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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第五百八十七話 ダルマンとグラネロの出会い

 今から約十年前のこと。

 モーリタ村の戦士であるダルマンは、自身の右腕の病気について調べるため、旅に出ることを決めた。


 まずは大樹のダンジョンに向かうことにした。

 ラクダ、船、馬車を乗り継ぎ、三日かけてマルセールに到着した。

 そしてその翌日、目的地であった大樹のダンジョンにようやく辿り着くことができたのだ。


「いらっしゃいませ。おはようございます」


「おはようございます。初めまして、ダルマンといいます」


「お~? これはこれはご丁寧にどうも。私はグラネロと申します。ここ大樹のダンジョンの管理人をしています」


 ダルマンはグラネロという名前に聞き覚えがあった。

 バビバからは、おそらく現在の管理人はグラネロという五十代半ばの男性か、その息子がしてるはずと聞いていたからだ。


「本日はダンジョンに入るために来てくれたんですか? ここまで遠かったでしょう?」


 ダルマンはグラネロの口調に驚く。

 とても丁寧で優しかったからだ。


「はい。あ、いいえ。実は相談したいことがありまして……」


「相談ですか? それは構いませんが、ダンジョンには入られないのですか?」


「あ、ダンジョンにも入ってみたいです」


「ではダンジョンから出てこられたあとにまたお話しましょうか。私のほうは夜になっても構いませんので」


 その言葉に甘えることにした。

 ダンジョンに入ってみたいというよりも、実は資金にそこまで余裕があるわけではなかったからだ。


 昨日のうちにマルセールでの宿の相場を調べたが、サハに比べると非常に高く、サウスモナと比べても少し割高というところだった。


 それはマルセールという町が、大都市であるサウスモナとボワールの中間くらいに位置してるからだと聞いた。

 しかもここから東に進み山を越えれば王都パルドにも行けるという。

 マルセールは宿場町として最高の立地条件にあるというわけだ。


 でもその割にマルセールの町はそこまで大きくない。

 どちらかというとかなり小さい町と言ってもいい。

 サウスモナと比べると天と地と言ってもいいほどの差もある。

 生活するうえで不便なことはないだろうが、特に住みたいと思うような場所でもないだろうなという印象だ。


 ダルマンが泊まった宿は格安で、冒険者をメインのお客にしてる宿だった。

 案内された部屋は二段ベッドが四つある八人用の大部屋。

 もちろん食事なんか付いてるわけがなく、素泊まりだけで一泊100Gの格安宿。

 この料金だけを見ると、マルセールの宿代が高いとは誰も思わないだろう。

 この町は冒険者には優しいんだなとダルマンが思った瞬間でもあった。


 それはさておき、グラネロから簡単に注意事項を聞いたあと、入場料の50Gを支払い、ダルマンはダンジョンの中に足を踏み入れた。


「……洞窟か」


 すぐに故郷のモーリタ村のことが頭に浮かんできた。

 だが次の瞬間、すぐにそのことは頭から消え去った。

 魔物が出現したからだ。


「……弱そうだな」


 その魔物を見た最初の感想だ。


 それも当然、その敵はブルースライムであり、世界で最弱とも言われている魔物だ。

 だがダルマンはブルースライムを見るのは初めてだった。

 モーリタ村周辺の砂漠、そしてモーリタ村の地下にあるダンジョンにはブルースライムのような弱い魔物は出現しない。


 その後、少し進むたびに出現してくるブルースライムやオレンジスライムを倒し、魔石を回収しながらダンジョン内を歩き回る。

 魔物の皮が素材として売れるような魔物はどこにいるんだろうと思ってるうちに、下へ進む階段を発見した。


 そして階段を下りると、突然景色が一変した。

 なんと目の前には草原が広がっているではないか。


 ダルマンが驚いて動けずにいると、近くにいた冒険者が近寄ってきた。


「お? 初めて見る顔だな!」


「ソロか? なら覚えておくがいい。新しい階層に入った付近は休憩場所になってるから敵は襲ってこない。そこには飲み水も用意されてるから自由に飲んでいい。トイレはそっちの草むらあたりのスペースを使え。用を足したあとはすぐにきれいにされるからなにも気にすることはない。あ、でもそっちの奥は女性専用になってるから絶対に近付くな。半殺しにされても知らないぞ、はははっ!」


 二人はこの休憩場所の使い方を親切に教えてくれたようだ。

 見た感じ、自分より年上にしては明らかに自分より腕が落ちる二人組だったが、とてもいい人たちだと思った。


「あの、なにか町で売れるような素材の魔物はいないのでしょうか?」


「この地下二階で狩ろうと考えてるんならダークラビットだな。毛皮が高く買い取ってもらえるんだ。だから売ることも考えてきれいに倒せよ? それと一応マルセールで売れる素材は、魔物の種類に対して一人一日一匹分の量までって決まってる。ダークラビットの上限が一匹分、ほかの魔物であればその種類毎に一匹分までの量ってことだ。わかるか? つまり魔物の種類分だけの素材は売っていいというルールだな」


