第五百三十四話 モーリタ村のなぞなぞ
ヒントなしで考えてみなくていいのかとは聞かれたが、即行で断った。
解けなかったらなにか言われそうだし、解けても時間がかかってたらなにか言われそうだし。
「では最初からいくでござるよ?」
「あぁ」
そしてカスミ丸によるなぞなぞ解説が始まった。
まずは問題文を見ろとのこと。
これはフィリシアとメネアからの挑戦状です。
のろのろしてると壁の先の封印魔法が解けてしまいますからお早めに。
部屋の隅々までよくお調べください。
屋根にもヒントがあるかもしれません。
でも破壊はしないでくださいね。
はて、この謎を解ける方は現れるのでしょうか。
なんにせよ私たちと同等程度の魔法の使い手じゃないと厳しいでしょう。
いつの日か、私たちの想いが伝わりますように。
そして天井に書かれていた言葉は。
その壁の模様は転移魔法陣です。
頭を使って考えてくださいね。
……もう面倒になってきた。
頭を使えとか言われると難しいように思えてくるし。
というか転移魔法陣の魔法が使えない人はこのなぞなぞに挑戦したりしないだろうからな。
となると実際にはナミの水道屋しか挑戦してないんじゃないのか?
「なにかピンとこないでござるか?」
「う~ん」
カスミ丸の気分を良くさせるためにも考えてるフリだけしとくか。
さっさと答えを教えてくれればそれでいいのに。
でもそう聞いてくるってことはこの文章だけでなにかわかるってことだよな?
部屋の隅々まで調べることもここじゃできないし、カスミ丸が描いたこの転移魔法陣の絵も関係ないってことか。
う~ん、頭を使えか~。
この文章からだけでどう頭を使えと?
問題文かどうかも怪しいのに。
「頭を使うでござるよ」
うるさいなぁ……。
なんでそんなに頭を強調するんだよ……。
それじゃまるで俺が頭を使ってないみたいだろ。
これでも一応少し考えてみようという気にはなってきてたのに。
はぁ~、頭、頭って天井の言葉に謎が隠されてるのか?
それとも俺の中での頭に対する解釈の仕方がおかしいのか?
俺の頭を使うんじゃなくて、この文章で頭っぽいことを探せってことか?
文章中に頭っぽい言葉は屋根くらいじゃないか?
ほかにこの文章で頭といったら…………ん?
「あ」
「わかったでござるか?」
「先頭の頭文字ってことか?」
「そうでござる」
そういうことか……。
「この部屋ではない。でいいのか?」
「正解でござる。文の最初の文字を縦読みさせるといった単純なものでござるな」
これが単純なものなのかよ……。
天井じゃなくて屋根って書いてあるのも『部屋』と読ませたいからだったのか……。
「でもこの問題文が書いてある部屋に転移魔法陣が描かれてたら普通そっちになにか謎が隠されてると思うよな」
「そうかもしれないでござるけど、自分はこの文章を初めて読んだとき違和感を感じたでござるよ。問題文とはいえなんだかまとまりがない文章でござるし、謎を解けとは書いてあっても転移魔法陣の謎を解けとは書いてないでござるし。それで天井の『頭を使って』という文字を読んですぐにピンときたでござる」
いやいや……。
すぐにピンとくる人なんてなぞなぞマスターくらいだから……。
「じゃあこの『壁の先の封印魔法』っていうのもあの部屋にあった転移魔法陣の先の空間って意味じゃないんだよな?」
「おそらく別の場所のことを指しているでござるな。あの場所であの転移魔法陣の魔法を使っても意味がないということでござる」
「転移魔法陣自体はカトレアでもすぐに使えそうなものだったんだよな?」
「カトレア殿が知ってる術式とは少し違う部分があったらしく、さっきまでその解析をずっとしてたでござる。でもその知らなかった技術も無事習得できそうで喜んでいたでござるよ」
「さすがだな。転移魔法陣の幅が広がるのはいいことだ。どんな技術か聞いたか?」
「距離でござる」
「距離? ……それってラシダさんが言ってたやつか?」
「おそらく。あの壁の転移魔法陣は、対になってる転移魔法陣のあとから設置されたものなのらしいでござるよ」
「ん? つまりあの転移魔法陣には最初に設置した転移魔法陣とを結びつける情報が書かれてたってことか? それも対になる転移魔法陣との距離を指し示すような情報が?」
「その通りでござる。話が早くて助かるでござるよ」
そりゃ俺のほうが転移魔法陣との付き合いは長いしな。
ってカトレアが転移魔法陣を使えるようになったつい最近まではなにも知らなかったようなものだけど。
「対になる大元の転移魔法陣はどのくらい離れた距離にあるんだ?」
「……20メートル先でござる」
「20メートル!? そんなに離れてるのか!?」
って遠いよな?
