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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第三章 集いし仲間たち

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第五十八話 今なんて言った?

「えっと、早速だけど話を聞かせてもらってもいいですか?」


「はいなのです!」


 シルバが連れてきた怪しい人影はユウナさんだった。

 だからシルバは大丈夫って言ってたのか。


 俺たちがきょとんとしてるとユウナさんが「お話がありますです!」って言ってきた。

 だからとりあえず小屋の中に入って座ってもらったというわけだ。


 しっかり夕食を食べてるのをこの目で確認したから腹が減っているわけではなさそうだな。

 十九時ギリギリまでいたもんな、というか最後に出て行ったのは間違いなくユウナさんだ。


「あの……私をここにすまわせてくれませんかなのです!」


 なにを言ってるんだ?

 すまわせてくれませんかなのです?

 くれませんかなのです? ってなんだよ?

 すまわせて……住まわせてってことか?

 ん?


「ここに住みたいってこと?」


「はいなのです!」


「今日だけ泊まりたいんじゃなくて?」


「違うのです!」


 いやいやいや、そんな宿屋みたいに今日一泊大丈夫ですか? みたいなノリで言われても困るよ!?

 なにか事情があるのか?

 スパイ的なことをしてこいとか誰かに言われたとか?


「理由を聞かせてもらっていいですか?」


「はいなのです! 私は大魔道士になるために旅をしてるのです! 旅の中でたまたまここのダンジョンの噂を聞いてやってきたのです! 実際ここのダンジョンに通いはじめると、あまりのクオリティに驚いたのです! それに入場料とご飯代は採集分だけで十分賄えますですし、宿代も魔物を倒しまくれば魔石代だけでどうにかなるのです!」


 確かユウナさんはまだ地下二階までしか行ってなかったはず。

 それでも毎日の食事代と宿代は稼げてるんだから凄いじゃないか。

 往復二時間もかけて通ってもらってるんだからある程度は冒険者に優遇しないとこっちもやってけないからな。


「でも、個人的なことなのですが一つ悩みができましたです。私は今マルセールの宿屋から通っているのですが、少し遠いのです」


 なるほど、遠いからしばらく通うんならここに住んだほうが楽ってことか。

 だが遠いなんてことは誰もが思うことだ。

 週に一回しか町へ行かない俺でさえ遠いと思ってしまうんだからな。

 それが毎日となると嫌にもなるだろう。

 特に帰りなんてただでさえ疲れてるだろうからな。

 それを優遇してはダンジョンの名が廃るってもんだ。


「私の歩く速度が遅いせいもあるのですが、往復三時間は正直キツイのです」


 往復三時間だと!?

 今本人も言ったがよほど歩くのが遅いとしか思えないぞ?


「他の冒険者の方たちと同じ時間に宿を出てもどうしても私のほうが着くの遅くなってしまうのです。でも私が体力ないのがダメなんで仕方がないのです」


 そりゃあまだ子供なんだから体力がついてないとはいえ、仮にも冒険者を名乗ってるんだからそんな弱気ではダメだろう。

 少し厳しくいこうか。


「つまり町から遠いという理由でここに住みたいってことですか?」


「もちろんそれもありますですが、それだけじゃないのです! その……私は早く強くなりたいのです! それに毎日美味しいご飯を食べたいのです! そのためにはこのダンジョンに通うのがなにもかもベストなのです! 宿代はお支払いしますから、この小屋にでも住まわせてもらえませんかなのです! お願いしますなのです!」


 ウチのダンジョンに通おうとしてくれてる熱意は伝わってきたな。

 ご飯も好評のようだ。

 しかも宿代も払うって言ってるし、この小屋でもいいって言ってる。

 他の冒険者も子供になら優しいんじゃないか?

 こんな少女が往復三時間も歩いてるって知ったら可哀想になって仕方ない。

 だってララが三時間もかけて通ってるって知ったら絶対そんなところには行かせないよ?


 ってダメだダメだ!

 ついさっき厳しくいくって決めたばかりじゃないか!

 これを認めたらキリがなくなってしまうからな!

 でも可哀想だからなぁ……。


「ウチの食堂で働いてる従業員をご存じですよね? 彼らはマルセールから毎日ウチの馬車で通ってるんです。その馬車に乗せるということでどうですか? もちろんお代はいりませんし、馬車なら十分ほどで着きますし」


「えっ!? 馬車ってそんなに早いのです? ……でも私はここに住みたいのです」


 馬車よりもここに住むことにこだわるか。

 やはりスパイ的なことを疑ったほうがいいか?

 ダンジョンコアが狙いか?


「こんな小屋より宿屋のほうが疲れが取れると思いますが? それに往復たった二十分ですよ?」


「……」


 ユウナさんは俯いて無言になってしまった。

 ついララとカトレアを見るが、二人ともユウナをじっと見ている。

 俺が悪者扱いされてないようで良かった。


「……ここに住みたいのです……もう一人は……」


「え?」


 あまりに小さい声でしかも俯いて喋ってるのでよく聞き取れなかった。


「……いいんじゃないでしょうか?」


 そう言ったのはカトレアだ。

 住んでもいいってことか?


