第五百二十一話 戦士の村の秘密
ワッサムさんとピピがダイフクを呼んできてくれた。
「ダイフクが魔物だってどうやって気付かれたんだ?」
「ニャ~(防具屋にいたら、男の子か女の子かわからないけど髪の短い子にジーっと見つめられて、キミもしかして魔物? って言われた)」
「え? それだけ?」
「ニャ~(うん。それを防具屋のおじさんが聞いてて、急に叫びだした)」
見てわかるってことはマーロイフォールドを知ってたってことなのかな?
それともなにか魔物だとわかる特徴でもあるのか?
「なんて言ってるんだい?」
「髪の短い子に見つめられて、キミもしかして魔物? って言われたらしいです」
「「あぁ~~~~」」
ん?
やはりさっき言ってた人物なのか?
というか俺が魔物と会話できることについてはもう納得したんだな……。
「やっぱりマリッカだな」
「そうだね。あの子なら気付いても不思議じゃない」
マリッカ?
女の子か?
「魔物に詳しい子なんですか?」
「あの子は魔力の感知が鋭い子なんだよ。だから体内の魔石の魔力に反応したんだと思う」
魔石か。
「それって難しいんです?」
「ワシでも無理だから大抵のやつは無理だろう」
だよな。
でもその子がどんな子か少し興味が出てきた。
会ったところで俺には魔力のことは理解できないけどな。
「今その子はどこに?」
「この時間なら……どこかそのへんに修行にでも行ったんじゃないかい」
「そうだな……」
なんだよその言いたくても言えない的な濁し方は。
「この村の女の子なんですか?」
「いや、フィンクス村から来た子だね」
「この村を拠点にして修行してるんだ。ずっと宿屋に泊まってるから毎日俺の店にも来てくれるよ」
フィンクス村か。
この村は戦士の村というだけあってこの大陸の強者はここに集まってきてるんだろうか。
「宿屋にはこの村の住人以外の冒険者はどのくらいの人数泊まってるんですか?」
「今は確か十人のはずだ」
「十人?」
少なくないか?
それが普通なのか?
「少ないだろ? 大樹のダンジョンの千人超えとは凄い違いだな! わっはっは!」
「あまりよそ者を受け入れないんですか?」
「それもあるけど、それ以上にすぐ村からいなくなる理由があるんだ」
「村からいなくなる理由? 村付近の敵が強いせいで去っていくとかですか?」
「そんな感じだな! まぁ弱いやつはこの村に来ること自体無理だけどな!」
なにかを誤魔化してるよな?
俺がゲンさんにこの村の噂を聞いたせいでそう感じるだけか?
「地下になにがあるんですか?」
「「……」」
おい?
そこは平然と否定して誤魔化すところだろ?
「冒険者がいなくなる理由が地下にあったりします?」
「……さぁな」
「……自分の目で確認してみろ」
理由は言えないけど、地下に行くのを禁止してるわけではないってことか。
なら聞いてみるか。
「この村にダンジョンありますか?」
「「「!?」」」
この反応は本当にあるのか……。
ゲンさんが言ってたことは嘘じゃなかったんだな。
「それが地下にあるんですね?」
「「……」」
なぜそこは答えない?
喋ってはいけない呪いでもかけられてるのだろうか?
「俺がここに来た理由の一つにダンジョンの存在があるんですよ。ダンジョン管理人としては天然ダンジョンを見ておいたほうがいいと思いますし」
ゲンさんにそう言われたからだけどな。
「だからあとでダンジョンに入らせてほしいんですけど、いいんですよね?」
「「……」」
大丈夫か?
本当に呪いじゃないよな?
あとでティアリスさんに浄化魔法をかけてもらったほうがいいかもしれない。
「あんたは戦えるのかい?」
「まぁ少しは」
「少し程度なら入るのはやめといたほうがいい。この村のダンジョンの魔物を砂漠の魔物と同じに考えるな」
「婆ちゃん!」
「この子を死なせるわけにはいかないだろ」
「そうだけどさ……」
やはりダンジョンに関することを話してはいけない決まりでもあるようだ。
それとも俺たちをダンジョンに入らせて死なせようとしてるのか?
