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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第五百五十九話 会議に紛れ込む冒険者

 ピピとタルが飛び立っていった。

 安全を考慮して南の海岸線沿いから帰るそうだ。


 ……ふぅ、こんなときでもお腹は減るんだな。

 会議が終わったわけではないが、火山の噴火を眺めながらの朝食としようか。


 ハナに伝えるとすぐに朝食の準備をしてくれた。

 レア袋から出した料理だけどな。


 さて、食事をしながら早急に考えないといけないことがある。

 大樹のダンジョンから誰を呼ぶかだ。

 それと魔物たちのパーティ分けだな。


 カトレアやカスミ丸たちは地図で航路の確認をしている。

 それが終わり次第、サウスモナに向けての出発となる模様だ。


「ねぇ、モーリタ村とフィンクス村の間の海は危険だよ」


 ふ~ん。

 魔物がたくさん出るのかな。


「ハナちゃんだっけ? 私にもご飯ちょうだい」


「え……はい」


 ハナは少し戸惑いながらもマリッカに俺と同じ物を用意した。


「大きなタコの魔物がたくさん出るの。船なんかとても出せないと思うよ」


 大きなタコってミズダッコか?

 まぁその程度ならなんとかなるだろう。

 ヤバそうなら逃げればいいし。


「ねぇ、聞いてる?」


 俺に言ってるのか?


 ……ん?


「……おい、いつからそこに座ってた?」


「なにそれ酷くない? 最初からいたし。目も何回も合ってたよね?」


 うん、確かに目は合ってた。

 俺もマリッカがティアリスさんとアリアさんの間に座ってることを認識してたし。

 でもなぜマリッカがいることを疑問に思わなかったのだろうか……。


 あ、今日マリッカもいっしょにナミに行くもんだと思い込んでたせいでなにも変に思わなかったのか。


「冒険者たちも食堂に集まるって話は聞いてただろ?」


「人がいっぱいいるところに行きたくないし」


「今例のあの本を読んでるんだぞ?」


「私も今ここで読んだし」


「……感想は?」


「そっかぁ~。としか」


 なんだよそのあっさりした感想は……。


「今ナミの町はマグマの海状態なんだぞ?」


「それは可哀想だけど」


 可哀想?

 自分の故郷がそうなってたとしたらそんな他人事みたいな言葉にはならないよな?

 ということはフィンクス村出身というのは本当なのかもしれない。

 水魔法が使えることも水道屋とは関係ないことになる。

 まぁ水魔法の使い手なんかウチにはいっぱいいるしな。


「このあと出る船でフィンクス村に寄ってやってもいいぞ?」


「本当? でも大きなタコが出るから……」


「ミズダッコくらいウチの船で撃退できる」


「ただのタコじゃないんだって。10メートルはあるかもとか言われてる大タコだよ?」


「尚更ミズダッコの可能性が高くなったな。ティアリスさんなんかウチのダンジョンで数えきれないくらい戦いまくってるぞ」


「え……嘘だよね?」


「本当。でもダンジョンのネタバレになるからそれ以上は教えない。それにあの船なら大丈夫。攻撃手段も防衛手段もあるし、走行速度も速いから戦闘を避けることもできるしね」


「……」


 あの二人の冒険者にも声かけたほうがいいか。

 サハに寄るのもついでみたいなものだしな。


「やっぱり私帰らない」


「なんでだよ?」


「キミたちがまだここに残るってことは火山のダンジョンに行く気なんでしょ? ナミに行くって言ってたのもそのためだよね?」


「それはあの噴火やマグマの状況次第だ。でも地上からはしばらく近付けないし、この村のダンジョンから行くのはそれ以上に危険だろうからな。だから今はマグマが静まるのを待つ間にこちらの体制を整える時間だ」


「なら私もここで待つ」


「いや、フィンクス村に帰れよ。家族が心配じゃないのか?」


「この村が大丈夫ってことはフィンクス村も大丈夫だと思うし。それに……」


「それに?」


「……」


 なにか事情がありそうだな。


「ロイス君、マリッカちゃんも人に言いたくないことだってあるよ」


「そうです。家族の問題かもしれないんですからそっとしててあげてください。家族のことで悩めるのは羨ましい限りですけど……」


 だからアリアさんが言うと重いんだって……。


「二人とも、ありがとう。……約束してるの」


「約束?」


「うん。強くなるまでは帰らないって」


「誰と?」


「……秘密」


 親とだろうか?

