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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第五百五十話 濡れ衣

「おばさん!」


「あら、早かったね。ちゃんと拭かないと風邪ひくよ」


「ここ女湯と間違ってませんか!?」


「え? ……男湯だよ?」


「え?」


 …………確かに暖簾を見た感じだとこっちが男湯っぽく見える。


「いやいや! でも中に女性が!」


「女性? ……あ、そういやさっき帰ってきたばかりだったね。またあの子かい」


「また!? またってどういうことですか!?」


「落ち着きな。あんたは間違ってないから」


 そうだよな。

 俺はおばさんにこっちが男湯だと言われて入ったよな、たぶん。

 ハッキリとは聞いてなかった気もするけど、俺は悪くないよな、たぶん。


 ……あれ?

 俺今もしかして本当は女湯のほうから出てきたんじゃないだろうな……。


 いや、俺は間違ってない。


「とにかくちゃんと説明してくださいね!?」


「わかったから。これくらいでそんなに騒がなくてもいいだろ」


 これくらいって、こんなことウチのダンジョンの大浴場でしたら大問題だぞ?

 ララが激怒して間違いなく出禁になるからな?

 まぁウチはしっかり指輪の個人情報を元に転移させてるからこんなことは起きないけど。




 そして今日の昼間ずっと座ってた宿屋ロビーのテーブルで待ってると、例の女性が男湯から出てきた。

 よし、俺は間違ってなかった。

 髪が短いこともあってもしかすると女性じゃなくて本当は男性だったのかもとも考えたが、この姿は女性で間違いない。

 でもなぜウチの魔物たちとそんなに仲良さそうに出てくる?


 するとおばさんがすかさず声をかけた。


「マリッカちゃん、今日はこっちが女湯だよ」


「うん。ごめんね」


「今日色々と大変だったのはわかるけどさ、女湯と男湯くらいはちゃんと確認して入らないと。もし次に入ってきたのがあの子じゃなくて村の爺さんたちだったらどうするんだい」


「うん。次は気を付ける」


「いつもそう言うけど、またすぐ間違えるじゃないか……」


「うん。考え事しちゃってるから」


「もぉ~。いつもはマリッカちゃんが最後だから大丈夫なだけだからね? ほら、あの子があんたの裸見たこと気にしてるから謝っときな」


「え……見られてたの……」


「見てませんからね!? あなた完全に湯に浸かってましたよね!? それに湯気凄かったでしょ!?」


 なんてこと言うんだこのおばさん……。

 完全に濡れ衣じゃないか……。


「見といて怒るのはおかしくない? それにそれなら謝るのキミのほうじゃないの?」


「はぁ!? なんで俺が!? そっちが間違って男湯に入ってるのが悪いのでは!? それに見てないし、別に怒ってないし!」


「謝ってよ。あ、もしかして髪短いせいで男だと思った? 私、これでもちゃんと女の子なんですけど。男の人に裸なんて見られたことなかったんだから」


「なに言ってるんだよ!?」


 頭おかしいんじゃないのかこの人……。


「どうしたでござるか!?」


「なにがあったの!?」


「ケンカですか!?」


 カスミ丸、ティアリスさん、アリアさんが奥から走ってきた。


「そうなんだよ、この二人がお風呂から出たところで少しぶつかっちゃってね。でも大丈夫だから。それよりあんたたちも大浴場使ったらどうだい? 今なら貸し切りだよ」


 おばさんはさっきの出来事を何事もなかったかのようにしようとしているようだ。

 さてはこの人、楽しんでるな……。


「……本当でござるか?」


「ロイス君がそれくらいで大きな声出すとは思えないけど……」


「マリッカさん、どうなんですか?」


 俺じゃなくてその人に聞くのかよ……。


「……黒猫ちゃんは嫌がってるのに、私がむりやり触ろうとしちゃったみたい。ごめんね」


 ん?


