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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第三章 集いし仲間たち
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第四十七話 従業員決定?

「ロイス君! 待ってたよ!」


「やっと来たわね! 次はウチの番ね!」


 ですよねー。

 しかもまた肝心なところは伝わってないみたいだ。


 八百屋を出て隣の肉屋に入ったものの、すぐにおじさんとミーノさんに出迎えられることになった。


「……おはようございます。肉の買取はどんな感じですか?」


 こちらの言いたいことだけを言い聞きたいことだけを聞いてすぐに店を出ようと思った。

 幸いにも肉は買わなくても自給自足でなんとかなる。

 牛肉が買えないのは残念だが仕方ない。


「あれね! 猪肉と鹿肉は少しは持ち込んでくれるようになったけどまだまだ全然足りないわ! 鶏肉と豚肉はまだ一度も持ち込まれないんだけどどうなってるの?」


「そうですか少しずつ増えていますか。鶏肉はシャモ鳥が強いのでもう少し時間がかかるかもですね。では今日は用事があるので失礼します。さようなら」


「ちょっと待ってよ!」


 俺はミーノさんの言葉を無視して店を出ようとするが、ミーノさんの素早い回り込みによって阻止される。

 残念だが逃げ切れなかったようだ。

 俺は引きずられるように店の奥の商談スペースへ連れていかれた。


「で、話はある程度聞いたわよ! 従業員探してるんだってね!?」


「しかもダンジョンへも入る時間もあるっていうじゃないか? それに買取も当日その場でできるんだって?」


 ミーノさんとおじさんが二人で攻めてくる。

 今度は早めにまだ募集できる段階ではないと言った。

 確かに言ったんだが……


「それなら大丈夫よ! 私が案を考えるから!」


「……なんの案ですか?」


「お店に決まってるじゃない! というかもう考えてあるから!」


「……どんな案ですか?」


「お肉屋の店としてウチが店を出すの! それで場所代をロイス君に払うの! 売る物はお肉屋さんのコロッケとメンチカツよ!」


 はい?

 お肉屋さんがウチで店を出す?


 経営は自分たちでして、場所を借りてる賃貸料としてウチにいくらか支払うということでいいのか?

 それならウチはなにもしなくていいんじゃないか?

 てか場所代も別にいらないんじゃないか?

 そもそもエリアの外でやったとしたら場所代は発生しないわけだろ?

 ウチの儲けはあっても場所代だけだが、なんのリスクもないんならララたちも文句は言わないんじゃないかな?

 品物の買取についてはどうせウチは絡まないから好きにしてもらっていいし。


 ただ、道具屋と八百屋での話とは内容がずいぶん違ってくるな。

 これはウチの従業員とは関係なくなってるからな。

 それにウチで店を出して本当に利益があるのか?

 冒険者の数なんて限られてるし、食材費や人件費でいっぱいいっぱいなんじゃないのか?


「仮にウチで店を出したとして、そちらに利益はあるんですか?」


「売れればあるわよ! ねぇお父さん!?」


「……それはなんとも言えないな。リスクのほうが高い」


 あれ?

 もしかしておじさんはミーノさんの話を知らなかったのか?


「そんなことないわよ! 冒険者いっぱいいたんだからね!」


「……でも昼も夜も同じお客さんになるだろ? それにもしかしなくても毎日同じお客さんだってことも考えられる」


「それは……そうだけど……」


「ミーノ、商売ってのはそんなに甘くないんだ。同じ年のロイス君が成功してて羨ましいのはわかるが、まだまだお前には勉強が必要だよ」


「……でも」


 ミーノさんはそれっきり黙ってしまった。

 おじさんは全てわかってて俺と話をさせたのかもしれないな。

 ミーノさんはおそらくウチのダンジョンを実際に見てこの案を考えついたんだろう。

 それを聞いたおじさんは無理だとわかりながらも楽しそうに話してるのを止められなかったって感じかな。


「ロイス君すまなかったね」


「いえ、ウチとしてはありがたいお話だと思ったんですけどね」


「いや、ロイス君ならすぐに断ってくれると思ってたよ。で、話は戻るがその従業員を本当に募集するんならウチにも声をかけてくれないか?」


「えぇ、道具屋さんにも八百屋さんにもお声がけしましたが、人材が欲しいのはこちらなので助けて下さるのであれば喜んでこちらからお願いしにきますよ」


「はははっ、さすがロイス君だね。楽しみにしてるよ。ただウチはこのミーノを行かせたいわけじゃないんだ」


「え?」


 ミーノさんじゃなければ誰が?

 おじさんか?

 それともおばさんかな?


