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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第五百四十八話 掻き立てられる妄想

「ワシがやる」


「はい?」


 日記を読んでいたバビバ婆さんが唐突に声を発した。


「ワシがかたきを討つ」


「……」


 えっと、なに言ってるんだろう?


 かたき?

 フィリシアとメネアたちのってことか?

 それを婆さんが?

 かたきって言ってるくらいだから二人がマグマスライムに挑んで死んだことは理解できたんだよな?

 その二人でも勝てなかった敵に婆さんが勝てるとでも思ってるのか?

 婆さんたちのかたきを婆さんが討つなんて、それこそ今の若い者たちはとか言われたりしないだろうか。


「なんだいみんなしてそんな顔して」


「倒せる自信があるんですか?」


「なくてもやる。仮にワシが死んでも、現時点でのマグマスライムとの実力の差がわかるから誰も手を出したりはしなくなる」


 ……これが戦士としての誇りなんだろうか。


「この村では今でもバビバさんが一番強いってことですか?」


「氷魔法だけで言えばね」


「氷? 水じゃなくて氷魔法ですか?」


「そうだよ。水魔法も使えることには使えるけどたいした威力は出せない。ワシは氷魔法メインでこれまでやってきたんだ。大樹のダンジョンにいたころは『ひさめのバビバ』と呼ばれてたね」


「ひさめ?」


「氷の雨って書いて氷雨だ」


 お~。

 敵の上から氷をたくさん降らせて攻撃するんだろうか。

 シャルルにはまだできなさそうな技だ。


 ……ん?

 雨?


「メネアが残した水魔法奥義の槍雨と被ってません?」


「名前を参考にしただけだよ」


 パクったな……。

 って名前しかわかってないんだから婆さんの努力によるものが大きいか。


「でもバビバさんはこのダンジョンの半分ちょいまでしか行ったことないとか言ってませんでした? それじゃ火山に辿り着くまでに死ぬのでは?」


「それは……。でもこの村には今そのときのワシを越えようとしてる四人の村人パーティがいるんだよ」


 あ、そういやそんなこと言ってたな。


「その人たちといっしょなら行けると?」


「あぁ。ワシの体力次第になるだろうけどね。だがワシが加わって五人になれば安全度は増すはずだよ」


「体力に自信がないのなら足手まといになる可能性のほうが高いと思いますけど?」


「……そんなにはっきり言わなくてもいいだろ」


「火山の地下ですからここからナミの町よりもさらに遠いってことですよ? そんな場所まで本当に行けるとでも思ってるんですか? 敵もどんどん強くなると書いてあったでしょう? しかも魔瘴の影響で数も増えてることが予想されるんですよ?」


「……」


 婆さんは黙ってしまった。

 これだけ言っておけば安易にかたきを討つなんて発言はもうできないだろう。


「ロイス君、今ダンジョンに入ってるその四名の村人さんは大丈夫なのでしょうか?」


「さぁな。本気で攻略を目指してるって話だったみたいだからそうすぐには帰ってこないんだろう。もう死んでてもなにもおかしくない」


「ですよね……。無事だといいのですが……」


 今まで無理だったのに、さらに条件が厳しくなったダンジョンを攻略できるとは到底思えない。

 仮に火山まで辿り着けたとして、最奥にはマグマスライムというボスだっている。

 もし倒せたとしても、さらに魔物が増えているであろうダンジョンの中をまた歩いて帰って来なければならない。

 あまりにも過酷すぎる。


 ……まぁそれはこの日記の内容を知らなければの話だけどな。


「バビバさん」


「……なんだい」


「その村人さんたちのことは少し置いといて、バビバさん一人でもマグマスライムに挑む気はありますか?」


「……そんなことが可能なのかい?」


「たぶん……ですけど。本当にその気があるのなら少しはお手伝いしますよ?」


「ロイス君? なにを言ってるんですか? 一人で決めないでください」


「カトレアだってこの件をこのまま放っておくわけにはいかないとは思ってるだろ?」


「まぁそれは……。少なくともマグマスライムが本当に実在してるかくらいは確認しておいたほうがいいとは思いますけど……」


「エマはどうだ?」


「私は……」


「思ってること言っていいぞ」


 さっきからずっとなにか言いたそうにしてるからな。


「……はい。その、封印魔法が付与された魔道具のことが気になってて……」


「魔道具? ピラミッドとの接続部分にあるとかいう変換装置みたいなやつか?」


「はい。三冊の本のどこかに載ってるかなと思ってカトレアさんに探してもらったんですけど、それらしき物はなかったみたいなんです。もっと探せばあるのかもしれませんけど。例えばその魔道具をリーヌの町に設置すれば、町の人たちの不安も少しはなくなるのかなと思って。それにカトレアさんなら作れそうだなって期待しちゃったりして……」


 それは確かにそうだな。

 増産が可能ならこの村やナミの町にだって設置することもできる。


「エマちゃん、そういう発言はまず私たちだけしかいないところでしてください」


「え? あ……すみません……」


 バビバさんにしっかり聞かれちゃってるからな。

 町や村を守れるのなら誰だってそんな魔道具欲しくもなる。


「聞かなかったことにするよ。それにさっきこの子とは話してたんだが、ウチの村はあんたが封印魔法の壁を作ってくれるだけで十分感謝してるからね」


「……はい」


 本音かどうかはわからないけどな。

 封印魔法が使えなくてもいいんなら欲しいに決まってるだろ?


