第四百六十三話 面接終盤
今のところ不合格者は昨日よりも少ないと思う。
まぁ二次試験があった分、昨日より面接通過基準を低くしているようなところはあるけどさ。
そして次の受験者がやってきた。
「222番、ティアリスです。十七歳、ラス出身です」
「どうぞおかけください」
なんかティアリスさんとこういう場で会うのは違和感しかないな。
というかなぜ魔道士なのにここへ?
ってどうせヴィックさんみたいに俺を指名したに決まってるか。
「二次試験はどうでした?」
「ソロで戦うのは初めてだったんですけど、魔法杖のおかげでなんとかクリアすることができました」
「落ち着いてましたよね。フィールド構成はいかがでしたか?」
「ビックリしました。町のリアル感も凄かったですし、少しこわくなりました」
「新登場の魔物もそれなりにいたと思いますが強さはどう感じました?」
「普通でした。ソロでの戦闘用に魔物の出現個体数を調整されてたと思うんですけど、おかげでじっくり敵の行動を見極めることができたと思います」
「そうですか。実は明日からダンジョンに登場させようと思ってまして」
「えっ? 地下四階にですか? それとも地下三階に?」
「地下四階ですね。でも今ティアリスさんが言われたように強さ的にはたいしたことないと思いますので、序盤のほうにエリアを拡張して出現させることになりそうですけど」
「いいと思います。ドロップ品もあるんですか?」
「気になります?」
「え……それはもちろん……」
「……明日のお楽しみにしておきましょうか」
「お兄ちゃん、こういう話は今しなくてもいいでしょ」
「だって帝都フィールドや敵に対しての反応が気になるんだから仕方ないだろ。ティアリスさんが一番細かく見てくれてそうだし」
「だから今じゃなくてあとでしてよ」
まぁ確かに。
ティアリスさんだからこそ面接を早めに終わらすべきだもんな。
「試験を終えてみて、パラディン隊に入隊したいというお気持ちは変わってませんか?」
「もちろんです。正直これだけ多くの受験者がいたことに驚いてはいますけど」
「スノー大陸やオアシス大陸の主要の町にもビラを貼りましたからね。その甲斐あって各地から優秀な方々が集まってきてくれました。でも優秀だからこそ不合格になった人もいますけどね」
「……冒険者として修行してもらうからってことですか?」
「さすがティアリスさん。ご理解が早くて助かります。ですのでもしかするとウチのダンジョンにいるパーティの勢力図に大きな変化が出てきたりもするかもしれません」
「……」
「そこに自分がいないことが寂しいですか?」
「……はい。悔しくもあります」
「ならパラディン隊に入るのはやめたらどうです?」
「……いえ。なにか成長できるきっかけが欲しいんです。そのためには今より幅広い視野と知識が必要になると思ってます。それに一度冒険者以外の世界も見てみたいんです」
「なるほど、わかりました。試験には文句なしで合格ですので、お兄さんたちやジョアンさんにすぐ報告してあげてください。心配してるご様子でしたので」
「はい、ありがとうございます」
「では試験は以上になります。そちらから別室に転移して、係りの者から今後の説明を聞いてください」
「はい、ありがとうございました。……これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」
ティアリスさんはどこか寂しそうな笑顔を見せてから転移していった。
試験に合格することができて嬉しい気持ち。
でもパーティが解散になる寂しい気持ち。
それに自分の勝手で解散させてしまったという罪悪感が交錯してるんだろう。
まぁそこをどうにかするのがお兄さんたちの仕事だよな。
「ロイス君、今の子にはずいぶん甘くないかい?」
「バーゼルさん、お兄ちゃんは付き合いが長い人ほど甘くなる傾向があるからそこは気にしたらダメです」
「ははっ、それが人情ってもんだ。それに可愛い子だしね。でも若くて有望なパーティだったんだろ? そのパーティを抜けてまでパラディンになりたいっていうのがどうも腑に落ちなくてね。しかも回復魔道士なのに」
「ティアリスさんのライバルはユウナなんです。あ、ライバルといっても仲は良いですよ? でも同じ回復魔道士としては負けたくないでしょうし、ティアリスさんに限らず回復魔道士はどうしてもユウナと比較されがちになりますからね」
「そういうことか。だから環境を変えてみたくなったって言ってたんだね。でも強くなるためにパラディン隊を選ぶなんて、本当に自分に厳しくできる子しか無理じゃないかい?」
「それができる人のはずです。それにパラディン隊全体の先頭に立って引っ張っていってくれる人ですよ」
「へぇ~。期待するのはいいけどほどほどにしてやらないと可哀想だよ? 強そうに見える人ほど実は繊細で崩れるときは脆い。ロイス君が支えてやれるのなら別だけど」
「ティアリスさんには双子のおにいさんがいますからお兄ちゃんの助けはいりません。それに可愛くて社交的で面倒見もいいですから、困ってたらいくらでも男性が助けてくれますのでご安心を」
「……そうなんだね。じゃあそろそろ次いこうか」
バーゼルさんはなにかを察したようだ……。
まぁティアリスさんはなにかあったらすぐ俺に言ってくるだろうし、一人で抱え込むようなことはないと思ってる。
今後の成長に期待させてもらおう。
それからしばらく流れ作業に近い面接が行われた。
志望動機、試験の出来、本人の性格を知るためのいくつかの質問。
それらを繰り返し聞く普通の面接。
普通は別に悪い意味じゃなからな?
