表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
503/742

第五百三話 特殊な村とは

「それより早く続き。本当に買い物の時間なくなるぞ」


「そうでござるな」


 アオイ丸は床に地図を広げようとした。

 だが思っていた以上に狭かったのか、広げるのをやめた。


「後ろの馬車に行くでござるか?」


「そうだな。魔物たちはカトレアといっしょに寝てていいぞ」


 カトレア以外の人間たちだけでそーっと移動する。

 ボネとピピは付いてきたが、ほかは全員睡眠を取るようだ。


 そして改めてアオイ丸は地図を広げた。


「ここが今いるナミの町で、西に連なる山沿いに南下していった場所にモーリタ村があるでござる」


 ナミの町がこのオアシス大陸の中央寄りにあるとはいっても、ここより西側はほぼ山だし、北側の海に面する部分も山になってる。

 大ピラミッドもその山の一つって感じだよな。


「さっき言った奇妙な魔物が目撃されたのはこのモーリタ村にほど近い山付近でござる。なにか落ちてると思って村人が近付いたら急に動き出して逃げていったそうでござるよ」


「なんだよそれ。人間を見て逃げる魔物なんかブルースライム以下だろ。そもそも本当に魔物なんだろうな? 小動物とかじゃないのか?」


「自分も最初はそう思ったでござる。でもそれだけじゃ奇妙とは言えないでござるだろ?」


「じゃあなんで奇妙なのかを先に言えよ」


「イライラしないでほしいのでござる……」


 別にイライラなんて……してるかも。


 もったいぶらないで奇妙な魔物の話を早くしてくれればいいのに。

 これじゃ本当に日が暮れてしまうぞ。

 サハに着いたころに暗くなっててもむりやり船出すからな?


「兄上、その様子は相当有益な情報を得たでござるな?」


「ふっふっふ。わかるでござるか妹よ。雇い主を満足させるためにはただ言われたことをこなすだけじゃダメなんでござるよ」


「さすがでござる。やはりこういう仕事はコタローより兄上のほうが向いてるでござるな」


 なんなんだよこのござる兄弟は……。

 そんなにハードルあげて大丈夫なんだろうな?


「聞きたいでござるか?」


「早く言えよ」


「こわいでござる……」


「兄上、雇い主を怒らせるのは一番やってはいけないことでござるよ……」


 今度どこかに行くときはコタローだけ連れて行こうか。


「その村人によるとでござるな、道端にパイナップルが落ちてると思ったらしいんでござるよ」


「パイナップル? 果物の?」


「こんなところに大きなパイナップルが落ちてるなんてラッキーと思って拾おうとしたそうでござる。すると突然、足が生えて凄い速さで逃げていったそうでござる」


 は?

 パイナップルに足が生えた?


 ……なにを言ってるんだろう?


「その村人は正気だったのか? 暑さで幻惑を見てたとか?」


「別の村人の話でござるが、同じようにバナナの目撃情報もあるらしいでござる」


「バナナ? そいつも足が生えたのか?」


「バナナからバナナが生えてたように見えたらしいでござるよ」


 ……足もバナナだったってことか?

 ということは手もバナナだよな?

 本体がバナナとして、そこから足バナナが二本、手バナナが二本、合計五本のバナナってことでいいか?

 顔はさすがに本体にあるよな?

 パイナップルも同じようにパイナップルからパイナップルが生えてたんだろうか。


「ってそんな話あるわけないだろ。信じるなよ」


「本当っぽかったでござるよ……」


「誰に聞いたんだ?」


「モーリタ村から来たという三十歳前後の男性で、素材屋に魔物の皮などを売りに来たついでに冒険者ギルドも覘きに来たようでござる。そこそこ強そうだったので世間話でもするつもりで話しかけようと思ったら、向こうが先にダイフクの存在に気付いてダイフクをモフモフし始めたんでござるよ」


 猫好きなのはあの衛兵さんと同じだな。


「そしたら、この猫強そうだなって言ってきたのでござる。見る目あるでござるだろ? だから自分もダイフクが褒められて嬉しかったということにして、ビールを一杯奢ったでござるよ。すると二杯目は向こうが奢ってくれたんでござる。いい人だったでござるな」


 こいつ昼間っから酒飲んできてるのかよ……。

 そのせいで作り話を冗談とも思わずに本気で信じてしまったんじゃないだろうな?


「お酒の場に持ち込んで話を聞きだすのは兄上の常套手段でござる。さすがでござるな」


「当然でござる。自分はダイフクといっしょに世界中を旅するさすらいの冒険者になりきったでござるよ。向こうもほかの大陸のことに興味があるらしく、色々と聞きたがってくれたから都合が良かったでござるな。こちらから先に色々話してると、向こうも自然とモーリタ村のことについて話してくれたでござるよ。モーリタ村にはたま~に冒険者が訪れるくらいで、一番近いナミの町にさえも情報がいかないのが普通らしいでござるな」


「ということはなかなかのレア情報の可能性があるでござるな」


 カスミ丸はアオイ丸の話を信じているのか?

 パイナップルとバナナだぞ?


