第五百八十二話 遅れてきた冒険者パーティ
暑い……。
まだ八時くらいなのに……。
常に周囲を警戒しながら歩いてるからだろうか。
「ゴ(おい、ちょっと待てって。危ないから勝手に進むな)」
「下の人たちが上空のほうまで見ててくれてるから大丈夫だって」
ゲンさんは道を土魔法で均しながら歩いている。
と言っても元々のリヴァーナさんが作った道でも十分きれいだし、ミオが均してくれたあとだから軽くだけどな。
ゲンさんは同時にこの高台の道が下までちゃんと強化されているかどうかの確認もしている。
それも予想以上に下の人たちがしっかりやってくれてるから今のところ直すようなところは見つかってないみたいだけど。
でも人が通る以上万が一のことがあってはいけないからな。
「ゴ(できれば俺の後ろを歩けって言ってるだろ。小さな石が当たったりしただけでも死ぬかもしれないんだからな)」
「わかったわかった。というか暑い……。よくみんな休憩せずにいられるな」
「ゴ(文句の多いやつだな……。みんなの前ではしっかりしろよ)」
「わかってるって。で、道はどう?」
「ゴ(アオイ丸とあの婆さんのチェックが鋭いんだろうな。まぁそれもリヴァーナによる土台があってのものだが。あいつもしかしたら俺の土魔法を超えてるかもしれん)」
「それじゃゲンさんの取り柄が力の強さだけになっちゃうじゃないか」
「ゴ(おい……。最近お前ひどいぞ……)」
「暑いから多少口が悪くなるのは仕方ないんだって」
「ゴ(それだけとは思えんが……)」
あ~休憩したい。
でも下はどんどん進んでいくしなぁ~。
「ミャオ」
こいつもずっとチョロチョロ動いてるけど暑くないのかな?
ボネもダイフクも暑いって言ってたのに。
「ゴ(ん? 後ろから誰か来るぞ)」
「後ろ?」
村の人だろうか?
……確かにこっちに向かって何人か走ってきてるな。
「ゴ(あいつらだ)」
「誰?」
「ゴ(名前は忘れたが、砂漠で撒いたやつらだ)」
「あ……」
「ロイスさ~ん!」
ラシッドパーティか。
手を振りながら俺の名を呼ぶあの大柄な男性はまさしくモーリタ村の宿屋の息子のドーハさんだろう。
それと魔道士の女性、確かアーミアさん。
あと一人は……ラシッドさんか。
ナスリンさんの姿は見えない。
そして三人はすぐに俺たちの元へとやってきた。
「「「はぁ、はぁ、はぁ……」」」
三人とも息が上がっている。
この暑さの中を走ってきたらこうなるのが普通か。
俺なんて歩いてるだけでも倒れそうになってるのに。
「お水どうぞ」
三本同時に差し出すと三人はお礼を言ってすぐに受け取り、飲み始めた。
えっと、この人たちがここにいるということはどういう状況なんだろう?
「お久しぶりです!」
元気が戻ったドーハさんが話しかけてくる。
「たった三日ぶりですけどね」
「そうでした! あははっ!」
明るいな……。
まさかナミの状況を知らないわけではあるまい。
目の前には火山が見えてるし。
「さっきここまで船で乗せてきてもらったんです!」
「船で? みなさんはどこにいたんですか?」
「サハの町です! ロイスさんたちがサハに来た形跡がなかったので、フィンクス村に行ってたとしても待ってればそのうち来るだろうと思って待機してたんですよ! そしたらあの地震と噴火です!」
思惑通りサハに行ってたか。
「ゴ(おい、歩きながら話せ。それと護衛はこいつらに任せて俺は作業に専念するからな)」
「了解。すみません、ゲンさんが作業中なんで歩きながらでいいですか?」
「あ、そうですよね! すみませんゲンさん!」
「ゴ(気にするな)」
「それと俺の護衛もしてもらっていいですか? 空から石とか降ってきたりしますので」
「わかりました! 空ならこっちの二人が得意ですので!」
元水道屋の二人か。
水の補充にではなく攻撃に使ってきたその水魔法のお手並みを拝見させてもらおうじゃないか。
「噴火のことはどの程度知ってます?」
「今さっき母さん……あ、僕モーリタ村の宿屋の息子なんです!」
「そうみたいですね。おばさんには色々と良くしてもらってます」
「大樹のダンジョンの宿屋に比べると天と地の差くらいありますけどね! ははっ!」
よく喋る人だな。
さすがあのおばさんの息子さんといったところか。
反対にラシッドさんは全く喋らなくなってるじゃないか。
あの場ではリーダーとして話してただけってことか?
