表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

481/742

第四百八十一話 砂漠での移動手段

 支部に戻る前にみんなへの差し入れを買い込んだ。

 じゃないとマリンになに言われるかわかったもんじゃない。


 支部に着くと、カウンターでマリンが待っていた。


「おかえり。コタローが拗ねてたよ」


 コタローのやつめ……。

 先に帰ったと思ったら早速告げ口してやがった。


「土産は最初から別の店に目星を付けてたんだよ」


「ふ~ん。あとでハナちゃんにたっぷり話聞かせてもらうけどね」


 ハナは少し困惑している。

 でもコタローのこと以外は別にやましいことはなにもないから大丈夫だけどな。


 飲み会参加メンバーとはここで別れ、俺とマリンは馬車実験中のエリアへ行くことになった。


「順調なのか?」


「今最終テスト中」


「さすがだな。ラクダでも引けそうか?」


「その前に、なんでラクダは砂漠の上でも砂に沈むことなく歩けるか知ってる?」


「ん? 足の裏の柔らかい肉球みたいなやつのおかげだろ? 圧力を分散させたりできるんじゃないのか? 熱も通しにくいみたいだし、歩き方もなにか関係してるとか」


「……なんで知ってるの?」


「ちょうどさっきの飲み会でその話題になってさ。ティアリスさんが教えてくれたんだよ。パラディン隊がサハの見回りもするかもしれないからってラクダのこと色々調べたんだってさ」


「……そう」


 あ、知らないフリのほうが良かったか……。

 ここはマリンに気持ちよく喋らせてあげるところだったよな……。


「じゃあそのラクダの足のような仕組みをタイヤに取り入れたんだな?」


「うん。船みたいにして砂の上を滑らせようかとも思ったけど、それはさすがに負担がかかりすぎるかとも思ってね」


「ラクダも嫌になるだろうな」


「ラクダじゃなくてね」


「え? ラクダじゃない?」


「見たほうが早いよ」


 そして実験エリアに着いた。


 ……これはもう立派な砂漠だな。


「あっ!? ロイス君!」


 ん?

 向こうの作業スペースから駆け寄ってくるのは……フランか。

 その後ろにはクラリッサの姿もある。


「馬車試作のための素材を持ってくるように頼まれたのか?」


「うん! それと靴も作ってほしいって言われたの!」


「靴? 誰の?」


「モ~! (ご主人様! 見て見て!)」


 砂漠のほうから声が聞こえた。


 ……ウェルダンが凄い速さで走ってる。


「あいつ、砂の上でもあんな速さで走れるのか」


「今フランさんが言ったでしょ。靴の効果だよ」


「靴?」


 ……遠くてよく見えない。


「ウェルダン! こっちに来い!」


 つまりラクダじゃなくてウェルダンが馬車を引けるってことだよな?


「モ~(ふぅ~。この靴があれば砂だけじゃなくてフワフワの雪の上でもいけそう)」


 ウェルダンの左前脚を持ち上げ、靴を脱がせる。


 ……ふむ、これがラクダの足代わりみたいな物なのか。

 普通の道では走りにくそうだ。


「なるほど。この柔らかさが重要ってわけだな」


「そうなの! 雪上でも使えるかも!」


「今ウェルダンもそう言ってたよ」


「本当!? 雪用にもう少し暖かい素材で作ってみるね!」


「モ~! (うん、お願い!)」


 この前パラディン隊のビラを配りにカスミ丸とセツゲンの国に行ったときは、雪が固くなってる場所を選んで走ったって言ってたもんな。


「クラリッサもお疲れ。悪いなわざわざ」


「うん。ついでだからリスちゃんたちの毛のカットもしておいたよ」


「そうか、ありがとう。砂漠は暑いからな」


 砂漠に行ったことのない俺にはどれくらいの暑さなのかはわからないが。


「で、馬車は……ん? メタリンが引いてるのか」


 砂漠にゆっくりと進んでる馬車が見えた。

 見た目はいつもの馬車だから、変更箇所はタイヤだけなんだろう。


「メタリン用にもなにか作ってくれたのか?」


「うん……」


「向き不向きがあるみたいね……」


 フランとクラリッサは言葉を濁した。

 メタリンには合わなかったってことか?


 確かに今走ってる馬車はゆっくりだが、それはテスト中だからとか馬車の性能とかではなく、メタリンが速く走れないからってことかもしれない。


「メタリンちゃんは体全体で飛び跳ねるようにして進むでしょ? ウェルダン君は四足歩行だからそれも関係してるのかも。接地面が固くないとメタリンちゃんのスピードは出せないのかもね」


