第五百四話 多数決
カトレアを起こし、状況を説明した。
まだ頭がぼーっとしてるようで、半分寝ぼけながら聞いている。
そしてカトレアに説明が終わったところで、多数決を取ることになった。
「モーリタ村に向かうか、ウチに帰るか。どちらかに必ず手をあげるように。じゃあ目を瞑って」
俺一人で決めていいことではないからな。
カトレアは俺が不正しないかを見張るためにこの多数決には参加しないとのこと。
俺がどっちに不正すると思ってるのかはわからないが……。
「じゃあモーリタ村に行ってみたいという人? もしくは行ったほうがいいと思う人」
……え?
「……じゃあ次、早く大樹のダンジョンに帰ったほうがいいと思う人? もしくは帰りたいという人」
……さっきのは間違いじゃないのか。
「以上。目を開けていいぞ」
そして視線が俺に集まる。
「まぁもうここまで来てしまってるしな」
「「「「えっ!?」」」」
みんなが嬉しそうな反応を見せる。
「じゃあ満場一致でモーリタ村に決定」
「「「「やったぁ!」」」」
そんなに喜ぶことか?
「ハナ、無理してないか?」
「無理なんてそんな! パイナップルとバナナの魔物に会ってみたいですし!」
料理人目線か。
もし食べられるんなら味見してみたいもんな。
「メタリンに毒見させてからだぞ?」
「はい! 楽しみです!」
果物の魔物なんて期待しかないもんな。
ウチの名物になるかもしれないし。
「食べる気なのが凄いですよね……」
「不気味でしかないですよね……」
エマとアリアさんは食べたくないようだ。
「肉が果物の食感と味するって考えたら美味しそうじゃないか?」
「余計気持ち悪いですよ……」
「生で食べるんですよね……」
確かにそう言われると少し……。
やはり奇妙な魔物というのは気持ち悪いって意味で合ってたのかもしれない。
「まぁ魔物のことはともかく、戦士の村に興味があるから行きたいんだよな?」
「そうですね。禁断の魔法というのが封印魔法のことかどうか気になります」
「みなさんの強さを見てみたいですね!」
みんな理由が違うんだな。
「ティアリスさんはなんで行きたいと思ったんですか?」
「その奇妙な魔物のことも村のことも、冒険者としての血が騒がずにはいられないでしょ? きっと大樹のダンジョンのみんなも絶対行きたいって言うはずだよ」
そうだよな。
武器屋に防具屋に鍛冶屋。
それに宿屋もあるらしいし。
まさに冒険者のための村だ。
ウチの冒険者村はそういう施設がある村とは少し違うからな。
「本当に行っていいんだよな? ララに怒られるかな? 敵も強いみたいだし」
念のためカトレアに聞いてみる。
別に行くのが嫌って言ってるわけじゃないからな?
「多数決を覆すつもりはありませんが、私は反対でした」
「「「「え?」」」」
反対なのか?
ウキウキだったみんなの動きがとまった。
「理由は?」
「みなさんが行きたいと思うような村なのに、なぜ今まで情報が伝わってきてなかったのでしょうか?」
「「「「……」」」」
みんなが考え込む。
う~ん、そう言われてみれば変だな。
でもウチにいる冒険者でモーリタ村出身という人は聞いたことないし。
そもそも村って聞いただけで小規模なものを想像してしまうからあまり興味が湧くこともないだろうし。
「村周辺の魔物が強いってことは知られてたじゃないか? だからその村に住んでる人も強いと思われてるんだし、あの衛兵さんも期待されてて実際そこそこ強いみたいだし」
「でもその情報だけを聞いて、村に行ってみたいと思いますか? 戦闘に慣れてるお二人は別ですので少し聞いててください」
二人とはどうやらティアリスさんとアリアさんに向かって言ってるようだ。
う~ん。
周囲には強い魔物がたくさん出るし、砂漠の端っこにある村だもんな。
「行きたくないでしょう?」
「……だな」
二人以外のみんなも同じ意見のようだ。
「ではなぜ急に行く気になったのでしょうか?」
「それは自分が仕入れてきた情報が有益なものであるからでござるよ」
「戦いが盛んな村でしたら武器屋や防具屋があるのはある意味当然じゃないですか?」
「それはそうでござるけど、奇妙な魔物や封印魔法のことはまだ人に知られてない可能性のほうが高いでござるし」
