第四十九話 山頂エリア
研修の様子をぼーっと見ていたら、急にドラシーに地上に呼び戻された。
どうやらお客さんが来たらしい。
もう十一時半なのに珍しいなと思いつつ、管理人室から外を覗くと、小屋の前でウロウロしている少女がいた。
新規か、しかも初心者っぽいな。
「ダンジョンへ入場希望の方でしょうか? それでしたらこちらで説明と受付を行っておりますのでどうぞ」
「えっ!? はいそうなのです! よろしくお願いしますです!」
ふふっ、緊張してるのかな?
語尾がメタリンみたいになってるよ。
初々しくていいな。
そして一通り説明を終えると、自動販売魔道具に興味津々な様子を見せつつもララ作成の冊子を見ながらダンジョンへ入っていった。
新規が来てくれるのはありがたいことだ。
このダンジョンは初級者じゃなくなったらもう来なくなる。
今の地下三階に出現する魔物をおそれることなく倒すことができるようになれば、初級者を卒業し中級者への入り口へ立てたとも言うことができるだろう。
まぁ、俺はそういった話はわからないから、全部カトレアとドラシーの受け売りってやつだけどね。
なので、新規に来てもらわなければ人がどんどんいなくなってしまうというわけだ。
そういった新規への配慮も含め、このダンジョンにおける冒険者ランクがEランクになると、現状の地下三階までのダンジョンには入れなくしようと会議で決めていた。
地下三階の入り口へ転移できるようになるランクはFランクからとしてるので、あと一つランクが上がるともうこのダンジョンには入れなくなるのだ。
それは自分より弱い魔物を倒してのドロップ素材乱獲を防ぐためと、ここを出てもっと強い敵と戦いなさいという意味が込められている。
ただし、FランクからEランクに上がるためには経験値は必要なく、ただ管理人の認証が必要とのことにしていた。
要するに、強ければEランク、まだまだだなという場合は永遠にFランク止まりと自由に設定することができる非常に傲慢なシステムだ。
もちろんこれは先にあげたドロップ素材乱獲を防ぐためのものだ。
主に素材を目当てに来た中級者以上の冒険者に備えての対策であり、あまりに強すぎる場合は次の日からはお断り願おうというものである。
幸いにもまだそういった冒険者は現れていないが、色々なことに備えておくのは決して無駄ではない。
ここはあくまで育成を目的としたダンジョンなんだからな。
「ロイス君、見てください」
管理人室で考え事をしていると、リビングから呼びかけられた。
……いたのか。
「ん? どうした?」
「……山頂に着きそうな三人組のパーティがいます」
「おお!?」
俺も慌ててソファに座り、大きく映し出された画面を見る。
それにしてもこの機能は本当に凄いな。
画面には男性冒険者が三人映っており、まさにもうすぐ山頂だというところまで来ていた。
名前は……なんだったかな。
冒険者カードを作ったのはカトレアであり、その後も登録済みの冒険者の受付はカトレアがやってるから俺は名前をほとんど覚えていなかった。
もちろん顔はわかるよ?
「あまり敵に会わなかったのか?」
「……そこまではってところですかね。でもこの人たち強くなってきてますよ」
「そうなのか。でもようやく辿り着いてくれるみたいで良かったよな」
「……えぇ、まさか一週間誰も辿り着かないとは思ってもいませんでしたからね」
地下三階からは通常エリアでも魔物が襲ってくる仕様にしていたため、警戒して先に進む足取りが重くなっていたようだった。
単に冒険者の力が魔物を倒せるレベルにないということが最も大きな原因ではあったが。
「さぁどういう反応をしてくれるのかな」
「……ふふ、楽しみですね」
俺とカトレアはしばらく様子を見続けることにした。
◇◇◇
「おい! ここが山頂じゃないか!?」
「おそらくそうだね! ……ほら、あそこを見てよ! 山頂って書いてある!」
「……とりあえず周りに敵はいないようだな」
「ここで終わりなんだよな? それにしては転移魔法陣が見当たらないが」
「う~ん。ん? まだ向こうに道が続いてるのか? それにしても左右の絶景が凄いね!」
「そうだな! お? あそこに看板がないか? 少し上がったところだ」
冒険者たちは左右の景色に見とれながら少し上り坂を歩き看板のところまでやってきた。
「……なっ!?」
「え? ……なんだあれ!?」
「この看板に書いてあることは本当なのか?」
三人はそれぞれ違うところを見ているようだ。
「まだ終わりじゃないってよ!?」
「あの吊り橋を見て!」
「魔物急襲エリアだと!?」
三者三様の反応を見せる。
どうやら山頂に辿り着いてもう地下三階を制覇したと思っていたらしい。
「吊り橋を渡って少し行ったところに休憩エリアがあるらしいぞ」
「この吊り橋を渡るのか? 俺、高所恐怖症なんだ……」
「この先はずっとこの標高での道のりということか? ……あの先は敵がいそうだ」