「えっと、管理人さんからはそんなこと聞いてないんですが……」


「暗黙のルールだからな。例えばみんながダークラビットの毛皮を大量に売ったらどうなるかわかるか?」


「……買い取ってもらえなくなるとかですか?」


「そうだな。まず買取価格が下落し始める。そして素材の在庫が増えれば当然買い取ってもらえなくなる。だからこそのルールだ」


「なるほど。勉強になりました。ありがとうございます」


「うん。魔石には制限がないから持てるだけ持って帰ればいい。でも帰りもマルセールまで歩かないといけないことも考えろよ? まずはこのことだけ知ってればここで生活はしていけるだろう」


「はい、ありがとうございます」


「わからないことがあればみんなすぐ教えてくれるから遠慮なく聞いてみればいい。でもダンジョンの次の階層の情報まではあまり教えてくれないからそのつもりでな。ネタバレされても面白くないだろ?」


 そして二人組は先に進んでいった。

 おそらくダルマンが来たときにはもう休憩を終えて出発しようとしてたときだったんだろう。


 一方、一人残されたダルマンは少し感動していた。

 今の二人組が自分や村の戦士たちとは大違いだったからだ。


 村では見知らぬ冒険者が来てもこんなに優しくする人間はいない。

 村の戦士たちは冒険者のことを自分たちより下だと思って見下してるせいもある。

 実際に村の戦士以上の実力を持った冒険者なんてほんの僅かだ。

 そもそもダンジョンの存在はあまり知られてないため、冒険者も年に数人しか訪れてこない。

 冒険者同士は仲良くしてるという話もたまに聞くが、戦士と冒険者が仲良くするなんてことはまずない。

 だから冒険者たちが新しく来た冒険者にどう接してるかなんて気にしたこともなかった。



 休憩をすまし、草原フィールドを歩いてみることにした。

 出てくる魔物は弱かったが、ダンジョンなのに洞窟ではなくて草原ということがダルマンの気分を高揚させていた。


 結局この日は草原フィールドを歩き回ってるだけで営業終了時間となってしまい、ダンジョンの外に強制転移させられることになった。


 そして外に出て、初めて冒険者の多さに驚かされることになる。

 ダンジョンの中では数人と会っただけだった。

 それがなんと今ここにはざっと数えただけでも軽く五十人はいるではないか。


「今日は何階にいたんだ?」


「地下五階。ベビードラゴンの皮をきれいに剥ぎ取りたくてな」


「ねぇ、明日休みだしこのあとみんなで飲まない?」


「それいいな! じゃあいつものあの店にしよう!」


 ベンチに腰掛けて雑談をする者。

 水道の水で装備品の汚れを落とす者。

 本日の収獲をパーティみんなで分けてる者。

 さっさとマルセールに帰っていく者。

 管理人さんと話してる者。


 そしてそんな光景を見て軽くショックを受けてる者。

 ダルマンはなにがなんだかわけがわからなくなっていた。


 これだけの数の冒険者を見るのは初めてだったし、見るからに強そうな人たちもいっぱいいる。

 村で最強の戦士よりも強いのではないかと思わされてしまうような人もいた。

 戦ってる姿を直接見たわけでもないのにだ。

 モーリタ村の戦士が最強だと思っていたダルマンにとってそれはショック以外のなにものでもなかった。


「ダルマンさん、こちらへどうぞ。こっそりとお願いします」


 呆然としてるダルマンに管理人が声をかけてきた。

 すると家の中へ案内され、ソファーに座るように促される。


「こちらで少しお待ちください。あ、町で宿はとられましたか?」


「いえ、まだです。昨日とは別の宿にも泊まってみたいと思っていたものですから」


「そうでしたか。それなら今日はウチに泊まっていきますか?」


「え?」


「このあとのお話次第では遅くなるかもしれませんし。それに明日はダンジョンの休業日ですし、ほかの冒険者に気付かれることはありませんから遠慮はいりませんよ」


「ありがたいお話ですが、それはさすがにご迷惑かと……」


「いえいえ。どうせこの家は私一人ですから」


「……ではお言葉に甘えさせてもらってもよろしいでしょうか?」


「はい。お言葉に甘えてください。では私はまだ仕事がありますので、先にシャワーでも浴びられたらいかがでしょうか? そのあといっしょに食事にしましょう」


 グラネロはダルマンに家の中を案内したあと、管理人室と呼ばれる部屋に入っていった。


 世の中にはこんな優しい人がいるんだな。

 ダルマンはそんなことを考えながらシャワーを浴びる。


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