さすがにこれを二日間も続けてると精神的に疲れてきた気がする。
仕事だから仕方ないとはいえ、頻繁にやるもんではないな。
そして残りの受験者も少なくなってきたころ、問題ありそうな受験者が転移してきた。
「……1010番、イザベラ……。ユウシャ村出身の十二歳……ですわ」
来たか……。
来てしまったかと言うべきか。
双子の魔道士の妹。
できれば先に兄のほうに来てもらって様子を見たかったが。
「どうぞおかけください」
「失礼しますわ」
ん?
前とは少し様子が違うな。
失礼しますなんて言えるような子ではなかったはず。
「お久しぶりですね」
「お久しぶりですわね」
「ウチのダンジョンに来たのはあれ以来ですか?」
「そうですわ。……普通に話してくれていいですわよ」
「そうか。この二か月間なにしてた?」
「反省させられ……じゃなくて反省してたですわ」
「ずいぶんおとなしくなったな。って魔法杖持ってないからか?」
「今の私は魔法杖を持ってようが待ってなかろうが関係ないのですわ」
「ふ~ん。試験の様子を見させてもらったが、確かに前よりはうるさくなかったな」
「精神統一の訓練の成果が出てるんですわ。お婆ちゃんの訓練に耐えたんですもの」
「そんなに厳しかったのか?」
「鬼ですわ。自分でも性格が変わってしまったのがわかりますわ」
「少し落ち着いたってだけだろ」
「お兄ちゃん……言葉遣いだけでも明らかに前と全然違ってるでしょ……。」
言葉遣い?
そんなに違うか?
前は常に興奮状態だったから乱暴な言葉になってただけじゃないか?
「よくそこに気がつきましたわね、マリンさん」
「「マリンさん?」」
「この二か月間、魔道ダンジョンの家にウサちゃんの監視付きで閉じこめられていたんですわ。魔法も使わせてもらえなかったんですわよ」
魔道ダンジョンに隔離されてたのか。
言われてみれば確かに言葉遣いも変わってる気がする。
前までだと、家に閉じこめられてたわ!
とか、魔法も使わせてくれなかったのよあのババア!
みたいな感じだったと思う。
マリンのこともさん付けで呼んだりするようなことは絶対になかったはずだ。
「ちょっと魔法杖持ってみろ、ほら」
「きゃっ!」
杖を放り投げると、イザベラはあたふたしながら受け取った。
どうだ?
本性が出るんじゃないか?
「大丈夫ですわよ。ちゃんとこういった訓練もしてきたんですもの」
……すぐに魔法をぶっ放すようなことはなさそうだな。
「どんな訓練だ?」
「最初は今みたいに魔法杖を渡されて、もし少しでも魔力を流そうもんなら一日ご飯抜きで水だけでの生活とかでしたわね……。シャワーを浴びることも許されないときがあってまさに地獄でしたわ。一か月経ったくらいからは言葉遣い、礼儀作法、食事中のマナー、歩く姿勢まで訓練させられ……訓練しましたわ」
まだ時々やらされた感が出てしまうようだな……。
「それも全部ルーナさんが?」
「作法についてはフィオナさんがずっと教えてくださっていましたわ。お婆ちゃんからは夜にテストされるくらいでしたわね」
「フィオナさん?」
誰だっけ?
ユウシャ村の人なんだよな?
「イザベラちゃん、私と会うのは初めてかな。いつも娘と遊んでくれてありがとうね」
「あ、もしかして副町長さんですの? こちらこそですわ。アリアナちゃんがいたからこそ、立派なお姉ちゃんにならないとと思って訓練に耐えることができたんですわよ」
フィオナさんってバーゼルさんの奥さんか……。
でも王族の人に教えられたんならこの言葉遣いも納得というか……。
付け焼き刃感がかなりあって違和感を感じずにはいられないが。
「でも無事に二次試験通過できたんだね。おめでとう」
「ありがとうですわ。これで魔道ダンジョン生活からも脱出できそうですわ」
「ん? ルーナさんと約束してたのか?」
「そうですわ。二次試験を通過できたら普通の生活に戻れて、通過できなかったらもう一か月間訓練延長という約束だったのですわ」
試験を受けるように言ったのはルーナさんだったのか。
以前のイザベラなら一次試験で周りの輪を乱して失格になってただろうな。
仮に二次試験に進めたとしても、犬や猫にイライラしてしまって守りながら戦うなんて絶対に無理だっただろう。
「じゃあ別にパラディン隊には入らなくてもいいんだな?」
「まぁそうですわね。どうしてもというのなら入ってあげてもよろしいですわ」
「いや、不合格だから安心しろ」
「え……安心しろはおかしいですわよね……」
その変な喋り方よりはおかしくないと思う。
「兄貴も似たようなもんなのか?」
「ワトソンより私のほうがお上品に決まってますわ」
「そうか。じゃあもう試験は終わりだから帰っていいぞ。兄貴の面接もすぐに終わらせるから」
「ちょっと待ってですわ。これで魔法杖の使用許可は下りたと思っていいのですわよね?」
「あぁ。ただし、使いたいんならちゃんと自分で稼いでそのPで買え。お前たち二人の冒険者カードはこのダンジョンで貯めたPしか使えないようになってるからな」
「わかったですわ。たくさん魔法杖を売りに出してくれるようにカトレアさんに言っておいてですわ」
特に何事も起きずにイザベラは部屋から転移していった。
そして次に兄のワトソンが来た。
「やぁ、ロイスさんにマリンさん。久しぶりだね。今思えば以前の僕は少し心が幼かった。お恥ずかしい限りだよ、ははっ。あ、受験番号は1011番、いい番号だろ?」
「「……」」
ワトソンの指導の参考にされたモデルはバーゼルさんなのかな。




