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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第四百八十六話 砂漠のオアシス

「ラシダちゃん、一昨日も頂いたのにありがとうね」


「いえ、これはサウスモナのお土産ですのでお気になさらずに」


 ラシダさんが持ってきた食糧を渡してラクダの水代はチャラになったようだ。


「水代は国に請求できるんですか?」


「もちろんです。ラクダが全速力で走るためにはここでの水分補給は欠かせません」


「でもここってサハとの国境ですよね? 来る機会なんてそんなにないんじゃないですか?」


「月に一度、フィンクス村にシファー様をお迎えに上がる前に遠回りして寄ってたんです」


「……それっていけないことなんじゃ?」


「そのへんは融通が利きますから。一応ここは国が管理してることになってますし」


 つまり水代でこの夫婦に食糧を買ってきてたってことだよな?

 そのために遠回りすることも許されるくらいだからそれほど水道屋の存在は大きいんだろう。


「それより私は食事にさせてもらいますね。今日はなにを頼みましょうか」


 出張時の食事代も請求できるのかな?

 じゃなきゃこんな高い料理注文しないよな。


「ミャ~(ねぇ、私もお腹空いたからなにか食べていい?)」


「いいぞ。なににする?」


「ミャ~(暑いからアジジの刺身がいいわね)」


「アジジ? あったかな~」


 レア袋の中を探してみる。


 ……ない。

 でも寿司ならあるからネタだけはがすか。


「ミャ~(ハナがいるじゃない)」


「あ、そういうことか。アオイ丸、ハナを呼んできてくれ」


「了解でござる」


 アオイ丸はサッと小屋から出ていった。

 そしてすぐに……すぐには戻ってきそうにないな。


 しばらくしてハナが小屋に入ってきた。

 凄くだるそうに。


 その後ろからはアリアさんとティアリスさんも入ってきた。

 凄くだるそうに。


 護衛ということで仕方なく来てくれたんだろう。

 でも小屋の中はそんなに暑くないよな?


「刺身が食べたいんですか?」


「ボネがアジジの刺身がいいって言うんだ。ついでにみんなの分も頼むよ」


「わかりました~。キッチンお借りしてもよろしいでしょうか~。あ、水はありますのでご迷惑はおかけしないかと~」


 いつものハナじゃない……。

 暑さとはここまで人をダメにしてしまうものなのか。


「私も手伝うね」


 さすがティアリスさん。

 護衛だけじゃなく料理までしてくれるとは。


「私は料理はできませんのでこちらから見守らせていただきます」


 アリアさんは俺の後ろに立った。

 後ろに二人も立たれるとなんか落ち着かないな。


 アリアさんはあれだけ剣の腕は凄いのに包丁は苦手なんだろうか?

 まぁ料理は切れればいいってもんでもないしな。


「可愛い子がいっぱいでいいわね~」


 キッチンの案内を終えたお婆さんがお爺さんの隣に座った。

 このお婆さんも元水道屋なのだろうか。


「アジジってなんじゃ? 刺身ってことは魚か?」


「普段魚は食べないんですか?」


「ナミの町に住む者にとっては食べる習慣はないのう」


 そういやラシダさんがそんなこと言ってたな。


「アジジは魚ですけど、魔物です」


「「魔物!?」」


「そうです。ウチのダンジョンでは結構人気ですよ。食材としても敵としても」


「爺さん、こちらの方はどういう方なの?」


「婆さん、実はな……」


 婆さんに爺さん。

 なんだかこのオアシスにいると時間がゆっくり流れてるようにさえ感じてくるな。


「大樹のダンジョン? それって例のですか?」


「そうじゃ」


 例のってなんだよ?


「ということはこの子があの元気な女の子のお兄ちゃんかしら?」


「そうみたいじゃ」


 ララのことか?

 そりゃここを通ったんなら寄ってくよな。

 それにいずれはこの場所から避難してもらうことも伝えてるはずだし。


「なら封印魔法のことでナミに?」


「それもあるじゃろうな」


 それも?

 ほかになにがあると思ってるんだ?


「アジジってあんなに大きいんですか?」


 ラシダさんがキッチンのほうを見ながら聞いてくる。

 話の流れを遮ってまで聞くことか?

 そんなにお腹が減ってるのか?

