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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第四百六十八話 砂漠の国からの刺客

 パラディン隊サウスモナ支部は駅から100メートルほど離れた場所にある。

 立地条件的には非常にいい場所と言っていいだろう。

 たまたま空き店舗ができたらしく、そこを町が用意してくれた。

 と言ってもかなり小さい建物だけどな。


 俺とベンジーさんが中に入ると、受付カウンターにはカスミ丸がいた。


「表の連中はなんだ?」


「あ、気付いたでござるか? ナミ王国の衛兵でござる」


 ナミ王国……。


「衛兵って?」


「騎士隊みたいなものでござる。今コタローとメタリン殿が屋根の上から見張って牽制しているでござるよ」


「そういうことか。マリンたちは?」


「ダンジョン内で作業中でござる。まだまだかかりそうでござるな」


「そうか。で、なんで俺を呼んだんだ? まだ釣りをしてたかったんだぞ?」


「呑気に釣りなんかしてる場合ではないでござるよ。先ほど衛兵の一人がこれを持ってきたのでござる。ベンジー殿が来たほんの少し前でござるな」


「これ?」


 カスミ丸が封筒を渡してくる。


「中身は見てないのか?」


「大樹のダンジョン管理人様へって書いてあるでござるからな」


 なんでそういうところだけは律儀なんだよ……。

 ララなら即行破いて見てるぞ。


「どれどれ。……ん?」


 1月25日までに砂漠の女神を解放せよ。

 さもなければナミの国に対する威嚇行為とみなし、ナミの国と大樹のダンジョンとの戦争を開始する。


「おい……これって……」


「マズいでござるよ……」


 う~ん、なんでこんな考えに至ったんだろう?


「シファーさんの文書を届けてからもう一週間くらい経ったか?」


「今日が十日目でござるな」


 考えに考えた末での結論がこれってことか。


「あ、二枚目が重なってるでござるよ!」


 ん?


 あ、ほんとだ。

 一枚目はこんな短い文章だけなんだからまだ一枚目に書けただろ……。


「え~っと……え?」


 なお、砂漠の女神をどうしても解放できないという場合、我々が求める下記の条件を全てクリアできれば戦争は起こさないでやろう。


 一、ナミ王国にあるナミの町全体を封印結界により保護をすること。


 二、今後ナミの町の封印結界の維持に務めること。もし術者の常駐が不可能であれば定期的な訪問でも構わない。


 三、月に一度ナミの町に水魔法を使える術者を訪問させ、人々の生活に必要なだけの水を準備すること。術者は複数人いたほうが好ましいと思われる。


 四、魔道列車をサハの町からナミの町まで延伸すること。できれば早期にお願いしたい。


 五、上記四つの事項に対しての報酬は別途相談させてほしい。きっと満足してもらえるものを提示できるはず。


「……以上」


「無茶なことばかり言いやがるな……」


「砂漠での移動は困難になるでござるし、お金の問題ではないでござるよ」


 いや、そこじゃないだろ……。

 戦争を起こすとか危ないことを言ってるが、ただ俺たちと交渉がしたいってだけだよな……。


「港で警戒する必要があるな」


「戦争不可避でござるな」


 いやいや……。


「二枚目だけを見ると、おそらくこの人たちは本当にナミへの封印結界が無理なのか確認がしたいってことだろう。シファーさんのことだってほかに水魔法を使える魔道士を紹介してくれるんならそれでいいって思ってるみたいだし」