「でもギルド併設の酒場のビールはとんでもなく高かったでござる……。経費で落としてほしいでござるけど、ララ殿に信じてもらえるでござるよな? 一杯150Gでござるよ?」


「「「「150G!?」」」」


 そりゃこんなに水を大事にしてる国なんだから高いに決まってるだろ。

 この町で作られてるはずのヤシの実ジュースでさえ100Gって書いてあったからな。

 まぁビールはほかの町から仕入れてるとは思うが、こんな場所にまでビールを運んでくる手間を考えたら150Gでも安いほうだと思う。


 でも情報屋の仕事ってそういう努力が大事になるんだよな。

 世に溢れているような情報だったらただ足を使って集めればいいけど、今みたいな情報はある程度仲良くなってからじゃないと教えてもらえないだろうし。

 二杯目はビールを奢ってもらえたということは向こうもアオイ丸のことを信用して話したんだろうし。


「その人はまだギルドにいるのか?」


「もうモーリタ村に帰っていったでござるよ。今から帰っても日が暮れるらしいでござるからな。少し長居しすぎたって笑ってたでござる」


 この地図で見た感じだとサハよりは近いな。

 南東のフィンクス村へ行くのと同じくらいってところか。


「一人だったんだよな? 暗くなって魔物とかは大丈夫なのか? そこそこ強い魔物が出るんだろ?」


「あれは相当鍛えてたでござるよ。村人自ら戦士の村と呼んでるのはだてでないでござるな」


「「「「戦士の村?」」」」


「そうみたいでござる。あ、戦士といっても職業の戦士ではなくて、戦闘民族って意味の戦士でござるよ? 魔道士もいるみたいでござるし、武器屋や防具屋、鍛冶屋なんかもあるらしいでござる」


 村なのに?

 パルド王国の村にはそんな施設があるところないよな?

 ユウシャ村にもなかった気がする。


「近くに鉱山もあるらしくて鉱石も採取できるようでござる。その人も鋼の鎧を着て鋼の剣を持っていたでござるからな。ピカピカとはいかなかったでござるけど、それなりに腕のいい鍛冶師がいそうな感じはしたでござるよ」


 鎧なんか着て暑くないのかな……。


 ってそれよりモーリタ村はユウシャ村に近いのかな?

 近いって距離的な意味じゃないぞ?


「魔王が復活したことは知ってたか?」


「もちろんでござる。魔瘴が迫ってきてることも知っていたでござるな」


「避難は?」


「するわけない。今より少し魔物が増えるだけだ。魔物の種類や数が増えてくれるんなら食べ物の幅が広がってむしろ大歓迎だな、わっはっは! らしいでござる」


「「「「……」」」」


 戦闘民族だ……。

 完全に戦闘民族の考え方だ……。


「でもいくら腕に自信があっても魔瘴は危険だって説明してやったか?」


「もちろんでござるよ。例としてマーロイ帝国のユウシャ村の話もしたでござるし。そしたらなんと……」


 なんだよ?

 ユウシャ村のやつらみたいに軟弱な鍛え方はしてないからいっしょにするなとでも言われたか?


「馬車の周りに人はいないでござるか?」


 聞かれたらマズい話なのか?


「ピピ、確認を」


 ピピは馬車を出て、一周して戻ってきた。


「チュリ(馬車の中の話までは聞こえないでしょうが、人はたくさんいますよ。みなさんこちらを見てなにか話されてます)」


 まぁそれは仕方ない。


「大丈夫そうだぞ」


「……自分の推測も込みの話でござるが、モーリタ村には封印魔法が伝わってると思われる発言があったでござる」


「なんだと?」


「封印魔法とははっきり言ってなかったでござるが、村全体を守る壁のような物があると言ってたでござるよ」


「壁? 魔法じゃなく物理的にって意味じゃなくてか?」


「封印魔法かと聞いたら、村に伝わる禁断の魔法だからこれ以上はさすがに話すことはできないと言われたでござる。村に来た冒険者にも他言しないように普段から言ってるとか。それ以上聞いて怪しまれても困るからその話はそこで終わりにしたでござるけど」


 禁断の魔法か……。

 それなら封印魔法の可能性も高そうだな。


 ウチの地下室にあった封印魔法の本も、元々はドラシーがララにしか読めないように設定してた言わば禁断書だ。

 それにおそらくほかにも禁断の魔法が書かれている本があの地下室にはいくつかある。


「ロイス殿?」


「ん? あぁ。その魔法があるから避難しなくても大丈夫ってことなんだな?」


「そうだと思うでござる。少なくとも村の中は安全だから安心して遊びに来てくれって言われたでござるからな。でも村周辺の魔物のレベルはナミの町周辺の魔物と比べて極端に上がるから猫と二人きりじゃ村に辿り着けないかもしれないけどな、わっはっは! と言われたでござる」


 笑うようなところなんだろうか……。


「つまりさっき言った特殊な村というのは、戦士の村ってことを言いたかったのか?」


「うむ、でござる。ダンジョン管理人としては見ておいたほうがいいんじゃないでござるか? この機会を逃すと今後は来れないでござるし、冒険者村にも活かせるかもしれないでござるよ? それに奇妙な魔物の目撃情報も聞き捨てならないでござるだろ?」


 う~ん。

 どうしようか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=444329247&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