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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第五百四十七話 バビバの葛藤

 隠し部屋にカトレアを残し、俺は下の部屋に転移した。


「あっ!?」


 そこではエマとバビバ婆さんがイスに座って待っていた。

 ティアリスさんたちは宿にでも行ったかな。


「カトレアさんは転移先にいるんですか!?」


「あぁ。部屋を見たかったんだってさ。それよりカトレアがエマを呼んでるから行ってきてくれ」


「わかりました!」


 エマも転移先の部屋に興味津々だったようですぐに転移していった。


「あの嬢ちゃんの体調は大丈夫なのかい?」


「本を読める元気くらいは残ってるそうです」


「魔力の枯渇を甘くみないほうがいいよ」


「それは承知してます。ウチでも常日頃からみんなに言い聞かせてますから」


「そうかい。ならいいけど」


「バビバさんこそ、本当にこの上に安全なエリアがないことを確認しに行かなくていいんですか?」


「あんたが嘘つく理由もないだろ。それにこれ以上ガッカリしたくないんだよ」


「なるほど。俺なら絶対確かめに行きますけどね」


「なんだか今日は色々ありすぎて疲れてるみたいだ。で、本にはなにが書いてあったんだい?」


「秘密です」


「……まぁあんたらの物って約束だから、言いたくなければ別にいいけどね」


 気にならないのかな?

 フィリシアとメネアが残した本なんだから魔導書と考えるのが普通だろ?

 となると封印魔法や転移魔法陣のことが書いてあるのが自然で、是が非でも欲しいと思ったりするものじゃないのか?


「話したいのなら話してくれてもいいんだよ?」


 やっぱり気になってるんじゃないか……。


「魔法関連や錬金術関連の技術が書いてあるみたいです。もちろん封印魔法や転移魔法陣のことも」


「そうかい」


「……欲しくないんですか?」


「この村に転移魔法陣は必要ないしね。封印魔法もあんたらがかけてくれるんならそれでいいよ」


「でも持ってれば村の誰かが使えるようになるかもしれないじゃないですか?」


「誰も使えなかったらどうする? もし運良く誰かが使えたとしても、そいつがいなくなったらどうする? それに扱い方を間違えれば危険な魔法にもなるからね。それほど封印魔法は重い魔法なんだよ」


 へぇ~。

 意外な答えだな。


「そんな魔法を扱ってる俺たちのこと軽蔑したりしてます?」


「冒険者全員に教えたりしてるのかい?」


「まさか。こんな諸刃の剣みたいな魔法、俺が信用する人物にしか教えませんよ」


「ならワシと同じ考えじゃないか。でも注意しな。帝国の帝都にはかなりの数の使い手がいるよ。あの国の皇帝は代々悪巧みを企むのが好きなやつがなってるって話だからね。いくら皇帝が死んだからと言って油断するんじゃないよ。昼間の話では、帝都民はマルセールにかなりの人数避難したって話だっただろ?」


 お~?

 帝国魔道士が封印魔法を使えることまで知ってるとは。

 この婆さん、想像以上にやるな。


「ご忠告ありがとうございます。でも俺が知る帝国魔道士の方々は今のところみなさんいい人ばかりですからね」


「帝国魔道士とわかってて接してるのかい?」


「もちろんです。ウチのダンジョンに通ってくれてる人もいますし。それにかなりの数の方が避難できた帝国騎士と違い、帝国魔道士の方は三十名にも満たない程度の人数ですからね」


「三十人? たったそれだけしか助からなかったのかい?」


 帝都での経緯を簡単に説明する。

 そして封印魔法を使える人たちが現在王都で雇われてることも。


「あんた、災難続きだね……。厄病神にでも憑りつかれてるんじゃないかい? 厄病神じゃなくて魔王か、わっはっは!」


 俺が一番気にしてることを……。


「でもこのオアシス大陸西部で魔瘴が拡がってるのは俺のせいじゃないっぽいですからね?」


「どういうことだい?」


 あ……。

 つい口がすべってしまった……。


 まぁいい。

 この婆さんには話さないわけにはいかないし。


「俺は今の状況を踏まえ、二つの説を推測してます。一つは、このオアシス大陸よりもっと西の海のほうから魔瘴が拡がってきてる説です」


「山の向こうまでは確認してないからありえない話ではないね。もう一つは?」


「……このダンジョンを中心に魔瘴が拡がっていってる説です」


「……その根拠は?」


「さっき宝箱の中に、分厚い本三冊のほかに薄い本が一冊あったって話聞いてました?」


「一冊だけ封印魔法がかかってなかったってやつかい?」


「そうです。実はその本、フィリシアの日記帳だったんです」


「なんだって!?」


 まだ内容も聞いてないのにそこまで驚くほどのことなのだろうか……。


「日記と言いましても、ある一日に書いた内容のみでしたけどね。でもその内容としては数十年分をまとめたような出来事の数々が書かれていました。そしてその日記を書いた翌日、フィリシアとメネアは亡くなったと推測されます」


