第五百六十六話 お兄からの伝言
「魔物たちを行かせるのはいいけど、村の人たちはどうやって連れてくるつもりなの? ウェルダン君やメタリンちゃんがいないんじゃ馬車は引けないわよ?」
「それを今考えてるんでしょ。暇ならドラシーも考えてよ」
「暇じゃないわよ……。というか火山が噴火したこと忘れてないわよね? 今も煙や灰がここまで飛んできてるんだからね?」
「忘れてないって。そっちはお兄に任せてるだけ。それにそろそろアオイ丸が帰ってくるからそれ待ちでいいのっ」
色々ありすぎて頭パンクしそう。
お兄がいたら結論は全部お兄に任せるんだけどなぁ~。
「ピピもヒョウセツ村行く?」
「チュリリ」
「なんで? 寒いところ嫌?」
「チュリ~」
「寒いところは好きだけど、お兄のところに行かないとダメって?」
「チュリ」
ピピがもう一匹いれば情報伝達ももっと楽になるのになぁ~。
「あ、帰ってきたみたい。ドラシー、少し隠れてて……ってもう消えてるね」
「わふ!」
「ニャ~!」
シルバとダイフクが走ってリビングに入ってきた。
そしてソファに座ってる私に飛びついてくる。
「きゃっ! 元気そうね!」
「わふぅ」
「ニャ~」
ふふっ。
可愛すぎ。
「チュリ」
「ピィ」
ピピとタルもシルバに久しぶりって挨拶してるみたい。
シルバも寂しかっただろうなぁ~。
「……わふ?」
あ、ユキちゃんに気付いた。
「この子、スノーウルフのユキちゃんって言うの。仲良くしてあげてね」
「……わふ」
「なにその反応? ケンカとかしたらダメだからね?」
「わふふ!」
「ならいいけど。じゃあとりあえずユキちゃんとダイフク連れてフランさんのところ行ってきて」
「わふ?」
「行けばわかるから。早く」
ユキちゃんは少し不安そうにしながらも二匹のあとに付いていった。
その姿も可愛い……。
「あれ? アオイ丸は?」
「……ここにいるでござる」
「玄関でなにしてるの? 早くこっちに座ってよ。あ、マカ、おかえり~」
「ピィ!」
「タル、さっきのことマカに説明しておいてね」
「ピィ……」
なんでそんなに行きたくなさそうなんだろう……。
寒いところが苦手なのかな?
それともお兄のところに行きたいとか?
でも回復役のタルに行ってもらわないとみんなが困るもん。
「船酔い? それとも列車酔い?」
「違うでござる……」
「じゃあどうしたの?」
「……実は自分、昨日モーリタ村のダンジョンで死にかけたでござる」
「え……それで?」
「……怒らないのでござるのか?」
「なんで怒るの? 心配こそしても怒る理由がある?」
「……自分の実力を過信してたのでござる。そのせいでティアリス殿とアリア殿という優秀な人材を危険に巻き込んでしまったのでござるよ……」
「でも誰も死んでないんでしょ? なら良かったじゃん。あ、村にいた冒険者の人は死んだんだっけ……。もしかして死にかけたことお兄に怒られたの?」
「……少しでござるけど。でも本気で心配してくれてのことでござるし、入る前に散々注意されてたものでござるから……」
「よくわからないけど、お兄は今も怒ってるの? もうクビだって言われた?」
「いや、モーリタ村に早く戻ってくるように言われたでござる。変わらず信頼してるからって」
「ならなんにも気にすることないじゃん。もっと強くなれっていうエールでしょ?」
「きっとそうでござる……。でもララ殿には怒られると思ってたから話そうか悩んだのでござる」
「言わないよりは言ってくれたほうがいいよ。今アオイ丸にダウンされると手が回らなくなるからできればフル稼働してほしいけど、もししばらく休みたいって言うのなら休んでもいいから。やめたかったらやめたほうがいいとも思うし。魔物がこわくなって戦えなくなる人ってウチのダンジョンでもたくさんいるから気にすることないよ。私だってそうだし」
「いや、前よりももっと力になりたいと思うようになったでござる。もちろん強さも身に付けたいと思ってるでござるよ」
さすがお兄。
情報屋としての忍者の力は今のウチに絶対必要だもん。
これで強くなったら最強だよね。
「それなら良かった。これからもお兄やダンジョンのこと助けてね。本当は私もモーリタ村に行きたいところなんだけど」
「あ、ロイス殿からララ殿にまず伝言でござる」
「なに?」
「絶対にモーリタ村には来るな」
「え……なんで?」
「ナミの町よりさらに暑い。村にはなにもない。人もあまりいない。ダンジョンの中はなんの変哲もないただの洞窟型ダンジョンで獣臭だけは凄い。村の外も煙で空気が悪い。地震が多い。やることがない。早く帰りたい。だそうでござる」
