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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第五百十二話 砂漠でのプチ喧嘩

 みんなの支度も整い、モーリタ村へ向けて再び馬車が走り出した。


「ホロロ!」


 こいつは本当に敵意をむき出しにしてくるな……。

 近くにいると常に俺を引っ掻こうとしてくるので、フェネックスの体をダイフクが手で優しく抑えている。


「ミャ~? (目開いてないってことはまだ産まれたばかりよね?)」


「だろうな」


「ミャ~? (そのくせにもう攻撃してくるの?)」


「俺にだけな」


「ミャ~(ふ~ん。見込みありそうじゃない)」


 なんの見込みだよ……。


 でもボネが拗ねなくて良かった。

 こんなに小さな後輩が入ってくるとどうしてもみんなそっちにばかり構ってしまうからな。


「ミャ~(このくらいのうちから私とこいつの主従関係をハッキリさせておかないとね)」


 ボネの子分じゃないんだぞ……。


「ミャ~(ダイフク、こいつは私が見とくからあなたは外でも走って鍛えてきなさいよ)」


「ニャ!? (僕が見るって! それに前ララと来たときは本当に走らされて散々だったんだから!)」


「ミャ(今ならウェルダンが履いてるやつがあるからもっと楽なはずよ)」


「ニャ(でもあれ履くと爪が装備できないもん)」


「ミャ~(ああ言えばこう言うわね。誰に似たのかしら)」


 俺じゃないよな?


「ほらボネ、お前はゲンさんのとこ行って仕事してこい」


「ミャ~(仕方ないわね。私の念力があれば魔石回収なんて余裕だからピピには感謝してもらわないと。でも遠いところで倒したやつの回収は無理だからね)」


 ボネは後ろに座るゲンさんの足元へと移動した。

 冷房の危機は悪くなるが、後方警戒のために後ろのドアは開けっ放しにしてある。


 念力は魔石回収に最適な能力だよな。

 ボネは馬車の後方を見てるわけだから魔石を発見するのが少し大変そうだけど。

 かといってピピといっしょに空中に行かせるのは危険そうだし、馬車の上だと風で飛ばされそうだからな。

 昨日ボネが言ってたように、馬車の中から外が見えればもっと回収も楽になりそうだ。


「ボネちゃんも攻撃担当なんですか?」


 あ、そうか。

 ハナはまだボネが念力という能力を持ってることを知らなかったか。


「ティアリスさんとアリアさんには内緒だぞ? 実はな……」


 ……ボネの能力を説明してもハナはいまいちピンときていないようだ。


 見たほうが早いから、ハナにゲンさんの傍へ行くように言った。

 そしてハナはゲンさんの体の横から覗き込むようにして馬車後方を見た。


「……えっ!? 魔石がどんどん馬車の中に集まってきてます!」


 その魔石をアオイ丸がレア袋の中に詰め込んでる。

 なにかレアな魔石でも混ざってればラッキーなんだけどな。


「ボネちゃん凄かったです!」


 ハナは戻ってきてからもまだ興奮が冷めないようだ。


「ボネのいたずらには気を付けろよ。あの能力があれば遠隔のいたずらが可能だからな」


「あ、そうですよね……。でもボネちゃんはそんなことしませんよ」


 するから言ってるんだけどな。

 まぁハナにはしないか。


「ホロロ!」


 またこいつか……ん?