「ちょっと待っててもらっていいかい? ミーノ」


 ミーノさんはなにも言わず立ち上がり、二階へ上がっていく。

 そして初めて見る少女を連れてきた。


「モモです! 初めまして!」


「えっ、あぁ、初めまして、ロイスといいます」


 見た感じは俺より年下か?


「下の娘なんだ。普段店には出てないから会うの初めてなんじゃないかい?」


「えぇ、妹さんがいるなんて知りませんでした」


「そうだろうね。あまり人前には出たがらないからね。少し控え目でね」


 六年前から通っててそのころからミーノさんとはたまに会っていたけど、このモモさんとは本当に初対面だった。

 ただ、人前に出たがらないという割には活発な印象を受けた。


「ではどうしてダンジョンへ? 接客業ですし、多くの冒険者たちと顔を合わして会話もしてもらわないといけませんよ?」


「私もそう思うんだがねぇ、さっきこの話を聞いてたら急にモモが行きたいと言いだしてね」


 スパイは家族全員に向かって話しているのか?

 というかスパイは奥様方で間違いなさそうだ。

 この強固なネットワークはなんなんだろう。

 重要な部分を伝えない強かさも持ってるな。


「ではモモさん、なぜウチのダンジョンで働きたいと思ってくれたんですか?」


「えっ!? それはロイスさんと……じゃなくて、料理してみたいなーって思いましたし、ダンジョンに入って魔物をなぎ倒してみたいですし、それにお肉も買い取れるんならこんな私でも家に貢献できますし」


 この子のどこが控え目だというのか?

 魔物をなぎ倒したいって言わなかった?

 よくそんなこわい表現ができるな。

 でも店を手伝えてないことを申し訳なく思ってることは凄く伝わってきた。

 こんなこと聞いちゃうと断るのがつらくなるじゃないか。


「そうですか。わかりました。今は構想段階なのですぐお返事できずすみません」


 これ以上期待させちゃうのも申し訳ないのでここらで切り上げて帰ろうとした。

 

「ロイス君! 私決めたわ! ヤックとメロも従業員希望してるのよね!? なら私が三人の統括マネージャーをやるわ!」


 なにか言い出したよ。

 落ち込んでたんじゃなかったのか?


「モモを一人で行かせるのは心配だからね! それにメロのバカは放っておくとサボるからね! ヤックは勝手にやってなさい!」


 確かメロさんは年上だったよな?

 呼び捨てか、まぁお隣さんだしな。

 ヤックさんについては、まぁ見た目通り優秀ってことだよな。


「それでね、こういうのはどうかな!? ウチのお肉を使った料理を出すの! 売り上げを寄こせとかは言わないから、単純にウチの店のお肉を使ってくれればいいのよ!」


 ……それって単にウチが肉屋から肉を仕入れてるだけだよな?

 おじさんの顔を見てみなよ?

 呆れてものも言えないって顔してるぞ。

 そりゃ肉の卸先が増えるだけでも十分なのだろうが、せめてお肉屋の料理メニューを出させてあげるからロイヤリティとして売り上げの数%寄こしなさいとか言うべきじゃないのだろうか。


「えぇっと、じゃあですね、こちらで販売してるコロッケをダンジョンでも販売してもらっていいですかね? 材料費は全てウチで出しますからレシピは全く同じものでお願いします。その代わりコロッケの売り上げの一割をロイヤリティとしてお支払いしますから」


「?」


 ミーノさんにはいまいち伝わらなかったようだ。


「おじさん、いかがでしょうか?」


「うんうん、ありがとうねロイス君。モモ、コロッケのレシピをしっかりと覚えなさい。もちろんウチの味を出せなければ販売許可は出せないぞ?」


「わかったよパパ! でもたぶん大丈夫! ねぇロイスさん! 今から作るので食べてくれませんか?」


 俺の提案に泣きそうになりながらも頷いてくれるおじさん。

 もちろん泣きそうなのは俺の話になどではない。

 今おじさんがミーノさんに説明しているようだ。


 それにしてもモモさんは意外にもコロッケに自信があるようだ。

 というかここまで話を進めてしまったら今さら断れる雰囲気じゃないよな?

 完全にミーノさんのペースに巻き込まれてしまった。


 まぁいいか。

 とりあえず『お肉屋さんのコロッケ』という商品を手に入れたわけだし。

 ここのコロッケは絶品だからな。

 しかも安い!

 甘さがこれまた絶妙なんだ。


◇◇◇


 町を出てしばらく歩き、そこでふと我に返り、思わず呟く。


「いきなり四人も雇うことになってしまった」


「わふぅ? (コロッケ美味しいよ?)」


「キュ! (もっと食べたいのです!)」


 ララに怒られるかな……。


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