今までカトレアは数十センチしか無理って言ってたもんな。
ラシダさんも水道屋は10メートルくらいまではいけると言ってたけど、それは小さい転移魔法陣だから可能かもしれないもんな。
「人間も通れるんだよな?」
「もちろんでござる。試しに作った1メートル離れた転移魔法陣は自分も通らせてもらったでござるからな」
俺がユウシャ村で気持ち悪くなった体験談を聞いててよく実験体になる気になったな……。
「距離が長くなればその分カトレアの消費する魔力も増えるって?」
「そうらしいでござるな。カトレア殿もロイス殿の前ではさも自信あり気に言ってたでござるけど、その少し前にはもしかしたら20メートルは無理かもしれないとも言ってたでござる」
俺に弱音を吐くのが嫌だったのだろうか。
それとも婆さんがいたからだろうか。
……いや、弱気になってちゃダメだと思ったんだろう。
カトレア以外にはできないことだしな。
「で、大元の転移魔法陣はどこにあるんだ? というかどこで転移魔法陣の魔法を使うんだって言ったほうがいいのか」
「ようやくなぞなぞの続きでござるな」
「答えがその場所を指し示してるんだな?」
「そうでござる。では部屋を出てみるでござるよ」
部屋を出るって言っても紙の図での話か。
「今いた部屋は村側から見て一番奥の左側の部屋でござる。次はどの部屋に行くでござる?」
「う~ん。さっき向かいの部屋には行ったんだよ。この『戦士たちへ』って書いてる部屋な。あ、その隣の『槍雨』がどうたらって部屋も。だから今度は問題文の部屋の一つ手前の部屋だな」
「なるほど。そっちでござるか。じゃあ入ってみるでござる」
入るもなにもこの紙上だし、文章が書いた別の紙は横にあるんだけどな……。
でも雰囲気作りは大事だからな。
「なんだここ、暗いな」
「え? 暗い? そうでござるか? この紙の文字が見えないでござるか?」
違うだろ……。
部屋に入れみたいに言ってきたからそれに乗っただけなのに……。
少し恥ずかしくなってきたじゃないか……。
「え~っと? 天変地異?」
何事もなかったかのように振る舞っておこう。
さて、内容は……。
天変地異。
いつの日からか雨が降らなくなりました。
でも噴火と地震はなくなりました。
私たちは自然の摂理に逆らったのでしょうか。
決して交わることのない天と地。
仲良くできる日は来るのでしょうか。
う~ん、この二人はピラミッドを作ったことを後悔してるのか?
雨が降らなくなったこともピラミッドが関係してると思ってるのかな。
でも天気がどうなるかなんて予想できないし、人間がどうこうできる問題でもないと思うんだけどな。
ってこれもなぞなぞに関係してるのか?
……とりあえず次の部屋行こうか。
「じゃあ次はさらに手前の部屋な」
「楽しいでござるだろ?」
「……少しはな」
全然楽しくないとか言うとカスミ丸が拗ねそうだしな。
さて、次は……。
青と黒どっちが好き?
それとも赤が好き?
私は青かな、赤はこわいし。
私は黒だね、赤だけはもう見たくない。
なんだこれ……。
でもただの色の話じゃないよな?
なにか別のものを色で例えてるのか。
二人とも赤が嫌いか。
この二人が言うんだから火山から流れ出たマグマのことを想像しちゃうよな。
赤いマグマに対して青と黒は……ダメだ、わからない。
次の部屋に行こうか。
……いや、ちょっと待て。
さっきの天変地異の話は天と地の話がされてた。
地が赤いマグマだとすると、天が青と黒か?
……もしかして青は青空、黒は夜空を表してるのか?
って二つの部屋の言葉をむりやり関連付けてみたけど、これがどう関係してるのかはまだ謎だ。
「この六つのどこかの部屋から空が見えてるのか?」
「お~? いい目の付け所ではござるけど、残念ながら空は見えないでござる」
そりゃそうか。
じゃあ次だ。
向かいの部屋に行こう。
一筋の光を求めて。
魔力って不思議だと思いません?
魔力があるからこそ魔法を使うことができます。
でも魔力があるせいで魔法を使わないといけないような風潮もあります。
この世界には魔力がない人のほうが圧倒的に多いです。
魔力がある人とない人ではおそらく日常生活における視野も違うのでしょう。
魔力があるからこそ見えるものもあるのかもしれません。
でも見えなくていいものまで見えてるのかもしれません。
結局はその人が選ぶ道次第なんでしょう。
……魔力があってこその悩みってところか。
魔力がない俺からすれば贅沢な悩みとしか思わないけどな。
さて、この文章からはなにを読み取ればいいのだろう?
魔力に関することは間違いなさそうだが。
一筋の光を求めてっていうくらいだからどこかで魔力を見つけろってことか?
「魔力の反応がある場所を見つけて転移魔法陣を使うのか?」
「おおっ!? さすがでござるな。でも残念ながらロイス殿には見つけるのは無理でござるからな、ははっ」
こいつ……。
結局俺の前にはいつも魔力の壁が立ちふさがるよな。