「目が開いてきたんじゃないか?」


 みんながフェネックスを見る。


「あ、本当ですね」


「開けづらそうでござるな」


「頑張ってますね!」


「そろそろミルクにしますか!?」


「ニャ? (僕も見ていい?)」


 ダイフクがフェネックスを抑えてた手を離すと、フェネックスは俺に向かってゆっくり歩いてこようとする。

 まだろくに歩けもしないくせに攻撃はしようとしてくるんだもんなぁ。


 そのフェネックスの首根っこを掴み、ダイフクのほうに顔を向けてやる。


「ニャ! (本当だ! もう開きそう!)」


 嬉しそうだな。

 ダイフクのテンションがこんなに上がることって今までになかったんじゃないだろうか。


「ミャ~! (私にも見せなさいよ!)」


「ニャ~(ボネはしっかり仕事してて)」


「ミャ! (あとで覚えときなさいよ!)」


 うんうん、微笑ましいやり取りだ。


「ゴ(なぁ、さっきのことみんなには言わなくていいのか?)」


「いいよ」


「ゴ(う~ん。お前なら気に入ると思ったんだけどなぁ)」


 俺がゲンさんから聞いた話はまだ内緒にしておこう。

 モーリタ村にぜひ行きたいと思わせてくれるような話ではなかったが、少しは興味が出たから行くことにはしたけどさ。

 まぁここまで来ておいて行かない選択肢なんてみんなにはなかっただろうが。


 それより今の俺はモーリタ村よりもこのフェネックスのことが気になって仕方ないだけだ。

 ララを喜ばせるには仲間にするしかないからな。


「外のことはみんなに任せて、今からとても大事な会議をするぞ」


「この子がどうやったらロイス君に懐くかですか?」


 さすがだな……。

 ララとマリンとカトレアには俺の考えが全て読まれてるようだ。


「ロイス君が起きたとき、その子は血を吸ってる状態で寝てたんですよね? それならもっと血を吸わせてあげればいいと思います」


 いきなりなんてことを言うんだ……。

 俺の体調のことも少しは考えてくれよ……。


「手がピリピリしてる夢を見たんだぞ? 夢じゃなくて現実だったけど」


「そりゃ血を吸われたらそうなるでしょうね」


 酷い……。


「ゲンさんが復活した事例もありますし、私も賛成です」


 エマまで……。

 俺の血をなんだと思ってるんだ……。


「ミルクに混ぜたらどうですか!?」


 ハナまで言うか……。

 さっきからミルクをあげたくて仕方ないだけなんじゃないだろうな……。


 カスミ丸はどうなんだ?


「……賛成でござる」


 おい……。

 俺の心配をしてる顔に見えるぞ?

 反対って言っていいんだぞ?


「ミルクに混ぜるのはいい案です。徐々にマナに慣れさせるために薄めからのほうがいいですね」


「いやいや、まだ血を吸わせるって決めたわけじゃ……」


「大丈夫です。ロイス君の血ならストックがありますから」


「は?」


「たまに私と師匠で抜き取ってあるやつがありますから安心してください」


「いやいやいや、安心してくださいってなんだよ……。俺が知らないのにたまに抜き取ってるってことはゲンさんのとき以来も勝手に抜き取ってるってことだよな?」


「血を抜く前にロイス君の健康状態は確認してますし、ロイス君や魔物たちのためでもあるんですから怒らないでください」


「怒るなって言われてもな……。勝手に安らぎパウダー飲まされて血を抜き取られてるなんて聞かされたら怒らないわけがないだろ。それに言ってくれたら血くらいあげるって前言ったよな?」


「欲しくなるときはいつもロイス君が寝た後なので仕方ないんです。それに睡眠中ですから、安らぎパウダーを飲ませるんじゃなくて嗅がせるようにしてます」


「別にそこはどうだっていいんだよ……。でもそんな夜遅くになんの実験してるんだよ……。またヤバそうなポーション作ってるんじゃないだろうな? 絶対に人間に飲ませるなよ?」


「そこは安心してください」


「安心できないから言ってるんだよ……。みんなもそう思うだろ?」


「「「……」」」


 さすがに俺に同情してくれてるようだ。


 この人と師匠、みんなが思ってる以上にかなりヤバい草マニアだからな?


「ハナ、気を付けろよ」


「え……」


「ハナちゃんを困らせないであげてください。ロイス君以外の血を抜いたことなんてありませんから」


「絶対にララの血は抜くなよ? 抜いたらウチから追い出すからな?」


「……」


「おい!? もしかしてもう抜いてるんじゃないだろうな!?」


「……違います。追い出されるなんて言われるとは……思っていませんでしたので……」


 え?

 カトレアが泣きそうになってる……。


「ロイスさん、追い出すとかそういうのは冗談でも言わないほうがいいと思います」


「そうでござる。家族なのに最低でござる」


「ララ総支配人なら血くらい抜かれてもなにも言わないと思います!」


「ニャ~(カトレア可哀想)」


「ゴ(謝ったほうがいいぞ)」


「ミャ~!? (なんの話してるのよ!?)」


「ロイス殿……さすがにフォローしかねるでござる」


 全員から俺が責められることになってしまった……。


 確かに少し言いすぎたかも。

 今はカトレアの実家のようなものでもあるんだし。

 もし俺が追い出されたら行くとこなんてないもんな。


「カトレア、ごめんな」


「……いいです」


 なんとか許してくれるようだ。


「その代わり、この子の名前は私が付けてもいいですか?」


「え……でもそれはララと相談して決めるって……」


「名前で呼んであげないからこの子も心を開いてくれないんです」


「いや……そうじゃないと思うけど……」


「ララちゃんも気に入ってくれるいい名前が浮かんでるんです」


 昨日みんなにはあんなこと言ってたくせに自分も考えてたのかよ……。


「それにそんな掴み方してると可哀想ですから私に貸してください」


 カトレアは俺から半ば強引にフェネックスを奪い取った……。


「……一応聞くだけ聞いてみるけど」


 聞かないといけない雰囲気になってるし……。

 みんなも気を遣ってなにも言えないし……。


「では発表しますよ?」


 なんで少し楽しそうにしてるんだよ……。

 さっきのは演技だったんじゃないだろうな……。


「私が名前を付けるのはメタリンちゃん以来ですからね?」


 いいから早く言えよ……。

 それにまだ決定じゃないからな?