 マリンが冷静に分析をする。

 確かに今のメタリンはポヨンポヨンって感じで進んでる気がするな。


「モ~(メタリンの分も僕が頑張るから大丈夫だよ)」


「頼んだぞ。でも砂漠の暑さを我慢できるか?」


「モ~(このひんやりする服を着てればなんとかなりそう。日差しが強いみたいだから帽子も欲しいな)」


「わかった。ウェルダンに帽子も作ってもらってもいいか?」


「うん! 涼し気な帽子にするね!」


 こうやってすぐに対応してくれるからありがたいよな。


 そしてメタリン馬車がこっちに戻ってきた。


「キュ(ご主人様……ぐすっ……)」


 泣いてるじゃないか……。


「気にするな。メタリンの場合はそれ脱いだほうが速く走れると思うぞ」


「……キュ(それでもウェルダンに置いていかれたのです)」


「そういうこともある。それにもし本当に火山があったら、熱に強いメタリンが一番頼りになるからな」


「キュ(火山があるといいのです)」


 いや、ないほうがいいんだけどな……。


「おかえりなさい」


 カトレアたちが馬車から降りてきた。

 見るからにみんな疲れてる。


「差し入れ買ってきたからみんなで食べてくれ」


「ありがとうございます。みなさん、お先にどうぞ」


「ん? カトレアは? もう完成したんじゃないのか?」


「馬車の中の暑さ対策をします」


 カトレアはそう言うと作業スペースのほうへ歩いていった。

 モニカちゃん、シモンさん、ヴァルトさんは休憩するようだ。


「お兄ちゃん、説明するからこっち来て」


 そしてマリンによる砂漠用タイヤの説明が始まった。




 …………。


「聞いてる?」


「……あぁ。この新タイヤによって今までの馬車もかなり乗り心地が良くなるってことだろ?」


「今寝てたでしょ?」


「いや、目は瞑ってたかもしれないが理解するために考えてただけだ」


「……砂漠ではどうするんだっけ?」


「え~っと……ウェルダンの靴と同じで少しふんわりさせるんだろ? 空気圧を調整するんだっけ?」


「面倒だからもう砂漠専用の馬車にしちゃうけどね。お姉ちゃんもそれ用になにか作ってるみたいだし。じゃあ説明はもうおしまい。この馬車お姉ちゃんに渡してきてね。あ~疲れたぁ~」


 マリンはモニカちゃんたちが休憩してる輪に加わった。

 俺はカトレアがいるほうに歩き出す。


 ……ふぅ~。


「ピピ、助かった」


「チュリ~(飲みすぎたんじゃないですか?)」


「そんなに飲んでないと思うんだけどな~。でもお腹もいっぱいのせいか、なんか眠い」


「チュリ(知らない土地だから知らない間に緊張してたのかもしれませんね)」


「そうかもな。ピピたちを見送ったあと市場を見て回ったり、釣りをしたりして結局一時間以上は港にいたしな。それからここまで歩いて帰ってきたし。やっと帰ってこれたと思ったら例のナミ衛兵隊だよ」


「チュリ~(日頃の運動不足もありそうですね。そろそろトレーニング再開したらどうですか?)」


「う~ん。なんか気分が乗らなくてさ~」


「チュリ(怠け癖が出てきましたね)」


 本来の俺に戻っただけだな。


 で、カトレアはなにしてるんだ?

 さっきまでなにか錬金してるように見えたが、今は馬車の中にいるようだ。


「カトレア、馬車何台持ってく……ん?」


 馬車の中を覗くと、中から風を感じた。


「なんか涼しいな」


「あ、ロイス君、いいところに。中に入ってドア閉めてください」


 言われた通りにする。


 ……うん、涼しい。


「上のそれはなんだ? 魔道具か?」


「氷魔法と風魔法を付与した魔道具です。これで快適な旅ができます」


「また凄いのを発明したな。こんなの錬金術師ギルドで即認可物だろ」


「ふふっ。似たような性能でややこしい機械をたくさん組み合わせた大きくてとても高価な魔道具なら既にありますが、これはこんなに小さな箱ですからね。中には魔石とリスちゃん用サイズの杖二本と魔法威力調整用のフィルターがあるだけです。売り出すとなると比較的安価でいけそうですから大ヒット間違いなしですよ、ふっふっふ。氷魔法を火魔法にすると暖かい風も送れるはずですよ? あ、どうせなら杖三本構成も試してみましょうか、ふふふっ。デザインは少し考えないといけないですけど、即席の物としては十分な性能だと思います」


 かなりの自信作のようだ……。

 ここまでご機嫌なカトレアも珍しい。

 前に一度砂漠の暑さを経験してたことがこの魔道具を生み出したんだろう。


「ということでロイス君、これで暑さはもう気になりませんよ」


「だろうな」


「明日、ロイス君もいっしょにナミに行けますよ」


「ははっ、俺が行くわけないだろ」


「オアシス大陸に行くのは暑いから嫌だって言ってたじゃないですか?」


「そりゃ暑いのは嫌だろ」


 ……え?


「……もしかして本当に俺を行かせようとしてる?」


「ロイス君がいないと魔物さんたちとのコミュニケーションが取りづらいじゃないですか。地下遺跡はともかく、ピラミッドなんて危険そうな場所は魔物さん頼りになるかもしれませんからね。言葉を理解しようとしてる少しの間が命取りになるなんてこともあるかもしれませんし」


「さすがにそうはならないと思うけど……。それに封印結界の外に出るんだぞ? サウスモナにもやっと来れたくらいなのに、オアシス大陸なんてララが許してくれるわけないだろ」


「ララちゃんが許可すれば行きますか?」


「え……許可は最低限の条件ってだけで、それと行くのとはまた別の話で……」


「向こうには転移魔法陣もあるんですよ? もし私が閉じこめられたらどうします?」


「え……そのときはピピが知らせてくれれば策を練ってすぐに助けに……」


「封印結界を張ることはできないって伝えて、王族の怒りを買ったらどうします? 二度目の宣告なんですよ? 衛兵隊と戦闘になるかもしれないですよ? まだ魔瘴の危機感がない人たちですから、今までの帝国やジャポングの人たちと同じようにはいきませんよ? そんなリスクしかない役目を私たちに任せきりにするんですか? 男性もアオイ君しかいないんですからね? 女性ばかりだと思って向こうは強気の態度できますよ?」


「それは……」


 マズい……。

 完全に俺がナミに行く流れになってる……。


「今日はもう遅いですし私も疲れてますのでララちゃんには明日朝一番に連絡します。ロイス君は行く方向で体調を整えておいてください」


 断る理由を考えねば……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=444329247&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