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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物
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第五百一話 長い買い物

 ラシダさんに別れを告げ、馬車は大通りをゆっくりと進み始めた。

 さて、みんなはどこにいるんだ?


 さっきラシダさんとカトレアがよくわからない話で盛り上がってるところにウェルダンが戻ってきた。

 どうやらカスミ丸たちは先に町に繰り出していた三人と無事合流できたようだ。

 そして今から帰ることを知らされ、三人は急いで買い物を始めたらしい。

 当然カスミ丸とアリアさんもそこに加わって買い物を楽しんでるんだろう。


 それより、暑い……。

 御者席なんかに座るもんじゃないな。


「なるべく日陰歩けよ」


「モ~(わかってるよ。でも日陰でも暑いよね)」


「でもこんな暑さの中を走ってきたんだから相当レベルアップしたんじゃないか?」


「モ~(ふふっ、馬車から魔法を放ってるだけのメタリンに比べたら僕のほうが遥かにいい修行になっただろうね)」


 ストイックすぎる……。


「ミャ~(帰りは行きの倍以上の速さで走りなさいよ。ラクダを気にしなくていいんだから余裕でしょ)」


 こいつ……。

 さっきもずっと寝てたくせに……。


「モ~(任せてよ。僕のスピードを甘く見ないでよね)」


「……ミャ(そ、そうよね。さすがだわ……)」


 ボネすらちょっと引いてるぞ……。


「それよりみんなはどこだ?」


「モ~(さっきはあのへんに……あ、いたよ)」


 まずリス二匹の姿が目に入ってきた。

 店の前で待機中のようだ。


 そしてウェルダン馬車がとまった。

 ヤシの実が落ちてこないところに。


 店の中にはティアリスさんとアリアさんの姿が見えている。


「カトレア、見にいくか?」


「……」


 ドアを少し開けて聞いてみたものの、馬車の中からの返事はない。

 どうやら眠っているようだ。

 錬金術や転移魔法陣の作業は魔力だけじゃなく神経も体力も相当使うらしいからな。

 俺には一生わからない疲れなんだろう。

 さすがにその疲れを羨ましいとは全く思わないが。


「マカ、エク、中で休憩していいぞ」


「「ピィ! (はい!)」」


「カトレアが寝てるから静かにな」


 二匹は凄い勢いで馬車に入ろうとしたが、直前でゆっくりとした動きとなり静かに中に入った。


 中ではゲンさんが座る傍でカトレアとピピが寝ているが、二匹もその傍に行き腰を下ろした。

 みんなゲンさんの近くが落ち着くんだろうな。


 さて、俺は店に入ってみようか。


「ミャ~(ねぇ、私も馬車の中に入りたいんだけど。暑すぎ。どうせたいした物なんて置いてないんだし店の中なんて見なくてもいいわよ)」


 う~ん。

 ボネなしで行動するとなにかあったときに怒られるしな。

 こうやって御者席に座ってるだけでもどこかから魔法が飛んでくるかもしれないし。

 今の俺を恨んでる人たちがこの町にはいるからな。


 仕方ない、店は諦めるか。

 まぁ今眺めてきただけでも暑さに勝てるほどの魅力がある店は目につかなかったしな。


 せっかくだからみんなにはゆっくり買い物してもらおうか。


「ウェルダンも中に入って休憩していいぞ」


「モ~(うん、買い物長くなりそうだしね。今のうちに栄養補給しておこうかな。少しお昼寝して体力も回復したほうがいいよね。僕が倒れるとメタリンも責任感じるだろうからさ)」


