第六百三話 メタリンは無事か
戻ってきた。
うん、実に一分くらいで戻ってきた。
「キュ(もう一度行ってくるのです)」
そして再び転移魔法陣に飛び込んでいった。
「……メタリンちゃん、なんて言ってたんですか?」
「いや……もう一度行ってくるのですとしか……」
みんなが唖然とした表情で転移魔法陣を見つめる……。
「まずは戻ってこられることを確認したんだろう。まだなにか調べたいことがあるんだろうからもう少し待ってみよう」
反対意見はなかった。
みんなメタリンを信用してくれているらしい。
そして五分ほど待っただろうか。
メタリンが再び戻ってきた。
……口をもぐもぐしながら。
「おい? なに食べてる?」
「キュ(橙色の果物なのです。凄くいい匂いがしてたのでつい食べたくなったのです)」
「果物の木があったのか?」
「キュ(たくさんあったのです。全てご主人様の推測通りだと思うのです。天才なのです)」
「そうか……魔物は?」
「キュ(奥まで全部見たわけではないのですけど、パッと見は一匹も見当たらなかったのです。でも魔石はそこら中に転がってたのです)」
「なんだと? ……いや、まず最初から説明してくれ。転移したあとのことから」
メタリンによる報告が始まった。
この転移魔法陣から転移した先の空間はそんなに広くなく、なにもない部屋といった感じだそうだ。
その部屋の正面の壁にはさらに二つの転移魔法陣があり、一つは奥へと繋がる一方通行のもので使用可能だったとのこと。
もう一つは使用不可能ではあるが、おそらく奥からその部屋に来るための一方通行のものだろうとのこと。
この先の部屋からさらに奥に転移した先の空間は、横幅はほんの10メートルほどだが奥行はかなり広く、天井もそこそこ高くて、果物の木がたくさんあるらしい。
そしてその空間入ってすぐのところから、ここにあるもう一つの転移魔法陣へと戻ってこれるとのこと。
魔瘴はまだそこまでは濃くないそうだが、魔物の気配は感じない。
だが戦ったような形跡は残っていて、死骸こそないものの魔石はたくさん落ちている。
さて、これをどう見るか。
誰かが魔物を駆除してると考えるのが普通だと思うんだが。
しかも魔物が一匹もいないとなるとまさに今その誰かがそこにいたのかもしれない。
だが死骸がないとはどういうことだろう。
ご丁寧に燃やしてるのだろうか?
それとも……残さずに全部食べてるとか。
……ヤバい、考えたらこわくなってきた。
メタリンが言うには果物はたくさん実ってたそうだ。
ということは果物には手を付けずに、魔物ばかりを食べている完全に肉食系の魔物がいるという可能性も……。
人間だったら魔石を放置しないと思うんだよなぁ。
果物の魔物もそいつがおそろしすぎて逃げ設定になってしまったのかもしれないし……。
ん?
ちょっと待て。
もしかしたらそいつが今すぐ隣の転移魔法陣から出てくるなんてことも……。
いや、封印結界があるから大丈夫だ。
ボネの力を信じよう、うん。
「ナミの町の人かな? 衛兵隊とか?」
「じゃあ町の人はちゃんとピラミッドに避難できてるってことですかね?」
「でも衛兵隊の人たちにマグマ系の魔物が倒せるのでしょうか……」
「まだ魔瘴が濃くないとしたら、マグマ系とは違う弱めの敵なんじゃない?」
衛兵隊なら魔石は集めるだろう。
おそらくこれはかなりの少人数、もしくは一人および一匹による犯行……仕業だな。
魔石を集めないのは、興味がなく集めるのが面倒だからってところか。
もしくはわざと突然変異の魔物を生ませようとしているのか?
