第六話 経営改革案
当面の目標は『収支プラマイゼロ』に決まった。
それならダンジョン収入2400Gのほうがわかりやすいのではないかと言ってみたが、支出が増えるかもしれないと即却下された。
きっとララには考えてることがいっぱいあるんだろうな。
もちろん俺にはまだなんのアイデアも浮かんでいないが。
ドラシーはクッションを枕に横になっている……。
「まずはダンジョンに来てくれる冒険者の数を増やさないとね。入場料のことは最後に考えよう。コンテンツを今よりも充実させることがお客様獲得すなわち収入アップへの近道に違いないわ」
「……そうですね」
仕切っているのは当然のごとく妹のララです。
「現在のダンジョン構成をおさらいしてみると、地下一階は洞窟フィールドで敵は初心者向けね。地下二階は洞窟フィールドは変わらず地面には水たまりが少し発生してるところもあって敵も少し系統が変わるけど、単体でしか出現しないから初級者向けとしてもレベルは低いよね。でも完全な初心者から初級者への入り口としてはベストかもしれない」
「……だな」
地下一階の敵はブルースライムとオレンジスライム。
地下二階はゴブリンとブラックバットとダークラビット。
初心者にとってはちょうど良いレベルアップの場となるはずだ。
ララの分析についてはなにも突っ込まないぞ。
「リピート率を見ても来た冒険者の半分は一回きりで、他も二回~三回がほとんどね」
リピート率なんてまとめてあったっけ?
……いや、性別や年齢、パーティ構成や職業のデータから考えればララならわかることか。
俺は実際に会ってるからリピーターについてはわかるが確かにララが推測したリピート率は妥当だと思える。
「初心者向けだから仕方ない部分ではあると思うけどな」
「うん、だからやっぱり階層追加と難易度アップはするべきだと思うの。もちろんこれまで通り初心者向けの階層も作るわ」
「ドラシー、階層追加って簡単にできるの?」
「えぇ、魔力は溜まってるから初級者向けの二~三階層ならすぐにでもできるわよ」
……寝てると思ってたのにしっかり聞いていたようだ。
ドラシーはクッションの上に座り直した。
「とりあえず追加は三階層目だけでいいかな。地下二階のフィールド変更もしたいんだけどそれって階層追加と比べてどのくらい魔力消費量は違うの?」
「フィールド変更となるとほぼ作り直しになるから階層追加まではいかないけどそれなりに消費するわね」
「なるほど。薬草とか生やしたりもできる? 果実の木は?」
「植物系はフィールドとの相性があるわ。果実も可能だけど味は食べてみないとわからないわね」
「フィールドの条件次第でなんでもできるの?」
「あっ、大事なことを言ってなかったわね。ダンジョン内に復元できる物は一度アタシが吸収したことのあるものじゃないとダメなの。薬草とか果実もアタシが吸収したことのあるものなら再現できるけど、吸収したことのないものは無理。ただフィールドはダンジョンコアを作るときに色々設定されてるからあまり気にする必要はないわ」
「一度現物を取り込む必要があるか。……もしかして魔物も?」
「もちろんよ。でも魔物は魔石だけでも大丈夫よ」
「へぇ~、魔石って魔物情報とか持ってるの?」
「魔石が魔物の核になってるでしょ? 大きさや形状が魔物ごとに微妙に違うのよ。人間の目で見てもまずわからないでしょうけど」
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ深く考えないでおくね」
ララとドラシー、二人の会話がどんどん進んでいる。
もちろん俺は横から口をはさむことなくしっかり聞いていたよ!
俺は名ばかりの管理人でしかないがララが上手くやってくれるなら楽ができてなにも言うことはないな。
「ただし、管理人の能力を上回ってる魔物を配置することはできないわ」
「お兄の魔物使いとしての能力次第ってことね」
「えっ!?」
いきなりこっちに矛先が向いてきたぞ!?
俺の魔物使いの能力ってなんだよ!?
