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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第五百九十六話 前と違う光景

「お爺ちゃん! ご飯できたよ! 四人分!」


「おや、もうそんな時間か。ダルマン君の分も作ってくれたんだね」


「うん! お兄は!?」


「ダンジョンからまだ帰ってきてない」


「もぉっ! 呼んでくるから先食べてて! ピピ! 行くよ!」


 ララは玄関に置いてあった銅の剣を持ち、ダンジョンへと走っていった。


 ダルマンはその光景を唖然とした表情で見送った。


「……あの、とめなくていいんですか?」


「大丈夫ですよ。さて、中でご飯いただきましょうか」


「……はい」


 グラネロがそういうのなら大丈夫なのだろう。

 だが十歳の少年ならまだしも、まだ六歳の少女が魔物と戦ってる姿はとても想像できるようなものではなかった。


 ララのことが気になりながらも、家に入る。


 なつかしい。

 玄関も廊下も食卓もリビングもなにも変わってない。

 元々グラネロ一人で暮らすにはこの家は広すぎたのだ。

 二階には上がったことがないが、三部屋もあるそうだし。


「さっ、座ってください」


 以前と同じ席に座る。

 あのころは毎日朝と夜、グラネロとこうして向かい合って食事をしていたのだ。


 だが今は二人の隣にも料理が並べられている。

 グラネロに家族が増えたことが実感できる瞬間だ。


「これをララちゃんが?」


「えぇ。ここ最近なんですけど、料理するのが好きになってきたみたいで率先して作ってくれるんです」


 本日の昼食はパスタ。

 野菜と肉がふんだんに使われており、麺の量もかなり多い。

 この色はトマトで味付けされているのだろうか?

 残念ながらダルマンは食に関する知識が乏しく、この料理の名前まではわからない。


 というか量がかなりどころかとんでもなく多い。

 グラネロの皿はまだ控えめに盛られているようだ。

 だがロイスとララの皿にはダルマンの皿と同じくらいの量が盛られている。

 あの子たちはこんなに食べられるのか?

 いや、ちょっと待て。

 六歳の子が日常的に料理をしているのか?


「さて、いただきましょうか」


「……はい。いただきます」


 ダルマンはいくつかの疑問を考えながらもパスタを口に運んだ


「あ、美味しい」


「でしょう? ララには料理の才能があるんです」


 ただ孫が可愛くて自慢をしたいだけの爺ちゃんの発言にも聞こえるが、これは間違いなく美味しい。

 昨日の夜食べたラーメンよりは遥かに美味しい。


 ダルマンはどんどんと食べ進める。

 その結果、グラネロが食べ終えるよりも前に食べきってしまった。


「おかわりどうですか?」


「あ、お願いします」


 すぐにグラネロは立ち上がり、おかわりを皿に入れてくれた。


 つい美味しさと前の癖で頼んでしまったが、迷惑じゃなかっただろうか、と我に返るダルマン。


「どんどん食べてください。ララも喜びますから」


 そう言われ、少し安心して食事を再開する。


 そして二人が完全に食べ終わったころ、玄関のドアが開く音が聞こえた。


「ほら、早く! 手洗いうがい、それと着替えも!」


「わかったって」


 ララとロイスの声が聞こえてきた。

 会話だけ聞いてると、まるでララのほうがお姉さんのようにも感じる。


 そしてララだけがこの部屋に入ってくる。


「ただいま~」


「おかえり。どこにいたんだい?」


「左奥。シルバだけに戦わせてお兄は寝てた」


「は?」


「またかい」


 また?

 いやいや、ダンジョンだぞ?

