表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

467/742

第四百六十七話 初めてのサウスモナ

 目の前に広がる一面の海。

 天気もいいし、最高だな。

 少し寒いけど。


 ……ん?

 きてるか?


「兄ちゃん! 今だ!」


 ここで軽く合わせる、と。


 ……うん、かかったようだ。

 あとは徐々に糸を巻き上げるだけか。


 ……お?

 見えてきた。

 小さいからこのまま陸に上げてしまおう。


「おお~!? これはアジだな! 兄ちゃん初めてにしては上手いぞ! センスがある!」


「本当ですか? ありがとうございます」


「本格的に初めてみたらどうだ? 楽しいだろ?」


「そうですね。でもここでの釣りももうすぐできなくなるとお聞きしたんですけど」


「……あぁ。魔瘴が迫ってきてるからな」


「ではこれからはどこで釣りをされるんですか?」


「漁業協会が封印結界の範囲をもう少し拡張してもらえないか交渉してるところなんだよ。まぁでも船を出しての漁ができなくなる連中に比べたら俺たちは趣味を奪われるだけだからな。できなくなったら仕方ないさ」


「拡張されるといいですね」


「あぁ。でもそのせいで町の封印結界が維持できなくなったら元も子もないからな。無理だったからと言って文句を言うようなことはしない。釣り人みんなそう言ってるんだよ」


 へぇ~。

 釣り人の方まで理解してるんだな。

 これもリッカルド町長がしっかり周知してくれているという成果なんだろう。


「ミャ~(向こうでダイフクがなにか言ってるわよ)」


「あ、もう一匹の猫が待ちくたびれてるようなので俺はこれで。ありがとうございました」


「おう! 今度来るときは自分の道具買ってこいよ! 今しか楽しめないかもしれないから来るなら早いほうがいいぞ! ほらっ、このアジは持ってけ!」


 いい人だった。

 釣りというものを近くで見学してた俺に声をかけてくれただけじゃなく、実際に体験までさせてくれるとは。


 でもアジってこんなに小さいのか。

 アジジしか見たことなかったから普通のアジがどのくらいの大きさなのか全然知らなかった。


 堤防の先から戻ると、ベンジーさんとダイフクが待っていた。


「そんなところにいたのかよ……港中探し回ったぞ……」


「おはようございます。でもどうしてベンジーさんがここに?」


「マリンちゃんに頼まれてな」


 かなり汗をかいてるようだ。

 俺を探して本気で走り回っていたのかもしれない。

 ここで寝てるダイフクを見つけてようやくこの先に俺がいるとわかったってところか。

 でも予定ではもう少し港に長居しててもいいって言ってたのに。

 なにかあったのかな。


「わざわざすみません。釣りをしてる人が多かったものですから気になって」


「釣りか。最近急に釣り人が増えてるらしい。もうすぐできなくなると知ったらみんな最後にやっておきたくなったんだろうな」


 俺みたいな初心者も多いのだろうか?

 でもほとんどの人はできなくなるから興味が出ただけであって、別に釣りが好きだからやってる人ばかりじゃないってことでもあるよな。

 人間の心理って面白い。


「カトレアさんたちは?」


「とっくに船に乗って海の調査に行きましたよ。今日一日かかるそうですから」


「そっか。なにも問題ないといいんだけどな」


 そして港をあとにし、パラディン隊サウスモナ支部に向かって歩き出した。

 ボネはダイフクの背中の上で寝そべっている。


「サウスモナっていい町ですね」


「そうだろ? 王都やリーヌほどではないけどその次くらいに栄えてるし、住む場所としては最高の場所なんだよ」


 ベンジーさんは町を褒められて嬉しそうだ。


 マルセールよりは遥かに広くて建物も多いし、なにより人の数が多い。

 店の数も比べものにならない。


「町の中を移動するだけでも大変ですね」


「ははっ、馬車使うか?」


「さっき港に行くときはウェルダン馬車使いましたけど今はいいです。あ、そういや魔道列車開通後の馬車の御者さんたちへの影響はどうなってます?」


「ビール村へ運行してた人たちはサウスモナの町中での運行に切り替えたな。観光客が増えたおかげでなんとかやっていけるらしい。町中だと護衛の冒険者も雇わないですむからその分の費用は浮いたわけだしな」


「それならいいですけど。ビール村の御者さんたちなんて完全に廃業ですからね。その人たちが農家になれるように村の人たちで協力して畑を新たに作ったそうですよ。もちろん封印結界も拡張することになりましたけど」


「大変だな……。ここもさ、町の外側にももっと店を作ったらどうかって話も出てるらしいんだよ。ほら、それだと駅から馬車を利用して遠くの店まで行ってくれるかもしれないだろ?」


「いいんじゃないですか? 人口が増えると家も必要になりますから、町も大きくしないといけないですしね」


「……拡張してもらえないかな?」


「封印結界をってことですか? 今よりも外側に?」


「あぁ。今の町では手一杯だし……」


 俺の機嫌を窺うように聞いてきてるな。

 もしかして俺に頼むように町長から言われてるんじゃないか?