「……」


 婆さんは困惑してるようだ。

 ここだけ聞くと日記が遺書のようなものだからな。

 というか遺書なんだけど。


「日記を見る覚悟がありますか?」


「……見ないという選択肢もあるのかい?」


「あると思います。現に日記の内容が今のみなさんに伝わってきてるとは思えませんので、おそらくその二人の子孫たちは伝えないという選択をしたんだと思いますから」


「……知らなくてもいい情報なのかい?」


「さぁ? 今の段階ではそれは誰にもわかりませんし、わかったところでどうにかできるような話でもないかもしれませんし。結局のところ見ても見なくても同じかもしれません」


「……でも見たほうがいいんだろ? その中にあんたがさっき言った、このダンジョンを中心に魔瘴が拡がってるかもしれない説を裏付けるなにかが書かれてるんだろ?」


「かもしれませんね。実際は俺が自分を厄病神と思い込みたくなくて都合よくそう解釈してるだけかもしれませんけど」


 厄病神って実感は少なからずあるしな。


「……見せてくれるかい?」


 まぁそうなるよな。


「どうぞ。これがオリジナルのほうです。既に複製させてもらいましたのでこれはバビバさんに譲ります」


「いいのかい? 複製ってあの嬢ちゃんが錬金術で?」


「そうです。それより気持ちを落ち着かせてから中を見てください。書き換えたりしてませんからね?」


 そして婆さんはしばし無言で日記を読み続けた。

 時折、明らかに表情が険しくなってる。

 上の部屋ではもうエマが読み終わったころかもしれない。


 そういやあの宝箱と台座はどうなったかな?

 どうやら宝箱と台座はくっ付いてるわけじゃなくて、封印魔法がかかってるせいで動かそうとしてもビクともしなかったらしい。

 カトレアがどうしても宝箱と台座も持って帰りたいって言うから、エマを呼んでくるように言われたんだ。


「「きゃっ!?」」


 お、ちょうど二人いっしょに戻ってきたようだ。

 そして仲良く膝下まで砂に埋まってる、ふふっ。


「今バビバさんに読んでもらってるから」


 二人は婆さんの邪魔をしないようにそーっと砂を抜けだした。

 そして空いてる席に静かに座った。


 斜め向かいの席からエマが目を大きく真ん丸に見開いて俺を見てくる。

 なにか言いたいことがあるようだ。

 この日記を見たばかりだから話したいこともたくさんあるだろう。


「ん?」


 隣に座ったカトレアが俺の腕を軽く叩いてくる。


「なんだよ?」


「これ見てください」


 カトレアはこれというなにかをテーブルの上に置いた。


「魔石か? いや、加工された鉱石か。これがなんだって言うんだ?」


「……水魔法奥義です」


「え?」


 水魔法奥義?

 って例のやつか?


「あの部屋にあったのか? どこにあったんだよ?」


「宝箱の下の台座部分です。台座はこんな形になってました」


 カトレアはレア袋から台座を取り出した。


 宝箱を置いていたすぐ下の部分は窪みになっていたようだ。

 ……まるであのフェネックスの子供とワタたち赤ちゃんがいた穴のような感じだな。


「持って帰ろうとしてなかったら気付かなかったってことか」


「はい。運が良かったです」


 これに関してはな。

 できれば日記を見つけてしまったことも運がいいということになればいいんだが。


「でも奥義ってこんな形なのか? これでどうやって習得するんだよ?」


「それは親切にこちらの本に記載されてます」


 説明書的な本もあったのか。

 それは確かに親切だ。


 ってもしかしてエマはこれを伝えたくて俺を凝視してきてたのか?

 まだなにか言いたそうに俺を見てきてる……。


 一方、婆さんは日記に集中してて俺たちの声は耳に入っていないようだ。

 どんな気持ちで読んでるんだろうな。

 まだ聞いてはいなかったが、婆さんがこの二人のどちらかの子孫という可能性もかなりの確率でありそうな話だし。


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