第五百八話 穴での作業
ゲンさんとアオイ丸とピピ。
マドとカスミ丸とメタリン。
二手に分かれ、土魔法で穴を入念に塞いでいく。
何気にアオイ丸とカスミ丸は土魔法も使えるもんな。
俺も土魔法が使えれば魔道プレートを埋める作業とかもっと早く終わらせることができたのに。
そして穴を一つ残して塞ぎ終わると、今度はマカとメルの出番だ。
穴の中で安らぎパウダーをマカが火魔法で煙が出る程度に燃やし、それをメルが風魔法でゆっくりと穴内部へと送り込んでいく。
アオイ丸とカスミ丸も穴の入り口から微弱の風魔法を使い、メルを手伝っているようだ。
この忍者たち、有能すぎる。
どちらも一人でメルとマドの役割を担えるんだもんな。
でも魔法の威力はメルとマドのほうが上だから勘違いするなよ?
素早さだってリスたちのほうが上だぞ?
「ロイス君、邪魔になりますからもう少し離れてください」
「ん、そうか」
マカが至近距離で香りを嗅いで寝てしまわないように、マカの顔の周りだけ封印結界で囲んである。
一応マカの向こうには封印魔法の小さな壁も作ってある。
もし穴の奥から強力な魔法が飛んできてもたぶん死にはしないだろう。
そして十分ほど作業が続いた。
「もういいでしょう。ではマド君、この穴も塞いでしまってください」
「ピィ! (お任せを!)」
大役を任されてマドは嬉しそうだ。
マドは息をとめ穴の中に入り、少し奥すぎないかと思うような場所から土を埋め始めた。
念には念をってやつだな。
これであとはフェネックスが寝てくれるのを待つだけだ。
混乱してまた魔法をぶっ放されるのがこわいので穴からはだいぶ離れた位置で待機することにしよう。
「今何時だ?」
「十六時半ですね」
「もうそんな時間か。今から十五分ほど待って中に入ってたりしてたら早くても十七時にはなるよな。モーリタ村へ着くのは何時になるんだろう」
「もうすぐ日が暮れてきますよ。夜道の砂漠を移動するのはとても危険です。毒を持ったサソリの魔物もいますし、私たちが知らない夜行性の魔物もいるかもしれません」
「なら今日はここで休んだほうがいいってことか?」
「そうですね。大きな岩場も多いことですし、そこに洞窟を作って中に小屋を設置しましょうか。オアシス大陸西部の夜は寒いと聞きますから」
夜は寒いってことが意外なんだよな。
てっきり昼夜問わずずっと暑いものだと思ってたし。
フィンクス村のあたりはまだそこまで寒くないってシファーさんは言ってたけど。
「では土魔法部隊、そこの岩場の中に小屋を設置できるくらいの穴を掘ってくれ」
「ピィ! (頑張ります!)」
「ゴ(入り口は俺が座れるサイズくらいでいいからな)」
「部隊って自分たちも入ってるでござるか?」
「光栄でござるな」
光栄なのかよ……。
俺なら間違いなく面倒だと思うけどな。
そして十分ほどで二つの小屋の設置が完了した。
ゲンさんは見張りのため、岩場の入り口で座って寝るらしい。
ボネとダイフクと出会ったときもそうしてくれてたよな。
でも今回は封印魔法があるから、ゲンさんも安心して寝られるはずだ。
「なんだか野宿の概念を超えてますよね……」
「最近の技術の進歩は凄いんだからそこは気にしちゃダメ。早く慣れないと」
アリアさんとティアリスさんはすっかりいいコンビになったな。
「こんな場所でお泊りできるなんて凄い体験ですよね」
「ねっ。宿屋よりこっちのほうが楽しいし、自然の中だから気持ちいいよね」
ハナとエマもこの旅で仲良くなれたようで良かった。
普段エマは錬金術師エリアで仕事してることが多いから、料理人や武器防具関係の職人たちとはあまり絡みがないからな。
ハナも自分から誰かに積極的に話しかけにいく性格ではないし。
ここでいっしょにならなかったら顔を合わせても挨拶をするだけの関係で終わってたに違いない。
「そっちは六人だからベッドを追加しろよ」
「了解でござる。兄上、まず水回りの確認からするでござるよ」
「そうでござるな」
なんでもやってくれるなこの忍者たち……。
もう少し給料上げてやってもいいかもしれない。
というかこの二人は給料をなにに使うんだろう?
