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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第五百六十四話 結界トラップにかかった魔物

 魔道列車でパラディン隊本部前に移動する。

 そして本部の中に入った。


「「あっ!? おはようございます!」」


「おはようございます。研修頑張ってくださいね」


「「はい!」」


 うんうん、今日もみんな元気があっていいね。

 なんだかこっちまで新鮮な気持ちになるもん。


「チュリ」


「ピィ」


 ピピとタルもそれを見て微笑んでるみたい。


「ララちゃん!」


「あ、ヴィックさん。おはようございまーす」


「おはよう! ってそれよりナミの火山が噴火したって本当なのか!?」


「はい」


 やっぱりもうみんな知ってるんだ。


「なぁ、火山ってあれじゃないのか?」


 ヴィックさんは周りをキョロキョロしながら声のトーンを下げて話しかけてくる。


「ほら、例のピラミッドの」


「……なんでそのことまで知ってるんですか?」


「だって一昨日……じゃなくてもう三日前か。サウスモナの酒場で管理人さんとベンジーたちといっしょに飲んだ場に俺もいたからな」


 あ~、そういやこの前ベンジーさんも支部に来てたって言ってたっけ。

 今朝も早くからモニカちゃんのところに押しかけてきたらしいし。


「そうですよ。そのピラミッドです」


「やっぱりか……。管理人さんたちは大丈夫なのか?」


「えぇ。いっしょにいたピピたちが無事を知らせてくれました」


「チュリ」


「ピィ」


「そうかぁ……良かった」


 本気で心配してくれてたみたい。


「お兄たちはナミじゃなくてモーリタ村にいたんです」


「モーリタ村? ……どこだっけ?」


「ナミの町から南に行ったところにある村です。だからナミの人たちが無事かどうかはわかりませんけど、お兄が言うにはおそらく安全な場所に避難できてるはずとのことなのできっと大丈夫でしょう」


「そうなのか。ならすぐに助けに行ったりする必要はないってことでいいのか?」


「はい。今のところはですけどね。ピピたちもまたモーリタ村に行くので、状況が変わったらまた連絡が入ると思います。とりあえずヴィックさんは研修に集中してください。ちゃんと業務内容を覚えてくれないとみんなに置いていかれますよ?」


「そうだな……。今までと生活が違いすぎて既にリズムが狂ってるんだよ……」


 ヴィックさんは嘆きながら研修室に向かっていった。


 まさかもう辞めたいなんて言わないよね?

 サウスモナにいる奥さんに怒られるよ?


 さて、それより今は魔物のことだ。


 本部を出て北に向かって歩く。


 あれ、入り口どこに作ったっけなぁ~。


「チュリ」


 ピピが案内してくれるみたい。

 そして少し歩いて封印結界の境界が見えてきた。


 ……確かにシルバっぽいのがいるね。

 私が近付いてきたことにも気付いてるみたい。

 でも暴れようとはしない。

 もう諦めてるのかも。


「ウォン……」


 え?


「ウォン……」


 なんでそんなに悲しそうな声出すの?

 もしかして泣いてるの?

 まるで私に助けてって言ってるみたい。


「チュリ」


「うん。思ってたより中のブロックに入ってる」


「ピィ」


「勘が鋭いのかも。こんな魔物がほかにもいたらそのうち侵入されそうね」


 なにか別の方法を考えないといけないかも。

 この際人目が多いところに作っちゃうのも一つの手だけどさ。


「ウォン……」


「チュリ?」


「ウォン」


「ピィ?」


「ウォン」


 え?

 もしかして会話してる?


「この子話せるの!?」


「チュリ」


「えっ!? 人間の言葉は!? お兄と話せそう!?」


「チュリリ~」


「それはわからないの? でも魔物なのは間違いないよね? この子魔石あるもんね」


「チュリ」


 悪い魔物ではないってこと?

 でもお兄と喋れないんじゃ、いい魔物ってことにもならないよね?


「私の言葉わかる?」


「ウォン」


「わかるの?」


「ウォン」


 わかってるっぽいよね?

 じゃあやっぱりいい魔物ってこと?

