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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第四百六十九話 女神の言葉

 ご近所さんが何事かと外に出てきたので、とりあえず支部の中に移動した。

 今いるのは魔道ダンジョン内だが、おそらくこの人たちは転移したことにはまだ気付いてないだろう。

 周りにいるウサギたちを見てそのうち気付くかもしれないが。


「キャラメルキャメルのミルクです。遠慮せずにどうぞ」


「「「「キャラメルキャメル……」」」」


 驚いているようだ。

 この人たちもどうせ偽物しか飲んだことないんだろうな。

 偽物すら飲んだことないのかもしれないけど。


「「「「……」」」」


 感動して言葉が出ないようだ。

 地元民だとその貴重さをわかってるから俺たち以上に美味しく感じたりするのかもしれない。

 じっくり一口一口を味わうように飲んでいる。


「本物ですよ? 搾ってる映像でも見ます?」


「いえ……でもよろしければおかわりをいただけませんか?」


 この女性がリーダーで間違いないな。

 みんなを代表しておかわりの催促までしてくるくらいだ。


 カスミ丸はおかわりを注いで回る。

 変装してることもあって忍者とは誰も思わないだろう。

 ってもしかして十日前にナミで会ってたりするんじゃないのか?

 でもそのときは別の変装してただろうし、こんな簡単にバレるようなことはしないか。


「美味いである!」


「今は静かに!」


「すまんである……」


 スタンリーさんとアリアさんもだいぶ仲良くなってきたようだな。


 この二人とティアリスさんにはパラディン隊の代表として来てもらっている。

 まだ始動前だが、それまでに支部の施設の準備を整えておかないといけないからな。


「で、どうします? 戦争の開始日とか決めたりしますか?」


「……いえ、戦争などあってはならないことです」


「でもそちらが言ってきたことですよね?」


 文書をテーブルの上に置くと、マリンやティアリスさんたちはそれを奪い取って内容を確認し始めた。


「それは……少しでも我々の有利に交渉を進めたいがためにそう書いただけと思います……」


「交渉なんですか? かなり高圧的な内容に思えますけど?」


「……すみません。少し過激ではありますが悪意があるわけではありませんので……」


 なら普通は戦争なんて強い言葉を使わないだろ。

 俺だからまだこんな和やかな場ですんでるんだぞ。


「ここにいるみなさんはどういう役割を担ってるんですか?」


「我々はただの国の衛兵隊です。ですからパラディン隊と同じようなものだとお考えください」


「でもウチのパラディン隊は戦争なんかしませんよ? するなら俺の魔物たちだけで相手することになりますから」


「だからしませんって……。我々も戦争なんかしたことありませんし」


「いつからここを見張ってたんですか?」


「みなさんが来られてからです。我々も今朝サウスモナに着いたばかりでして、これからマルセールに移動しようと思っていたところにちょうどみなさんが駅から出てこられたものですから」


「なんで俺たちってわかったんですか?」


「あの緑の髪の方、確かカトレアさんでしたっけ? 以前に我々の国まで来ていただいたことがありましたので」


 あ、そういえばそうだったな。


「それ以前にあれだけの数の魔物さんたちがいれば誰でもわかると思いますが……」


 それもそうだ……。

 でもペットって思ってくれる人もいっぱいいるからな。


「んん……あれ? 確か僕は……」


 お?

 ようやく目が覚めたか。


 ベッドで寝ていた青年がゆっくりと体を起こした。


「傷はどう? 自分がなにしたか覚えてる?」


 女性は青年を問い詰める。


「……あ、その大きな猫を触ろうとして……」


「ニャ(ごめんなさい)」


「なんでそんなことしようと?」


「魔物じゃなくて本当はただの猫なんじゃないかな~って思ってしまいまして……」


「……そうだとしてもわざわざ触りにいくほどのこと?」


「だってあの白いフワフワな毛を見てると触りたくなりません? そっちの子猫ちゃんも物凄く可愛いですし……。僕の故郷の村では猫がたくさんいたもので少し懐かしくもなってしまって……」


「ニャ~(触っていいよ)」


「……町に戻ったら始末書書きなさい」


「そんなぁ~……」


 始末書?

 なにか失敗をしたら書かされるってことか?


 猫と戯れようとして触ったら実は魔物で、反撃で腹に猫パンチをくらって危うく死にかけました。

 みたいなことを書くのか?


 それよりダイフクは少し申し訳なさを感じてるようだ。


「失礼しました。先ほどの話ですが、みなさんをお見かけしたことで方針を変更し、ここで文書をお渡しすることにしたんです」


「砂漠の女神様とやらが大樹のダンジョンにいることは確認したんですか?」


「はい。そちらのバイキング会場にいるところを発見したとの報告を受けています」


 誰かが冒険者としてウチに潜入したってことか。

 先週から新規が多いからさすがにそれは気付かないもんな。


「で、俺たちが砂漠の女神様をかくまっていると?」


「……いえ、決してそのようには見えず、シファー様も大変楽しんでおられるように見えたと」


「じゃあなぜ解放せよなんて書き方を? それも上の方々の方針ですか?」


「……はい。いくら魔王を倒すために修行するからと言っても、一方的に逃げられたんじゃナミとしての面子が立たないし、なにより今後の水のことが心配だからと」


 困ったお偉いさんたちだ。


「あなたはシファーさんのことを知ってるんですか?」


「もちろんです。シファー様がナミにいらっしゃるときにはフィンクス村まで迎えにあがりますし、ナミでの作業中もずっと傍で警護させていただき、帰りもまた村まで送り届けますから」