「ミャオ」
「あっ!? なんでこんなところまで!?」
「ゲンさんになついてるんですよ。宿にいても部屋にいても来ちゃいますし」
「へぇ~!? さすがゲンさんですね!」
「ゴ(できれば俺じゃなくてお前になつきたいんだよ。でもお前の傍には常にほかの魔物がいるから遠慮してるんだ)」
そうだったのか。
ただの可愛いやつじゃないか。
「こいつ凄いんですよ。なんと地震予知ができるんです」
「ミャオ!」
「あ、来ますよ」
「「「え?」」」
数秒後、小さな揺れが発生した。
「たぶん今のはサービスで教えてくれたんです。この程度の揺れではもう鳴くのをやめてましたから」
「「「……」」」
「で、噴火の状況は理解できてますか?」
「はい! 今母さんから最新の状況を聞いてきましたし、ここに来るまでの船の中やサウスモナでも聞いてきてましたから!」
「船ってもしかしてウチの船ですか?」
「そうです! 昨日の夕方にサハからサウスモナに渡ったんですよ! そのあとパラディン隊支部に行ってコタローさんに相談したんです!」
「ペンネちゃんにも会えました! 私のことも覚えててくれたみたいです!」
出たよペンネ大好き病……。
とりあえず今は無視だな。
「相談というのはどのような?」
「どうにかしてナミの町に近付けないかということをです! サハからラクダに乗って何度か挑戦したんですが、マグマがどんどん迫ってくるのでさすがに無理だと思い諦めて大樹のダンジョンに相談することにしたんですよ! もしかしたらロイスさんたちを救出するためにナミの町に行こうとしてるんじゃないかという話になりまして!」
「救出? みなさんは俺たちがナミにいるかもしれないと?」
「……だってこのタイミングで噴火なんてロイスさんたちがなにかしたからと思うのが普通じゃないですか?」
急に声が小さくなったな。
「なるほど。サハに俺たちが戻ってこないのはまたナミの町に行ってたからで、それならば噴火も俺たちが原因に違いないと思うのが普通ですよね」
「そうですよね? ってすみません……。コタローさんとモニカさんに怒られました」
へぇ~。
あの二人が怒ってくれたのか。
「ということはここまで来た船というのはフィンクス村行きのやつですか?」
「そうです! モニカさんが大樹のダンジョンにいるどなたかに相談してくれたんですけど、僕たちのことを知ってる方がいてモーリタ村行きを許可してくれたらしいんですよ!」
誰だろう?
ってマリンしかいないか。
「ララさんですかね!?」
「違います。今ララはウチにはいませんので」
「えっ!? じゃあもしかしてここに!?」
「いえ。ご存じのようにララは封印魔法の使い手でもありますからね。すぐに助けを必要としている方々が今の世の中たくさんいるんです。モーリタ村のように昔からあった封印魔法の壁が消えかかってるなんてこともあるわけですし。三日前、もし俺たちがナミの町に残ってたとして、今ナミの町の地下遺跡に避難してたとしたら救えなかった村や町がいくつも出てきてたかもしれませんね」
「「「……」」」
ただ事実を言ってるだけで、別に皮肉を言ってるつもりはないぞ。
「で、ナミの町に行ってどうする気ですか?」
「もちろん救助を行います」
「俺たちはナミの人たちは地下遺跡に避難できてると思ってるんですが」
「それは僕らも同じ考えです。でも火山が噴火した以上今は少なくともサハに避難するべきです。魔瘴のこととはまた別です。このままでは町の外での食料調達ができませんし」
ん?
食料調達だと?
そのための秘密のピラミッドじゃないのか?
というか真っ先に心配することが食料調達?
……もしかしてまだ聞いてないのか?
「ウチの者から火山が噴火した原因についてどこまで聞いてます?」
「原因ですか? 封印魔法が弱まってたせいで噴火に耐えきれなかったんだろうと」
……え?
間違ってはいないんだろうが、それだけ?
「宿屋のおばさんからは? 今俺たちがなにしてるか知ってます?」
「ダンジョン内にいるパーティを救出するために、みんなで地上に道を作って外からダンジョン内に侵入すると。そして無事救出できればそのままナミまで道を繋げるかもしれないということですけど……」
なんだと?
じゃあこの人たちは日記の内容をまだ知らないってことでいいのか?
まぁコタローやモニカちゃんはおそらくあえて言わなかったんだろう。
今頃フィンクス村に行ってくれてるであろう冒険者たちにもマリンは秘密にしてるはずだ。
でもおばさんはなぜ言わない?
もう村人みんな知ってることなんだぞ?
……いや、知ってるものだと思ってるから言ってないだけか。
昨日来たウチの冒険者はみんな知ってたしな。
「村に着いてすぐにここに来たんですか?」
「そうですけど……。母さんにあんたたちも早く手伝いに行ってきなさいって言われて……」
やはりそうか。
……ということはつまり俺が説明しないといけないってことだよな。
「そういえばナスリンさんはどうされたんですか?」
「あ、マリッカちゃんが寝込んでるって聞いたものでして、少し様子を見てからあとで追いついてくることになってるんですけど……」
まだマリッカって呼んでるのか。
ってそりゃそうか。
でもあの部屋にはカトレアもいるからそれならさすがにもう聞いてるんじゃないか?
「ゴ(おい、小さいやつがこっちに向かって来てるぞ)」
ん?
……噂をすればってやつか。
後ろからナスリンさんと思われる小柄な女性が走ってきてる。
メネアも言ってたが、本当に速いな。
そしてあっという間に俺たちの元へと辿り着いた。
「みんな! 落ち着いて聞いて!」
ほう?
息があがってないとはやるじゃないか。
速いだけじゃなくて体力もあるみたいだな。
「あ、まず管理人さん、色々とありがとう。メネアのこともシファーのことも」
「いえ、俺はなにもしてませんので」
「そんなことないって。って今はその話はあとか。みんな、とんでもないことになってるよ」
説明する手間が省けそうだ。




