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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第五百二十八話 混乱の村人たち

 宿屋の外が慌ただしくなった。

 村人たちの声や足音が響いている。


 なんだか大ごとになってないか?

 少々魔物が増えたくらいでダンジョンに入ってる人間みんなが今すぐ死ぬってわけでもないのに。


「敵の数はそこまで多くなかったけどね」


「天然ダンジョンですからウチみたいにそんなすぐに次から次と湧いてくるわけじゃないですもんね」


「うん。逆にここの村の人は敵がもう少し増えてくれたほうがありがたいんじゃない? 今の状態だと取り合いになってそう」


 ん?

 なんかそういう話を昨日アオ君から聞いたな。


「ワッサム殿は大歓迎と言って笑ってたでござるよ」


 それだ。

 料理人からすれば食材は増えるに越したことはないもんな。


「でも今凄い顔して走っていったでござる……」


 嬉しいってことではないよな?

 危機を感じてってことだよな?

 やはり実際にそういう状況になると心配になるんだろう。


「人というのはみんなそういうものです。身近に危機が迫らないことには現実を理解できないんです」


 カトレアがなにか悟ったように言う……。

 これを深く聞いてしまうと、王都にいたときの魔工ダンジョン対策本部とやらの愚痴を聞かされたうえにしばらく不機嫌になるから絶対にこれ以上は触れちゃいけないやつだ……。


「カトレアさん、やはりそうですよね……」


 アリアさん!?


 ってアリアさんはカトレア以上の経験をしてるんだもんな……。


「……アリアさん、私たちももう一度ダンジョンに行ったほうがいいかも」


「あっ、そうですよね! まだ助けを求めてる人がいるかもしれませんもんね!」


「自分も行くでござる。妹よ、ここは任せたでござる」


「おい、アオ君はやめといたほうがいいんじゃないか?」


「足は引っ張らないでござるよ」


 三人はダンジョンへ向かっていった。

 まぁ探知使いは一人でも多いほうがいいか。


「ねぇ、この村はどうなるんだい? もう終わりなのかい? 砂漠の魔物も増えてるんだろ?」


 宿屋のおばさんがカウンターから聞いてくる。

 この人も危機を感じた一人のようだ。


「この村がナミの町と交流がなくなって困ることってあります?」


「え? ナミとかい? う~ん、人が来なくなったり、魔物の素材を売りに行けなくなったりじゃないか?」


「この村の人だけで、この村の中だけで暮らす分にはお金は絶対に必要な物ですか?」


「そう言われると……村人みんなで協力して自給自足の生活をすればお金はいらないかもしれないね……」


「食料は問題ないでしょうし、衣服は魔物の皮から作れます。あとはみなさんが住んでる家の心配ですが、封印魔法がなくても魔物の侵入経路は砂漠側もダンジョン側も洞窟の入り口のみです。最悪片方を閉じてしまえば警備も片方だけですみます。もちろん魔物に山や岩を破壊されたら元も子もありませんが、それは封印魔法で囲まれた町でも同じです。魔物に気付かれにくいということを考えればここ以上に安全な場所はほかにはそうないのではないでしょうか」


「……」


 安全という言葉が欲しかったんじゃないのか?

 それとも避難したほうがいいって言って欲しいのか?


「ロイス君、私は地下に行ってこようと思いますがいいですか?」


「ん? なぞなぞか? いいけど、村人や冒険者が帰ってきてうるさくなるかもしれないからカスミ丸もいっしょのほうがいいと思うぞ」


「カスミちゃん、いいですか?」


「もちろんでござる。自分はなぞなぞも得意でござるよ」


 なぞなぞ『も』ってなんだよ?

 ほかになにが得意なんだ?

 器用なのは認めるけどさ。


「じゃあ行ってきますね」


 そしてカトレアとカスミ丸も宿屋から出ていった。


「「……」」


 このテーブルには俺とハナの二人だけになった。

 もちろん魔物たちは全員いるけど。


「猫ちゃん見てきてもいいですか?」


「外の? いいけど、外は危険かもしれないからリスたちも護衛で連れてけ」


「「「「ピィ! (任されました!)」」」」


 えっ?

 四匹とも?


