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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第三章 集いし仲間たち
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第五十三話 馬車を作ろう

「馬車があったほうが良くないか?」


「「……」」


 朝食の場でララとカトレアに提案してみたものの二人は無言だった。

 カトレアは最近ほとんど寝ていないようである。

 ララはなぜかずっと怒っている。

 研修中だから店長として色々と苦労がありストレスが溜まっているんだろう。


 研修生の四人は町からダンジョンまで馬車で通っていた。

 四人は道具屋、八百屋、肉屋だからそれぞれ仕入れのために馬車を持っていて当然なのだ。

 今は毎日交代で各店の馬車を使用しているらしい。

 馬車がない店は不便なことも多いだろうし、ウチでも馬車はあったほうがいいと思ったから提案してみたのだ。

 使用するのはほぼその四人になる予定だが。


 朝は牛肉や調味料やスパイス類程度なので荷物は知れているが、帰りは買い取った素材を乗せるため馬車がパンパンになり、重量も相当なものになることが予想される。


 だってお客が八十人だとして、全員のリンゴとミカンを買取したらそれだけで二百四十個と四百個だよ?

 他にも薬草、毒消し草それぞれ千枚近く、ドロップ素材の肉も多少はあるだろう。

 今後、種類や数が増えることやお客も増えると考えると、ウチでも馬車を持っていたほうがいいと思ったんだ。

 人の家の馬車を壊してしまうのは嫌だしな。


 なのに、なぜ二人は賛成してくれないんだ?

 あったほうがいいと思うんだけどなー。


「なぁ、どう思う? 研修生たちの家の馬車を借りてるのもなんだしさ。それにウチの従業員になるんだから馬車を使ってもらってもいいと思うんだよなぁ。いい馬車だとここへの往復の時間も短縮されるだろうしさ」


「……誰が作るんですか?」


 ようやく反応してくれた!

 寝不足なのによくやってくれてるよ本当に。

 誰が作るだって?

 そんな当たり前のこと今さら聞かなくてもわかるだろうに。


「ゲンさんだよ。ゲンさんとドラシーか。さすがに俺には無理だ」


「そうだよね? ゲンさんとドラシーにしか作れないよね? うん、ウチの馬車を使えたほうが研修生たちも家に負担かけなくていいから安心すると思うよ!」


「……それならいいと思います」


 なんだ、賛成なら早く言ってくれよ。

 無言だとカトレアが錬金術で作ることを考えはじめたって思っちゃうじゃないか。

 

 木の馬車なんだからゲンさんとドラシーに頼むのが一番手っ取り早いはずだ。


「じゃ早速頼んでみるよ」


 俺は家を出て、家の前にある大きな岩に話しかけた。


「ゲンさん! 馬車を作ってほしいんだけど、作れる?」


「ゴ? ゴゴ(馬車か? 作ったことはないけど木は前のが余ってるし、あいつがいれば作れるんじゃないか?)」


「本当? ドラシー、できる?」


 いつものようにドラシーが急に現れる。

 前まではてっきり外には出られないものと思っていたがそうではないらしい。

 どうやら日焼けが嫌だからなんだそうだ……。


「うーん、アタシも作ったことないけど、いつもあの子たちが乗ってきてるのを真似したら作れると思うわよ?」


「そうなのか? じゃあ彼らが来て研修に向かった後に頼むよ。ゲンさんもそのときに木を運んでね。よろしく」


「は~い」


「ゴ(了解)」


 ドラシーは消え、ゲンさんはただの大きな岩となった。


◇◇◇


 研修生たちが来たのは十時半だった。

 冒険者たちと来る時間が被らないように少し遅くしてあるのだ。

 馬車で来ると目立つし、まだ店のことはバレたくなかったからな。


 ララが研修生を連れて物資エリアに行ったようだ。


「ドラシー、どう? できそう?」


「とりあえずコピーでいってみるわね」


「少し大きめにしてもらってもいいか? じゃあゲンさん木をお願い」


「ゴ(わかった)」


 ゲンさんが木を持ってきて長方形型に積み、ドラシーが魔力を込めるとあっという間に馬車ができあがった。


「おお! 凄い!」


「ふぅ~、どうかしら? 見た目は同じなはずだけど」


 研修生たちが乗ってきた馬車と見た目はそっくりだが、大きさは一回り以上大きく、木は新しいせいか少し輝いて見える。


「早速動かしてみよう!」


 研修生たちの馬車を引いていた馬を馬具から外し、新しい馬車の馬具を取り付ける。

 そして俺は御者台に乗り込んだ!

