第五百四十二話 転移した先に
「おおっ!?」
目の前に宝箱がある!
どうやら無事に転移できたようだ。
体調の異変も特に感じない。
部屋にちゃんと灯りが付いてるのは気が利くじゃないか。
「……せまっ」
思わず声に出してしまった。
この部屋、狭い。
今俺が立っているこの転移魔法陣を含めても奥行2メートルくらいしかないんじゃないか?
横幅も同じくらいだろうか。
天井はそれなりに高い。
もちろん後ろに部屋が広がっているわけでもない。
バビバ婆さんはがっかりするだろうな。
目の前には台座のようなものがあって、その上には宝箱が乗っている。
そんなに大きくない宝箱だ。
早速開けてみるか。
あ、その前に下に戻って報告しないと。
できれば足から着地できるといいんだが……。
敵がいるかもと思って一応剣を持っていたが、危ないから剣はしまっておこう。
そして一度地面の上に描かれている転移魔法陣の外に出て、再び転移魔法陣に乗る。
「「「あっ!?」」」
……足が膝くらいまで埋まった。
少し落下しただけなのにこわかったのは内緒だ。
「大丈夫でござるか!?」
「なにがあったんですか!?」
「どんな場所だったんだい!?」
カトレア以外の三人が俺に詰め寄って聞いてくる。
砂場には入ってこようとはしないが。
カトレアはベッドに横になったまま無表情でこちらを見ている。
こわいからあまり見るな。
「バビバさん」
「なんだい!?」
かなり興奮してるようだ。
自分が行ってないからこそ気持ちがたかぶってると言ったほうがいいか。
「残念ですが、避難できるような部屋はありません」
「え……」
見る見るうちに落胆の表情に変わっていく。
「じゃあなにがあったんでござるか!?」
「私たちも行って大丈夫ですか!?」
カスミ丸とエマは婆さんのことを気にすることもなく聞いてくる。
「いや、かなり狭い部屋なんだ。二人はまだしも三人も入ると相当窮屈になる。だからもう一度俺が行ってくるから二人は俺が戻ってきてからな」
「もう一度行くってなにがあるんでござる!?」
「宝箱だ」
「「宝箱!?」」
「あぁ。まだ中は見てないから俺が先に見てくる」
「持ってきてここで開けるでござるよ!」
「それでもいいか。じゃあ行ってくる」
そして再び転移した。
……やはり狭い。
この部屋に封印魔法がかかってるのか?
よく見るとこの壁の素材、たぶんあの転移魔法陣が描いてあった壁と同じ素材だな。
だから封印魔法や転移魔法陣も維持できてるのか。
それより宝箱だ。
見た目からして豪華で、いかにも宝箱とわかるような箱を見たのは初めてだな。
これをレア袋に収納……ん?
収納できない……。
なんでだ?
宝箱を持ち上げてみるか。
……が、台座にくっ付いてるのかビクともしない。
その台座は地面に固定されてるようで当然動く気配はない。
これはここから持ち出してはいけないってことなのだろうか。
もしかしてこの宝箱、中が開かないなんてことも……あ、開いた。
凄く簡単に開いた。
中からなにか飛び出してくるようなこともない。
今思えばもう少し慎重に開けるべきだったとも思うが、なにも起きなかったからまぁいいか。
さて、中には……。
本か。
分厚い本が三冊、薄い本が一冊。
それとこの小さい緑の輪っかのような物は……腕にはめたりするやつか?
ブレスレットだっけ?
指輪よりは大きいな。
葉っぱでできてるのか?
葉っぱだけにしては丈夫そうだが。
装備して外れなくなったりしたら嫌だから慎重に扱おう。
……え?
これだけ?
本とブレスレットだけなのか?
いや、きっと本の内容が凄いんだろう。
おそらくここに奥義とかが……あれ?
本が開かない……。
これ、もしかして封印魔法かけられてないか?
ウチの地下室の本と同じようにさ。
ん?
なんかこの本の表紙、ウチで見たようなことがある気も……。
ララシーから貰った物なんだろうか?
