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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第六百六話 果物エリア

 各人からの調査報告が始まった。


 まずはメタリンから。

 この空間は最奥までずっと同じような風景が続いてるらしい。

 つまり果物の木が非常に多いということだ。

 なのでここを果物エリアと呼ぶことにした。

 フィリシアの日記には小ピラミッドの一つに食料を保管してあると書いてあったが、この果物エリアもその一部と考えて間違いないと思う。


 ということは食料用ピラミッドには一体なにがあるのか。

 この果物エリアへと繋がる道があるだけなのか、果物以外の食料もたくさんあったりするのか。

 それはこのあとすぐに確認できるはずなので今は考えないことにした。


 そしてこの果物エリアの最奥にはまたも転移魔法陣があるとのこと。

 お決まりのように二つ。

 おそらくどちらも一方通行のものだろう。

 以上がメタリンの報告だ。


 次にカトレアの報告だ。

 条件設定がされている転移魔法陣について、その転移条件とはやはり葉っぱのブレスレットを装備してることだったらしい。


 そもそもウチではセーフティリングが持つ個人情報を元に転移させてるんだからもっと細かい条件設定もできるんじゃないのか?

 とか言ったらムッとされた……。

 外で使う転移魔法陣はまた別物らしい。

 まぁ大樹のダンジョンではドラシーが転移魔法陣を作ってるようなものだし、データベースの情報を利用してのさらに高度な転移魔法陣になってるんだろう。


 カトレアからはあっさりとした報告ではあったが、葉っぱのブレスレットの伸縮技術の習得、転移魔法陣の仕組みの解明、ジョウロの調査など、今後やりたいことがたくさんできたようで凄く楽しそうではあった。


 最後にヒューゴさんからの報告。

 ダンジョンに入ってからの距離や方角から計算して、この果物エリアから地上高台までの直線ルートを特定したそうだ。


 今日の午前中、ダルマンさんたちを助けたときのルート特定はほぼほぼアオイ丸がやっていた。

 だからこそヒューゴさんもそのアオイ丸に負けてられないと思ったらしい。

 レンジャーと忍者というタイプ的にも似てるし、切磋琢磨することはいいことだよな。


 ちなみにミオもこういう調査はそこそこ得意だとは聞いていたが、ここはヒューゴさんの顔を立てたのであろう。

 気配りができる優しい子だな、うん。


 ざっとこんなところか。

 さて、このあとはどうしよう。


 魔物はさっきから一匹しか出現してないから、魔物による危険は少なそうだ。

 となるとこのまま全員でピラミッドに行くより、二手に分かれて片方は地上までの道を掘ったほうがいいか。


 ……聞いてみるか。


「……この二つが考えられますが、どちらがいいと思いますか?」


 多数決を取ることにした。

 だが全員一致で、二手に分かれるということに決まった。

 もちろん俺もそのほうがいいと思う。


 というわけでパーティを再編成することになった。


 まず穴掘り組は土魔法要員中心でいくことにした。

 リヴァーナさん、ミオ、メネア、そしてティアリスさん。

 この三人がいればいい洞窟が出来上がるだろう。

 方角や深さの判断はミオの力量にかかってるが、これくらい忍者ならできて当然であってほしい。

 まぁ忍者がどういうものなのか、俺はいまだによくわかってないけど。

 ティアリスさんが少しは元気になってミオのフォローをしてくれるとありがたいんだが、今の状態ではそこまで求めるのは少し酷か。


 そして残りのメンバーは全員ピラミッド突入組。

 パーティで言えばメネアとアリアさんが入れ替わっただけか。


 やはりアリアさんが入るとヒューゴパーティも数段強くなった気がするな。

 別にメネアが未熟だとか言ってるわけじゃないからな?


 パーティ分けが決まったところで、早速リヴァーナさんが壁に穴を開けた。

 そして穴の入り口にミニ大樹の柵と魔道線を設置後、ボネによる封印魔法の壁が作られた。

 入ってくるだけならゲンさんでも通れる片側タイプの壁だ。


「じゃあお願いしますね。もしこちらが早くナミに着ければすぐにメタリンをそちらに送りますので、馬車で来てください」


「うん! こっちは任せて!」


 ゲンさんも一目置いてるリヴァーナさんに任せておけばなんの心配もない。

 そしてリヴァーナさんパーティが洞窟を掘り始めた。

 ティアリスさんは最後にマグマハリネズミの手を握り、回復魔法をかけてから洞窟に入っていった。


「さて、こちらはメタリン馬車で移動しましょう」


 そして大きい馬車一台に全員が乗り込み、果物エリア最奥に向けて出発した。

 御者席にはヒューゴさんとグラシアさん。

 後ろはダルマンさんとメンデスさんが見張ってくれてる。


 マグマハリネズミには悪いが、ひとまずこの果物エリアのことは無視だ。

 魔物も果物を食べたいとは思っても木を敵だと認識するわけじゃないだろうしな。


 問題はこのマグマハリネズミだ。

 ピクリとも動かない。

 心臓は動いてるようだが、この状態をただ意識を失って寝てると表現していいものか。

 気付いたら心臓がとまってたなんてことになる気しかしない。


「ロイス君」


 カトレアは調査から戻ってきてからずっとマグマハリネズミの体を優しくさすっている。

 馬車に乗ってもそれは変わらずだ。


「なんだ?」


「あれを使ってみたいのですが」


「あれ?」


 ドラシーポーション以外にあれって呼ばないといけないようなものあったっけ?