「……だからそんな目でワシを見るなって」


「ん? ぼーっと後ろの壁を見てただけですけど?」


「……嬢ちゃんたち、大変だね」


「はい。でも慣れるとロイス君ほどわかりやすい人はいませんから」


 おい?

 俺はこれでも表情から悟られまいと必死なんだぞ?


「それより、ワシを火山まで連れて行ってくれる方法があるってことかい?」


「えぇ。もちろん確かめたわけではありませんけど。それに危険な可能性もありますけど」


「……聞かせてくれ」


「エマ、ホワイトボードを用意してくれ」


 すぐにエマとカトレアは準備に取りかかる。


「よし、じゃあ検討に入るぞ」


 まずナミの町から大ピラミッドまでの地図を書く。

 次に今度はその地図を横から見た断面図のような形で書く。

 あ、モーリタ村から大ピラミッドまでの大まかな地図もいるか。


「ナミから近いピラミッド二つが、日記にもあった非常用のピラミッドです。その先に観光用のピラミッド、大ピラミッドと続きます」


 俺とあの補佐官さんが予想した非常用ピラミッドというのは合ってたわけだな。


「こちらの断面図を見てください。元々はナミの町の地下遺跡から大ピラミッドの地下ダンジョン第一階層まで同一階層で繋がってたことが日記からわかります。そして地下遺跡の水路には排水用水路というものがあり、それは地下遺跡でも最も下の部分に作られています」


 図を書きながら説明するのって面倒だな……。


「この排水用水路がマグマスライムの場所まで繋がっているということですから、おそらく第一階層と第二階層の間くらいに設置されているのでしょう。それを辿るとマグマスライムがいるマグマの上空、噴火によって開いた空洞部分に行きつくはずです」


 魔物に壊されないように地中の中に埋めてあったりするんだろうな。


「そしてこのモーリタ村のダンジョンと大ピラミッドの地下ダンジョンは第二階層で繋がっています。方角的に考えるとナミの町とは90度違いますので、ほぼ別ルートだと思って間違いないでしょう」


 合ってるよな?

 おかしな点があったらすぐ指摘してくれよ?


「今はこの村からのルートは無視していいです。俺が言いたいのはこっちの第一階層で繋がってる地下遺跡からのルートのことです」


「でもそっちはもう使えなくしたって書いてなかったかい?」


「そうですね。でもそれならこの非常用ピラミッドへの道も閉ざされたことにもなりますから、全部を閉ざしたというのは考えられません」


「……地上から入れる隠し転移魔法陣があるとかは考えないのかい?」


「ナミの補佐官さんたちが調査したところによると、地上部分に怪しい部分はなかったそうなんです。でもそれとは関係なく、日記にはもしまた大噴火が発生した場合はすぐに地下遺跡に逃げ込めるように、地下遺跡をより頑丈にしたって書いてましたよね? そして非常時のためにピラミッドを二つ作ったと。それはつまり大噴火の際はマグマや煙や石や灰などのせいで地上を移動するのは困難になるから、地下のルートを使えってことだと思うんです」


「「「なるほど」」」


「ということは少なくとも地下遺跡から一番近い非常用ピラミッドまでの道は生きてることになります。その先は閉じられてる可能性もありますが、そうじゃない可能性のほうが高いと思ってます」


「「「?」」」


「だって今バビバさんは二人のかたきを討ちたいと言ったでしょう? バビバさんでさえそう思うのですから、二人に近い人たちなら余計にそう思って当然じゃないですか? 例え二人にこれ以上は手を出すなと言われてたとしても」


「確かにね」


「となると地下ダンジョンまでの道を閉じるわけにはいきません。子孫たちは何度もマグマスライムに挑むことになるんですから。でも結果的に倒したという報告は現代に伝わってません。それどころかマグマスライムがいるという情報さえも伝わっていません。ということはやはり倒すのは無理だという結論になったんでしょう。でも心残りはあって当然です。だからそれからは排水による攻撃だけに頼ることにしたんでしょう。いつかマグマスライムが死んでくれることを願って」


「……でもそれじゃやっぱり道は閉ざされたってことじゃないのかい?」


「直接的に戦うわけじゃなくても、マグマスライムが死んだかどうかの確認はしたくないですか? それならたまに見に行くための道は確保しておくと思うんです」


「……なるほどね。そういう日々がずっと続き、マグマスライムは一向に死なないから自然と見に行く頻度も減り、しまいには誰も見に行かなくなるどころか存在さえも忘れられたってわけかい?」


「そんな感じです。まぁ俺の勝手な妄想ですけどね」


「いや、ワシは信じるよ」


 こんな妄想話を信じてくれるのか。

 ほとんど適当だぞ?


 それに別に道が閉じられてても勝手に掘ればいいと思ってるしな。

 日記には簡単に掘れてすぐに火山に辿り着いたみたいなこと書いてあったし。

 例えマグマが溢れてようと封印魔法があればなんとかなるだろ。


「何年か前にバビバさんよりダンジョンの先に進んだ冒険者パーティがいるって言ってましたよね?」


「あぁ。それがどうした?」


「その先ではどんな魔物が出るって言ってました?」


「……マグマ系の魔物だね」


「やはりマグマ系の魔物ですか。でも火山内から魔物が流れてきてるんだとしたら、中がマグマで溢れてるなんてこともなさそうですよね」


「……なるほど」


 なにか反論してくれてもいいんだぞ?

 カトレアがなにも言ってこないとなると逆に不安になるな……。


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