「アオイ君、おかしいと思いませんか?」
「おかしいってなにがでござる?」
「魔物のことはともかく、禁断の魔法があるなんてことを初めて会ったばかりの赤の他人に話すと思いますか? しかも少しタイミングが良すぎると思いません?」
「……自分がハメられてるとでも言いたいでござるか?」
「では仮に向こうが最初からそのつもりでアオイ君に近付いてきたと考えてみたらどうです? なにかおかしな点とかありませんでした?」
「おかしな点……」
アオイ丸は考え込んでしまった。
カトレアの言うことはもっともだ。
俺たちはその人と直接会ったわけではないからなんとも言えないし。
でも状況を整理することならできる。
最初アオイ丸はその人が強そうだと思って自分から話しかけようとしたって言ったよな。
するとアオイ丸がそうするより前に向こうから近寄ってきて、ダイフクをモフモフし始めたとか。
それで『この猫、強そうだな』って言ったんだよな。
……怪しく思えてきた。
話のきっかけとして猫好きをアピールして近付いてきたのかも。
猫がたくさんいるかもしれないモーリタ村だったら別に珍しいわけでもないだろうしな。
でもあの衛兵さんの場合は別だぞ。
あの人はダイフクのことを猫の魔物と知ってて好奇心を抑えられなくなっただけだからな。
……ん?
その人はダイフクを見てすぐに猫だとわかったってことか?
モーリタ村にもこんなに大きな猫がいるのか?
犬ならこのサイズもちょくちょくいるだろうけどさ。
それにダイフクをモフモフしたあとのセリフも気になる。
この猫強そうだなとか普通言うか?
大きいな、可愛いな、モフモフだな、真っ白だから丸まってるとダイフクみたいだな、とかならまだわかるが、第一声が強そうだな?
モーリタ村周辺で巨大猫の魔物でも出現するのだろうか?
でもそれならこんな町中に魔物がいるんだからダイフクを見てまず警戒するよな。
そうしなかったということは、村の中に巨大猫がたくさん住んでいるか、……ダイフクのことを知ってて近付いてきた可能性があるってことか。
俺の考えすぎだろうか。
別にこの町の人たちはダイフクがそのへんを歩いてても誰も魔物だとは思ってないようだし。
猫と思ってくれてるかはわからないが、大きいけど可愛いペットが歩いてると思うのが普通だもんな。
でもダイフクを触ったことで、ダイフクの身体がそこそこ鍛えられてることがわかったのかもしれないか。
戦士だとしたら筋肉とかには敏感そうだし。
「私の考えすぎかもしれませんけどね。でもいくらアオイ君が先にビールを奢ったとはいえ、そのあとにまた奢り返してくれる人なんているでしょうか? 150Gもするんですよ? 二人分だと300Gですよ? ビールといっしょにおつまみとかも頼んだでしょう? ギルド内でほかに飲んでる人いました? まぁ昼間から飲む人は少ないかもしれませんが」
アオイ丸と同じように向こうにもなにか目的があって、向こうからしても信用してもらうために奢ってくれたという可能性もあるよな。
じゃなきゃ150Gのビールなんて気軽に奢れるわけがない。
モーリタ村の経済状況は知らないけどさ。
「なんだか自信がなくなってきたでござるよ……」
あ~あ。
こりゃこのあと買い物するって気分でもなさそうだな。。
「すみません。マリンならきっとこう考えるだろうなって思ったんです。これが私たちをモーリタ村へ誘き寄せるための罠の可能性が少しでもあるなら言わないわけにはいかないですから」
そういうことか。
確かにマリンなら今カトレアが指摘したようなことを言うだろうな。
おそらくララも疑問を持つだろうが、それでも好奇心が勝って結局モーリタ村に行くことを選ぶと思う。
「じゃあ俺がアオイ丸の話を思い返して疑問に感じた点を言うからな」
ダイフクへの接し方の怪しさを話しておくか。
みんなは俺の話を真剣に聞く。
そして少し考える時間を設け、再度多数決を取ることになった。
「もういいか? でも今度はみんなに手をあげてもらう前に、俺の意見を先に言っておこうと思う。悩んでる人がいたら参考にしてくれ」
反則かもしれないが、別にいいよな。