もう忍者村、じゃなくて冒険者村の家族のことは考えなくていいわけだし。
確認が終わると、みんなはワイワイ騒ぎながら中に入っていった。
完全に旅行気分だな。
小屋に入るとのんびりしてしまいそうだから俺はまだ入らないでおこう。
「もうそろそろ大丈夫でしょう」
「じゃあ行くか」
カトレアと魔物たちと共に穴へ向かう。
まずは最後に塞いだ穴と、そこから一番遠い場所にある穴を塞いでいた土をゲンさんとメルが崩していく。
そして片方の穴から、メルが風を少し強めに送り込み始めた。
もう片方の穴からは中に充満してた空気が出ていってることだろう。
カスミ丸とアオイ丸も慌ててやってきて、同じように風魔法を使い始める。
少しくらい休憩しててもいいのに。
空気が出ていってる穴付近にはメタリンがいる。
メタリンにはこれくらいの香りは効かないからな。
「キュ! (もう大丈夫なのです!)」
「よし、じゃあメタリンとピピは中を確認してきてくれ」
「キュ! (行ってきますです!)」
「チュリ(あの子どうなりましたかね)」
二匹は下向きに掘られている穴に入っていった。
「せっかくですからボネちゃんとダイフク君にも入ってもらいましょうか」
「ミャ(え? 嫌よ)」
「ニャ~(暗くてこわそうだし汚れそう)」
「こいつらは入らなくてもいいんじゃないか?」
「これも社会勉強です。魔物対魔物の壮絶な争いの結末をその目で見てきてください」
「ミャ(死骸の山なんて見たくないわよ)」
「ニャ(臭い凄そう)」
「あまり死骸を見せるのはどうかと思うぞ」
「ボネちゃんの封印魔法があればなにか予期せぬ事態があっても仲間を守れるでしょう?」
「ミャ~(そう言われたら行くしかないじゃない……)」
「それにダイフク君、野生の魔物はこういう出来事は日常茶飯事なんですよ?」
「ニャ~(野良にはならないってば。でもボネが行くなら行くしかないけど)」
「じゃあ決まりです。ちゃんと防具も着ましょうね。ララちゃんにこのことを話したらきっと喜んでくれますからね」
だからなんで表情と鳴き声だけで会話を理解できてるんだよ……。
まさか二匹の意思なんか関係なしに強引に進めてるわけじゃないよな?
「はい、完璧です。ボネちゃんはダイフク君の背中に乗って、しっかりつかまってください」
「ミャ(そこまで言わなくても大丈夫だってば)」
「ニャ(帰ったらすぐお風呂入る)」
「はいはい。お風呂とお食事の準備はしておきますから」
カトレアには通訳しなくても良さそうだな……。
「カスミ丸、小屋の前に魔物風呂セットの準備を頼む」
「もうしてきたでござるよ。それと今ハナ殿に食事を準備してもらってるでござる」
なんだと……。
言われる前にもうやってたとは……。
それでさっきは遅くなったのか。
「この二人の給料あと1000Gくらい上げてもいいんじゃないか?」
カトレアに近付き、小声で話しかけた。
「ダメです。まだ一か月しか働いてないんですから。最初に気合い入れて働くのは誰だって同じでしょう?」
確かに……。
ララが厳しいからせめて俺に気に入られようと今日だけいつも以上に頑張ってるのかもしれないしな。
「キュ! (ご主人様ー!)」
メタリンが叫びながら戻ってきた。
「どうした?」
「キュ! (ほかにも生き残りがいたのです!)」
「なにっ!? フェネックスか? それともミアミーアか? 安らぎパウダーは効いてるんだろうな?」
「キュ! (とにかくいっしょに来てくださいなのです!)」
「そうだな。みんな、頼んだぞ」
「キュ! (じゃなくて、ご主人様もなのです!)」
「は?」
なんで俺が?




