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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第三章 集いし仲間たち
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第五十七話 初任給

「では今週の売り上げを発表します」


「「おお!?」」


「楽しみです!」


「コロッケは!? コロッケの売り上げも出てるの!? でもカレーも売れててほしい!」


 ダンジョン食堂がオープンした週の土曜日、つまり一週間の営業が終わる日の十九時過ぎ、ララが小屋のテーブルに従業員を集めていた。

 もちろん営業時間は過ぎているので小屋の中にも外にも冒険者の姿はない。


「まずはダンジョンへの来場客数ですが、これは五百七十人、一日当たりにすると平均九十五人となります」


「凄いですね!」


「そんなに来てるのか!?」


「ロイスさんがいるからですね!」


「もしかして私のコロッケとカレーを目当てに!?」


 確かにいつもより多いな。

 何気に最高記録を更新してるじゃないか。

 これだけで28500Gの売上だ。

 食堂効果というよりも地下三階がオープンしてから二週目だったからというほうが大きいのかもしれないが。


「それではみなさんお待ちかねのダンジョン食堂の売り上げ報告になります」


「「「「……」」」」


 四人とも楽しみなのと緊張が入り混じってるようだな。

 いつもならここで自動販売魔道具の売り上げ報告もしているのだが、それは従業員には聞かせないほうがいいとララは判断したようだ。

 あの額を聞いたら食堂の売り上げが霞んでしまうから当然か。


「野獣丼は124食、フライドシャモ鳥は307食、ダンジョンカツ丼は289食、ダンジョンカレーは308食、ダンジョンカツカレーは332食、お肉屋さんのコロッケは485食、以上より売り上げ総額は59490Gとなりました!」


「へ? 59490G?」


「……間違いじゃねぇのか?」


「……売れた数がおかしくないですか? 明らかに来場客数よりも……」


「やったぁぁぁ! コロッケが優勝ね! カレーもいっぱい売れてるようで少し安心したわ!」


 ヤックとメロさんとモモの言いたいことはわかる。

 自動販売魔道具で経験してるから俺はすんなり受け入れることができた。

 ……と思ったのだが、よく考えてみると確かに数が多すぎるな。


 仮にフライドシャモ鳥とコロッケを持ち帰り用と考えたとしても、それ以外だけで1053食を販売していることになる。

 フライドシャモ鳥やコロッケは追加の一品としても冒険中の軽食としても宿へ帰ってからの食事や夜食としてもちょうどいいんだろうな。


 でもそれにしても多すぎるよな。

 これはもしかしたら自動販売魔道具の売り上げを超えてしまってるんじゃないか?

 あっちにはサイダーの売り上げも入ってるだけに負けたくない!

 いや、同じ値段のコロッケと勝負すればいいのか?

 でも485食には負けてしまう可能性があるな。

 最初のころは珍しがってくれたサイダーも今ではサイダー好きしか飲まないからな。

 やはり勝負はやめておこう。


「いえ、間違いではありません。ただ今週はオープン効果が大きかったのだと思います。それにおそらくお客さんはウチのメニューを一通り食べたはずです。勝負は来週以降です! なので当初の予定通り来週からはあれを出したいと思います!」


「「「「おお!?」」」」


 あれってなんだ!?


「現状に満足することなくさらにあれを投入しますか!?」


「やること増えちまうが背に腹は代えられねぇな!」


「ふふふ、腕がなりますね」


「モモ! 帰ってすぐ牛肉の仕入れを確認よ!」

 

 もしかして新メニューか?

 それは俺も考えていたことだ。


 ……いやホントに考えてたよ?