「……うん、いいよ。ねぇお兄?」


 ララも賛成ということか。


「(スパイとかかもしれないぞ?)」


 俺は小声で二人にだけ聞こえるように言う。


「……その心配はないと思いますけど。私は彼女の気持ちがわかる気がします」


「お兄が考えてることはわかるよ。でもこの子はそんなことしないだろうし、まだ子供なんだから誰も文句言ったりしないよ」


 少なくともララよりは年上だとは思うんだけどな。

 そんなララに子ども扱いされてユウナさんはどう思うんだろう?

 でもララもこの子を特別扱いしたって他の冒険者はなにも言わないって考えか。


 なにかつらい過去を抱えているのかもしれないな。

 この年で一人で冒険者をしているんだから全然不思議ではない。

 一人で旅をしてるときも、一人で毎日ここへ通うときも、一人でご飯を食べるときも、一人で宿に泊まるときも、常に寂しい思いをしてきたのかもしれない。


 まぁ二人がいいって言うんなら俺が反対する理由もないか。

 カトレアとは違ってまだ子供だからお金を取るようなこともしないでおきたいな。


「わかりました。ウチに住むことを許可しましょう」


「……!? 本当なのです!?」


「えぇ、ただし何点か条件があります」


「条件……なのです?」


「条件の前にお聞きしますが、ユウナさんは何歳ですか? 失礼かもしれませんがご両親は旅のことをご存じなんでしょうか?」


 失礼は承知で家族のことはまず聞いておくべきだと思った。


「十三歳なのです! 次の三月で十四歳になりますです! 両親は……旅のことは知らないと思いますです……」


 十三歳ということは俺の一つ下か。

 ララの三つ上で、ヤックとモモとかと同い年か。

 両親は生きてるっぽいな。

 旅のことは知らないってことはいっしょには住んでいなかったのか。

 まぁそれなら誘拐とかを疑われるようなことはないかな。


「そうですか。では条件ですが、まず一つ目、住むのはこの小屋ではなくウチの家か、一人で住むのが希望でしたら新しく住居を作りますがどちらがいいですか?」


「ええ!? 家に住んでもいいのです!? 迷惑じゃないのです!?」


「子供を小屋に住ませてるなんて思われたらダンジョンの名に傷がつきますからね。だからウチかもしくは別宅を用意します。近いうちに家を拡張するつもりでしたからなにも気にしなくても大丈夫ですよ。うちには専属の大工がいますので家の一軒や拡張もすぐですから」


「(……またロイス君はああいう言い方をして)」


「(本当だよねぇ。素直に心配だからって言ってあげればいいのに)」


 む?

 ララとカトレアがなにか言ってるな?

 こんなときにまで俺の悪口か?

 それとも俺なんか変なこと言ったか?


「え……家の中に住ませてもらえるのでしたらそれだけで十分なのです! 旅の途中では野宿とかもしてたからどんな場所でも平気なのです!」


 くっ、こんな少女が野宿だなんて。

 せめてここにいる間は暖かい部屋を用意してあげよう。


「いえ、ここに住むからには部屋をご用意します。それが条件です。先ほど宿代を払うと言ってましたがそれもいりません。もちろん食事代も結構です。ダンジョン入場料もいりませんから」


「え……さすがにそれは申し訳ないのです……」


「(……少し甘すぎませんか?)」


「(親身になりすぎてバカになってるのよ。お兄の気持ちはわかるけどこれじゃこの子もいづらいよね)」


 言った後で気付いたがさすがにそれはマズいか?

 俺は助けを乞おうとララを見る。

 するとララは俺がなにを言いたいのかわかってくれたらしく頷いてくれた。


「ユウナちゃん、私のほうから二つ目の条件を言います」


「え? ……はいなのです」


 まさか年下のララから言われるとは思ってもいなかったのであろう。


「二つ目の条件は、ダンジョン食堂の手伝いをすること。夜の部だけで構いません」


「ええ!? 私が手伝っても大丈夫なのです!? あんな料理作れる気がしないのです!」


「みんな誰でも最初は作れないから大丈夫です。それにウチは簡単な料理しか出してませんから」


「あれが簡単なのです!? あんなに美味しい料理がです!?」


「大丈夫ですから安心してください。宿代と食事代と入場料は夜の部の手伝いだけで十分ですから、その代わり十六時半までにはダンジョンから戻ってきてくださいね」


「わかりましたなのです!」


 いったんそこで話は終わりにした。


 料理の話をしたことで夕食を食べてなかったことを思い出した俺たちは家に入る。

 すぐにララがハンバーグを用意してくれた。

 夕食を食べていたはずのユウナさんもなぜかいっしょになって美味しそうに食べていた。


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