 なんて仲間想いで責任感が強い魔物なんだ……。

 なにより馬車を引くという仕事に対してのプロ意識が凄い。

 ウェルダンに敬意を表して馬車じゃなくて牛車と呼ぶべきなのかもしれないが、それだとなんだか遅いイメージがするんだよな。

 メタリンのときはスライム車って呼ぶのもなんだか長くて面倒だしピンとこないし。


 馬具を外すとウェルダンは暑さなんて余裕といった表情で馬車の中にゆっくりと入っていった。


「ミャ(悔しいけど少し頼もしく見えてしまったわ。いつもバカっぽいのに)」


 最後の一言は余計だぞ……。


「ミャ(ねぇ、早く。この馬車なら少しくらい攻撃されても大丈夫だから見張りもいらないわよ)」


 ボネが急かすので俺たちも馬車の中に入る。


 そして食事をとったウェルダンとマカとエクは横になるとすぐに眠りについた。

 やはりこの暑さの中だから相当疲れてるんだろう。

 ほんの束の間の休息だが、このあとに備えて少しでも休んでもらわねば。


「ミャ? (前から思ってたんだけど、この馬車小さくない?)」


 ボネは小声で話しかけてくる。

 ちゃんと配慮ができて偉いぞ。


「これが小さかったら四人乗り馬車なんてもっと小さいだろ?」


「ミャ~(あの馬車は魔工ダンジョン内の洞窟を想定して作ってるんだから小型でいいのよ。こっちはお出かけ用なんだからもう少し大きいやつがあってもいいんじゃないかってこと。窓とかも付けて外の景色が見えるようにしてよ。海中トンネルに使ってるあの透明のやつなら強度も大丈夫じゃないの? 外が見えるんなら私も中にいながら攻撃できるしね。それに天井からも出入りできたりしたほうがリスのみんなも便利じゃない? 馬車は使う機会多いんだからもっと機能的にするべきよ。重量のこともあるから船ほど便利にとまでとはいかないでしょうけど、カトレアたちならできるでしょ)」


 次々と苦情……じゃなくて意見が出てくるな。


 でもそうか。

 ボネはこんなに長時間馬車に乗ったのはあの帝国のとき以来なんだよな。

 もちろんあのときの記憶はないだろうけど。


 最近の俺の日課だった道端の木へのマナ補給にもボネは付いてきてないし。

 ララがダンジョンに連れてくって言って聞かないんだよな。

 まぁ俺のほうは封印結界内の安全なお仕事だからか。

 馬車を引くメタリンかウェルダンのほかに、メルとマドにも道路補修してもらうために付いてきてもらってるから危険なんてまずないもんな。


「ミャ~? (聞いてる? 帰ったらカトレアに言いなさいよ? じゃあ私も寝るからね)」


 ボネは俺の膝の上で寝てしまった。

 今日はいつも以上に寝すぎじゃないか?

 暑さでだるいのはわかるけどさ。


 ……珍しくゲンさんも寝てるようだ。

 なんだか俺は目が覚めてしまった。

 前のドアを少し開けて外でも見てるか。


 ……冷房の効きや、外部からの攻撃を防ぐためとはいえ、このドア邪魔だよな。

 転移魔法陣にしたらどうだろうか?

 でもそれじゃ顔だけ出すってことが無理だからダメか。

 なにかいい案ないかな~。

 いっそのこと冒険者たちから案を募集してみるか?