「……ボネは気難しいでござるからな」


「お風呂上がりできれいになったばかりだからあまり触られたくないのかもね」


「そうなんですか? 私も気を付けます」


 三人は一旦部屋に戻り、またすぐやってきて大浴場に入っていった。

 カトレアとエマはワッサムさんのところにいるハナの帰りを待つそうだ。


「タル、アオイ丸のところ行ってきてくれるか?」


「ピィ(はい……)」


 タルは俺のことを心配しながらも奥の部屋へ向かっていった。

 ほかの魔物たちはロビーの床に置いたクッションの上でリラックスしながら、風呂上がりのミルクを堪能し始める。


「で、なんで俺の隣に座ってるんだよ?」


「あ、やっぱり怒ってる」


「そりゃ怒るだろ」


「口調こわいよ」


「優しくする理由がないからな」


「そのミルク、私にもちょうだい」


「なんでだよ。道具屋か食堂で自分で買ってこいよ」


「ここミルクなんか売ってないし。ナミで買ってきたの?」


「ウチから持参してるんだよ。あの袋見ただろ」


「おばちゃん、この人がイジメてくる」


「ミルクくらいあげなよ。いっぱい持ってるんだろ?」


 なんだよこの人たちは……。

 寄ってたかって俺をイジメてるのはそっちのほうだろ……。


 仕方ないからミルクはあげるけど。

 おばさんも欲しそうにしてるからあげるけど。

 魔物たちにもおかわり入れてあげるけど。


「なにこれ美味しい」


「キャラメルキャメルのミルクだからな」


「「キャラメルキャメル!?」」


 さすがにそれには驚くんだな。


「もっとちょうだい」


 遠慮が全くない……。

 美味しそうに飲んでくれるからいいけどさ。


「ダンジョンでキャラメルキャメル飼ってるの?」


「あぁ。たくさんな」


「このミルクいくらで販売してるの?」


「これはまだ売り物にはしてない。でもウチのバイキングでは飲み放題にしてる」


「飲み放題なの? バイキングってなに?」


「料理が食べ放題でドリンクも飲み放題ってことだ」


「え、凄いね。高い?」


「それなりにな。でもウチのダンジョンは宿代に三食の食事代も含んでるから」


「宿代? どういうこと?」


 今日だけでこの話をするのは三度目だぞ……。

 仕事でもないせいか面倒になってきた。


「私が説明してあげるよ。ほら、もっとそっちに詰めな」


 おばさんがむりやり俺たちが座るベンチに座ってきた……。

 向かいには誰も座ってないのになんでこっちに三人も座らないといけないんだよ……。

 ただでさえおばさんの体大きいんだからな?

 俺が向こうに行くのはなんだか負けた気がするし。


 というか二人ともさっきのこと忘れてるだろ……。

 俺はまだ怒ってるんだぞ?

 今は二人が楽しそうにウチの案内冊子見てるから邪魔しないように黙ってるだけだからな?


 するとピピがテーブルの上にやってきた。


「チュリ(この子、ずっと補助魔法使った状態を保ってますね。おそらく魔力上昇系の魔法でしょうか。さっきのお風呂でもずっと使ってました)」


「俺を攻撃しようとしてるんじゃないだろうな……」


「チュリ(それはないですって)」


「ならいいけど。でもだからワタが怒ってないのか」


「チュリ(はい。自然体のようですから、もしかして常にこの状態なんですかね?)」


 それはつまり今も修行してるってことか?

 魔力切れの寸前まで使おうとしてるとかかもしれないけど。


「ねぇ、お風呂でも思ったけど、キミのその魔物に話しかけるのはなに? 癖? 独り言にしては大きくない?」


「違うんだよ。この子はね」


 おばさんは俺の魔物使いの能力についても丁寧に説明し始めた。


「……冗談だよね?」


 おばさんじゃなくて俺を見てくる。

 まぁ疑って当然だけど。


「どうやったら信じるんだよ?」


「う~ん、鳥さんちょっとこっち来て」


 ピピを連れてカウンターのほうに歩いていった。

 やっと広くなったな。

 と思ったらすぐに戻ってきてまた真ん中に座った。


「キミ、年いくつ?」


「十六だ」


「……私の年齢その鳥さんから聞いてみて」


「チュリ(六月生まれの十六歳だそうですよ)」


「六月生まれの十六歳でいいか?」


「あ……本当なんだ……」


「というか俺と同い年じゃないか」


「……何月生まれ?」


「七月だ」


「じゃあ私のほうがお姉さんだね」


「たった一か月の違いだろ」


「そういやキミ名前は?」


「ロイスだ」


「ロイスか~。ロイス、私のことマリッカって呼んでもいいよ」


「呼ばないからそっちも呼ぶな」


「なんで? 同い年なんて珍しいのに」


「それはこの村やフィンクス村の人口が少ないせいだろ」


「あ、もう私のこと調べてたんだ……こわい……」


「調べたわけじゃない。今朝ダイフク……こっちの白い猫が髪の短い子に魔物だって気付かれたとか言ってたから、それをバビバさんとワッサムさんに話したらそれはマリッカだろうって話になっただけだ。その中でたまたまフィンクス村出身の子だってこと聞いただけだよ」


「今マリッカって呼んだ。ふふっ」


「いや、今のは違うだろ……」


 なんで嬉しそうなんだよ……。


「マリッカちゃん、友達できて良かったじゃないか」


「うん。同い年の友達なんて初めて」


「友達じゃないからな? それにエマも同い年だからな?」


「そうなの? エマってどの子?」


「さっき下で会っただろ。今まだ風呂に行ってない女の子だよ」


「封印魔法の子?」


「そう。でも俺たちは明日にはここを出るだろうから仲良くならないほうがいいぞ」


「え……」


 なんでそんな悲しそうな顔するんだよ……。

 ここには若い女性が少なそうだから友達が欲しいのは理解できるけどさ。


「マリッカちゃんもこの子たちに付いていったらどうだい?」


「え? 私も?」


「まだまだ強くなりたいんだろ? それならこの子が経営する大樹のダンジョンに修行しに行ったほうがいいよ。なんたって千五百人近くの冒険者が集まってきてるんだからね」


「千五百人? なにそれ……村何個分なの……もう町だよね……」


「でもその前に一度フィンクス村に帰ったらどうだい? この村もフィンクス村ももうじき魔瘴に覆われるんだよ。そうなると移動が困難になる。帰りたくないのはわかるけど、たまにはご両親に顔くらい見せたほうがいいよ。マリッカちゃんがいなくなると私たちは寂しくなるけどね」


「……」


 なんだこの空気……。

 それより俺を疑ってたのはどこいったんだよ……。


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