 それとも幼馴染の男とかだろうか?

 でも強くなるって男が女に約束はしても、その逆はあまりないかも。


「じゃあまだ強くなれてないってことか?」


「うん。そこそこ強くなったつもりだったけど、昨日アリアさんの戦い見てたら自信なくなっちゃった」


「それは比べる対象がおかしいから気にするな。アリアさんは今ウチに来てくれてる冒険者千人以上の中でもトップクラス、いや、ほぼほぼトップの実力者だからな」


「え……それって凄いよね?」


「凄いと思うぞ。まぁウチのダンジョンにいる冒険者のレベルが低いんじゃないかと言われたらそれまでだけどさ」


 それにアリアさんはウチで修行して強くなったわけではないからな……。


「ティアリスさんもトップクラスなの?」


「あぁ。前衛と後衛での単純な比較はできないが、回復魔道士としてはほかの冒険者みんなが認めるほどの実力の持ち主だ。それに攻撃魔法が放てる魔法杖を装備してからはまさに鬼に金棒状態。今では1パーティに一人ティアリスさんが欲しいと言われるほどの魔道士なんだ」


「そんなに凄い人だったんだ……」


「ロイス君……少し褒めすぎじゃない?」


「私よりティアリスさんの紹介のほうが力入ってません? 気のせいですか?」


 それはまぁウチでずっと修行してくれてる人のほうが思い入れあるし……。


「私もパーティに入りたい」


「ん? ウチに来れば同じ実力くらいの人たちをすぐに紹介してやれるかもしれないぞ。パーティ酒場の説明は読んだだろ?」


「じゃなくて、二人のパーティに」


「二人? ……ティアリスさんとアリアさんの?」


「うん。そっちの男の人を入れても三人なんでしょ?」


 男の人ってアオイ丸のことか。


「あのな、この三人は普段からパーティを組んでるわけじゃないんだ」


「え? そうなの?」


 パラディン隊のことはまだ知らなかったか。


「この二人はナミやサハでいう衛兵隊みたいな組織の人なんだよ。ウチと近隣の町で共同で設立したばかりの町を守るための組織な。だから厳密に言えば今は冒険者じゃない。アリアさんに関しては冒険者を名乗ったことは一度もなく、これまではここから一番遠い国で騎士をやってたんだよ。それにそっちのアオイ丸も冒険者じゃなくてただのウチの従業員なんだ。昨日は頼りなく見えたかもしれないけど、普段から戦闘をしてるわけじゃないからサーベルキャットたちを相手にするのは元々無理があったんだよ。ダンジョンに入ったのも人間の痕跡集めが得意だからって理由だ。おかげで被害はまだ少なくてすんだだろ?」


「……」


 情報量が多すぎたか。

 パラディン隊についてのこれ以上の説明は面倒だから省くけど。

 でもアオイ丸のことはフォローしておかないとな。


「今回この二人がここに来てるのも、俺が急にナミに行くことが決まったときにたまたま俺といっしょに仕事してたからなんだよ。だからパーティを組んでるのは今だけで、ウチに戻れば町を守る仕事が待ってる」


「そうなんだ……」


 よほど二人のパーティに入りたかったようだな。

 これまでほかのパーティに誘われても頑なに入らなかったらしいのに。

 やはり男性ばかりのパーティは嫌だったのだろうか。


「マリッカちゃん、じゃあこの村にいる間だけでもパーティ組まない?」


「え?」


「それがいいですね。三人でダンジョンに入りましょう」


「……うん」


 まぁ解散するってわかってて入るんだからそれはそれでいいか。


「ところで、マリッカの実力はどうなんですか? 昨日は結局マリッカの戦法を教えてくれませんでしたけど」


「あ、忘れてた……」


 冒険者たちといっしょに騒ぎまくってたからな。


「言っていい?」


「うん。でもほかの人には内緒ね」


 なぜそこまで隠したがる?