あの二人だったらあり得る話だよな。
とりあえず下に戻るか。
みんなも心配するだろうし。
そして再度転移魔法陣に乗る。
「「あっ!?」」
そしてまた砂に埋まる。
「どうだったでござるか!?」
「宝箱は!?」
砂を抜けだし、準備よく脇に設置されていたテーブルに座る。
エマとカスミ丸もすぐに座った。
婆さんはカトレアが寝てるベッドに腰をかけている。
なんだか可哀想に思えてくるな。
「宝箱は台座にくっ付いてて持ってこれなかった。だから開けて、中身だけ持ってきた」
「危ないでござるよ!」
「そうですよ! なにか襲ってきたらどうするんですか!?」
「俺もそう考えて慎重に開けたから大丈夫だ」
とでも言っておかないと余計怒られそうだからな。
「で、中にはこれが入ってた」
本とブレスレットをテーブルの上に置く。
「……魔導書でござるか?」
「さぁ? この本、開けないんだよ」
「あっ!? これ封印魔法かかってますよ!?」
「やはりそうか。解除してくれ」
「はい!」
もしかしてなぞなぞの問題文に書いてあった封印魔法ってこのことか?
封印魔法が解けるからお早めにとか書いてたが、これならむしろ解けてくれてたほうがありがたいじゃないか。
なぞなぞが解けたところで封印魔法の使い手がいなかったら中を見ることもできないんだからさ。
転移魔法陣と封印魔法の使い手じゃないと無理って相当ハードル高いよな。
「こちらの分厚い三冊は解除しました!」
「ん? 薄いやつは?」
「こっちはかかってません!」
そうだったのか……。
「解除した本の中見ていいでござるか?」
「あぁ」
カスミ丸とエマは緊張した面持ちで本を開いた。
そして無言のままパラパラとめくっていく。
二人は時折驚いた表情をして俺を見てくるが、言葉は発しない。
なぜなにも言わない?
なにが書いてあるんだ?
って大方の見当はつく。
この本がフィリシアとメネアが残した物なら、それこそ転移魔法陣や封印魔法のことが書いてあっても不思議じゃないからな。
それを見るためには転移魔法陣や封印魔法が使えなければならないというのはあまり意味がないとも言えるけど。
それ以外にも錬金術や魔法のことが多く書かれているのかもしれない。
とにかく、婆さんが色々騒ぎ出しても面倒だから二人はあえてなにも言わないんだろう。
約束ではこの宝箱の中身は俺たちの物だからな。
さて、俺はこっちの薄い本を見るとしよう。
「ミャ~! (ティアリスたちが帰ってきたわよ!)」
「「!?」」
エマとカスミ丸は外から聞こえたボネの大きな鳴き声に驚いた。
カスミ丸はなにかあったかと思い、すぐに部屋の外に出る。
「どうしたでござるか!?」
ボネに聞いてるようだ。
「ティアリスさんたちが帰ってきたんだってさ」
「「えっ!?」」
「足音でわかるんだよ。もうすぐ見えてくるんじゃないか?」
「……あっ!? 本当に帰ってきたでござる!」
カスミ丸はそのままダンジョンのほうに走っていった。
さすがに俺も出迎えたほうがいいか。
宝箱の中身をレア袋にしまい、部屋の外に出る。
するとバビバ婆さんも出てきた。
てっきり俺たちがいない間に転移して上を確認しに行くかとでも思ってたのに。
「ほう、よく戻ってこれたね。初見の割にずいぶん奥まで進んでたらしいのに」
「ティアリスさんはウチのダンジョンはもちろん、魔工ダンジョンでの経験も豊富ですからね」
「じゃあこの程度のダンジョンはたいしたことないってことかい?」
「それは話を聞いてみないとわかりません。でも敵が強いのは確かですね」
そしてティアリスさん、アリアさん、アオイ丸が戻ってきた。
装備品がかなり汚れてるな。
……ん?
誰かもう一人いる。
「ふぅ~、あの子も無事だったかい。どうやらいっしょだったようだね」
「誰ですか?」
「今朝話しただろ。あの子があんたんところの猫を魔物だと見破った子だよ」
そうか、この子が……。
 




