第四百九十五話 話の再開
「お爺さん、馬車の中での話はどの程度のことまで話されました?」
「大樹のダンジョンの管理人が来たってことと、ラシダが水道屋のことをもう話したってことくらいでほかは全然じゃよ。ワシから話すより青年から聞いたほうが驚きもあると思ってな。それに会うこと自体久しぶりじゃから近況報告だけでもまだまだ話すことがいっぱいだったんじゃ」
なんだ、なにも話してないようなものじゃないか。
でもこのお爺さんも結構怪しいから本当のこと言ってるかどうかはわからないけどな。
まぁあの少ない時間でそこまで話してる余裕はないか。
では気を取り直して補佐官さんと話をすることにしよう。
「えっと、さっきどこまで話してましたっけ?」
「封印魔法をかけるには素材や錬金術師さんの手が足りてなくてすぐには難しいと。魔瘴のことを考えると今のうちにサハに避難するのが得策だというところまでです」
うん、ちゃんと理解してくれてる。
ここまでに魔道列車のことを絡めてこないあたりは好感が持てるぞ。
「それだけ理解してくれてるのであれば、避難したくないというのはただのわがままではないでしょうか?」
「その通りです。ですが私たちの考えた案も一度聞いていただけないでしょうか?」
ほう?
案まで考えてるとはやるじゃないか。
でもさすがに名案とは言えないだろうけどな。
「お聞かせください」
「ありがとうございます。先ほど水道屋の話がチラッと出ましたが、地下遺跡の話はもう聞いてますよね?」
「えぇ。そこに水路や神殿があるとも聞きました。水路に魔力を流してることや、転移魔法陣のことも聞いてます」
「なら話は早いです。おそらく地下遺跡は特殊な石で作られています。地上で使われてる石とは全くの別物です。水路内だけではなく天井や壁などもです」
やはりそうか。
ピラミッドで使われてる物と同じだといいが。
「ですから今の状態で封印魔法をかけることだってできると思うんです」
俺たちと同じ考えか。
「もしそれが可能だった場合、地上を捨ててでもナミの町の住人全員で地下遺跡で生活したいと考えています」
おお?
地下遺跡の存在すら公表してないのにか。
「地下遺跡の石はとても頑丈なので封印魔法をかけていただかなくても大丈夫じゃないかなんて意見もありますが、私は魔物はそんなに弱くないと思っています。そして封印魔法をかけていただいたあとの今後の維持方法ですが、幸いにも私共の町には水道屋という存在がいますので彼らに全て任せるつもりです。もちろん維持をしていても、封印魔法が次第に弱まっていくことも理解しています」
問題はそこだよな。
文書には定期的に訪問しろって書いてあるけど、実際はどう考えてるんだ?
「実は地下遺跡には国王だけが入ることができる秘密の部屋があります」
秘密の部屋だと?
国王だけが入れるってどういうことだよ?
というかなんで急にそんな話?
「国王が身につけてるこのネックレス、これを装備してないと通ることができない転移魔法陣があるんです」
転移魔法陣……。
やはり人が通れるものもあったか。
ん?
カトレアが少し笑った気がする。
もしかして嬉しいのか?
危険だから絶対にほかにもないか探したりするなよ……。
でもラシダさんはやっぱり嘘ついて……ん?
ラシダさんを見ると首を横に振っている。
そんなのがあるなんて知らなかったって言いたいのか?
「先日、私と大臣も初めて入らせてもらいました。カトレアさんたちが来てくれた次の日です。中には本がたくさんあるだけでしたが、国王は本に全く興味がありませんでしたので今まで一度しか入ったことなかったそうなんです」
本だけってことはあのローナの部屋と同じような感じなのかな。
「本の内容はこの国ができた当初のことについて書かれている物が多かったです。大樹のダンジョンの名前もちらほら出てきてました。そして色々と情報を整理してみると、ナミの町を造り始めたと言われてる二人は初代大樹のダンジョン創設者の弟子だという可能性が高まりました」
へぇ~。
そんな情報が書かれた本も残ってたんだな。
「……驚かないのですか?」
「知ってますので」
「え……そちらにも当時のことが書かれた本かなにか残ってるのですか?」
「はい」
「……そうですよね」
知らないフリをしたほうが良かったか?