「あ、無理ならいいんだ! まだまだ自分たちでできることはあるしな!」


 ただでさえこの町はララと魔物たちが即席で半魔道化してしまった町だ。

 頼めばすぐにやってくれると思ってるのかもしれない。

 そのときもベンジーさんに頼まれたんだよな?


「すまん、冗談だと思って聞き流してくれ……」


 維持する魔力のことを考えると、この町の冒険者の人たちがウチに修行に来て、その人たちから得た魔力で封印結界を強固にするのが一番手っ取り早いとは思う。

 でも冒険者がウチに来てくれるのはありがたいが、この町を拠点に活動する冒険者も増えてくれないことには色々とバランスが取れない気もするしな。

 幸いにもこの町はマルセールとは違って冒険者ギルドがちゃんと機能してるから、魔石や素材の入手で生計を立てやすい環境にはあるだろうし。


 あ、有望な冒険者ならギルドからの推薦でウチに来てもらったりすればいいか。

 推薦状があればFランクからスタートできたり、最初の一週間の宿代を無料とかにしたりするのも良さそうだ。


 それにこの町も少しずつ変化しないとマルセールにどんどん人が集まってくるような気もする。

 誰だって新しい町や店に興味があるだろうし。

 なにより安全だと思われてるみたいだし。

 サウスモナやボワールが活性化してくれないと魔道列車の利用客も減りそうだし、経済も回らなくなるかもしれないよな。


 ……うん、そう考えたら少しずつ拡張していくのはありかもしれない。


「なぁ、悪かったって……」


「いいですよ」


「そうか、ごめんな……」


「じゃなくて、拡張してもいいですよ」


「えっ!? 本当か!?」


「ただし、相応の報酬は頂きますし、もちろん今後の保守費用も上がりますけど」


「それは当然だ! って俺が決めるわけにはいかないから、町長に管理人さんがこう言ってくれてるって話してもいいか!?」


「えぇ」


 嬉しそうだな。


「……あ、やっぱりダメでした」


「え……なんでだ?」


「浮ついてると思われそうじゃないですか?」


「え? 浮ついてる? どういうことだ?」


「だって俺、こんな栄えてる町に来たのなんて初めてに等しいんですよ? だから気分が高揚してついなんでもかんでもお願いを聞いちゃったって思われても仕方ないじゃないですか?」


「誰もそんなこと思わないと思うが……」


「思いますって。今朝サウスモナ駅から外に出てすぐ、駅前の町並みを見て目が輝いていたであろう俺を見たモニカちゃんが俺になんて言ったと思います?」


「……」


「ロイス君、王都に来たら感動して泣いちゃいそうだね。……ですよ? 田舎者だと思って完全にバカにしてると思いません? さすがに泣くことはないでしょう?」


「いや……俺も王都には行ったことないから……」


「なのでまずこのあとベンジーさんからマリンに相談してみてください。そのあとララとカトレアに話がいって、ようやく町長さんに話せると思っててください」


「……大変だな」


「大変なんです。まぁウチはララと錬金術師たちの力によって成り立ってますから当然と言えば当然なんですけどね。俺なんか家でも肩身狭いんですよ」


「なんかすまん……」


 そこはそうは見えないけどなって言ってくれないと……。

 謝られると外からもそう見えてるみたいじゃないか……。


「で、マリンはなぜベンジーさんを迎えに寄こしたんですか?」


「詳しくは知らないんだが、今すぐ港に行ってお兄ちゃんを呼んできてくださいって言われてな。俺も管理人さんたちが来てると聞いてギルドから飛んできたばかりだったから状況がよくわかってないんだよ」


 この町の地理感覚がないメタリンよりもベンジーさんのほうが早いと考えたのか?

 でもスピードだけ考えたら圧倒的にメタリンだし、馬車も使えるもんな。



 それから世間話をしながら歩くこと二十分、ようやくパラディン隊支部に辿り着いた。


 ……ん?


「ミャ~(見られてるわね)」


「やっぱりそうか。今隠れるのが見えたもんな」


「ミャ~(十人くらいはいるわよ)」


「え……」


 そんなに?


 ……姿は見えないし、見張られてるって言ったほうがいいか。


「ミャ~? (頭の上から石でも落としてみる?)」


「いや、それはやめてくれ……」


「ミャ~? (小石程度よ?)」


 なんでそんなに好戦的なんだろうか……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=444329247&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