 実は一度ここに乗ってみたかったんだ!


「よし! 少しこのあたりを歩き回ってくれるか?」


「ヒヒーン!」


 素直に言うことを聞いてくれた馬はゆっくり進みだした。

 魔物使いって動物も言うこと聞いてくれるのか?

 でも言葉はなに言ってるかわからないな。


「じゃあ、もう少し早く歩ける?」


「ヒヒーン!」


 言葉がわからないのは不便だな。

 カトレアに翻訳魔道具でも作ってもらおうか。

 って俺が普段使うわけじゃないしそこまでしなくてもいいか。


 う~ん、少し揺れるな。

 道のせいか?

 御者台でこれなら荷台に乗ってるともっと揺れを感じるのではないのだろうか?


「止まってくれる?」


 馬は素直に歩くのをやめてくれた。


「ドラシー、もう少しクッション性ていうのかな? 振動を少なくしたいんだけどさ。それとこの荷台にも人が座れるベンチみたいなのあったほうが良くない?」


「もう注文が多いわね~。そんなんだからララちゃんもカトレアちゃんも怒ってるのよ? もう少し優しくしてあげなさい! で、振動の話なんだけど、どうしようかカトレアちゃん?」


「カトレアちゃん? ……えっ!?」


 ドラシーが俺の後ろに向かって話しかけたので、振り向くとそこにはカトレアがいた。

 いつから乗ってたの!?

 というかいつから外にいたの!?

 てっきり家の中か、物資エリアに行ってると思ってた。


 ……ん?

 ララとカトレアが怒ってるって言った?

 なんのことだかさっぱり思い当たらない。

 それよりまだ心臓がバクバクしてる。


「カ、カトレアちゃんも乗ってたんだね? 乗り心地はどうかな?」


 必死に声を絞り出した。

 カトレアちゃんなんて初めて言ったかもしれない。


「……速度が遅いわりには揺れますね。やはり少し大きくしたのが影響してるのかもしれません」


「そ、そうなのかな? ど、どうにかできない?」


 カトレアはしばらく考え込んだ後、ドラシーと相談しだした。


「……前のサスペンションだけ左右が独立して動くようにできませんか? バネも少し改良しましょう。緩衝を少なくするには……」


「え? どうやってやるのよ? ちょっとロイス君邪魔だから降りてくれる?」


「あ、はい、すみません」


 素直に馬車から降りる。

 なにもできない俺が邪魔なのは一目瞭然だからな。


「……凄いですね……はい、これで少しはマシになると思うんですが……ロイス君、もう一度乗ってみてください」


「はい、では失礼します」


 再び御者台に乗り込み馬を操り歩かせる。


「……おお!? 少しどころか全然揺れを感じないぞ!? これは凄いな! カトレアも乗ってみなよ!?」


 俺は荷台の席に座り、御者台をカトレアに譲る。

 ……ん?

 荷台の席?

 おお!?

 こっちの追加もやってくれたのか!?

 御者台のすぐ後ろに前向きの席ができているではないか!?

 しかも背もたれ付き!

 幌も丈夫で雨風も凌げる!

 これで長旅も安心だ!


 俺が乗ることはないだろうがな。


 ……というか速くない?


「……カトレアちゃん?」


「……ふふ、風が気持ちいいですね。速いです」


 御者台に乗ると性格が変わるタイプなのかな?