 寝てたってなんだよ……と、困惑するダルマン。


「おそらくシルバがダンジョンに行きたいと言ったので、ロイスは散歩がてら付いていったのでしょうね」


「散歩って……でもダンジョン内で寝るなんて……」


 これがさっき言ってたサボり癖というやつなのだろうか。


「あっ!? おかわりしてくれたんですか!?」


「え? うん。凄く美味しかったからついもっと食べたくなって」


「本当ですか!? やったぁ~!」


 ララは弾けるような笑顔を見せる。

 たくさん食べてもらえたことが嬉しいらしい。

 グラネロの言ったことは本当だったようだ。


 そしてララは残りの二つの皿に盛られていたパスタを一旦フライパンに戻し、温め直し始めた。


 そこでロイス、シルバ、ピピが部屋へと入ってきた。


「爺ちゃ~ん、シルバがさぁ~……あ」


 ロイスはダルマンを見て動きがとまった。

 ダルマンがここにいることを知らなかったようだ。


「これはこれはお見苦しいところを……」


「いえ……お邪魔してます」


「お邪魔だなんてそんなとんでもない。どうぞごゆっくりしていってください」


 急に畏まった態度になったロイスに、ダルマンは恐縮してしまう。


 この子は本当に十歳なのだろうか。

 この子がダンジョンの中で常習的に寝てるというのは本当なのだろうか。

 グラネロから色々話を聞いたせいもあり、ダルマンはロイスへの興味がどんどん湧いてきていた。


 そしてロイスはダルマンの隣の席に座った。


「食事は食べられましたか?」


「え? あ、うん。先にいただいたよ、ありがとう。凄く美味しかった」


「そうでしょう? ララは料理が得意なんです」


 さっきグラネロからも似たようなセリフを聞いたダルマンは苦笑する。

 ここでは六歳の少女に料理を任せてることは普通のようだ。

 ララはまだ背が低いため、キッチンでは踏み台の上に乗って料理をしてる。


「はい完成! 食べて!」


 ララはロイスの前に山盛りパスタを置いた。


 そしてララが座るのを待って、二人は食べ始めた。


「……ん?」


 一口目を口に入れ、少し噛み始めたところでロイスが首を傾げた。

 口に合わなかったのだろうか。

 口を動かしながら皿の上のパスタを見つめるロイス。

 二口目を口に運んだ。


「……少し砂糖の分量変えたか?」


「変えてないよ? 今日は作った量が多いけど、大体いつも通りのレシピだよ」


「そうか。ならトマトか」


「そんなに味違う?」


「これソボク村産なんだよ。たまたまビール村産より少しだけ安かったんだ」


「どっちの味が好み?」


「断然こっちだ。甘味が強いし味もいい。しばらくはソボク村産の物を買うことにする」


「でもいつも安いわけじゃないんだよね? 値段が高いようだったらビール村産のにしないとダメだよ?」


「もちろん。一個当たり2G以上差が出るようなら迷うことなく安いほうを買う」


 なんだこの会話は……。

 とても十歳の少年と六歳の少女の会話とは思えない……。


 呆気に取られているダルマンをよそに、グラネロはララが入れてくれたお茶を飲みながらその光景を微笑ましそうに見ている。


 その後は黙々と食べるロイスとララ。

 ついには二人ともあの量を食べきってしまった。


 そしてララは洗い物に取りかかる。

 一方、ロイスはシルバとともにソファに寝転がり、まもなくお昼寝に入った。

 グラネロがなにも言わないということは、おそらくこれがこの家の日常なのだろう。


 ダルマンとグラネロは食卓に座ったまま、この二年の間のダルマンの修行話になった。

 ダルマンはまずパーティを組んだときのことから時系列順に話していった。

 モーリタ村のダンジョンのことだけは秘密にして。


「そうですか。パーティのみなさんとの関係は良好そうですね。それに順調に魔力が増えてるようでなによりです」


「はい。あの、できれば昔のように一度腕を見ていただきたいのですが」


「……あとで拝見させていただきますね」


「え? ……あ、はい」


 今すぐじゃないのはおそらくララがいるからだろう。

 ダンジョンの力を見せるわけにはいかないのかもしれない。


 するととっくに洗い物を終えて部屋の掃除をしていたララがグラネロの隣に座った。


「ダルマンさんは強化魔法が使えるんですか?」


 ダルマンはララの口からそんな言葉が出てくることに驚いた。


「うん。右腕のみだけどね」


「右腕だけ? 右腕だけとなると、力強化ですか? それとも硬化ですか? 素早さ強化してもあまり意味はなさそうですよね」


 どうやらララは身体強化魔法のことを知っているようだ。


「……力強化だね」


「力! いいですね! 私にも教えてもらえませんか!?」


「え? さすがにララちゃんにはまだ無理というか、早いと思うけど……」


 どう説明していいのかわからなかったダルマンはグラネロに助けを求める。


「ララ、強化魔法はもう少し体が大きくなってからじゃないとダメだよ」


「えぇ~~。だってそんなの言ってたらまだまだ先になるじゃん。ご飯いっぱい食べてもすぐ大きくなったり力が強くなるわけじゃないしさぁ~」


「せめて十歳になるまで待ちなさい。じゃないと身体が魔法の反動に耐えられずに死んじゃうかもしれないからね」


「むぅ~~。お爺ちゃんいつもそればっかり」


「まだララは六歳なんだよ? 激しい運動や筋力トレーニングにも耐えられる体ではないんだ。だから今は本をたくさん読んでの知識習得や、魔力向上訓練に精を出しなさい」


「もぉ~、わかったよ~」


 ララはほっぺを膨らまし、不満をあらわにした。


「えっと……ララちゃんは魔法を使えるのかな?」


「嗜む程度ですけどね」


「嗜む……大人っぽい言葉を使うんだね……。ちなみにどんな魔法が使えるのかな?」


「火魔法と雷魔法と風魔法です」


「は?」


 ダルマンは自分の耳を疑った。


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