 毎日二食もウチで食べてれば同じメニューばかりになってすぐ飽きるからな。

 ただでさえ品数が少ないんだから。


 でも増やせるメニューにも制限がある。

 仕入れるものもそうだが、なにより人がいないからあまり手広くはできない。

 本当なら麺類や炒め物もやりたいところなんだけどな。

 従業員募集したほうがいいのかなぁ。


 俺が色々考えてる間にララとカトレアと従業員たちの打ち合わせは終わったようだ。

 しまった、新メニューを聞き逃した。


「では今週分のお給料をお渡しします。ミーノさんだけはカレー作りの時間の分だけ多くなっています」


 そう言ってララは四人に給料が入った袋を渡していく。

 四人はまた緊張してるようだ。

 正式に従業員となってから初めて貰う給料だから色々思うところがあるのだろうな。

 だがメロさんはすぐに中身を確認する。


「……へ? ララ店長、この額で合ってるのか?」


「はい、間違いはありません。少ないようでしたら申し訳ありませんが……」


「いやいや! 違うって!!」


 そのやり取りを見た他の三人もおそるおそる中身を見る。


「……なっ!?」


「……えっ!?」


「……なによこれ!?」


 三人も中身の額を見て驚く。


 決して少なくはないはずだ。

 かといって多いかと言われたらそうではないとは思うが。


「4000Gも入ってるんですけど……」


「……だな。さすがに多すぎやしねぇか?」


「……先週は六日間で1680Gでしたよね? いくら従業員になったとはいえ……時間も短くなってるはずなのに」


「私なんて5200Gよ? 手が震えるわ……」


 単純に時給100Gで計算しただけだ。

 400Gは諸手当として一律支給だし。

 それに食材費も牛肉と調味料しかかかってないからな。

 多いと感じてくれてるなら遠慮なく貰ってくれればいい。


「その様子は多いと思ってくれたととってもいいんですね? それなら良かったです。これはオーナーとも相談してのことなので、なにも気にせずに受け取ってください。この一週間の売り上げはみなさんの頑張りがあっての成果なのですから対価としていただいて当然です。それにみなさん以上に私とオーナーの懐は潤ってますので安心してくださいね」


「そうですか!」


「はははっ! それなら貰っておくか!」


「ふふっ。ロイスさんも私のことを見てくれてますかね?」


「それなら大丈夫そうね!」


 ララのみんなを安心させる気遣いはさすがだな。

 俺も見習わねばならない。

 だが、その気遣いの言葉の内容は事実ではない。

 潤うのはダンジョン運営費だ。


 これまで俺とララとカトレアは自動販売魔道具の売り上げの一割を報酬として貰っていたが、今週から俺とララはダンジョン入場料の一割を自分の給料とすることにした。

 これはやはりこのダンジョンに人を集めるという原点を忘れないためにそうしようと決めたのだ。


 カトレアは「なら私も」と言ってくれたが、カトレアには自動販売魔道具の売上二割を報酬とすることにした。

 というか二割程度ではとても払いきれない仕事量だと思う。

 ポーション類の作成に、食堂のドレッシング作成などもカトレアの仕事だし、今やウサギたちの大群が住んでいる物資エリアの管理もカトレアがやってくれてるし、なにより今のダンジョンを運営している魔道具のほとんどはカトレアが作成したものだ。

 それを言ってもカトレアは住居と食事代の分があるからそんなに多く受け取ることはできないと断固拒否しそうだったから、ララも従業員以上貰ってなければみんな納得しないと説得し、どうにか二割になったのだ。


 ただ、俺とララはあくまで自分の小遣いとして入場料の一割を貰うことにしたわけであって生活費は別である。

 え?

 それはズルいって?

 いやいやそんなことないでしょ。


 生活費はダンジョン入場料の三割とした。

 これは単純に三人いるからというわけだ。

 今週で言えば8550Gを生活費に使えることになる。

 ……はっきり言って多すぎだ。

 余った分は繰越で使えることにした。

 いつ人が来なくなるかもわからないからな。

 たまたま今は上手くいってるだけなんだと何度も自分に言い聞かせている。


 ダンジョン入場料の残り半分は俺たちの将来のための貯金とし、自動販売魔道具やダンジョン食堂の売り上げから諸経費を引いた分の利益は今後のダンジョン運営費として使うことにした。


「それとミーノさんとモモちゃん、お二人にはこれを」


 ララはミーノに先ほどの給料と同じ袋を手渡す。


「「?」」


「コロッケのロイヤリティ代です。お約束通り一割をお支払いします。おじさんにも報告お願いしますね?」


「……ということは485Gもですか?」


「……凄いわね。食材費は別で貰ってるのに……」


 二人はロイヤリティの偉大さに気付いたようだ。

 そう、これがなにもしなくてもこれからは毎週肉屋に入ってくるのだ。

 売れ続ければの話だが。


「ちょうど十九時半になりましたし、これで終わりたいと思います。一週間お疲れさまでした」


「「「「お疲れさまでした!」」」」


 四人は帰り支度を終えると馬車の中に乗り込んだ。


「じゃあメタリン頼むぞ。人をはねないように気をつけてな」


「キュ! (おまかせくださいです! 二十分で帰ってきますです!)」


 あっという間に見えなくなった。

 四人が言うには本当に十分ほどで町に着いてしまうそうだ。

 初めはあまりの速さに気を失いそうになったらしいが、一週間も続いた今ではなにも感じなくなっているらしい。

 スライムなので跳ねるから揺れがどうなのかとは思うが、それも速さのおかげかほとんど感じないらしい。

 事故だけが心配だ……。


「わふ(ねぇ、あの木のとこ)」


「チュリリ(さっきからずっとこっちを見てますよ)」


 ん? 木?

 ……エリアを出てすぐの木のところに確かに人影のようなものが見える。

 もう真っ暗なのにこんな時間になんの用だ?

 強盗か?

 それともララやカトレアが狙いか?


 どっちにしても放っておくわけにはいかないな。


「シルバ、連れてきてくれるか? 暴れたら多少手荒にしても構わない」


「わふ(大丈夫だと思うけど)」


 シルバは人影のもとへゆっくりと近づいていった。


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