 ただ賢いだけ?

 逃げたいからおとなしくしてるだけとか?


「チュリ」


「え? お腹が減ってるって?」


 だからこんなに元気がなさそうなの?

 捕まって落ち込んでるからじゃなくて?


 ミルクでもあげてみようか。


「噛んだり引っ掻いたらダメだよ?」


「ウォン」


 おそるおそる封印結界の中に手を入れてみる。


 ……襲ってきたりはしなさそうね。

 次にカウカウ牛のミルクが入ったお皿を入れてみる。


「ウォン」


 え?

 ありがとうって言った?

 気のせい?


 魔物は凄い勢いでミルクを飲み始めた。

 よほどお腹が空いてたのかもしれない。


「お肉も食べる?」


「……」


 私の声が聞こえないくらいミルクに集中してるみたい。

 ブルブル牛のローストビーフもあげてみるか。


「ウォン!」


「わっ!?」


「ウォン……」


 あ、驚かせてごめんって言ってる?

 お肉が嬉しかったんだよね?


 食べてる姿をしばしみんなで眺める。


 ……シルバの毛色よりはだいぶ白っぽいみたい。

 汚れてるからわかりにくいけど、きれいにすればダイフクよりも白いかも。

 ピピと似た感じかな。


「チュリ」


「悪い魔物には見えないよね」


「ピィ」


「食べてる姿も上品だよね。もしかして女の子かな?」


「ウォン」


「あ、そうなんだ~」


 この近辺では見たことない魔物だよね。

 なんて種類の魔物なんだろう?

 ホワイトウルフなんて魔物いたかなぁ?


「どこから来たの?」


「ウォン!」


「ピィ!」


 え?

 タルが指差してなにか言ってる。


「……あっ!?」


 よく見たら足になにか袋が付いてる。


「取っていい?」


「ウォン」


 強めに結ばれてた袋を取る。

 どうやら結ぶために細く丸めてあったみたい。


 あ、袋の中には紙が入ってる。

 紙が濡れないようにしてたのか。


 袋を広げ、中の紙ごと丁寧にのばしてから、袋の中から紙を取った。


「えっとなになに……大樹のダンジョン管理人様へ?」


「ウォン!」


「お兄宛ての手紙ってこと!?」


「チュリ!」


「ピィ!」


「そうよね、まずは内容の確認が先よね」


 でもまた手紙かぁ……。




 ヒョウセツ村のマクシムだ。

 覚えているか?

