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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第五百四十三話 戦士たちの帰還

「おかえりなさい」


 向こうから近付いてくる三人に対してまず俺が声をかける。


 ……だが三人の表情は浮かない。

 例の果物探索は失敗したのだろうか。

 それともよほど疲れてるのだろうか。


「ただいま」


 俺の近くまで来てようやくティアリスさんが言葉を発した。


「お疲れ様です。怪我はありませんか?」


「うん、大きな怪我はね。でも途中何度も危ないかもって思ったよ」


「それなのになぜ奥へ?」


「それは……とりあえずどこかで座って話せない? 走りっぱなしで疲れてるの」


「あ、すみません。先にお風呂にしてください。もちろん食事も」


「うん、ありがとう。でもね、その前に村の人に……」


「バビバお婆ちゃん、あのね」


 後ろにいた例の子が急に口を開いた。

 そして前に出てきた。


 名前なんだっけ?

 というか髪、思ってたより短いな。

 ダイフクが言ってたように、髪型だけを見ると確かに女性か男性かはわからないかも。


「なんだい? ん? あんたいつになく傷だらけじゃないか。そんなに奥まで入ったのかい?」


「うん。初めてサボテン地帯にも行ったよ」


「サボテン地帯!? あんなところまで行ってたのかい!?」


「うん。この人たち、凄く強いし、凄く速いの。それに魔物の気配も魔法で探ったりできるし、トイレも持ってるんだよ」


「……で、なにがあったんだい?」


 深く考えるのはやめたようだ。

 トイレのことなんて絶対気になってるはずなのに。


「それがね……」


 なんだ?

 なにをそんなに言いづらそうにしてる?


「マリッカちゃん、私が説明するから」


「……うん」


 そうだ、マリッカって名前だったな。


「この村に宿泊してる冒険者の方々はみなさん戻られてますか?」


「近場にいた五人は戻ってきてるよ。あんたたちが最初に助けてくれた子も含めたら六人だね。それにマリッカちゃんを入れて七人。だからあと三人か。その三人とどこかで会ったのかい?」


「……その三名は亡くなられました」


 え?

 亡くなられた?


「……そうかい。残念だね」


 いやいや!

 もっと驚くところじゃないのか!?

 いくらなんでも冷静すぎるだろ……。


「それだけですか?」


「ダンジョンで死ぬなんてそんなに珍しいことじゃないからね。最近でこそ、この村に来る冒険者自体が少なくなってたから死人が出るのは久しぶりだけどさ」


「……そうなんですか」


 ティアリスさんはそれ以上は聞かないようだ。

 この三人、いや、この四人が浮かない表情をしてるのはそのせいだったんだな。


「遺体は回収できたんですか?」


「うん。サボテン地帯で発見したの。もう少し遅かったらたぶん見つけることができなかったと思う」


 それはつまり骨さえ残ってなかったかもしれないということか……。


「バビバさん、こういうときはどうしてるんですか?」


「遺体があって身元がわかっているのなら家族の元に届ける。その三人はサハの町出身というのは聞いてるからなんとかなるんじゃないかね。明日にでもウチの者を向かわせるよ。……今宿にいる戦士の中では一番力のあるやつらだったんだよ。残念だね……」


 戦士か……。

 村人ではない冒険者の死を何度も見てきてるからといって悲しくないわけじゃないもんな。

 この様子だと宿屋に宿泊してる冒険者のことはだいたい把握してるみたいだし、親心のようなものも少しは感じてるのかもしれない。


「私たちがもう少し早く辿り着けてれば……」


 アリアさんが無念そうに言う。


「嬢ちゃん、それは違うよ。ダンジョンに一歩足を踏み入れたら誰もが戦士なんだ。戦士と死は常に隣り合わせ、今日生きてるからって明日も生きてるとは限らない。それが戦士という生き方なんだよ。それに嬢ちゃんたちが発見してくれなかったらその子たちの魂は一生成仏できなかったかもしれない。だから感謝こそあっても誰も嬢ちゃんたちを恨むようなことはない」


「……はい」


 アリアさんは故郷でもっとたくさんの死を間近で見てきてるんだよな。

 それなのにまだ悲しむことができるなんて、本当に心がきれいな人なんじゃないだろうか。

 たくさん見てきてるからこそ死を身近に感じてこわいと感じることもあるだろうけどさ。


「カスミ丸、この状態保存機能付きのレア袋に遺体を移し替えてくれ。すぐゲンさんに棺桶作ってもらうから」


「え……」


 カスミ丸は戸惑っているようだ。

 さすがに遺体の取り扱いには慣れてないようだな。


「アオイ丸、手伝ってやってくれ。……アオイ丸?」


 そういやさっきから一言も喋ってないな。

 よほどショックだったんだろうか。


「大丈夫か?」


「ロイス君、私がやるからいいよ。カスミ丸さんは先にアオイ丸さんを宿へ案内してあげてくれる? 宿じゃなくて小屋?」


「……了解でござる。兄上、行くでござるよ」


 アオイ丸はカスミ丸に肩を抱かれて村のほうに歩いていった。

 封印魔法の壁を出てからはリスたちも何匹か付いていったようだ。


「なにがあったんですか?」


「アオイ丸さん、何度か本気で死にかけたからね」


「「え……」」


 俺とエマは絶句する。

 一回じゃなくて何度かってなんだよ……。


「サーベルキャットにも結構出くわしたし、特にサボテン地帯はかなり危険だったの。普通のサボテンと魔物のサボッテンを見間違えるくらいはまだいいんだけど、サボテンの中にオアシスコノハズクが住みついてたりして意表をつかれちゃうことも何度かあってね。ただのサボテンだと思ってたら急に眩暈がしてきて視界が定まらなくなったりさ。幻惑魔法ってこわいね。アリアさんがサボテンごと斬りまわってくれたからなんとか助かったけど」


「……さすがアリアさんですね」


 とでも言っておくしかないよな。


「ついでですからさっきの話に戻しますけど、なんでそんな奥まで行ったんですか? ターゲットの件は危険を冒してまで探すものではないって言ってあったでしょう?」


「それは……」


「ごめんなさい」


 ん?