「……確かに」


「……そうとも読み取れるでござるな」


 それ以外にどう読み取れって言うんだよ……。

 意外にこの二人考えが合うんだな。


「管理人さん、どうやらこれは砂漠の女神様をダシにしてナミの町を魔道化してもらおうっていうことに違いない」


「でしょうね」


「どうするでござる?」


「無視でいいかとも思ったが、本当に戦争になったら面倒だしな。一度話をしてみるか」


「やめたほうがいいでござるよ。あの国王はまだしも、大臣がかなり高圧的でロイス殿と話が合うとは到底思えないでござる」


 そういやそんなこと言ってたな。

 カスミ丸とコタローの二人ともがそう感じたんだからそうなんだろう。


「全くシファーさんは面倒なこと持ち込んでくれたよな」


「ロイス殿が大樹のダンジョンで修行してることにしろって言ったでござるよ」


「だってそう言わなきゃシファーさんの家族が危険になるかもしれないだろ」


「甘すぎるでござるよ。ロイス殿にはまだ言ってなかったでござるけど、あの両親なんてお金があるからって凄く贅沢な暮らしをしてたでござる」


「お金があるなら贅沢な暮らしをしても別にいいだろ」


「シファー殿からの文書を読んだ途端、露骨に残念そうな顔してたでござるよ? 少し間があってから、シファーが選んだことなら仕方ないって言ってたでござるけど」


「それだってカスミ丸がそう感じただけで、残念そうじゃなくて今まで無理させて申し訳なかったって顔してたのかもしれないだろ」


「むっ? 自分の目がおかしいとでも言うでござるか?」


「そうは言ってないだろ。ただ本人たちがそう言ったわけじゃないってことだよ」


「コタローも自分と同じ意見だったでござる!」


「おい……二人とも、少し落ち着こうな? というか俺はカスミ丸さん? と会うの今日が初めてなんだけど、どういう仕事をしてる人なんだ?」


 ベンジーさんが間に入ってきたので話は中断された。


「ニャー!」


 とそのとき、外からダイフクの叫び声が聞こえてきた。


 慌てて外に出る。


「ミャ~! (あなた今ダイフクに触ったでしょ!? あなたが悪いんだからね!?)」


 ボネとダイフクの前には人が倒れている。

 ……どうやら気を失っているようだ。


「ミャ~! (あっ!? ロイス! こいつが今ダイフクを襲おうとしたのよ!)」


「襲う? 撫でようとしただけじゃなくてか?」


「ミャ! (だってあの角からずっとこっちを見てたやつよ!?)」


「そーっと近付いてきたでござるよ」


 急にコタローが現れた。


「キュ! (ボネとダイフクは寝てたのです! 寝込みを襲おうとしたに違いないのです!)」


 メタリンもそう言うんなら間違いないのかもしれない。


「ミャ~! (ダイフクは触られた反撃でパンチしただけだからね!?)」


 おそらく少しばかり強烈な猫パンチをな。


「わかったから少し落ち着け」


 さっきベンジーさんに言われた気がするな……。


 でもダイフクはウチの前にいるときとかは寝ている最中に冒険者に触られても気持ちよさそうにしかしないんだけどな。


「先に手を出してきたのは向こうで間違いないな?」


「間違いないでござる。おそらくダイフク殿はボネ殿を守ろうとして攻撃したのでござるよ。こうなった以上タダではおかないでござる」


 なんでどいつもこいつもそんなに好戦的なんだよ……。

 本当に戦争になるぞ?


 ボネだって自分のことは封印魔法で守ってたから大丈夫なはずなのに。


 ……それにさっきからダイフクはなにも言わないが、寝ぼけて攻撃したとかじゃないのか?


「ダイフク、どうなんだ?」


「……ニャ(ダンジョンで戦ってる夢見てた)」


「おい……」


「ミャ、ミャ~? (で、で、でもこいつが触ってきたことには間違いないんだからね?)」


 まぁそれはそうか。

 この人たちだってこの二匹が魔物だってことくらい調査済みだろうしな。

 とりあえずこの場を鎮めとくか。


「今こちらを見てるナミ王国のみなさん、俺の仲間がこの人に襲われたようです。ですので当然反射的に返り討ちにしてしまいましたが、俺たちはなにも悪くないですよね? そちらがなにもしてこなければなにもされなかったんですよ? 万が一俺の仲間が怪我でもしてたらどうしてたと思います? まぁ俺は心が広いですからこのくらいじゃ怒りません。でもこの文書の件、これは交渉決裂ということで。こんな無茶な要求してきた挙句に仲間まで襲われたらさすがに黙っていられません。つまり大樹のダンジョンとナミ王国は……」


「すみません!」


 突然向かいの建物の陰から女性が現れた。

 二十代半ばといったところか。


「なにがですか?」


「この者がそちらの猫さんに触ろうとしたことは謝ります。本当に申し訳ありませんでした」


 いきなり土下座した……。

 よくこんな町中でできるな……。


「頭を上げてください。それと立ってください」


 これまたすぐに立ち上がった……。

 そこは遠慮してもう少し頭を下げておくところじゃないのか……。


「先にこの者の傷の手当てをさせていただいてよろしいでしょうか?」


 傷?


 ……あ、うつぶせになってたから気がつかなかったが、血が地面に広がってきてる……。

 ダイフクのやつ、腹のあたりを爪で引っ掻いたな……。

 というか大丈夫か?


「……どうぞ」


「ありがとうございます。みんな! 救護をお願い!」


 すると人が集まってきた。


 ……十人くらいか?

 本当にこんなに隠れてたのか。


 そして服を破き、患部を水で洗い、ポーションを飲ませ、包帯を巻くなどして必死に救助している。


 ……回復しそうにないな。

 ポーションの効果が薄いようだ。

 質の良くないポーションなんだろう。


「回復魔法使わないんですか?」


「回復魔法なんて貴重な魔法を使える人間が都合よくこの場にいるわけないじゃないですか!」


 それもそうか。


「ではこちらで使わせてもらってもいいですか?」


「えっ!? 回復魔道士の方がいらっしゃるんですか!?」


「えぇ。おい、ティアリスさん連れてきてくれ」


「了解でござる」


 カスミ丸は支部の中に入っていった。

 そして一分後、ティアリスさんがやってきた。


「なにがあったの!?」


「とりあえずこの人治してあげてもらえますか?」


「え? う、うん」


 ……もう大丈夫だろう。


「おおっ!? ありがとうございます! 傷もきれいになって……良かった……」


 いや、感動するほどのもんでもないと思うが……。


「早速トラブル?」


「道にこんなに人が集まってたらご近所様に迷惑である」


「パラディン隊の評判が悪くなったらどうするんですか?」


 マリン、スタンリーさん、アリアさんまで出てきた。


「ナミ王国の衛兵らしい。しかも大樹のダンジョンに戦争を吹っかけてきたんだ」


「「「「えっ!?」」」」


「「「「いやいやいや!」」」」


 さっきのが戦争開始の合図だったのかもしれない。


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