 そしてハナとリスたちは猫と遊ぶために村の外に出ていった。


 ……一人になっちゃったな。


「あんたはここにいていいのかい?」


「魔物たちがダンジョンに入れないとなると俺はなんにもできませんからね」


「あんたも強いんじゃないのかい?」


「激弱です。普段はダンジョンの受付の仕事でずっと座ってるだけですから」


「ふ~ん。なら私と似たようなものだね」


「いえ、ウチにも宿屋ありますけど、宿屋ってすることいっぱいあるじゃないですか。だからのんびりしてばかりいる俺とは全然違うと思います」


「普通は嘘でも少しくらい忙しいって言うもんじゃないのかい? あんた変な子だねぇ。というか宿屋もあるのかい?」


「はい。あ、ウチの案内冊子見ます?」


 ピピが冊子を渡すとおばさんは興味深そうに熟読し始めた。


 やはり宿屋のことがかなり気になるようで、ついには俺の向かいの席に座りどんどん質問してくるようになった……。


「ニャ~(ねぇ、トイレ)」


「ん? ほら。周りに砂飛ばすなよ」


「ミャ~(ワタのトイレの世話もしてあげてよ)」


「わかったわかった」


「ホロロ!」


「暴れるなって。ピピ、少し抑えてくれ」


「チュリ(反抗的で困りますね)」


「こいつはたぶん無理だな。そのうちみんなも襲われるかもしれないから完全には気を許すな」


「キュ(せっかく空飛べる仲間が増えるかと思ったのに残念なのです)」


「まだ空飛べると確定したわけじゃないから期待しないほうがいい」


「ゴ(あ、また俺を信用してないな?)」


「そんなことないって。この目で見るまで信じられないってことだよ」


「モ~(もうお昼寝してていいの?)」


「いいぞ。あ、寝るならタルと交代してエマの傍で寝てろ。エマが気分悪そうだったらすぐに呼べよ」


「ホロロ!」


「わかったから。これ以上暴れると眠らせるぞ?」


「ホロロ!」


 言葉が通じないってのは本当に面倒だ。

 もしかしてこいつも俺に対して言葉が通じないことをイライラしてこんなに怒ってるのかもしれないけどな。


 すぐにタルが戻ってきた。


「ピィ~(エマちゃんぐっすり眠ってます)」


「そうか。慣れない砂漠の旅で疲れもあったんだろう」


「ゴ(で、俺たちはこれからどうするんだ? ダンジョンへはもう入らないのか?)」


「封印魔法が消えかかってるのに俺たちが壁を壊して入ったら余計不安にさせるだろ?」


「ゴ(それもそうか。ならもう撤退準備だな)」


「うん。でももう昼過ぎだし、今日はたぶんここに泊まることになるな」


「え? ならもう部屋を用意したほうがいいかい?」


「あ、おばさんに言ったわけではないですから」


「でも泊まっていくんだろ? 部屋はたくさん空いてるから何部屋でも大丈夫だよ」


「いえ、俺たちがいたらご迷惑をおかけするかもしれませんので村の外に出ます。外で野宿する準備もしてきてますし、封印魔法も使えますので危険もないですから」


「迷惑ってこの子たちのことを言ってるのかい? こんなお利口さんならみんななにも言わないよ」


「でも魔物ですから。理解してもらえないのが普通なんです」


「ふ~ん。あんたも魔物たちも可哀想だね。でもお喋りできるなんて羨ましい。私も外の猫たちとそんなふうに会話してみたいわよ」


「あの猫たちはちゃんと村の人の言葉をわかってますよ。だからぜひ話しかけてやってください」


「ふふっ、そうだね」


「ニャ~(外の魔瘴が濃くなってきたらあの子たちも中に入れてあげて)」


「あら? こんなおばちゃんにも寄ってきてくれるのかい? 可愛いね」


「魔瘴が迫ってきたら外の猫たちも洞窟の中に入れてあげてほしいって言ってます」


「もちろんだよ。できれば外へ出る入り口にも封印魔法をかけてもらえるとありがたいんだけど」


「う~ん、それはそうですね。少し相談してみます」


「本当かい!? でも地下の村側も含めてあと二つも封印魔法の壁を作ってくれるってことだよね? あの子にそんな無理させて大丈夫なのかい?」


「普段はあまり使わないタイプの魔法だったので出力や制御が難しかったんだと思います。でも腕は確かなので」


「体調を心配してるだけであって別に腕を疑ってるわけじゃないよ。……それより、私たちがこの村に残りたいって言うのはわがままなのかね? このタイミングで封印魔法が弱まってきてるってことはもう違う土地に行ったほうがいいって言われてるような気がしてさ……」


 葛藤があって当然か。

 砂漠の僻地ともなると外部とは完全に遮断されることになるかもしれないしな。


 仮に俺がこの村の中で一生過ごすことになると考えてみようか。


 とりあえず毎日食料調達のためにダンジョンに入ったり村の外に出て魔物を狩ることになるだろう。

 そしてその食料を村の人たち全員で分け合う。

 狩りをしてきた分、食事は誰かが作ってくれた料理にありつけるかもしれないな。

 村人みんなで集まって酒を飲んで騒いだりもするかもしれない。

 そして武器と防具の手入れをして、翌日の狩りに備える。

 そんな日常の中で、そのうち村の誰かと結婚する。

 子供もできるだろう。

 そしてその子供もまた俺と同じような人生を送る。

 やがて俺は年を取り、寿命によりこの村で死ぬ。


 まぁ普通の人生のようにも思えるな。


 ではララもいっしょに住んでると考えたらどうだろうか。


 ララは毎日ダンジョンに入るだろうな。

 そのうち最奥まで到達することだってできるだろう。

 もちろん村のみんなからも愛されるだろう。

 そして村の男と結婚し、子供もできる。


 ララが幸せならそれが一番だからこれはこれでいいかもしれない。


 ……でもなにかが足りない。


 普通の人生なはずなのに凄く物足りない気もする。

 ララはそれで本当に幸せになれるのだろうか?


 …………ダメだ。


 俺はこの村以外の情報を知りすぎてる。

 今のはこの村のことしか知らずにこの村で人生を終えるという前提だからこそ成り立つ妄想だ。


 とりあえずおばさんが読んでる冊子は取り上げよう。


「え?」


「一つの意見として聞いてもらえますか? あくまで俺の個人的な考えであって、それが正解なんてことは決してないでしょうし、強制したいわけでも助言したいわけでもありませんから」


「……聞かせてくれるかい?」


 俺にとっての普通とおばさんにとっての普通は違って当然だからな。


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