 どうやら料理を注文するのはやめたようだ。


「あれでも魔物の魚の中では一番小さい部類ですよ」


「うぉっ!?」


 お爺さんがキッチンを見て驚いた。


「今あんなデカい魚持っておったか!?」


 あ、そこか。


「こっちの男が運んできたんです」


「むっ? そうか。さっきも思ったが動きが速いのう」


 こんな場所に住んでる人にまで誤魔化さなくてもいい気もするが、別に言うことでもないしな。


 そしてテーブルにはアジジ料理が次々と運ばれてくる。

 寿司も握ってくれたようだ。


「美味い!」


「本当ね。お魚食べたのなんていつ以来かしら」


 喜んでもらえたようだ。

 ハナも嬉しそうだし、やっぱり美味しい料理は人の心を温かくしてくれるよな。


「ヤリイッカも捌きますね」


 ハナの調子も戻ってきたようだ。


 そのあとは衛兵さんたち、カトレアたち、魔物たちも呼んで少し早めの昼食にした。

 ハナの料理の美味しさにみんなが舌鼓を打つ。

 衛兵さんたちは魔物たちとの触れ合いも楽しんでくれているようだ。


 だがここにそんなに長居はしてられない。

 俺たちは旅行に来てるんじゃないからな。

 って旅行に来てたとしてもさっさとナミに行くのが普通か。


「もう少しいられないの?」


 お婆さんが引き留めようとしてくる。

 それほど楽しんでもらえたのなら良かった。


「すみません、また帰りに寄らせてもらいますので」


「本当? また美味しいお魚食べさせてちょうだいね」


「食材が残ってたらもっと色んな料理を作らせてもらいますよ。なぁ、ハナ?」


「はい! いつか大樹のダンジョンにも遊びに来てください!」


 オアシス経営をしてる二人にとってそれは難しいと思うが……。


 ってこのオアシスは近いうちに廃業予定だったはずだよな?

 ナミの町の封印結界化がどうであれ、この砂漠をラクダで移動できる人なんてもうほぼいなくなるんだし。


「よし、久しぶりにワシらもナミに行くことにするぞ」


「「「「えっ!?」」」」


 衛兵さんたちが驚く。


 ナミに行くのはいいが、オアシスを放っておいていいのか?

 みんな休憩場所に困るんじゃないだろうか。


「大丈夫じゃよ。ここも最近はほぼ客自体が来んようになってしまった。魔瘴の影響でサウスモナとの船もだいぶ減らしてるらしいしの」


 誰も来ないのならもうオアシスは必要ないもんな。


「青年、馬車に乗せてもらっていいかの?」


「えぇ、それは構いませんが」


「できればワシたちのラクダも乗せてもらえると助かるんじゃが」


 さっきのラクダの中にここで飼ってるラクダもいたのか。

 そりゃラクダがいないとこの二人は身動きとれないもんな。


「いいですよ。でもこの小屋は放っておいていいんですか? というかこんな場所で普段魔物とかに襲われないんですか?」


「ここに二人で住んでたらたまに襲ってくる魔物も可愛く思えてくるんじゃ。幸いこのあたりにはワシらの魔法で倒せない魔物はおらんからかもしれんがの。だからこの小屋は自然のままでいい。もし旅人が来たら休憩もしたいだろうし、そのときに壊れてればそれも運命じゃ。水がなければ立ち寄らん者も多いじゃろうし」


 やはりもうオアシス経営のことは諦めてるように思える。

 ナミに行くと言い出したのもその話をするためかもしれない。


「じゃあこの小屋を封印魔法で保護しますけどいいですか? 数日しか持たないでしょうけど」


「……この中に封印魔法の使い手がおるのか?」


「えぇ。一人と一匹だけですが」


「一匹? 魔物も封印魔法を使える時代なのか……」


 時代ってまた大袈裟な。

 でもそんな魔物が敵にいたらおしまいかもしれない。


「これくらいの規模ならミニ大樹の柵を使用してもいいんじゃないですか?」


「そうか? ならそれで頼む」


 カトレアが言うなら問題ない。


 そしてエマとボネにより、小屋の周りには封印結界が張られた。

 小屋の中のプライベートな空間には三日間程度誰も入れないようにするサービス付きだ。

 さっき砂漠のオアシスに降る雨を見せてくれたお礼だな。


「ふむ。お主らになら話してもいいかもしれんな」


 お爺さんは意味深なことを言い、馬車に乗り込んでいった。


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