「カトレア、戻ろう」


「……ふふ、そうですね。残念です」


 このまま放っておくと町まで行ってしまうんじゃないかと思う勢いだった。

 でもすぐ家の前に戻ってくれたのでホッとした。


「まぁこれで馬車の問題も解決だな!」


「……馬はどうするんですか?」


「はい?」


「……だから馬はどうするんですか?」


「え? 馬ってここにいる……!?」


 すっかり忘れてた!!

 この馬は使えないじゃん!

 馬って買えるんだよな?

 でもマルセールで売ってるのか?

 いったいいくらするんだろう?


 うっ、カトレアの視線が痛い……。

 なにも考えてなかったなんてとても言えない……。


「……メ、メタリンに引いてもらおうと思ってたんだ」


「!?」


 無理です。

 あんな小さいスライムがこの大きな馬車をどうやって引くと言うんだ。


「……なるほど、それはいい案ですね。メタリンちゃんがやりたいかどうかは別として」


「!?」


 いい案なの!?

 それとも俺をからかってるの!?


「ははは……。メタリンなら速いし強いからな」


「キュキュ!? (ご主人様お呼びですか!?)」


「メ、メタリンさ、馬車とか引いてみたくない? 毎日の修行には持ってこいだと思うよ?」


「キュ!? キュキュ! (そうなのですか!? ピピちゃんとシルバ君に負けてられないですからやってみたいのです!)」


 意外にも乗り気なようだ。

 だがどうやって馬具を付けるというんだ?


「カトレアちゃん? メタリンに馬具付けれないかな?」


「……ドラシーさん、メタリンちゃんサイズにできますか?」


「えぇそれくらいならお安い御用よ。ほら」


 あっという間にメタリンに馬具が付けられた。

 馬は自分の役割を取られたのが少し悲しそうだ。


 そして俺は御者台に、カトレアは荷台の座席に乗り込む。

 小さな体に馬具を取り付けられたメタリンがなんだか可哀想に思えてきた。


「メ、メタリンちゃん? 少しだけ走ってもらっていい?」


「キュ! キュ! (わかりましたです! しっかり掴まっててくださいです!)」


 そう言うとメタリンは一気に加速した。

 

「「ふぁっ!?」」


 少しだけ進んだのか、馬車のスピードが徐々にゆっくりになっていく。


「「……」」


 俺とカトレアは声が出せなかった。


 速すぎじゃない!?

 風になるってこういうこと!?


「メタリン? 大丈夫か? 痛くないか?」


「キュ! キュキュ! (はいです! でも馬車が軽すぎて張り合いがなかったのです!)」


「……そ、それは大丈夫だ。実際には人が四人乗るし、荷物もたくさん積むからな。メタリンは朝、全速力で町まで行き、この馬車に従業員になる予定の四人を乗せて引いてきてほしい。夜には荷物をたくさん積んだ馬車を引いて町まで行き、帰りには馬車は町に置いてきてメタリンだけで全速力で帰ってきてほしいんだ。それがきっとメタリンの成長にも繋がるから」


「キュ!? キュキュ! (そこまで私のことを考えてくれていたのですか!? 安心してくださいです! きっとご主人様の役に立って見せますです!)」


「う、うん? 期待してるよ。なにか欲しいものあったらいつでも言ってね」


 まだバクバクが治まらない。

 さっきのカトレアといい、今日は心臓に悪いことばかりだ。

 荷台のカトレアのほうを振り返った。


「……カトレアちゃん? カトレア!?」


 目を見開いたまま意識がどこかへ行ってしまったのか!?

 俺は静かにカトレアの肩を掴み少し揺さぶると、意識が戻ってきたようだ。


「……はっ…………私はなにを」


 急激な加速に意識がついていかなかったようだ。


 俺は馬車から降りて馬車を外から確認する。

 とりあえず車体に異常はなさそうだな。

 タイヤも大丈夫そうだ。

 でもこれがドラシーの作ったものじゃなければきっと粉々になってただろう。


 ……早く馬を見つけてこないとな。


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