「あれです。私と師匠が夜中に作ってた」


「あ……」


 あれか……。


 俺を安らぎパウダーで深い睡眠に陥れたあとにこっそり俺の血を抜いて作ってたとかいう最上級にヤバそうなポーションのことか……。

 さすがにみんなには言えないな。


「でもこいつは俺の仲間の魔物じゃないんだぞ?」


「でも人間側の魔物には違いないですよね?」


「それはこいつがどういう経緯で果物の木を守ってたかどうかを聞いてみないとわからないだろ」


「この葉っぱのブレスレットがなによりの証拠です。これにはマナが込められています」


「そうかもしれないけど、変なもの飲ませてそれが致命傷になったらどうするんだよ?」


「変なものではありません。この子たちのような魔物にとってはとても意味があるものです」


 意味があるものってなんだよ……。


「疑うならボネちゃんにも聞いてみてください」


「は?」


 まさかボネに飲ませて実験してるのか?


「ミャ~(美味しいわよ? それに私の場合、最初に飲んだときに魔力がかなりアップした気がしたわ)」


 なんだと……。

 というか最初にってことはそれからも何度か飲んでるってことだよな?

 それに私の場合ってことは、ほかのやつらも飲まされてるってことか?

 ダイフクの場合は力アップとか素早さアップとか、体がさらに一回り大きくなる効果があったりするのか?


「……嫌じゃないのか?」


「ミャ~(不思議と嫌と思ったことはないわね。カトレアとかダイフクの血が混ざったものを飲めって言われたら嫌かもしれないけど。でも血くらいでグダグダ言うことないんじゃない? ロイスだって普段は血どころか魔物の肉食べまくってるじゃない)」


 肉と血を比べるのは少し違う気が……。


 でもボネは俺の血には嫌悪感を感じてないってことだよな?

 それはやはりなにか魔物使い特有の味みたいなものがあるのだろうか……。


「ミャ~? (メタリンやウェルダンなんてむしろもっと飲ませろ的な感じよ?)」


「は?」


「ミャ~(よほどロイスのことが好きなのね。ご主人様の血が飲めるなんて一心同体になれたも同然なのですとか、飲めば飲むほどご主人様の役に立てるねとか気持ち悪いこと言ってたし)」


 いや、発言よりも血を飲むことを気持ち悪がれよ……。

 って直接血を飲んでるわけじゃないよな?

 あくまでカトレアやスピカさんが錬金したポーションを飲んでるだけだよな?

 ってジュース感覚で飲んでるんじゃないだろうな……。


「ミャ~(こいつがそれ飲んで治らないようなら元々ロイスとは縁がなかったってだけよ。だから飲ませてみればいいじゃない。ついでにワタにも飲ませてあげたら?)」


 縁がなかったか。

 さっきもう少し早く俺が気付いてあげられてたら縁があったと言って良かったんだろうか。


 ワタと会えたのも縁があったからか。

 もし俺たちがあの荒野地帯のあの場所を通っていなければ、そして俺がフェネックスの魔石を欲しがっていなければワタと出会うこともなかったんだもんな。


 ……試してみるか。

 俺と本当に縁があるかどうかを。


「カトレア、こいつとワタに飲ませてやってくれ」


「え? ワタちゃんにもですか?」


「あぁ。なんかダンジョンに入ってから元気がない気がするんだ。さっきミルクも残してたし。俺の内ポケットの居心地が悪いだけかもしれないけど」


「……近いうちにロイス君に内緒で勝手に飲ませようとしてましたが、そう言ってもらえてちょうど良かったです」


「……」


 冗談だよな?

 いくらカトレアでもさすがにワタにまで勝手に飲ませたりしないよな?


「……冗談ですよ」


 冗談に聞こえない……。

 ボネたちにも実験で飲ませてるのか本気で良い効果があると思って飲ませてるのか……。


 そしてカトレアはマグマハリネズミの口を開け、喉に少しずつ、何回にも分けて流し込み始めた。

 馬車が少し揺れるから、ワタには俺がコップで飲ませてやることにした。

 小さなテーブルを出し、その上にワタを座らして、背中を左手で支えてやりつつ、右手に持ったコップを少しずつ傾ける。


 ほかのみんなは黙って二匹を交互に見てる。


「どうだ? 美味しいか?」


「……」


 ワタは無言だが、不味くはないようでさっきのミルクよりも飲みっぷりはいい。

 ワタが両手でコップを支えてるような姿がこれまた可愛らしく、デルフィさんとアリアさんは微笑ましそうにワタだけを見ている。


 マグマハリネズミのほうは相変わらず変化はない。

 さすがに即効性があるようなものではないか。


 ん?

 ワタがなにやらもぞもぞとし始めた。

 背中がかゆいのか、テーブルの上に背中をこすりつけながら右に左にゴロンゴロン転がっている。


 みんなでそれを眺めてた。

 可愛いと思いながら眺めてた。

 すると突然ワタの動きがとまった。

 そしてうつぶせになり、手足を折り曲げ体の下に引っ込めた。

 顔もお腹を向くように隠してしまい、体は完全に丸くなってしまった。


 もしかして苦しいのだろうか?

 それとも寒いのか?

 やはりワタに飲ませるには早かったのか?


 とか思ってたら、ワタは体をビクッと大きく震わせた。

 さすがにヤバそうだと思い、ワタの背中をさすろうと手を近付けたそのときだった。


「えっ?」


 ワタの背中がゆっくりと変形し始めた。


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