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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第五百十八話 バビバ婆さんの家にて

 ワッサムさんに案内されモーリタ村の中を進む。


「店はさっきのスペースに集中してるんだよ。この先は居住区、下は……まぁそれはまたあとで自分の目で確かめてくれ」


 これより先、居住区のためモーリタ村の住民以外は立ち入り禁止。

 と書かれた看板が立っている。


 下への階段はさっきのところにあったあれか。


「ワッサムさんはお店をやられてるんですか?」


「あぁ。こう見えて俺は料理人なんだよ」


「料理人? 意外ですね」


「わっはっは! よく言われる!」


 よく笑う人だな。


「店を持ってる人もこの先に家があるんですか?」


「いや、店をやってるやつらは店に併設された家に住んでる。この村の店や家は全部村の物だから個人の資産という考えはないしな」


「へぇ~。じゃあ普段はあまりここを歩かないんですね。アオ君はワッサムさんが料理人てこと知ってたのか?」


「初耳です。てっきり冒険者のような仕事をしてるものかと。昨日も素材を売りに来たと言ってましたし」


「悪い、戦士と思ってるみたいだからなんだか言い出せなくてな。でも魔物と戦ったりしてるのは本当だぞ? ウチで扱ってる肉は全部魔物の肉なんだよ。基本は買取が多いが、自分で調達しにいくことだってある。でも魔物を狩ってきても当然食べられない部分のほうが多いだろ? 皮とか使えそうな素材はこの村で作る防具や小物用に回すんだが、それでも使いきれない素材ってのは出てくるからな。昨日はそれをまとめて売りに行ったんだよ。月に一度しか行かないからアオ君と会ったのは本当に偶然だったんだぞ。いつもは素材を売ったあとに食材を買ってサッと帰ってくるんだけどな。初対面のやつと酒飲んで長話するのなんて初めてだからつい楽しくなってな。面白い話もたくさん聞けたしな! わっはっは!」


 この人なんだかいい人っぽい。


 ん?

 アオ君が肘でつついてきた。


 ほら、自分の言った通りでござるだろ?


 とでも言いたげだな。


「あの大きな猫たちは戦闘訓練でもしてるんですか?」


「いや、特になにもしてない。あいつらがただ生きるために必死なだけだ。エサだって自分たちで魔物を狩ってくるからな」


「「え……」」


 ヤバいやつらじゃないか……。


「よく人間を襲いませんね」


「人間のことを仲間だと思ってるからな。あいつらは無茶ばかりするから死ぬことも多い。でも産まれてくる数だって多い。つまり産まれてすぐのときから俺たち人間が近くにいるんだからそりゃ仲間だと思ってくれるさ。俺たちももちろん可愛がってるし、人間は食べないけどあいつらが食べられそうな物は全部あいつらにやるしな。その代わりかどうかは知らんがあいつらは昼夜問わず村の入り口を守ってくれてる。だからこそああいう立派な家に住んでもらってるんだよ。ってパルドの人間からすればあの程度の家はただの木みたいなもんか、わっはっは!」


 村人が育ててるってわけじゃないのか。

 つまりただの猫があの強さってわけだよな。


「ってそこはそんなことないですよって言ってくれるところじゃないのか? 一応俺たちが補修なんかもしてるんだぞ? 結構立派な家だろ?」


「小さいほうの猫はどうなんですか?」


「おい……話聞いてた? ってまぁいいや。小さいやつらは戦闘はできない。戦闘なんかしたらすぐに殺されるか食べられるかして終わりだろうな。でもあいつらがいるから大きい猫たちも頑張れる。俺たちにとってもあいつらにとっても癒しのような存在の猫だな」


 癒しか。

 凄く大事なことだと思う。

 あの小さな猫の存在があるからトラ猫は強くなれるってことだもんな。


「そういやさっき大男の魔物が手に持ってたあれはなんの赤ん坊だ? あれも猫か?」


「フェネックスです」


「そうか、フェネックスか」


 驚かないのか。

 ならここらへんではレアってわけでもないのかもな。


「……フェネックス? 今フェネックスって言ったか!?」


 遅い……。


「そうです」


「フェネックじゃなくてか?」


「フェネックスです。魔物です。このへんには動物のフェネックもたくさんいるんですか?」


「いやいや! フェネックなんてとっくの昔に絶滅してるさ! フェネックスもここのところ全く見なくなったからもしかしたら絶滅したんじゃないかって噂も出てたんだぞ!?」


