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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第六百二話 何度目かの転移魔法陣

 封印結界を張り、浄化作業をしてから休憩に入る。

 ここまで来るのにかかった時間は十分ちょいだからみんなたいして疲れてないけど。


 テーブルセットを出し、みんながお茶休憩してる間、カトレアによる転移魔法陣の検証作業が始まった。

 俺と魔物たちはカトレアの横でいっしょに検証だ。

 見てるだけだけど。


 どれだけ時間がかかるかわからないから、封印結界の周りは土魔法で囲うことにした。

 これで魔物は俺たちに気付かないはずだ。

 気付かれて破壊されたところで魔道化した封印結界があるから入ってこれないだろうけどな。


 さて、改めて転移魔法陣に注目してみよう。


 まず、転移魔法陣は二つある。

 光ってるものと光ってないもの。

 その間は5メートルほどの距離。


 封印結界はその光ってないほうの転移魔法陣を囲うように作った。

 光ってる転移魔法陣からは魔物が出てくるということだから迂闊に近付かないようにしないと。

 仮に今、果物の魔物が出てきてもどうせこの向こうにはもっといるだろうから特に追いかけるようなことはしない。


 カトレアは転移魔法陣をしばらくじっと見つめていた。

 そして本と見比べながらなにかブツブツと呟き始めた。


 一方通行の転移魔法陣となると慎重にもなるのだろう。

 戻ったら帰ってこれない可能性もあるんだから。

 これはもうしばらく時間がかかりそうだな。


「ミャ~? (ワタにミルクあげていい?)」


「いいぞ」


 地面に二つ皿を置き、ミルクを注ぐ。

 というかこれ俺があげてるじゃないか……。


 ボネとワタは並んで飲み始めた。

 メタリンは……デルフィさんのところでなにか食べさせてもらってるようだ。

 すっかり気に入られたな。


 デルフィさんと同じテーブルに座るダルマンさん、メンデスさん、ガボンさんは一応土壁の外の魔物の気配を警戒してくれているようだ。


 それにしてもダルマンさんたちとほかの冒険者との間にはまだ壁があるな。

 まぁ年齢差のせいもあるだろうが。

 でもなんだかデルフィさん以外の三人は元気がないんだよな。

 まだ疲労が残ってるのかも。


「ロイス君」


「ん? なにかわかったか?」


「実はさっきからずっと気になってることがあるんです」


「なんだよ?」


「数年前、このダンジョンを最も奥まで進んだ冒険者パーティがいると言ってたじゃないですか?」


「あぁ。それがどうした?」


「その方たちはこの転移魔法陣に気付かなかったのでしょうか?」


「ん? ……そういやそうだな。バビバさんがわざと俺たちにそのことを黙ってたとも考えにくいし、その人たちが言わなかったと考えるのが自然か」


「ですよね。急いでいて見逃した可能性もあるとほんの少しはあると思いますけど」


「今より魔瘴が薄かったらパーティ全員がこれに気付かないってことはなさそうだけどな。あの地下のなぞなぞを見てたとして、この転移魔法陣がなにか関係してるかもと思って黙ってたんじゃないか? ここに水魔法奥義のようなお宝があると考えてたとしたら、一旦村に戻ってまたここまで来るつもりだったのかもしれないし」


「そうなんですかね。特に考えすぎることでもないと思いますか?」


「う~ん。ダルマンさんは既にカトレアが村の転移魔法陣の謎を解いたって知ってたし、こんな状況になって俺たちがたまたま転移魔法陣の話をしてたから教えてくれたのかもしれないけど。どっちみちその冒険者パーティも転移魔法陣が使えない限りこの先には行けないとわかってただろうから案外どうでもよかったのかもな。なぞなぞのヒントになるようなことを教えたら面白くないと考えたのかもしれないし、これを教えると無茶してここまで来ようとする村人や冒険者もいるだろうから危険と考えたのかも」


「なるほど。あまり気にしなくても良さそうですね」


「うん。で、どうにかなりそうか?」


「はい。術式そのものは凄く単純なものでした。それにこの壁に刻まれた魔法陣をそのままここで使えると思います。おそらく当初の予想通り、魔物が入ってこれないようにするために接続が切られているだけで、対の魔法陣もちゃんと存在してるはずです」


