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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第四百八十七話 老夫婦の正体

 ラクダを二頭乗せることになったので馬車は三台連結となった。


「ナミ王国の元国王!?」


 そして砂漠のオアシスからナミの町に向けて馬車が走り出してすぐ、お爺さんのいきなりのカミングアウトから話は始まった。


 この真ん中の馬車の中にはほかにカトレア、エマ、お婆さんが乗っている。


「そうじゃ。別に隠してるとかはないからの」


「じゃあ衛兵さんたちもそのことみんな知ってるんですか?」


「もちろんじゃ。と言っても今いた衛兵はみんな若いからワシが国王をしてたころのことは知らんと思うが」


「辞められてからだいぶ経つってことですか?」


「十五年ほどかの? オアシスを作ったのは十年ほど前じゃ」


「ん? そういや元水道屋とかじゃないんですか?」


「水道屋じゃよ。親も子供たちも水道屋じゃ。婆さんも水道屋で、遠い親戚じゃったな」


 どういうことだ?

 なぜ水道屋が国王になれる?


「やはりそこまではまだ聞いておらんかったようじゃな」


「なにがですか?」


「ナミの国王はの、代々水道屋の中から選ばれておるんじゃよ」


「水道屋から? 水道屋ってそんなに格式が高いんですか?」


「格式というのとは少し違うかの。国王になるには水魔法を高レベルで使えることが最低限の条件となる。ナミの民にとって水はとても大事じゃからのう」


 なるほど。

 水不足に陥ろうものなら国王自ら身を粉にして働かないといけなくなるってことだな?


「でもそれって国王の子供が水魔法を使えるからってそのまま国王になれるわけじゃないってことですよね?」


「そうじゃ。ワシの親は国王ではなかったし、現国王もワシの息子ではない。でも過去に国王の子供が国王になった事例はないからそれが普通じゃよ」


「誰が国王を選ぶんですか?」


「水道屋じゃ。暗黙の了解で、国王の子供を次の国王に選ばないというものもあるんじゃ」


 そんな決まりまであるのか。


「でも国王が水道屋によって決められるなんて、国民の方はそれで納得するんですか?」


「水道屋は魔道士集団という認識じゃからの。しかもその魔道士たちは子供のころから町を支えてるんじゃから文句の一つも出んよ」


 それもそうか。

 水に精通してる人たちが国を治めてくれたほうが安心できるもんな。

 しかも魔道士だから町の防衛面でも期待できるし。


「でも町の人は水道屋のことを魔道士集団だとは思っていても、転移魔法陣のことは知らないんですよね?」


「そうじゃの。魔力でなにかしておるんだろうとは思っておっても、水さえ出てくれればそれ以上のことは別に気にならんじゃろ?」


 ラシダさんと同じ答えだな。


「水道屋の中では水魔法が使えることと同じくらい、転移魔法陣の魔法が使えることが重要になるんじゃ」


「むしろ今はそっちのほうが重要ですよね?」


「砂漠の女神がおるからの。水はあやつに任せておけば問題ない」


 その期待がシファーさんの負担になってたことを知ってるのか?