果物の魔物に味を占め、もっと食べたいがためにそうしてるのかもしれない。
とにかく、この奥にはそれなりに強い何者かがいることは間違いない。
「ロイス君、この先の部屋についてなんですが」
カトレアは二つ向こうの空間のことより、この一つ先の部屋のことが気になってたようだ。
「俺もそれは少し疑問に思った。なんでわざわざ部屋を設けたかってことだろ?」
「はい。間に部屋なんか作らずに、一気に奥まで行くのではダメだったのかと思いまして」
「だよなぁ。だからもしかしたら奥は魔瘴に侵されることを想定してて、この先の部屋は封印魔法に囲まれた安全エリアになってるんじゃないかと思った」
「あ、なるほど。それなら意味がありますね」
「だろ? もしくは……なにか秘密が隠されてるかだ」
「秘密ですか? ……もしかしてモーリタ村の地下のように?」
「あぁ。上に隠し部屋があったりな」
「……面白そうじゃないですか」
ますますお宝の匂いがしてきたな。
まぁただの安全エリアの確率のほうがかなり高そうではあるが。
「とにかく行ってみましょうか。強くて凶暴なボス的魔物がいることも想定しておいてくださいね」
「「「「……」」」」
みんなも当然その可能性を考えてはいただろうけどな。
「ちょっといいか?」
ん?
……ダルマンさんか。
「なにか?」
「ダンジョンへ入る前くらいから、地震が全く発生してないと思ってな」
「あ、確かに」
「昼前までここにいたときは揺れがないときでも常に地響きのような音をずっと感じてたんだよ。だが今はそれすら感じない。もしかしたらロイス君が言ってた、魔力回復期に入ったんじゃないか?」
「その可能性はありますね」
「ならダンジョンの奥へ進むなら今がチャンスじゃないのか?」
う~ん。
おそらくもう少し進めば火山ダンジョンの第二階層に入るだろう。
そこから最深部となる第四階層まではどれくらいかかるかわからないが、マグマスライムを倒す最大のチャンスが今だと言うダルマンさんの意見はもっともだ。
俺たちは元々その機会を狙ってたんだし。
……カトレアはどう思ってるんだ?
カトレアを見ると、カトレアは首を横に振った。
今はほかにやるべきことがあるということだろう。
「いえ、今はナミの町の人の安否確認を最優先にしましょう」
「……そうか。了解」
一応は納得してくれたようだ。
自分たちのパーティだけでも火山へ進むとか言うかとも思ったが、そもそも四人ではここへ辿り着くので精一杯だったんだもんな。
いくらデルフィさんが攻撃手段を得たからといって、そこまで劇的にパーティの戦闘力が上がるわけでもない。
「では俺から転移しますね。最後はダルマンさんでお願いします。それとリヴァーナさん、そこの土壁を人間が通れる分くらいだけ壊しておいてもらえますか?」
そして俺とボネとメタリンは転移した。
……灯りがあるくらいで本当になにもないな。
正面の壁には転移魔法陣が二つ。
後ろの壁には今通ってきた転移魔法陣が一つ。
すぐにカトレアが転移してきた。
そしてそのあとも続々と転移してくる。
ボネの封印魔法を信頼して、この転移魔法陣の接続はまだ切らないことにした。
俺たちになにかあった場合はここから助けに来てもらわないといけないからな。
ってこのメンバーでなにかあったら誰に助けに来てもらっても助けにならない気がする……。
それこそララやゲンさんじゃないと。
あ、ゲンさんに来てもらおうと思ったら壁を破壊してもらうしかないのか……。
……まぁいい。
あまりネガティブなことばかり考えないようにしよう。
「ロイス君……」
「ん?」
カトレアは転移魔法陣を見てる。
左の暗いほうの転移魔法陣を。
右の転移魔法陣は奥への一方通行のものだろう。
「この転移魔法陣……生きてます」
「「「「え?」」」」
「接続は切れていません。奥からこの部屋に来るための一方通行のもので間違いなさそうですが、条件設定がされています。おそらくかなり限定的な条件にしてるために必要魔力が少なくすみ、暗くぼんやり光ってる程度に見えているのかと」
「条件ってどんな?」
「それはもう少し調べてみないと……。」
条件か……。
嫌でもあのローナの部屋のことを思い出すな。
「だからさっきメタリンは通れなかったわけか。まぁ仮にこの奥に魔物が発生することを想定してたとするんなら、それ対策じゃないか? 人間だけが通れるとかさ」
「そうかもしれません。でも……この先にいる何者かだけがこの部屋に来れるための設定かもしれませんよね」
「「「「あ……」」」」
思わずみんなが数歩後退った。
って後退ったあとで言うのもなんだが、よく考えたら転移魔法陣の設定がその何者かのためなんだったら、人間の可能性がかなり高いよな。