 本当っぽいな。

 確認してみるか。


「少しお待ちを」


 隣の部屋に移動し、通話魔道具を手に取る。


「……あ、ララか?」


「お兄!? なに!? 今料理中なんだけど!」


「シファーさん呼んできてもらえないか?」


「シファーさんならここにいるよ! あ、ここって厨房エリアね!」


「え? なんでいっしょなんだ? というか通話魔道具も持っていってるのか」


「料理してみたいって言うんだもん! エマちゃんもいるけど」


「三人でなにしてるんだよ……こっちは面倒なことになってるのに……」


「なにかあったの!?」


「とりあえずシファーさんに代わってくれ。あ、ついでだからララとエマも聞いとけ」


 呑気なやつらだな……。


「やっほ~。なに~?」


「やっほ~じゃないですよ……今ナミの国の衛兵たちとちょっとしたトラブルになってるんですよこっちは」


「え……」


 そして文書の内容や、ダイフクが衛兵に怪我を負わせたこと、衛兵と話し合いの場を設けてることを説明する。


「ごめんね……」


「別にそれはいいんですけど、ウチが巻き込まれたら全部話していいって約束しましたよね?」


「うん……もう話していいよ」


「お兄! そんな条件一つものむ必要ないからね!? もしシファーさんの家族になにかしようものならタダじゃおかないって言っといて!」


「わかった。じゃあな」


 ……ふぅ~。

 まぁウチのみんなはララと同じ意見だろう。


 そして隣の部屋に戻る。

 ……シーンとしてるな。


「お待たせしました。その前にまだあなたのお名前をうかがっていませんでしたね」


「ラシダと申します」


 うん、シファーさんが言ってた人だな。


「今シファーさんと連絡を取りました。ラシダさん、あなたは彼女の気持ちに気付いていましたか?」


「気持ち? ナミで水の補充なんかしてるよりも、世界の人々のために魔王を倒さなければならないと思ってたことについてですか?」


 あ、本当に信じてるんだ……。


「それもありますけど」


 って一応言っとくか。


「魔法をほぼ丸三日間使い続けることでどれだけ心身が疲弊してたかってことです」


「あ、そういうことですか……。もちろん毎回シファー様を送り迎えしてる身としては痛いほどわかっていたつもりです。ご実家に帰られるまでいつも一番近くで見ていましたから。でもどんなにツラそうなときでもシファー様は笑ってくれていたんです。大丈夫、家に帰ったらゆっくり休めるから、私の仕事はこの三日間だけだから、ラシダさんはいつも大変だね……って」


 あの人もよく不安な気持ちを悟られずにずっとやってこれたよな。


「迎えが来る三日前から緊張と不安でほとんど眠れないそうですよ」


「え……」


「帰ったあとも三日間は疲れと吐き気と睡魔でずっと寝たきりになるそうです。体力や魔力は回復してもなにをやる気力も起きず、家の中でぼーっとしてるだけの日々が続き、気付いたらまたナミでの作業の三日間が近付いてきてるそうです」


「……」


 ラシダさんは絶句している。

 ほかの衛兵たちも同じく。


「もう彼女の心はボロボロで、いつ壊れてもおかしくないそうです。魔法もそんな無茶な使い方を続けてれば少なからず身体に影響が出ますから、寿命も縮んでるかもしれませんね」


「そんな……」


「「「「女神様……」」」」


 え、そこまでショックを受けなくてもいいのに……。

 まぁこの人たちからしたら本当に女神様のような存在だったってことなんだろうな。

 水がなかったら生活できないのは事実だし。


「そんな状態でフィンクス村やナミの町に魔王の脅威が襲いかかってくると聞かされたんです。彼女の中ではこのまま水を補充していていいのか、自分の魔法を魔王を倒すために使ったほうがいいんじゃないのかって思うようになったそうです」


 事実と嘘を適当に混ぜとけばバレないだろ。


「しかもサハ王国はサハに避難してきていいと言ってくれてるのに、ナミの王様たちは避難はしないと言っている。サハに避難すれば封印結界があるから安全だし、水に困ることもないのに。そうすれば自分だって魔王討伐のための修行に専念することができる。でもナミの町の人々がナミに住んでいたいのなら、王様たちが言うように封印結界を張ってもらうほうがみんなのためかもしれない。考えていても仕方ないからとりあえずその封印結界のことを調べるために大樹のダンジョンに行ってみよう。ちょうどパラディン隊採用試験とかいうイベントがあるらしいから、情報を集めるにはちょうどいい。というような考えでウチに来たそうです」


「シファー様……そこまで私たちのことを考えてくれていたなんて……」


 半分以上嘘だから感動なんてしなくていいぞ。


「結局試験には不合格になりましたが、砂漠の女神様が来たってことで騒ぎになってましたので、彼女はそれを利用して俺と話す機会をむりやり設けたんです。彼女からは、魔道列車の延伸は無理でも、どうにかしてナミに封印結界だけでも張ってもらえないかと懇願されました。でも俺からはそれはできないとハッキリ言わせてもらいました。そして彼女は、こんなんじゃナミの人たちにも家族にも合わせる顔がない、だからもうオアシス大陸には戻れない。でも人生はこれからも続く、それならばここで気分を一新して魔王討伐を本気で目指してみよう。それがきっとみんなのためでもあるから。……というような結論に至ったようですよ」


「うぅ……」


「「「「女神様……」」」」


 適当に出まかせを言った割には上手くまとまったんじゃないか?

 マリンが睨んできてるのが気になるけど。


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