第五百七話 ミアミーア対フェネックス
五分ほど進んだところで馬車はとまった。
結構移動したんじゃないか?
すると屋根上から戦況を見ていたリスたちを代表してタルが説明にやってきた。
「ピィ(おそらく穴の内部で凄い威力の攻撃魔法が放たれ、それが複数あった地面の穴から外までいっせいに漏れだしてきました。そのあとすぐ馬車は移動し始めたんですが、それからも何度か空に向かって魔法が飛んでいくのが見えてましたね)」
「ミアミーアは魔法使えないからフェネックスの魔法だな。土魔法か風魔法だったか?」
「ピィ(風魔法だと思います。砂煙もだいぶ上がってましたが、竜巻のような状態になってましたので)」
「竜巻か。タルは威力をどの程度に感じた?」
「ピィ(外で2か3ほどの強さを感じましたから、穴内部ではおそらく4くらいはあったかと推測されます)」
「5段階中の4か。そうなるとフェネックス以外の魔物がいた可能性もある。フェネックスはせいぜい2が限界だし、複数のフェネックスによる魔法だとしてもそこまでの威力は出せないと思う」
「ピィ(ピピさんたち戻ってこないですけど大丈夫でしょうか……)」
まぁピピとメタリンのことだからおそらくどこかで結末を見届けてるんだろう。
ヤバそうな魔物がいたらすぐに逃げてくるだろうし。
「しばらくここで待機しよう。タル、リスたちは引き続き外の見張りを頼む。トイレに行きたい人がいたら今のうちに……」
「ピィ! (ピピさんたちが戻ってきました!)」
外から声が聞こえた。
そしてすぐにピピとメタリンが馬車に入ってきた。
カトレアは二匹をベタベタ触り、怪我がないかを確認している。
「大丈夫だったか?」
「チュリ(一瞬焦りましたけど、なんとか避けることができましたね)」
「フェネックス以外にもなにかいたのか?」
「チュリ(それが……)」
「ん? どうした?」
「キュ(死骸の数はおそらくミアミーアと思われるものが約40体、フェネックスと思われるものが約10体なのです。ミアミーアは全滅なのです)」
「40と10? 数が多かったほうのミアミーアが全滅?」
「「「「え……」」」」
強さにそこまでの差はないはずなんだけどな。
穴の中に誘き寄せて魔法で攻撃という作戦が功を奏したのか?
「ということはフェネックスにはまだ生き残りがいるんだよな? じゃあ魔法はフェネックスが放ったものだったってことか? タルからは上級に近い威力かもしれないって聞いたぞ? そんなのフェネックスに可能なのか? 魔瘴で進化したのか?」
「チュリ(私たちが確認した限り、生き残りは一匹です)」
「一匹だけ? 親玉フェネックスか?」
「……チュリ(いえ、子供のフェネックスです)」
「子供? フェネックスの?」
「「「「え……」」」」
「キュ(おそらくその子供フェネックスが魔法を放ったと思われるのです。凄い魔力の持ち主だったのです)」
「なんだと……。ってそいつを見てきたのか?」
「チュリ(隙を見て倒そうかとも思いましたが、泣いてたのでやめました)」
「泣いてた? ……親を殺されたからかもな。それで魔力が覚醒したのかもしれない」
「「「「……」」」」
ボネとダイフクのときみたいだな。
あのときは俺たちの馬車が襲われたから仕方なかったらしいが。
「キュ(その魔法で親も仲間も殺してしまった可能性もあるのです)」
そうだったら悲惨だな……。
自分が殺してしまったことに気付いて泣いてるのかもしれない。
「その子供は放置でいい。自分の身も自分で守れるだろう。というか俺たちが襲われることを考えたら相手にしないほうがいいし。で、魔石は?」
「チュリ(フェネックスはその子供の近くで固まって死んでたんです。だからまだ入手できてません。ミアミーアのは何個か拾ってきましたけど)」
「う~ん。じゃあ諦めるしかないか」
「ミャ~(せっかくなんだから取ってきなさいよ。泣いてるんなら気付かれないようにそーっと死骸ごとレア袋に詰めてこればいいのよ)」
血も涙もないことを言うなよ……。
ってボネの親の魔石はしっかり頂いたんだけどさ……。
まぁボネもダイフクも実の親とかには全く関心ないっぽいからな。
「ロイス君、みんなに最初から説明してください」
「ん、わかった」
そして改めて状況を詳細に説明する。
「もしかしてその子、魔力暴走を起こしたんじゃないでしょうか?」
「魔力暴走? 魔法の威力もそのせいだって言うのか?」
「はい。そう考えるのが自然だと思います」
「魔物でもあり得る話なのか?」
「そこまではわかりませんけど……」
魔力暴走か。
それを聞いたら余計に行かせるわけにはいかないよな。
「キュ? (私がダッシュで行ってくるのです?)」
「いや、魔力暴走を甘く見ないほうがいい。だからもう魔石は諦めよう」
「ロイス君、私あれ持ってますよ?」
「あれ? あれってなんだよ……ってあれか? なんであれを今持ってるんだよ?」
「ワトソン君とイザベラちゃんのお仕置き用アイテムを作成中でしたから、参考のために作業用レア袋に入れてたんです。結局もう作らなくてもよくなりましたからね」
あ、そういやそんなものを作ってたな。
「でもそれがあったところでどうしろって言うんだよ?」
「このまま魔力を放出し続ければその反動でいずれその子は死んでしまうと思います」
「それならそれで仕方ないだろ。人間なら助けるが、魔物なんだし。死んだら魔石を頂けるし」
「泣いてるって聞いちゃうと可哀想じゃないですか。せめてその子が親の分もしっかり魔物として生きていけるように魔力暴走だけは抑えてあげましょう」
「今だけ抑えたところでずっとってわけにはいかないんだぞ? あれも貴重なものだし、あげるわけにはいかないんだからな? ……もしかして仲間にしようなんて思ってないよな? そんな危ないやつ、絶対に無理だぞ?」
「……思ってませんよ」
「おい? あ、そういやカトレアとララは前回来たときもキャラメルキャメルの子供をむりやり連れ帰ってこようとしてたよな」
「「「「え……」」」」
無理に連れてきた結果、ララが落ち込むことになったんだぞ?
魔物が死んでカトレアも少しショックを受けてたじゃないか。
「あれは砂漠の馬車を引ける要員としてラクダがいればいいなと思ったから私も賛成したんです。でも今回はペッ……もし亡くなったら大樹のダンジョンで復活して、みんなを癒してくれるような存在になれるかもしれませんからね」
「「「「……」」」」
魔物とペットの区別がつかなくなってきてるな……。
俺も人のことは言えないが。
「じゃあカトレアの案を聞かせてくれよ。なにか浮かんでるんだろ?」
「もちろんです。まず穴を一か所を除いて全て塞ぎます。そして残った穴から安らぎパウダーの香りを送り込み、その穴も塞ぎます。しばらくしてから穴に入ると、なんとその子供はスヤスヤ寝てるじゃありませんか。そして子供はここへ連れ帰ってきます。そのあとのことはそこで判断しましょう。ロイス君になつくようなら連れていけばいいですし、なつかないなら……」
「「「「……」」」」
その先をはっきり言えよ……。
でも安らぎパウダーを使うのはいい案だ。
それなら安全に穴へ入ることができる。
「よし、とりあえず戻るぞ。すぐに作戦を実行する」
やはり目の前にフェネックスの魔石が転がってるのに頂かないわけにはいかないからな。