「では……、ところでこの子、女の子ってこと知ってます?」


 くそ……知ってたのか……。

 明らかなオスの名前を考えてたらそこで終わりにしようと思ってたのに。


「今朝ゲンさんから聞いた」


「そうですか。私は昨晩ゲンさんといっしょに確認しました」


 そうだったのか。

 って俺が寝たあとに俺の近くまで来るのはこわいからやめてくれよ……。

 もしかしてこいつを布団の中に忍ばせたのもカトレアじゃないだろうな……。


「小屋の前で死骸を色々と調べてたんです」


 そんなのウチに帰ってからやれよな……。


「そしたら色々と名前が浮かんできてしまって」


 死骸を見て浮かんだ名前なのかよ……。


「フェネックスって尻尾が凄くフワフワしてるんですね」


「……そうだな」


「だからワタアメちゃんなんてどうでしょう?」


 ワタアメ…………意外にもララが付けそうな名前を考えてきたな……。


「もしくはメレンゲちゃん、それかホイップちゃんやカスタードちゃんなどは?」


 いくつ考えたんだよ……。

 これは多数決になる流れなんじゃないか……。


「……でもララはまず色に着目して考えるから。今は全体的にまだ白いけど、背中の色はもう少し濃くなってくると思うし……」


「ならカスタードちゃんですかね?」


 え?

 全部白っぽいものを言ってるんじゃなかったのか?

 カスタードってこんな色してたっけなぁ……。


「カスタードは少し長いし、合わない気が……」


「もぉ~、わがままですね」


 わがままなのか?

 俺が悪いんだろうか……。


「ならお菓子からは少し離れますが、羽にちなんでアンジュちゃんは? 天使って意味です」


「羽ってあれはおそらく別の魔物の羽だぞ? 分けるの面倒だったからとりあえずいっしょに入れてたんだ」


「いえ、あれは一部のフェネックスの体から生えてる翼の一部の羽で間違いありません」


「は? フェネックスに翼が生えてる?」


「そうです。翼がない個体ばかりでしたけど、一体だけは翼が生えてた形跡が見られました。残念ながら翼のほとんどは消滅してましたから僅かの羽しか残っていませんでしたが」


 なにを言ってるんだろう?

 俺が知ってるフェネックスには翼なんかないぞ?

 その一体だけ翼が生えてる別の魔物をフェネックスと勘違いしたってことだよな?


「ゴ(そういや言うの忘れてた。おそらくフェネックスが進化した新種だ)」


「フェネックスが進化した新種?」


「「「「新種!?」」」」


 なんでカトレアも驚いてるんだよ……。

 ってそこまでゲンさんと意思疎通できてるわけないか。

 フェネックスにもそういう個体がいるもんだと思ってたのかもしれない。


「ゴ(たぶんだけどな。その新種は体も少し大きい気がしたし、色も少し違う気がした)」


「え……じゃあこいつはどっちなんだ?」


「ゴ(新種だと思う。背中のあたりをよ~く触ってみろ。翼が生えてきそうな骨格じゃないか?)」


「こいつも新種で、そのうち背中から翼が生えてくるかもだって」


「「「「えっ!?」」」」


 みんなはフェネックスの背中を触って確認している。


「この子が新種だとすれば、残り四匹の赤ちゃんは通常のフェネックスでした。死因はおそらく栄養失調。母乳を満足に与えられていなかったのではないでしょうか。もしくはこの子が元気すぎてこの子だけにあげるので精一杯だったとか。強い者により多く与えたくなるのも魔物の本能として備わってるのかもしれませんし」


「ゴ(俺もカトレアの考えはそう間違ってないと思う。ほかのやつらに比べてそいつの体は一回り大きいしな)」


 つまりあの四匹は見捨てられたってことか。

 いや、その言い方はよくないよな。

 生き残る確率が高いほうを優先して育てたってことかもしれない。

 実際にあの争いの中で生き残ったのはこいつだけだ。

 それに俺たち人間にも殺されずにこうやってまだ生きてる。

 でもそもそも種類が違うんなら同じ母親から生まれたとは限らないけど。

 たまたま同時期に生まれたってだけかもしれない。

 でもそれなら四匹の親はなにしてるんだってことにもなるか……。


「ホロロ……」


 なんで泣きそうになってるんだ?

 みんなからいっせいに触られて不安になったのか?


 どれ、俺も少し……。


「ホロロ!」


 この野郎……。


 引っ掻いてくる元気はあるんじゃないか。

 残念ながらその靴下越しでは全く痛くないけどな。


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