「それは楽でいいな。距離は?」


「10メートルです」


「結構遠いな。魔力がもったいないなら壁壊してもいいけど?」


「ロイス君?」


「冗談だって……」


 こういうところ真面目なんだよな……。


「ではそちらの転移魔法陣も見ておきたいのですが」


「見てていきなり魔物が出てきたらどうする?」


「……横から見ますね。正面からじゃなくても大丈夫ですから」


「わかった。ボネ、そっちの転移魔法陣の手前まで結界を広げてくれ。あ、やっぱりちょっと待て。先に土壁作っとくから」


 リヴァーナさんに頼んで壁を作ってもらった。

 そのあとボネは封印魔法を使った。


 そしてカトレアは壁に小さく開けた穴から覗くようにして転移魔法陣を見る。

 いくら封印魔法があるとはいえ、その穴の向こうからいきなり魔物が襲ってきたら心臓が飛び出るだろうな……。


 だがその心配はいらなかったようだ。

 五分ほどで検証は終了。

 そっちの転移魔法陣は20メートル先と接続されているらしい。


「つまり別の場所と考えたほうがいいか?」


「そうですね。こちら側からは侵入されないために厳重にしてるのかもしれません」


「10メートル先にまた転移魔法陣があるかもと?」


「その可能性もあるというだけです。罠の可能性もありますけどね」


 罠か……。


「あ、もしかしたらさっき話してた冒険者パーティが作った罠とか? だから誰にも言わなかったんじゃないか?」


「……なんでそんなことを今言うんですか」


 カトレアが睨んでくる……。


「……あ、やっぱり違うな。罠ならこの転移魔法陣が存在してることは言ったほうがいいもんな。そんなヤバい人たちなら、死にそうな思いでここまで辿り着かせて最後に罠にかけてやろうと思うだろうしな、うん」


「なに勝手に納得してるんですか……」


「怒るなって……。最初は俺とボネとメタリンで転移するからさ……」


「そうしてください。……と言いたいところですけど、私も行きます」


「そうだな。もしこの先でも転移魔法陣が必要なら俺たちが閉じこめられることになるわけだし」


「はい。ではみなさんに説明してください」


 そして今から転移することをみんなに話した。


 すると俺たちだけで行くのは危険だと全員から言われた。

 まぁメタリンとボネしか護衛がいないわけだし、メタリンじゃ壁を壊すほどの魔法や力はないしな。


 ということでリヴァーナさんもいっしょに転移してくれることになった。

 これで閉じ込められても安心だ。


「では転移魔法陣の接続を行います」


 カトレアは壁の転移魔法陣を杖でなぞり始めた。

 描き方にも順序があるらしい。

 みんなは興味津々で見ている。


 そして最後にカトレアが強めに魔力を込めると、転移魔法陣に明るい光がともった。

 みんなからは歓声が上がる。


「あれ?」


 だがカトレアは首を捻った。


「どうした? ミスったか?」


「いえ……思ったよりだいぶ魔力が少なくすんだもので……」


「失敗ってことではないのか?」


「たぶん……。一方通行の転移魔法陣を使うのは初めてだったので、元々こんなものなのかもしれませんが」


 おいおい……。

 ローナのときみたいに気持ち悪くなってもいいから、せめてちゃんと転移させてくれよ……。


「やり直すか?」


「……いえ、魔法陣におかしな点は見当たりませんのでこのままで」


「キュ(ご主人様、私が行ってくるのです。しばらくして戻ってこなかったら探しにきてくださいなのです)」


 う~ん。

 でもそれが一番確実な手段なんだよな。


「わかった。転移した目の前に魔物がいると思って、まずはすぐに逃げることを考えろ。余裕があれば転移魔法陣の場所から魔物を引き離しておいてくれ。三分経って戻ってこなかったらすぐに助けに行く」


「ちょっとロイス君?」


「キュ(了解なのです。でもきっとカトレアさんは行かせてくれないのです。だからこの会話が終わってから五秒後に急に飛び込むのです)」


「そうか、わかった」


「ロイス君、メタリンちゃんだけを行かせるなんてこと絶対に……えっ!?」


 メタリンは勢いよく壁の転移魔法陣に飛び込んだ。

 そして消えた。

 転移できなかったら壁に衝突して怪我してたな……。


 メタリンを追ってカトレアが飛び込まないように、一応カトレアの腕をつかんでおく。


「ロイス君!」


「落ち着けって。メタリンが逃げ切れないようなら誰が行っても無理だ」


「そうですけど!」


「三分待ったら行くんだから少しは待てって。転移したすぐ先に魔物がいないってだけでも大違いだろ」


「そうですけど……」


「リヴァーナさん、準備をお願いします」


「うん!」


「ボネもすぐに封印魔法使えるようにしておいてくれ」


「ミャ~(はいはい。カトレアは少し心配しすぎなのよね。メタリンなら余裕でしょ)」


 お前は他人事だと思って心配しなさすぎだけどな……。


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