「まぁそのことは蛇足なのでいいです。ほかにも色々と重要なことが書かれている本がありました。その中でも特にピラミッドの秘密について書かれている本に注目しました」
ピラミッドの秘密だと?
火山のことが書かれてるのか?
「気になりますよね?」
「……少しは」
「秘密を話したら封印魔法をかけてくれますか?」
「それとこれとは話が別です」
「冗談ですので気分を悪くされないでくださいね」
冗談を言える余裕もあるのか。
なんだろう。
立場的には向こうのほうが弱いはずなのに、向こうの思い通りに話が進んでる気がしてならない。
「このナミの町周辺にはピラミッドがいくつかあるのをご存じでしょうか?」
「少しは」
「ふふっ、さっきと同じ答えですね」
ん?
なにがだ?
「この町では一般的に、ピラミッドには三つの種類があると言われています。一つは大噴火を起こした火山を取り壊したあとにできたと言われているピラミッド。かなり大きな物ですのでサハ方面から来られたみなさんもすぐに目に付いたと思います」
確かにあれは大きい。
でもやっぱり火山が取り壊されたあとにできたってなってるんだな。
「そして二つ目は、一般の方も中に入ることができるピラミッドです。先ほどの大きなピラミッドは中までぎっしりと石が詰まっているのに対し、こちらは下層から上層まで中を歩いて登っていけるような作りになっています。観光客の方にも大人気です」
本当に大人気なのか?
ただ石の中を進んでいくだけだろ?
「頂上からナミの町や砂漠を見渡せる絶景が最高なんです」
なるほど。
マルセール駅の上に作った展望台みたいなものか。
それなら納得だ。
「そしてピラミッドにはもう一種類あります」
財宝が隠されてるってやつか?
「世間では国の財宝保管用ピラミッドなどと言われていますが、実際には誰も入ることができないんです」
誰もだと?
じゃあそのピラミッドこそ中にぎっしり石が詰まれているせいで入れないだけじゃないのか?
「そういったピラミッドが二つあります。大きさはそこそこ大きいですが、どこにも入り口は見当たらないんです」
「石を少し破壊して中を確かめようとはしないんですか?」
「ピラミッドを破壊するなんてとんでもない!」
え……。
「……失礼しました。この国ではピラミッドに傷をつける行為は禁止されています。ご先祖様たちが残してくれた偉大な遺産ですから」
傷をつけたら牢獄にぶち込まれたりするんだろうか……。
「魔物もピラミッドを攻撃対象とは思ってないようでして、休憩したりしてることはあっても破壊するような行為は見られません」
ただの石の山だと思うんだろうか?
魔物たちも自分を脅かす生物さえいなければのんびりしてたいんだろうな。
「問題はそのピラミッドですが、なにやらこの国にとって大事な物を保管してあるというような記述が本に書かれていたんです。おそらくそれを財宝だと考えた方が歴代の国王の中にいらっしゃったんでしょう。ですからそのような噂が広まっていったんだと思います」
国にとって大事な物か。
まず思い浮かぶのは水だよな。
でも昔は雨も降ってたみたいだし、そこまで深刻な問題でもなかったかもしれないしな。
そう考えたら財宝と考えるのは自然か。
「ロイスさんはなにが保管されてると思います?」
ここで俺に聞いてくるのかよ……。
面倒だから先にそっちの考えを言ってくれればいいのに。
「水を捻出できるような魔道具かとも思いましたが、そのピラミッドができた当時の状況によっては水はそこまで重要視されてなかったのかもしれませんよね。もちろん今の水不足になる状況を想定してのことだったかもしれませんが、水のように生活に絶対に必要になるものなら代々伝わってきててもいいと思いますから別の物でしょうか」
「ほらっ!?」
「ミャ!?」
お腹いっぱいになってウトウトしてたボネが補佐官さんの声で飛び起きた。
「失礼しました……。私も同じ考えです。大臣と国王は水関係しか考えられないと言うんですよ。私の推測では緊急時の避難場所になってると思うのですが」
この人、落ち着いてそうな割にさっきからちょくちょくテンションが上がるんだよな……。
でも緊急時の避難場所という意見には俺も賛成だ。
火山の大噴火のことがあったから頑丈で高い場所が近くにないと不安だろうしな。
「ミャ? (寝てないわよ? 寝てるフリして油断させてただけだからね?)」
誰も寝てただろなんて言ってないだろ。




