第五百二十五話 壁の文字
これはフィリシアとメネアからの挑戦状です。
のろのろしてると壁の先の封印魔法が解けてしまいますからお早めに。
部屋の隅々までよくお調べください。
屋根にもヒントがあるかもしれません。
でも破壊はしないでくださいね。
はて、この謎を解ける方は現れるのでしょうか。
なんにせよ私たちと同等程度の魔法の使い手じゃないと厳しいでしょう。
いつの日か、私たちの想いが伝わりますように。
なんのためにこんなことを?
屋根って天井のことかな?
……あ、上にもなにか文字が彫ってある。
その壁の模様は転移魔法陣です。
頭を使って考えてくださいね。
思いっきり転移魔法陣って書いてあるな……。
「この二人は誰なんですか?」
「かつての偉人だよ。ピラミッドやナミの町を作ったとも言われてる二人だね」
「「「「えぇっ!?」」」」
「なんだい!? 揃いも揃ってそんな大声出されるとビックリするじゃないか」
フィリシアとメネア。
それがあの二人の名前なのか。
「じゃあこの安全なエリアを作ったのもその二人なんですか?」
「おそらくね。その二人からしたらこれくらい朝飯前だったに違いない」
まぁ二十年かけてピラミッドを作るくらいだからな。
「で、バビバさんはこれを読んでこの先にさらに安全な空間が広がってると?」
「そう思わないかい?」
思うのか?
挑戦状というかこれはただのなぞなぞみたいなものじゃないのか?
もしくはただ魔法を自慢したかっただけとか。
謎を解いたところでせいぜいご褒美の品物がある程度だと思うんだが。
でも封印魔法がどうたらって書いてあるから避難場所かもしれないとも思うか。
なぞなぞなんてララやマリンが知ったら喜びそうだな。
「水道屋の人は入れなかったんですか? 元水道屋の冒険者が来てるって言ってましたよね?」
「転移魔法陣を使える者何人かに見てもらったことはあるんだが、誰も入ることはできなかった。そもそもそっちの嬢ちゃんが言ったように、あやつらが知ってる転移魔法陣とは術式が少し違うらしい」
転移魔法陣の大きさが問題なのかな?
あの人たちは蛇口サイズの魔法しか無理っぽいし。
でもカトレアも無理みたいなこと言ってるしな。
ご丁寧にこんなにでかでかと書いてくれてるんだからこれをそのままマネすれば良さそうなものだが。
それでできないってことはもう既にこの転移魔法陣自体がなぞなぞになってるのかもしれないけど。
「ロイス君、この石はもしかすると地下遺跡の水路内に使われているという物と同じではないでしょうか?」
「ピピとメタリンが言ってたやつか。その可能性はあるな」
見てもらうのが早いが、ここには入ってこれないからな。
「それよりどうする? なぞなぞに挑戦するか?」
「当然です」
当然なのか……。
下手すりゃ二百年以上解かれてないなぞなぞかもしれないんだぞ……。
それにもう誰かが知らない間に解いてるって可能性もあるのに……。
まぁ俺たちがダンジョンに入ってる間カトレアは暇そうだからちょうどいいか。
「もしこの先にワシたちに有益なものがあれば村から褒美を出させてもらうよ」
「なにくれるんですか?」
「村の家を一軒とかどうだい?」
「いりません」
「冗談だよ。あんたらにとってはなんの価値もないだろうしね。なら魔石を大量にとかはどうだい?」
「う~ん。まぁそこらへんが落としどころでしょうね」
「じゃあそれでいいね。あくまでワシたちに有益なものがあった場合だよ?」
「わかりました。でもあまり期待しないほうがいいですよ。せいぜいダンジョン内へのショートカットの道とかじゃないですかね」
「……それはそれで少し興味があるね」
そんなんでもいいのかよ……。
でももしダンジョン内の遠い場所へ転移できるとかだったら凄いのかもしれない。
それならその技術をカトレアに習得してほしいな。
「ところで、なんで地下ダンジョンの存在を隠してるんですか?」
「別にそういうわけじゃないよ。こっちにおいで」
バビバ婆さんは部屋から出て、今度は向かいの部屋の中に入っていった。
「これを見な」
また壁文字か。
なになに?
戦士たちへ。
1→ここから先へ進む場合は自己責任でお願いします。
2→この先のダンジョンはとても危険です。
3→戦士として魔物に立ち向かう強い信念がある方のみお進みください。
4→決してナミの住人以外には勧めないでください。
5→戦士の誇りを忘れることなく、日々精進しましょう。
6→安全エリアの説明を必ずこの村の者からお聞きください。
7→安全エリアの部屋は非常時の際にお使いください。
8→地下にこもらず屋外でたまには陽に当たりましょう。
9→猫たちはみな仲間です。
10→村で販売してる物の転売はおやめください。
11→この村に封印魔法と転移魔法陣があることは絶対に秘密にしてください。
長いな……。
ここに来た人はまずこれを読まされるってわけか……。
でも危険だからナミの住人以外に勧めてはいけないという決まりがあったのか。
昔から伝わってきてるから村人はただそれに従ってるだけなんだな。
その割には俺たちを地下に行かせようとしてた気がするけど……。
というか猫たちはみな仲間ですってわざわざここに書くほどのことなのか?