淡々と看板を見て書いてある事実だけを認識していく者。
看板は見ていないが吊り橋の下を見て恐怖に慄く者。
看板と吊り橋の先を交互に見て気を引き締める者。
こういうときこそ性格が表れるというものだ。
「とりあえず休憩エリアまで行こうぜ!」
「え、俺無理だよ! これ絶対揺れるやつだろ? もし落ちたらどうするんだよ!?」
「……そうだな。まずは吊り橋を渡って休憩エリアまで行くのが先決だな。お前は目を瞑ってていいから、俺につかまってろ」
五十メートルの長さの揺れる吊り橋を渡っていく。
悲鳴も聞こえてきたがなんとか渡り終えたようだ。
「ふぅ、こっちの山の方が少し低いのか?」
「……ぐすっ」
「この先は少し下ってるみたいだな。ただ正面の道以外木で囲まれてて先が見えんな」
半泣きして歩くのがゆっくりな男を放置して先に進む二人。
「……ぐすっ……え? うわぁぁぁぁ! 敵だぁぁぁ!」
「なんだって!?」
「早くこっちへ来い!」
半泣きしていた男が走り出す。
直後、さっきまで男がいた場所に木と木の間から魔物が飛び出してきた。
「あれは!?」
「まさかブラックオークか!? しかも二匹いるぞ!」
「どうする!?」
「とりあえず走るぞ!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
休憩エリアを目指して走って逃げることを選んだ三人。
「お!? 森を抜けるぞ!?」
「そうか、休憩エリアも近そうだ!」
「うわぁぁぁぁ! 待ってぇぇぇぇ!」
「よし! 休憩エリアはどこ……だ……」
「どうした!? ……こいつは!?」
「待ってよぉぉ! え? なになに?」
山頂エリアの森を抜けた先は少し拓けた山肌となっている。
前方には道があり看板ではこの先に休憩エリアがあることになっていた。
左右はギリギリまでいけばこれまた絶景が広がっているだろう。
ただし、休憩エリアにたどり着くためには最後の難関を突破しなければならない。
「……ドラゴンか?」
「あぁ、だがドラゴンにしては小さいな。おそらくベビードラゴンって魔物じゃなかったかな」
「ふぅ、後ろは大丈夫みたいだ。ここまでは追ってきてない」
そこにはベビードラゴンが道を塞ぐように待ち構えていた。
「小さいけどどうなんだ?」
「いや、ドラゴンについての話なんてあまり聞かないからな」
「横から逃げよう! とりあえず休憩エリアに行こう!」
ここでも逃げることを選択したようだ。
「俺は右から行く! 二人は左から行ってくれ!」
「了解! 同時に行くぞ!」
「お願いだから動かないでくれよな!」
三人同時に走り出した。
ドラゴンは迷うことなく一人で走り出した男のほうへ凄い速さで飛びかかった。
「ぐわぁっ!」
腕を噛まれたようだ。
慌てて振り払うもドラゴンはすぐさまに爪を振るう。
「防御してろ! うおぉぉぉぉ!」
左へ走り出した男の一人が仲間のピンチを見て助けに入ろうとドラゴンへ向かって剣を振り下ろす。
「くっ! 硬いっ! なっ!? うわぁっ!」
助けに入った男もドラゴンに腕で振り払われ吹っ飛ぶことになる。
二人を離れたところから見ていた男も意を決してドラゴンに斬りかかる。
が、簡単に避けられ、逆に羽で叩かれ後ろへと吹っ飛んだ。
逃げる選択肢がなくなった三人はその後間もなく、強制転移させられることになった。
◇◇◇
「ドラゴン相手はさすがにまだ無理かぁ」
「……一人を犠牲にして二人は先に進むという選択肢はなかったんですかね?」
「パーティを組むと仲間意識が強くなるのよ! だから見捨てるって選択肢はないわね!」
「「!?」」
いつのまにかララが戻ってきていた。
そうかもう十二時半になっていたのか。
「ララお帰り。研修はどうだ?」
「まぁ普通ね! あのモモちゃんって子は筋がいいわね! でもなんかお兄の名前をうわ言のように呟いてるのが気になるけど気にしないことにしたわ。ヤック君も呑み込みが早いわね。あの子は使えそうね。メロさんは覚えは悪いけどなんでも言うこと聞いてくれそうだからまぁいいわ。問題はミーノさんね。包丁裁きは上手いし料理もそれなりに経験があるようだけど、なぜだか三人を仕切りたがるの。そのせいでよくメロさんと喧嘩になってるわ」
「はは、お隣さんだから仲がいいんだろう。で、その四人は今どうしてるんだ?」
「そっちの小屋で昼食休憩中よ! もちろん自分たちで作った出来損ないの賄だけどね。お兄とカトレア姉は私が作ったやつを食べてね!」
テーブルの上にはフルメニューが置かれていた。
どれも美味そうだ!
「うん、見た目は完璧だな! これに状態保存をかけてガラスケースに入れて並べとけば食欲をそそるだろうな!」
「そんなことは後でいいから早く食べてみてよ!」
ララに促され全種類を少しずつ食べることになった
……どれも美味いに決まってるじゃないか!
これは価格次第で爆売れだろうな。
来週が楽しみだ。