 やはりそうなのか。

 でもフェネックが絶滅してるんならなぜ今フェネックかどうかの確認をしたんだろう……。


「ここに来る途中にフェネックスの群れとミアミーアの群れが穴の中で争ってる現場に遭遇しまして。静かになったころに現場を見に行かせたら、さっきの赤ちゃんだけが生き残ってたんです。ほかは全滅でした」


「そうだったのか……。まだ群れで存在してたんだな。でも生き残りがたった一匹しかいないのは魔物と言えど可哀想だよな……」


 なんで赤ちゃんを連れてきたかは疑問に思わないんだろうか。


「着いた。ここがバルバ婆さんの家だ」


 まだワッサムさんに伝えておくことがあったんだけどな。

 どうせお婆さんにも説明することになるんだからいっしょでいいか。


「婆ちゃん! 入るぞ!」


 普段は婆さんか婆ちゃんのどっちで呼んでるんだ?


 ワッサムさんは中から返事がないにも関わらずドアを開け、勝手に入っていく。


「入ってくれ」


 まるで自分の家みたいだな。

 村人全員が家族みたいな感じなのかもしれない。


「もう来たのかい!? まだ湯を沸かしてるところなのに!」


 本当に熱い茶を飲ませるつもりだったのか……。


「だって早く来ないと婆ちゃん怒るだろ」


「それはお前たち村人だから怒るんであって客人は別だよ!」


「そんなこと言われてもな……いつも怒ってるし」


「まぁいい! とにかくそこに座りな!」


 この口調で話されたら怒ってると勘違いしちゃうよな。


 そして目の前にお茶が運ばれてきた……。

 熱々だな……。


「いただきます……」


 ……うん、普通の熱いお茶だ。


「美味しいですね」


 冷たいお茶がいいとは言えない……。

 いくら涼しい洞窟の中とはいっても熱いお茶を飲みたいと思うほど涼しくはない。


「アオ君、あれを」


「はい。お口に合うかどうかわかりませんがどうぞ」


「なんだい? ……お菓子か?」


「そうです。ソボク村名物のわらび餅です。老若男女に大人気の品となっております」


「へぇ~。初めて聞いたね。早速頂くとしようか」


 アオ君がサッと二人分の皿とお箸を準備し、取り分け始めた。


「気が利くね。あんたはこの子の使用人かなにかかい?」


「そのようなものです。ロイスさんに雇われて情報屋という仕事をさせてもらってます」


「えっ!?」


 ワッサムさんが驚いた。


「なんだ、お前も知らなかったのかい」


「だってアオ君は冒険者って言ってたし、ロイス君とだって大樹のダンジョンで知り合っただけと思ってたからさ……。そりゃダイフク君、さっきの騒ぎの発端になった白くて大きな猫が魔物だと知って、なんで昨日アオ君といっしょにいたかどうかは気になってたけど」


「なるほどね。つまりアオ君はワッサムからなにか情報を仕入れるために近付いてきたってわけかい」


「いや、近付いたのは俺のほうからなんだよ。冒険者ギルドでさ、ダイフク君を見た瞬間につい触ってみたくなって……。強そうだったし、モフモフしてたし」


「……疑ってすまなかったね」


「いえ。私もワッサムさんから色々と情報をお聞きしたのは事実ですし」


 本当にただダイフクに触りたかっただけなのか……。

 あの衛兵さんもそんなこと言ってたもんな。


「はぁ~。で、わざわざこんなところまで来たのはなんでなんだい? ワッサムが話した情報になにか気になることでもあったんだろ?」


「婆ちゃん、そんな細かく聞かなくてもいいんじゃないかな……」


「ん? ……お前、いったいなにを話したんだい?」


「……」


 なにか聞いちゃいけないことを聞いてしまったのだろうか……。


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