さっきの村人たちなんて明らかに地下に行くように仕向けてたもんな。
「ダンジョンなんですから危険なのは当たり前じゃないんですか?」
「……随分と肝が据わってるね。それとも無知なだけかい?」
「俺は戦いませんから」
「「は?」」
「俺はガッチガチに守ってもらうだけで、戦うのは魔物たちや護衛の冒険者の仕事ですからね」
「「……」」
少しだけ中を見てみたいだけだし。
中の探索は魔物たちに任せておいてあとで話を聞くだけでいいし。
「……わかったよ。そう言うのなら入ってみるがいい。死んでも知らないよ」
「ご忠告ありがとうございます。死なないように気を付けます」
昼食後に運動がてら軽く入ってくるとするか。
「もう話はいいですか?」
「……あぁ。ダンジョンに入らない子がいるんなら宿屋ででもワッサムの店ででも休んでればいい」
「わかりました。では俺たちはこれで」
そしてバルバ婆さんの家を出て、来た道を戻っていく。
この洞窟もダンジョンみたいだよな。
「あの感じだと果物の目撃情報もダンジョンの中だよな?」
「……なんでダンジョンがあることを黙ってたでござるか?」
あ、ござるに戻った。
「今朝ゲンさんから聞いたばかりだしさ。それに本当にあるかどうかも怪しかったし」
「それでも自分たちには話しておいてほしかったでござる」
「不確かな情報だったからだよ」
「それでもでござる!」
アオ君が怒った……。
どんな些細で不確かな情報でも全て頭に入れておきたいのかもしれない。
「悪かったよ。でもゲンさんも数百年前の情報って言ってたから俺だって半信半疑だったんだからさ。アオ君だって知らないくらいの情報なんだし」
「……すまんでござる」
「いいよ。で、アオ君もダンジョンに入るか?」
「当然でござる。妹には残って情報集めしてもらうでござる」
「了解。カトレアとハナにも残ってもらうとして、リスたちも何匹か残したほうがいいか」
「ニャ~(僕は?)」
「ダイフクも留守番だ」
「ニャ~? (えぇ~? 僕だって戦える)」
「あの言い方だとFランク以上の敵ばかりと思ったほうがいい。だからダメだ。それにカトレアたちの護衛も必要だし、ワタの子守もあるだろ?」
「ニャ~(あ、そうだった。僕残るね)」
戦いより子守かよ……。
「ミャ~(私も残るわ)」
「え……ボネは来てくれよ」
「ミャ~(だって魔力が尽きて力が入らないもの。エマがいるからいいでしょ)」
ボネがいないと不安だな……。
ってこんな子猫に無茶なんてさせられないか。
「わかったよ。じゃあボネも残っていい」
まぁゲンさんがいればなんとかなるか。
おそらく洞窟型のダンジョンだろうからそんなに道幅は広くないだろうし、前と後ろに気を付けておけば大丈夫だろう。
「で、果物なんだけど」
「間違いないでござる。簡単には見つからないと思ってるようでござるから相当深い場所にいるのかもしれないでござるな」
「それだと面倒だな。ピピとメタリンコンビを飛び回らせてさっさと倒してきてもらうか」
「それがいいでござる。どうせたいしたダンジョンではないでござるよ」
「チュリ(天然ダンジョンは初めてなので少し楽しみですね)」
あまり話題になってないようなダンジョンだもんな。
客が来ないダンジョンにはなにかしらの理由がある。
例えば初心者向けのダンジョンしかなかったりな。
「入場料とか取られるかな?」
「はははっ! さすがにそれはないでござるよ」
だよな。
でも無料なのに客が少ないのもさすがにおかしい。
「さっきワッサムさんは客……じゃなくて冒険者が村からいなくなる理由があるって言ってたよな? 俺たちの想像以上にダンジョンの難易度が高いのかもしれない」
「そうだとしても中級者レベルの冒険者自体が少ないでござるからな。それに大樹のダンジョンがあるのにこんな僻地に来る理由なんて近いから以外にはないでござるよ」
「でもこの村からウチに来てる人はいないんだぞ? それはこの村にいるほうがウチより強くなれるってことかもしれないだろ」
「田舎だからまだ大樹のダンジョンのことを知らないだけでござるよ」
それもあるかもしれないが、なんだか妙な胸騒ぎがする。
「……冒険者がすぐに村からいなくなるっていうのは、もしかするとダンジョンで死ぬからって意味じゃないか?」
「え……」
そう考えたらある意味納得だ。
この村にあるダンジョンにはかなりの強敵が出現するのかもしれない。
そんなダンジョンなら冒険者も少なくて当然だろうし、人に勧めるものでもないしな。
まぁだからって俺たちが入らない理由にはならないけど。