 先日のパラディン隊試験では大変世話になった。


 あれから俺はすぐに村に戻った。

 そして村の住人に対し、必死にスノーポートの町へ避難するよう説得を試みたつもりだ。

 だが俺の言葉は誰も聞き入れてくれなかった。

 家族でさえもだ。

 こんな山奥の僻地にある村では魔王や魔瘴と言われても現実味がないんだろう。

 この村は神のご加護で守られているから大丈夫とか言うやつもいる。

 でも俺は諦めたりはせずに説得を続けた。

 あんたたちが守りばかりじゃなく攻めてみてはどうかと言ってくれたからな。


 でも一週間続けてみてもいまだに誰も信じてくれない。

 というより村を出ていく不安のほうが大きいんだと思う。

 俺がこれだけ言ってるんだからきっと内心では本当かもと思ってくれてるはずなんだ。


 この村の住人にとっては山を下りるということ自体に抵抗がある者も多い。

 村の外にも危険だから一歩も出ないという人もいるくらいだ。

 まぁそれは仕方ないことかもしれない。

 魔物に対して恐怖心がない人間なんてほうが少ないからな。


 もちろん俺はそれからも説得を続けた。

 だがそんなとき、村の外で異変を感じるようになった。


 俺はいつものように食料となる魔物や動物を狩りに一人で村から少し離れたところに行ったんだ。

 すると初めて見る魔物が出現した。

 それだけならなんとも思わなかったかもしれないが、いつもより魔物の出現数も多かった。

 動物も魔物に襲われたのか、死骸をいつも以上によく見かけた。


 嫌な予感がした俺は、さらに村より西のほうへ遠出をしてみた。

 そこはスノー大陸の西の海が見渡せるいい場所なんだ。

 だが今回に限っては景色は最悪だった……。

 明らかに魔瘴とわかるモヤが見渡す限りに拡がっていたんだ。

 おそらく西から迫ってきてるんだろう。

 魔物が増えてた原因もその魔瘴によるもので間違いない。

 ということはもうすぐヒョウセツ村は魔瘴にのみこまれてしまう。


 だがそのことすら村の住人は聞く耳を持たない。

 いや、理解してはいるはずなんだが現実と認めたくはないだけなんだろう。


 そして時期も悪かった。

 今は一年で最も雪が多く降る時期なんだ。

 年寄りや子供が山を下りるとなるとかなりの重労働になる。

 それこそ死にに行くようなものと同じと考えているのかもしれない。

 もうこの村には戻ってこれないんだし。


 さらに追い打ちをかけてきたのはその初めて見たという魔物だ。

 なんと吹雪の攻撃をしてくるんだ。

 元々周囲は吹雪いてるのに、さらに吹雪での攻撃となると視界が悪くなり厄介極まりない。

 しかもそれなりに数も湧いてくる。

 そのせいで積もる雪も例年以上に増えているのかもしれない。


 つまり、もうこの村から避難することは手遅れになってしまったようだ。

 こんなに時間がありながら、そしてあんたたちにあれだけ言ってもらいながらこんな事態になってしまったことを非常に申し訳なくも思う。


 俺だけなら避難することは簡単なんだが、村の者たちや家族を放ってはおけない。

 だがこのまま今後この村で無事にみんなが生活できるとも思えない。


 だから無理は承知であんたたちに村のみんなを助けてもらえないか頼むために手紙を書くことにした。

 セツゲンの町にいる冒険者たちではこの村まで辿り着くことは到底不可能だ。

 辿り着いたところで救助まではさすがにできないだろう。

 だから頼れるのはあんたたちだけなんだ。

 どうか俺の願いを聞いてもらえないだろうか?

 恩は必ず返す。


 それともう一つ頼みたいことがある。


 この手紙を届けてくれたであろう狼は面接で話した俺の友達で、名前はユキだ。

 苦労してそこまで辿り着いただろうから、できれば食事を与えてやってほしい。


 そしてもしあんたたちがこの村まで来るのは無理と判断しても、ユキはできればそのままそこでいっしょに暮らさせてやってはくれないだろうか。


 面接の場では黙ってたが、実はユキは魔物なんだ。

 スノーウルフというこの地域では比較的多く出現する魔物だが、ユキは毛の色がほかのスノーウルフとは少し違う。

 そのせいでおそらく小さくして親や仲間から見捨てられたんだと思う。


 だがこの村では俺が魔物といっしょに生活してることを良く思わない者も多くいるのは事実。

 そのせいで俺が信用されないというのも仕方ないことだと思う。

 でもユキは絶対に悪い魔物じゃない。

 魔物使いのあんたならきっとわかってくれると思う。

 今思えば俺が大樹のダンジョンに行った一番の理由はあんたに会うためだったのかもしれない。

 そしてあんたにならユキを託せると確信した。

 ユキのためにもどうかこの願いだけでも聞いてはもらえないだろうか。




「ウォン……」


 ……ぐすっ。


「チュリ……」


「ピィ……」


 なんで手紙で泣かされなきゃいけないのよ……ぐすっ。

 さっき家で読んだ日記もそれなりにウルッときてたんだからね……。


「ウォン……」


「そうだよね。ユキちゃんが一番泣きたいよね」


「ウォン……」


「ほら、封印結界を解くからこっちにおいで」


 ピピとタルが念のため警戒する。


 ……でもその必要はなかったみたい。

 ユキちゃんは申し訳なさそうに私の元へ寄ってきた。


「本当に賢いね。あ、この手紙に書いてある大樹のダンジョン管理人って私のお兄ちゃんのことなの。お兄ちゃんってわかる?」


「ウォン!」


「そう、良かった」


 とりあえずウチに連れて帰ろう。


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