第五十九話 魔物だって家が欲しい
「おはよう。昨日は眠れた?」
「おはようございますです! はいなのです! カトレアさんが優しくしてくれたのです」
「……変な言い方はやめてください」
ウチに住むことになったユウナだったが、さすがに夜に部屋を作るのもあれなので昨日はカトレアの部屋で寝てもらったのだ。
俺は寝坊してしまったが朝食も三人で食べたようだな。
「お兄すぐ食べる?」
「あぁ、頼むよ。カフェラテもお願い」
「は~い。カフェラテなんて珍しいね」
「日曜の朝に寝坊したのなんて久しぶりだからな。急ぐ必要もないからたまには気分を変えてみようかなって思ってさ」
毎週日曜は早朝から町に行って、ゆっくりするのは昼からって決めていた。
それが今ではわざわざ町に行く必要自体なくなったのだ。
なにか必要な食材や生活用品があれば従業員の四人がその都度買ってきてくれるからな。
今日はいつもと同じ時間に起きたのだが二度寝をしてみた。
朝の日課となっている散歩も行かなかったがシルバはどうしてるんだろうか。
気になった俺は部屋の中にシルバがいないことを確認すると管理人室へ行き外を探す。
すると、姿は見えなかったが家の前のほうから声がした。
玄関から外に出ると、そこではシルバ、ピピ、メタリン、ゲンさんが集まってなにか話をしているようだ。
「どうしたんだ? みんな集まって珍しいな」
「わふ~(ちょっと相談してるんだ~)」
「チュリリ? (お家を拡張するんですよね?)」
「キュキュ! (私たちもここに家を作ろうかと思ってるのです!)」
「ゴゴゴ(なんか俺が雨に濡れたり、夜の間ずっと一人でいるのを気遣ってくれてるみたいなんだコイツら。俺はいいって言ってるんだけどな)」
……なるほどな。
昨日のユウナの一件からゲンさんが外にいることが気になってしまったのか。
でもそれが仲間ってもんだよな。
ゲンさんは岩だから、あくまで自然に外にいることが普通なんだと思っていた俺がダメなんだ。
「いいんじゃないか? 土地はあるし、材料もあるんだ。ゲンさんが入れるように大きい入り口と天井が高い一階建ての家にしよう。水が入ってこないように床も少し高さがあったほうがいいぞ? もちろん木の床な。ドアはないほうがいいか? ウチとも出入りできたほうがいいが、それだとドアをつけないと不用心だもんなぁ」
「わふっ(いいの? ロイスありがとー)」
「チュリ! (嬉しいです! でもそうなんですよねーそちらの家と行き来したいですからねー)」
「キュキュ! (やったです! でもあまり大きくなくても大丈夫です!)」
「ゴゴ(なんか悪いな。コイツら甘ちゃんでよ。俺はそんなに動き回らねぇから出入りができて立てる程度の大きさがあれば問題はないぞ)」
ゲンさんの大きさで考えると、入り口は高さ四メートル幅三メートルはないと余裕とは言えないな。
圧迫感を感じてほしくはないからな。
……面倒くさいからウチの二階の高さと同じでいいか。
そのほうが屋根も続けて設置できるしな。
ウチの家の左側、小屋から遠い側へ作るとしてL字の形になるようにしようか。
となると、ウチの拡張分については一階の廊下をそのまま奥へ延ばすとして、ダイニングキッチンの横に一部屋作ることになるな。
そこはカトレアの作業部屋にでもしようか。
なんだかカトレアの部屋が凄いことになってるからな……。
よくユウナはあそこで寝れたな。
……ってなにも一番奥まで廊下を延ばさなくてもいいのか。
廊下の延長は一メートルちょいくらいにしといて右側にカトレア作業室のドアを作ってそこからL字に魔物の家へ繋がるようにしたら奥にもう一部屋作れそうだな。
ここも予備の作業室にしておこうか。
二階はこのレイアウトのままコピーでいいだろう。
廊下の位置も問題ないはずだ。
トイレの位置は同じだし、洗面所と風呂場の上は少し広めのベランダになってるからな。
新しく作る部屋の一つはユウナの部屋でもう一つは来客用にしておくか。
従業員が泊まることだってあるかもしれないしな。
ウチはララたちの意見も聞くとしてこんなもんでいいだろう。
あとは魔物の家だが、さっきの感じだとそんなに注文はなさそうだな。
「……こんな感じで作ろうと思うんだが、なにか希望はあるか?」
「わふ! (お風呂作って!)」
「チュリリ! (足湯も欲しいです!)」
「キュキュ! (ゲンさん用にシャワーも欲しいのです!)」
「ゴゴ(デカいタオルも用意できるか? どうせなら寝転んで寝たいな)」
……こいつら。
急に注文が増えたぞ?
シルバは風呂好きだからまだわかるが、ピピの足湯ってなんだよ?
それは浅い水たまりって言うんじゃないのか?
ゲンさん用の風呂は無理だがシャワーならいけるか。
でもデカいタオルってなんだよ? 家関係ないし。
今まで雨ざらしになってたはずなんだがやっぱり冷たかったのか?
それにいつも座ってるのに寝転ぶスペースが欲しいとまで言い出しちゃったよ。
でもこれ風呂場とシャワー室と就寝スペースを設けるってことか?