そんなものあるわけないだろ。
だって昨日まで魔物使いだなんて知らなかったんだし、最弱に決まってる。
お願いだから期待する目で見ないでおくれ妹よ。
「そんな心配しなくても大丈夫よ。シルバーウルフが懐いてるくらいなんだからそこそこならいけるわよ」
「そこそこって……」
「お兄ならもっと強い魔物でも大丈夫だよ!」
ララの自信はどこから生まれてくるんだろう。
やっぱり俺が強くならない限り強い魔物を配置することは無理なんだろうな~。
でもそんな強い魔物が必要になるのはもっと先の話だろうし今は考えるのやめよう。
「で、ララの構想はまとまりそう?」
「あっ、うん! なんとかなりそう! って私が決めちゃっていいの? お兄もしたいことあったら言ってね!」
「ララに任せれば安心だからな。じゃあ地下一階から順番に聞かせてくれないか」
「わかった!」
ララは紙にまとめながら説明してくれるようだ。
俺はもちろんその紙を見ながら話を聞くだけだ。
ってマジで俺なにもしてなくない?
このままだと全部ララの成果となって(それは別に構わないが)俺がここにいられなくなるんじゃないか。
少し焦った俺だがそういう素振りも見せずにドラシーに聞いてみた。
「ドラシー、このダンジョンに配置できる魔物の一覧とかさ、あとは薬草やフィールドの種類って俺たちも見れたりするの? ほら、水晶玉でとかさ」
「えぇ、見れるわよ。なんなら水晶玉じゃなくてもそこの紙に魔力で印字するようなこともできるけど」
「それは便利だな。ならお願いできる?」
「わかったわ」
ドラシーは立ち上がり、近くにあった白紙に手をかざすと、手の先が光り出し、白紙であった紙に文字の一覧が表れた。
その作業は十枚にもおよんだ。
「わぁー、これは捗りそうね!」
「ふぅ、少し疲れたわ」
ララは嬉しそうに一覧に見入っている。
ドラシーはコーヒーを飲みはじめた。
……さっきから飲みすぎじゃない?
それにしても……思ったより数が多いな。
魔物はこんなに再現できるのか。
……こんな強そうな名前の魔物まで。
あくまで強そうな名前だけで判断してるだけだからね。
薬草についてはあまり詳しくないが、薬草や毒消し草といったよく聞く名前がある。
フィールドは見てもよくわからんな。
セットできる環境、地形から木の種類など細かく設定することが可能ってことか?
まぁ難しそうなことはララに任せておけば問題ないだろう。
「ん?」
適当に読み流していたが、気になるものが目に入ったのでつい声に出てしまった。
「ベッド? ベッドってあのベッド? ん? 他にもイス、テーブル? 家具も魔力で作れるってこと?」
「そりゃ魔力だからできるわよ。魔物とは違ってただの物質の形を再現するだけなんだから。フィールドの岩と変わりないわよ。ただし、アタシが想像できない形のものは無理よ? 吸収させてくれたものなら復元するだけだからなお簡単よ」
「えっ!? 家具もできるの!? なにそれドラシー超凄いじゃん!」
ララのテンションはマックスのようだ。
ドラシーも満更ではないのか、腰に手を当て、ない胸を張って偉そうにしている。
……魔力ってなんでもできるんだ。
家具がこれだけ作れるのなら家のものはなんでも揃いそうだな。
……家?
「このエリアもダンジョン内って言ったよな? もしかしてこの家も魔力で作られた家なのか?」
「この家は魔力じゃないわ。正真正銘の木造の家よ」
「そうか、なら良かった。でも家も作れるってことだよな?」
「作れるけど家は細かいことを気にしないといけないから面倒なのよね。そうすると結構魔力使っちゃうし、それにこのエリアに家を建てるつもりなんだったら魔力で作るのはお勧めしないわよ」
「どうして?」
「ダンジョンリセットの際にいっしょになくなってしまうことと、もしダンジョンコアが破壊された場合にも当然なくなってしまうからね。人が住んでる家が一瞬でなくなるのってなんか寂しいじゃない」
「それもそうだな」
「……今言ってもわからないかもしれないけど、本当はこの家も魔力で組み立てたのよ」
「!?」
「でも誤解しないで。木は本物の木を使ってるの。魔力は組み立てるのに使用しただけ。だからこの家は本物の木造の扱いになるの」
「素材が本物であればある程度の融通は利くってことでいいのか?」
「そう思ってもらっても構わないわ。このあたりのことはいずれわかっていくでしょう」
「……わかった」
さらに読み進めていくと、クッションや布団といった名前もある。
ドラシーが今使用しているクッションは低反発でフワフワのように見えるからそういった素材まで細かく設定して作れるということだろう。
……やはりコーヒーや紅茶の名前もあった。
魔力で作った飲み物をダンジョンコアであるドラシーが飲んで吸収している。
もしやこれが魔力の循環ってやつか!?
俺がそんなことを考えている間も、ララは構想案を次々と紙に書き出している。