「キュ? (ご主人様?)」


「うぉっ!?」


「ミャ? (なに?)」


 ドアの隙間越しにメタリンが現れた。


 ……あ、ボネだけじゃなくカトレア以外全員起こしてしまったようだ。


「キュ? (覗きなのです?)」


「変な言い方するなよ……。とりあえず中入れ」


 メタリンを中に入れドアを閉める。

 ただでさえこの馬車は目立ってるのに、スライムがいるとなると大騒ぎになるからな。


「どこ行ってたんだ?」


「キュ(あれ? ピピさんから聞いてないのです? 地下遺跡に潜入してきたのです)」


「おい……なにしてるんだよ……」


「チュリ(あとで言おうと思ってました)」


「キュ(まさかあんなところでばったり会うとは。奇遇だったのです)」


「奇遇とかそういう話じゃないからな? なんで勝手に潜入したんだよ?」


「キュ(お買い物するからそのへんの路地に隠れててって言われたのです。だから散歩することにしたのです。そしてしばらく歩いてたら、怪しい人物を発見したのです)」


「怪しい人物?」


「キュ(そうなのです。家の外に一人でしゃがみ込み、壁に向かって杖を当ててブツブツとなにか独り言を呟いていたのです)」


「確かに怪しいな。火魔法で放火でもするつもりだったのか?」


「キュ! (私もそう思ったのです! だからそんな悪者は捕らえてグルグル巻きにせねばと思ったのです!)」


 本当に放火犯ならな。


「キュ! (そして魔法を放つ前に私の俊足で杖を奪い取ってやったのです!)」


 おいおい……。

 まぁその人を攻撃したわけじゃなくて良かった。


「で、どうなった?」


「キュ! (私が杖を口で咥えたまま逃げるとその人は追いかけてきたのです! でもそれこそ私の作戦だったのです! そのまま路地を抜け、大通りにいたタルと合流し今度はタルといっしょにこっちから敵に向かっていったのです!)」


 楽しんだようだな。

 でもそこからどうやって地下遺跡に潜り込めたんだろう?


「キュ! (そして今度は路地で二対一になったのです! 敵は私の姿を見て驚いていたのです! 大声を出されることも覚悟したのです!)」


 絶対にバレるなって言ってるのに、覚悟しちゃダメだろ……。


「キュ! (そしたらなんと!)」


 なんだ?


「……キュ(もしかして大樹のダンジョンの魔物さん? って言われたのです……)」


 なんで落ち込むんだよ……。


 もう今回でここに来たのは三度目だし、水道屋の情報網なら俺たちのこともみんな知ってそうだもんな。


「キュ(そしてなんとその人は水道屋さんだったのです)」


 だろうな。

 みんなすぐに気付いてたから誰も驚きやしない。

 家の外の水道に転移魔法陣の魔法でもかけてたんだろう。


「……キュ? (驚かないのです?)」


「驚きすぎてみんな声が出せないんだよ」


「キュ! (良かったのです!)」


 それはなにより。


「キュ(そのあとなぜかお仕事を見学させてくれることになったのです。タルがハイエーテルあげると喜んで飲んでくれたのです。いい人だったのです)」


「で、その流れで地下遺跡も見せてもらったのか?」


「キュ(はいなのです。誰かに見つかりそうになったら隠れてねとは言われたのです)」


 俺が魔物と会話できることは知られてないのだろうか?

 というかその人もよく初対面の魔物といっしょに行動しようと思ったな……。


「水道屋本部から入ったんだよな?」


「キュ(そうなのです。あまり人もいなかったですし、いつでも潜入できそうなのです)」


「忙しいらしいからな。でもどんな危険があるかわからないからもう勝手に入るのはやめとけよ?」


「キュ(了解なのです。でも思ってたより地下遺跡の石は硬かったのです)」


「どれくらいだ?」


「キュ(ミスリルといい勝負だと思うのです)」


 ミスリルと同等だと?

 それなら補佐官さんが自信を持つのも頷けるな。


「キュ(ただ……)」


「ただ?」


「キュ(水路の下の石だけはなにか特殊な石のように感じたのです)」


 ん?

 それって例のやつか?


「ピピも見てきたんだよな?」


「チュリ(はい。確かに魔力が感じられましたし、なにかただならぬ雰囲気を持った石でしたね)」


 ただならぬ雰囲気の石ってなんだよ……。

 下の汚い水が漏れてるんじゃないだろうな。

 それを想像したらもうこの町で水は飲めなさそうだ……。


「ちゃんとその水道屋さんに地下遺跡を見せてもらったお礼言ってきたか?」


「キュ(もちろんなのです。大樹サイダーやカフェラテとかをあげてきたのです)」


「そうか。で、タルは?」


「キュ(さっきそこでメルとマドに呼びとめられてハナちゃんたちの荷物持ちに参加させられたのです。人前でレア袋は使えないからって両手にいっぱい持たされてたのです)」


 なにをそんなに買うものがあるのだろう……。

 というかリスが持ってたら余計に変だろ……。


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