しっかり言い伝えを守ってるようだけどさ。
「ほかの部屋にもなにか言葉が彫ってあるんですか?」
「あぁ。ほかはどれもたいした意味はないだろうけどね。でも今からダンジョンに入るあんたたちにはこっちが好みかもしれないね」
好み?
勇気づける言葉をくれたりするのか?
婆さんはまた違う部屋に入っていった。
部屋は全部で6部屋か。
「早く来な」
そんなに見せたいのだろうか。
「ほら、これだよ」
え~っと。
私は水魔法が最も得意。
私の子供も孫たちも水魔法が扱える。
でもまだまだ誰も私には敵わない。
私が編み出した水魔法の奥義『槍雨』。
この極意を誰かに伝えたい。
だけど簡単に教えるわけにはいかない。
扱い方を間違えると危険だから。
だからといってこのまま失われるのは嫌。
極意をダンジョンに隠すから見つけた人は自由にしていいよ。
水魔法の奥義か。
槍の雨なんてなんだか凄そうだ。
この極意を探す目的でダンジョンに入る人もいるのかもな。
でも水魔法の適性を持った人じゃないと無理なんだよな?
一族で水魔法が得意ということは水道屋の人たちはこの人の子孫なのかもしれない。
というかそもそも極意ってなんだ?
勝手に本を想像しちゃってるけどそれでいいんだよな?
「まだ見つかってないんですか?」
「私が知る限りはだけどね。それはさっきの転移魔法陣の先の部屋も同じだけど」
「ダンジョン内にもなぞなぞみたいなのがあるんですかね?」
「その可能性もあるけど、そうじゃない可能性のほうが高いと思うよ」
「それなら見つかってても良さそうなものですけど」
「少しネタバレになるけどダンジョンのこと話してもいいかい?」
う~ん。
初見のダンジョンでそれを聞いちゃうと面白くなくなるからなぁ~。
……と思ったが別にいいや。
さっさと帰りたいし。
「聞かせてください」
「このダンジョンはね、道が長いんだよ」
「長い? 深いってことですか?」
「まぁ深いとも言うか。物理的に階段とか坂道があるわけではないよ。この村周辺の地形はわかるかい? この村がある場所を含め、大陸の北側までずっと山が続いてる。ダンジョンはその山の地下にあるイメージだね」
「ん? つまりダンジョンはここから北に向かってずっと続いてると?」
「たぶんだけどね。何年か前に一度だけ、この村の誰よりも奥まで進んだやつらがいたんだよ。そやつらが、もしかするとこのダンジョンはナミの町西側の山付近まで続いてるかもしれない、なんて言うもんだからさ」
「ここからナミの町って結構距離ありますよね? 歩いて行くとなると丸一日……いや、それ以上は余裕でかかりそうですけど……」
「砂の上を歩くわけじゃないから単純に比較はできないけどね。でも地上に比べたら敵の強さは格段に上がるし、ダンジョンの中では自分たちの体力とも相談しながらになる。帰ってこれずに死ぬなんて一番マヌケだからね」
それがダンジョンのこわいところだよな。
特にゴールがわからないダンジョンなんて引き返しどころもわからない。
もう少しで最奥じゃないか? と思いながらずっと進むのは精神的にも疲弊するだろう。
「バビバさんはどこまで行ったんですか?」
「ワシは今話したやつらの少し手前くらいまでだね。若いころの話だよ」
「でもほかの村人さんはそこまで行ってないってことですよね? なら凄いじゃないですか」
「ワシはこれでもこの村では何十年かに一人の魔道士と言われておるからな、わっはっは!」
へぇ~。
強かったんだな。
だから村を出て、より強い冒険者が集まるところへ行ってみたくなったのかも。
「じゃあバビバさんもナミ付近まで行ってたってことですか?」
「いや、そこまでは到底辿り着いてなかったと思う。良くて半分より少し先というところだろうか」
「ならバビバさんより奥に行ったという人たちはどうやってそれを証明したんですか?」
「ワシが知らない地形や魔物の話をしてきたことや、そやつらのパーティは確かに強かったからワシ以上に進んでも当然とも思えたんだよ」
「バビバさんは何十年かに一度の魔道士なのに?」
「ワシが強いのはあくまでこの村だけでの話だからね。大樹のダンジョンにはワシより強いやつなんてゴロゴロいたよ」
あ、この人本当に強い人だ。
なんとなくだがそう思った。