「……」
最悪な村じゃん……。
まぁ砂漠の僻地にあるくらいだから想像はつくけど。
「暑さ対策のためか、村の大部分は山に洞窟を掘ったその中にあるでござる。でも特に見る場所もなく、ロイス殿なんて昨日のほとんどを宿屋受付カウンター前にある石のテーブルで過ごしたのでござる」
「え……つまんなそう……」
「というわけでララ殿は絶対に来ないほうがいいとのことでござる」
「うん、絶対に行かない」
みんな無事なんだから行かなくて良さそうだし。
「というかお兄はこれからこの件に関してどうしようと考えてるの?」
「それはまだはっきりとしていないでござる。なんせマグマの噴出がとまる気配はなさそうなものでござるからな。でも地下ダンジョンの様子を見に行かせたりしてるでござるから、ダンジョン内からナミまで行く気なのかもしれないでござる」
「ふ~ん。馬車は通れそうなの?」
「一番小さなやつならなんとかでござるな」
「そっか。あ、マリンちゃんが戻ってくる前に先にお兄が呼ぼうと考えてる冒険者たちのことを教えて」
「このリストでござる」
アオイ丸はテーブルの上に紙を置いた。
……ふむふむ。
◎リヴァーナ
◎ミオ
◎シファー
〇ヒューゴ
〇グラシア
〇ソロモン
△ユウナ
△シャルル
△マクシム
◎:絶対に、〇:優先的に、△:もしいれば。
「え? たったこれだけ? なんでミオちゃんが◎?」
「まずは探りでござるからな。ミオはリヴァーナ殿とパーティだからということと、探知や水魔法、それに遠距離からの攻撃もできるからという理由でござる」
「アオイ丸は死にかけたんでしょ? ミオちゃんで大丈夫なの?」
「ミオのほうが自分より強いでござるし、それにバナ……探知使いは一人でも多いほうがいいでござるからな。水魔法には正直期待してないみたいでござる」
「ふ~ん。まぁリヴァーナさんが行くなら仕方ないか」
「……」
「でもシファーさんはやめたほうがいいんじゃない? いくら強力な水魔法があるといっても戦闘は素人だし、ナミの町どころかオアシス大陸にも行きたくないって言ってるんだよ?」
「オアシス大陸全体がマグマの海になるかもしれないから、最後に自分の目で末路を見ておいたほうがいいんじゃないかってことでござる」
「そんなにマグマひどいの?」
「相当でござるよ。サハの町の住人も避難することになるかもしれないでござる」
「そこまでなんだ……。サハの町の状況はコタローから聞いてたけど、まだ避難を考えるような段階ではないみたいだったよ?」
「今マグマがとまれば大丈夫でござるな。もしもまだしばらく噴出し続けた場合でござるよ」
「そうなったらもうマグマ大陸って呼ばないといけなくなるよね。溶岩大陸のほうがいいかな?」
「それはどっちでもいいでござるよ……」
冷え固まって岩のようになっちゃうんなら溶岩大陸のほうがいいか。
「でもそれでもシファーさんは行かない気がするけどね」
「あの水魔法は絶対に必要でござる。だから眠らしてでも連れて来いって言われてるでござる」
「え……お兄がそう言ったの?」
「そうでござる。水魔法の奥……結局は水魔法がナミの町を救うかもしれないでござるからな」
「ふ~ん。まぁお兄が言うなら仕方ないけど、シファーさんに恨まれるのもお兄だけにしてよね」
「それはもちろんでござるよ」
えっと、ほかの人は……。
「この〇の三人は単純にヒューゴさんパーティってこと?」
「そうでござる。経験を重視したそうでござる」
「ヴィックさんはいなくていいの?」
「ヴィック殿は心に迷いが生じてるからダメということでござる。今はパラディン隊の研修に集中させるべきとも言ってたでござる」
さすがお兄、よく見てる。
「マクシム殿がいればその三人とパーティを組ませたいそうでござる。マクシム殿のことは知ってるでござるか?」
「知ってるけど、来てないよ」
「そうでござるか……。ロイス殿は期待してたのに残念でござるな」
まださっきのことは言わなくていいか。
「ユウナちゃんとシャルルちゃんのことは聞いてるよね? 昨日ラスから冒険者の人が来て救助要請してきたからすぐに旅立っていったの」
「それは仕方ないでござるよ。馬車で向かったのでござるか?」
「うん。ジャジャ丸とチャチャ丸が二頭で引くって言ってた」
「なぬ……ジャジャ丸たちを馬車を引かせるために使うとは……」
「それこそ仕方ないじゃん。それにツバキとヨタローもそういう訓練はさせてたから大丈夫って言ってたし」
「なんと……自分たちがしばらく乗ってない間に……」
馬からしても使ってもらったほうが喜ぶと思うけどね。




