法陣にそれくらい複雑な条件が組み込まれてたら完全にお手上げですよ。まぁなんの根拠もなく適当に言ってるだけですから気にしないでください。案外今頃もうカトレアが通れちゃってるかもしれないですし」


「……いや、そういうことはどんどん俺たちにも話してくれ。そのおかげでもしかしたらここにいる誰かがなにか閃くかもしれないからな。ただ俺たち三人はあまり……」


「「……」」


 あ、そんな顔しないでほしい……。

 簡単にわかるようなら地下遺跡側からとっくに人がなだれ込んできてるだろうし。


 向こう側にいるとしたら誰の可能性が高いんだ?

 まず考えられるのはやはり補佐官さんか。

 少なくともラシダさんではない。

 それに国王や大臣はそこまで頼りにならなさそうだしな。


 ……いや、補佐官さんなわけがないか。

 補佐官さんも水道屋の一員とはいえ、外から嫁に来た身のはずだから転移魔法陣には詳しくないはず。

 じゃあ転移魔法陣を使える水道屋の誰かか。

 全員魔道士だけあって切れ者は多いだろうしな。


 そもそも転移魔法陣の存在に気付いてるよな?

 さすがにそれくらいは発見してくれてないと話にならないぞ。


「なぁロイス君」


「はい?」


「ロイス君ならどうする? 自分の子孫たちが地下遺跡に避難して、そのときにもし誰も転移魔法陣の設定を見破ることができなかったらということを想定したとするなら」


「……フィリシアは完全に地下遺跡に閉じこめられることになった場合も想定してたってことですか?」


「その可能性もあると思ってさ」


「……なるほど。つまり外部から助けに来てもらう方法も考えてたってわけですか」


「あぁ。そして外部からここに辿り着くまでの方法があの日記には書いてあった」


「え?」


 そんなこと書いてあったか?

 頭の中で日記の内容を思い出す。


 …………あ。


 確かにそう読み取れるような文章が書いてあったかも。


「モーリタ村から続くダンジョンってことですね?」


「うん。そう考えたら、やけに丁寧に説明してくれてたなって思ってね」


「そうですよね。転移魔法陣のことこそ書いてなかったですけど、転移魔法陣を使わなくても火山ダンジョンの第二階層から第一階層に行って、ナミの町までの直線上の位置を特定すればあとは道が閉じられてようが壊せばいいだけですしね」


「あぁ。でも日記を読まれてなければ誰にも気付かれなかったおそれもあるけどな……」


「確かに……。現に二百年以上発見されてなかったわけですからね……」


「はははっ……。モーリタ村の住人として情けなくなるな……」


「「……」」


 だからそんな顔しなくていいんだって……。

 転移魔法陣を楽々と使えるほうがおかしいんだし。


「ん? でもダルマンさんがダンジョン内の転移魔法陣のことを教えてくれなければ俺たちはきっと地下を掘り進めてたでしょうから、果物エリアに到達してたかもしれないですよ? 第一階層の深さで掘ってたとしても、あの天井の高さならおそらく果物エリアに出たに違いないですし」


「でもその場合はピラミッドとナミの町の間にあるこの道を目指して掘ってたわけだろ? だから果物エリアは通らないかもしれないし、この硬い壁を壊すこともできなかったかもしれない。それに排水用水路のことなどを気にしながら掘らないといけないからもっと時間がかかってたのは間違いない。でもそういやピラミッドの周りは掘るなみたいなこと書いてなかったっけ?」


 書いてた気もする……。

 マグマや魔物が出てくるかもしれないから絶対に掘るな的なことが……。


「ま、まぁ実際はそこまで掘ってないですしね!」


 ダルマンさんの言うように排水用水路とか魔力伝送路の関係があるから掘るなってことだったのかもしれない。

 そう考えたら納得だ。


「……でもやっぱりフィリシアが想定してた助け人は転移魔法陣の使い手だったんじゃないかな」


「カトレアのようなってことですか?」


「そう。まずモーリタ村で自分の日記を見つけてもらい、モーリタ村の戦士からダンジョン内にあるという転移魔法陣の噂を聞き、その転移魔法陣からピラミッドまでのショートカットの道を通り、ナミの町まで助けに来てもらう。それが一番早いルートだし、果物エリアもそのときのために作られたのかもしれない」


「それはさすがに話が上手くいきすぎじゃないですかね?」


「でも現にその通りになってるだろ?」


「それはそうですけど……」


「つまりこのままカトレアちゃんに任せておけば大丈夫ってことだよ」


 え?

 結局カトレア任せ?


 ……もう一度考えてみるか。

 既に過去になぞなぞを解いた人物がいたとして、フィリシアの日記がモーリタ村の人間全員に周知されてたとしてだ。


 俺たちがどんなルートを通ってこようと、おそらくこの道には辿り着いたはず。

 つまり地下遺跡に繋がるあの転移魔法陣は避けられない。

 でも助けに来てくれる人物が転移魔法陣の魔法を使えるとは限らない以上、転移魔法陣に詳しくなくても通れるような条件にするのが普通だと思う。


 ……やはりここも葉っぱのブレスレットか?

 日記といっしょに宝箱に入ってたわけだし。

 もしかしたらそれを装備して触るだけで簡単に入れるんじゃないか?

 ってカトレアが試してないわけないか……。


 だが今マグマハリネズミの腕についてるやつを含めればブレスレットは二つある。

 それを二つ装備して触ってみるとか?

 ……でも転移魔法陣を使えなければ果物エリアに行くことはできないもんな。

 もしかしたらマグマハリネズミとのセットならとも思ったが、その可能性は低そうだ。


 じゃあどんな人物なら入れるようにする?

 モーリタ村にもいるであろうフィリシアの子孫であれば入れるとか?

 血を転移魔法陣に認識させれば通れるとか?

 でも数百年も経てば血も薄れていくだろうし、どこかで血が根絶してるかもしれないよなぁ。


 ……血?

 血と聞くとどうしてもカトレアに夜な夜な抜かれてた俺の血のことが浮かんでしまう……。


 いや、今そのことはどうでもいい。

 俺の魔物使いという血は昔からずっと引き継がれてきてる。

 それこそフィリシアたちとも関係が深い。

 日記にはララシーとルーカスの孫ならマグマスライムをどうにかしてくれるかもしれないというような記述もあった。


 そしていつかこういう事態になったときに、外部からこんなところまで危険を冒して助けに来てくれる人物。

 フィリシアたちがそこまで信頼してた人物。

 例え転移魔法陣の魔法が使えなくてもここまで辿り着くであろう屈強な力を持った人物。


 ……とはかなりかけ離れてるけど、もしかして魔物使いの俺なら通れるんじゃ?


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