もういっそのこと一つの大きい部屋にして全部詰め込んじゃうか。
「……てわけなんだけどさ、できるかな?」
「火関連の魔道具は結構魔力を使うのよねぇ。それに物資エリアと食堂で魔力消費した疲れがまだとれてないのよ」
そう言われるとドラシーを見たのは久しぶりな気がする。
食堂を追加したときだから一週間振りになるのか。
やはり魔力は大事に使っていかないと自分たちの身を滅ぼすことになりかねないな。
「じゃあやっぱりやめたほうがいいか」
「う~ん、今日は日曜日だっけ? ならみんなお休みでしょ? その新人の子も魔道士目指してるって言ったわよね? ならその子とカトレアちゃんとピピちゃんとメタリンちゃんに手伝ってもらっていいかしら? ララちゃんの魔力はなにかあったときのために残しておきましょう」
「わかった。あまり無理はしないでくれよ? 危険だったら途中でやめてもいいからな?」
「大丈夫よ。その代わりしばらくは休ませてね」
俺はゲンさんに木を集めてきてくれるよう頼み、他のみんなを家の前の広場に集めた。
「……みたいな感じで家を拡張しようと思うんだけど、なにか意見ある? 希望なども聞くよ?」
「ピピたちの家を作るのは賛成だけど、本当にそんなにお風呂関連の設備が欲しいって言ってるの?」
「あぁ、風呂はシルバが、足湯はピピが、シャワーはメタリンがゲンさんのために欲しいって言うからさ。みんな普段から働いてくれてるんだからいいだろ?」
「それならいいんだけど、魔力は大丈夫かな? 部屋も予備は作らなくてもいいんじゃない?」
「まぁ予備の部屋は設計上のついでみたいなもんだからさ。後で作ることになるよりもまとめてのほうが魔力も少なくすむだろ? それにその魔力のためにみんなに集まってもらったんだ」
「……私は大丈夫ですよ。それに作業部屋欲しかったんです」
「今からなにが起こるのです!? 私の魔力が役に立つのです!?」
そんな話をしている間にゲンさんが木を集めてきたようだ。
相変わらず早い。
メタリンとピピも枝切りなどのお手伝いをしていたようだ。
「……これは岩? ……魔物さんなのです?」
「そうか、ユウナは初めてだったか。彼はゲンさんといってロックゴーレムという魔物なんだ。もちろん家族の一員だよ。ほら、いつもこのあたりに大きい岩が置いてあるだろ? あれがゲンさんだ」
「へ? あの岩なのです? 私たまにもたれかかってましたです……」
「あぁ、ゲンさんはそういうこと気にする魔物じゃないから。普通に接してくれればいいよ」
「え? 普通ってなんなのです……」
まぁ俺以外言葉がわからないんだから接し方なんてあったもんじゃないか。
普通っていうのは人と同じように接するってことだよ。
「みんな揃ったようね? 早速始めましょうか。じゃあここへ集まってもらえるかしら」
ドラシーが魔物の家予定地前にみんなを集めようとする。
「ふぁっ!? ……これは妖精さんなのです? 初めて見たのです。凄い魔力なのです!」
「あら、アナタが新人さんね。アタシの魔力がわかるの? 将来有望かもね。ふふっ」
「本当なのです!? 私大魔道士になれますです!?」
「それはアナタの努力次第だからアタシにはわからないわよ」
「うぅ~、そうなのです」
「ほら、そろそろ始めるわよ」
ドラシーがみんなから魔力を吸収し、一気に魔力を高めていく。
そして木に向けて魔力を注ぎ込んだ次の瞬間には俺が伝えた通りの家が目の前にできていた。
「なっ!? なんなのです!?」
そりゃビックリするよね。
「ユウナ、これは極秘事項だから今見たこともそうだが今後この土地で見ることは絶対誰にも言っちゃダメだぞ? もし言ったら……」
「……もし言ったら?」
その先は言わないでおこう。
もし話されたところで別にどうにもされないからな。
そのために何重にも結界を張ってるんだし。
でも言わないでもらうに越したことはないから適当にビビっといてもらおう。
「ドラシー、入り口の結界なんだけど」
「はいはい、大丈夫だと思うけど一応確認してきてね。この魔物部屋にすら虫一匹入れないと思うわよ? そこの家に繋がってるところにも念のためもう一枚張ってあるけどいらなかったかもね」
「いや、それくらいのほうが安心できるよ。ありがとう」
魔物の家……俺も魔物部屋と呼ぶことにするか。
外から魔物部屋に入る入り口にはドアはないが透明な結界が張られている。
さらに魔物部屋と拡張した家の廊下の間にもドアはないが結界が張られているとのことだ。
なので外から家の中までドアが全くない廊下が存在していることになり少し不安ではあるが、この結界を破られるようならドアがあろうがなかろうが関係ない。
そもそも不審者や魔物はこのエリアにすら入れないようになってるんだからな。
それもドラシーの仕事の一つだから、今の魔力が少ない状態というのは非常に危険なんだ。
しばらくはゆっくり休んでもらおう。
その間に俺たちが魔力を稼がないとな。
そう、俺たちはお金より魔力を稼がないといけないんだ。
それがこのダンジョンのためであり、この森のためでもあり、なにより大樹のためでもある。
……俺がそんなことを考えているにも関わらず、周りには誰もいなかった。
全員が魔物部屋や家の中に入っていったようだ。
ゲンさんまでもだ。
はぁ~、俺も足湯に浸かってみるか。