 カトレアが文句の一つでも言うかとも思ったが、黙って聞くことに徹してるようだ。

 お婆さんとエマもお茶を飲みながら静かに聞いている。

 暑い砂漠のど真ん中を走る涼しい馬車の中で温かいお茶とは優雅なもんだ。

 俺は冷たいお茶を選んだけどな。


「ナミの水が心配いらなくなったから、さっきの場所にオアシスを作ることにしたんですか?」


「そうじゃ。そのほうがもっと観光客にも来てもらえると思ったからの」


 なるほど。

 サハからナミまでラクダで一気に移動しろなんて言われたらラクダも人間も大変だしな。

 まぁオアシスがあろうが俺なら絶対に行こうとは思わないが。


「あ、国王が水道屋だから衛兵さんが遠回りしてオアシスに立ち寄るのも許されてたんですね」


「それもあるのう。オアシスがなくなって観光客の足に影響が出ると困るってこともあると思うが」


 ナミの経済が潤ってるのはそういう努力があるからか。


 サハも妬んでばっかいないでなにかやればいいのに。

 名物らしいものなんてなにも目につかなかったもんな。

 立地条件で言えばサハのほうがだいぶ有利なはずなのに。


「で、青年たちは結局なんのためにナミに行くんじゃ? 今すぐ避難しろって言いにか? それともナミにも封印魔法をかけてくれる気になったとかか?」


「そういう話は誰から聞いてるんです?」


「ラシダじゃよ。それと青年の妹さんにも、ナミに封印魔法をかける可能性は低いですからサハに避難してくださいって強く言われたからのう」


「それを聞いてどうするおつもりでした?」


「ナミの流れに任せるつもりじゃ。サハに避難するんならワシらも行くし、どうしてもナミに残るって言うのならワシらはナミに行く」


「町が魔瘴に覆われて、町が魔物に襲われるようになってもですか?」


「地下があるからのう。あそこなら当面は魔物も入ってこれん」


「地下遺跡を守ることがナミを守ることに繋がるってやつですね」


「そうじゃ。でも本当にラシダのやつはなんでも話してしまってるんじゃのう」


「町を失うくらいなら少しの可能性にでもかけてみたくなったんでしょう」


「ということはナミに封印魔法をかけてくれる決心をしてくれたと思っていいのか?」


「いえ、それはお約束できません」


「なんじゃ……」


 お爺さんは凄く残念そうな顔をした。

 お婆さんの表情は変わらない。


「地下遺跡の魔力の状態によっては、封印魔法をかけてウチが月に一度保守に来るという案も考えました」


「……」


「でもそのことがウチの保守要員にとってどれだけ危険なことかはおわかりになりますよね?」


「……もちろんじゃ」


「それを聞いたラシダさんは、それなら水道屋のみなさんに封印魔法を教えてくれないかと言ってきたんです」


「なんじゃと!? ということは教えてくれるために来たということか!?」


 大きな声出すなよ……。


「ミャ(どこのジジイもうるさいわね)」


 ほら、ボネが起きちゃったじゃないか。


「それもあります。でも習得できるかは微妙ですし、できたとしてもエマのレベルに達するまでは相当時間がかかると思われます」


「私は封印魔法だけしか使えません。なにより大樹のダンジョンの従業員として雇っていただけたおかげで、最高の環境で修行のみに没頭することができましたから」


 今の実力は努力の成果なんだから謙遜しなくてもいいっていつも言ってるのに。


「なら期待はせんほうが良さそうじゃの。それより、封印魔法のほかになにか目的があると言うのか?」


 なかなか鋭いじゃないか爺さん。


「その前に、大樹のダンジョンとナミの町の関係性についてご存じですか?」


「大樹のダンジョンとの関係性? なにか繋がりがあるってことか?」


「知らなかったらいいです」


「う~ん。婆さん、どうじゃ?」


「う~ん。まだボケてなければ聞いたことないと思うんだけどねぇ~」


 ツッコみにくいボケはやめてくれよ。


「ナミの町ができた経緯をご存じですよね? 火山が大噴火して、今のナミの町の場所にあったオアシスがなくなったあとのことです」


「もちろん知っておる。初めは二人の魔道士によって……もしかしてその魔道士が関係しておるのか?」


 やるな爺さん……。


「はい。その二人は大樹のダンジョンの創設者の弟子でした」


「なんと!? それは凄い!」


 凄いと思うのか?

 大樹のダンジョンのことなんてあまり知らないだろ?


「ウチには創設者が書いた当時の手記がありました。昨日ラシダさんが俺を訪ねてくるまでは見向きもしなかったやつですけどね。でもそこで少し気になる内容を見つけてしまったんです。ラシダさんに確認したところ、どうやらラシダさんが伝え聞いてる内容とは少し異なることも判明しました。手記にはそもそも地下遺跡のことなんて一言も書いてなかったので、手記の情報が古いのは確実ですからなんとも言えませんけど」


「……つまりその内容について確認することが、青年たちがナミを訪問する一番の目的ってわけじゃな?」


 話が早い。

 この人が国王に選ばれたことも理解できる気がする。


「調査した結果によっては封印魔法をかけなければならない状況になるかもしれません」


「かけなければならない状況? ……なにか危険があるということか?」


「ラシダさんが聞いてる話通りであれば全く問題はないんです。でもその話は偽りで、危険を抑えるために地下遺跡が存在してるかもしれないというのが俺たちの推測です」


「地下遺跡が? ……もう少し詳しく」


 そして火山の話を始める。

 話が進むにつれ、お爺さんとお婆さんの表情がどんどん険しくなっていった。


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