「マリッカちゃんが武闘家だっていうのは昨日聞いたでしょ?」


「えぇ」


「大樹のダンジョンでは今でこそ爪装備が流行ってるけど、それまではみんな素手もしくは手袋装備の実質自分の手だけで戦うのが基本だったじゃない?」


「ですね」


「武闘家って大半の人は魔力持ってなくて魔法が使えない人ばかりでしょ? 仮に魔法が使えても補助魔法だけってパターンでしょ?」


「ですね」


 前置きが長い……。


「マリッカちゃんの場合、攻撃魔法が使えるのにあえて武闘家になってるの。しかもそこそこの攻撃魔法だよ?」


「へぇ~」


 でもそれなら尚更魔道士の修行したほうがいいんじゃないか?


「でも武闘家だから杖なんて持ってたら邪魔でしょ? マリッカちゃんは手袋も装備せずに完全に素手で戦ってるし」


 ……ということはそういうことでいいんだよな?


「つまり手から魔法を出せるってことですか?」


「そう。手に土魔法で岩や石のような物を纏わせてパンチで攻撃するの。凄くない?」


「凄いですね」


「……本当に凄いと思ってる? ララちゃん以外に手から魔法出せる人なんて見たことあるの?」


 あ、マズかったか……。

 忍者たちはみんな手から出せるなんて言わないほうがいいし……。


 ん?

 でも風魔法を利用した探知の修行はみんな杖なしでもやってるよな?

 ギャビンさんたちもそれを推奨してるし。

 まぁ探知は攻撃手段ではないからこそできることなのかもしれないけど。

 もちろん攻撃するなら杖を使ったほうが威力は増すだろうし。


 でも威力を気にしないのであれば誰でもできる可能性があるってことだよな。

 魔力量とか関係なく制御の問題みたいだし。

 マリッカが得意だという感知とはまた別の話だ。

 魔力って本当に不思議だな。

 実に羨ましい。


「リヴァーナさんとパーティ組んでる子知ってます?」


「ミオちゃんでしょ? ……え? もしかしてミオちゃんも手から出せるの?」


「はい。火と水と風魔法が使えます。威力はまだそれほどではないですけど伸びしろは凄いあると思います」


 身体能力強化系の魔法のことは言わないでおこう。


「……だからリヴァーナとパーティ組ませたの?」


 あ、呼び捨てで呼ぶようになったんだ?

 同い年だもんな。


「ミオの保護者的な人物から優秀な指導者を探してくれって頼まれただけですよ。それにリヴァーナさんもいつまでもソロを続けるのは限界があるでしょう。だから双方の合意の元でのパーティ結成です」


「ふ~ん。まぁ私も兄貴たちにいい人紹介してくれって頼んだから同じだよね。ということは忍者は手から魔法出せるってこと?」


「そうですね」


「そうなんだ~。じゃあカスミ丸さんとアオイ丸さんもってことでいいんだよね?」


「……あ」


 つい喋ってしまった……。


 そういやこの前のジャポングの件のとき、ティアリスさんはカスミ丸たちといっしょにラスまで馬車で移動したんだったな……。

 だからこの二人がただの情報屋じゃなくて忍者だってこともとっくに知ってたのか……。

 ミオも普段から冒険者職は忍者みたいに言ってるみたいだから、ティアリスさんからしたらずっとカスミ丸たちの知り合いだと思ってたんだろうな……。


「カスミ丸さんたちが忍者だってことは隠してもさ、魔法のことは別に隠さなくていいんじゃない? なにか特殊な修行方法があるならぜひ教えてほしいし」


 ……そうだよな。


「特殊な方法とかではなく、杖を使わずに自分の体や手だけで魔法を制御する修行をしてきただけだと思いますよ。まぁかなり小さいころから修行を始めたみたいですけど。マリッカもそうなんじゃないか?」


「……私の場合は魔力を隠せってずっと言われてたから。体の外に溢れないようにするための修行をしてたらいつのまにか制御が上手くなってたって感じ」


 魔力を隠せだと?

 どこかで聞いた話だな……。


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