 なぜこの子が謝る?


「この人たちと中で会って話を聞いて、三人にも早く伝えないとと思って私がお願いしたの。今日三人がいつもより奥まで行くっていうの知ってたから」


 そうだったのか。

 助けを頼まれたら行くしかないよな。


「この子とアオイ丸の二人は先に村へ帰すって考えもあったのでは?」


「もちろんそれは考えたよ。でもマリッカちゃん、かなり強いんだよ? それにアオイ丸さんもまだ大丈夫って言ってたし、途中で例の魔物の形跡も見つけちゃったもんだから私も少し欲が出て……」


「あ、すみません、責めるつもりはないんです。三人にもしものことがあったらどうしようってみんなで心配してたものですから。無事に帰ってきてくれて良かったです。パーティリーダーとしての一番の仕事は誰も死なせないことですから、よくやってくれました。ありがとうございます」


「うん……ごめんね」


「いえ、謝らないでください。さっ、早く上に行きましょう。エマ、みんなの防具の汚れを落とすのを手伝ってやってくれ」


「はい!」


 ふぅ~……。

 帰ってきて早々小言を言われるなんて絶対嫌に決まってるよな。

 あとでもう一度謝っておこう。


 ……あ、カトレアのこと忘れてた。

 上に行くなら連れていかないとな。


 再度さっきの部屋の中へと戻る。


「カトレア、話聞こえてたか?」


「……」


 寝てるのか?


 ……ん?


 ベッドで寝てたはずのカトレアがいない……。


 もしかして……。


 そして三度目の転移をした。




 ……やっぱりここにいたか。


「カトレア」


「……本当に狭い部屋ですね」


「だろ? おそらくこの宝箱を隠すためだけに作られた部屋なんだろうな。それより立ってて大丈夫なのか?」


「はい、なんとか。でもここで倒れたらロイス君に迷惑かけるので、イスを出してもらえますか?」


「了解。……ほら」


 カトレアはゆっくりとイスに座った。

 俺は横の壁にもたれかかることにした。


「今わざわざ来る必要があったのか?」


「みなさんの話を聞いていられなくなったものですから」


「……三人亡くなったって話か?」


「はい。それにここでは何人も亡くなってるという話らしいじゃありませんか」


「ウチのダンジョンと違って安全じゃないからな。天然ダンジョンだからそれは仕方ないだろ」


「仕方ないですませていいのでしょうか。もっと日頃から死の恐怖を感じるべきではないかと」


「婆さんの話を最後まで聞いてたか? 戦士と死は隣り合わせなんだってさ。おそらくウチの冒険者以上には普段から死を感じてたと思うぞ。アオイ丸もよほどこわい思いをしたのか、平常心ではいられなくなってるみたいだったし。カスミ丸とリスたちが付き添って上に連れていったよ」


「アオイ君がですか……。そうですよね、なんの安全の保障もないダンジョンなんですから私たちより危機管理の意識が強くて当然ですよね。どうやら私は大樹のダンジョンの技術力のせいで少し思い上がっていたようです」


「それは俺も同じだ。ティアリスさんたちに少し問い詰めるようなことも言っちゃったし。アオイ丸の実力からして、このダンジョンに入らせてはいけないことくらいわかってたはずなのに」


「……ロイス君も私もアオイ君も、そしてほかのみんなもまだまだ勉強することがたくさんありますね」


「だな。でもだからといってウチのダンジョンを危険にすることはできないぞ。安全なダンジョン設計があってこそのウチだからな。その中でどう危機管理意識を身につけていってもらうかを考えるしかない。まぁそのために残りHPの割合で色変えたりしてるつもりなんだけどなぁ~」


「一朝一夕では身に付かないってことですよ。焦らずに時間をかけて身体で覚えてもらいましょう」


「だな。冒険者にもパラディン隊にもこの事例は伝えよう。今後は町の外でもこういうことが頻繁に起きるはずだからな」


「ですね。……それより、本を見せてもらってもいいですか?」


「ここでか?」


「ここで見たほうが雰囲気出そうじゃないですか。転移した先の封印魔法がかかってる部屋ですよ?」


「あ、やっぱりこの部屋にもかかってるのか?」


「えぇ。それとその宝箱と台座にも」


「あ~、だから動かないのか~」


「この宝箱も立派な物ですから、エマちゃんに解除してもらって持ち帰りましょう」


 うん、それがいいな。

 部屋ごと持って帰るのは面倒そうだから諦めるか。


「どの本から見る?」


「封印魔法がかかってなかった本からで」


「一番薄いやつか。……これだ」


 カトレアは本を受け取ると、すぐに1ページ目を開いた。


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