第四百五十七話 漆黒の騎士アリア
二日目の最終試験となる面接試験が始まった。
昨日と同じように三部屋に分かれて行う。
そして王国騎士隊の面接会場では、二次試験を通過したもののパラディン隊では一次試験で不合格となっていた人たちの面接が始まっている。
この受験者たちには先ほど別室に移動してもらい、残念ながら既にパラディン隊の試験には落ちていたことを知らせた。
この数十人の受験者たちは事実を知らされてショックを受けているかもしれない。
パラディン隊に不合格になってたんならなぜ早く伝えてくれなかったんだと怒る人も出てくるかもしれない。
だから、一次試験後に伝えなかったのは王国騎士隊からの特別推薦があったからであり、実際に何人かは合格したとも嘘をついた。
でも王国騎士隊に対しては、推薦してくれただけじゃなく拾ってくれてありがとうという気持ちが芽生えるかもな。
だから冒険者になってもらいたいというウチの希望は叶わないかもしれない。
間違ってもウチを恨むようなことだけはしないでほしい。
面倒なことにしたのは騎士隊なんだからな。
まぁそこはセバスさんが上手くなだめてくれたと思っておこう。
一方、二次試験を通過できなかった人たちに対しては、シンディによる大樹のダンジョンの新規冒険者向け説明会が行われている。
だがこの中には王国騎士隊には合格したという人もそれなりにいる。
その人たちの面接はこのあと順次行われるが、ララの予想では面接を受けることすらせずにウチで修行すると言ってくれる人が多いはずとのこと。
もうウチのダンジョンの虜になった人ばかりだろうってさ。
「始めていい? 考え事中?」
マリンが俺の顔を覗き込んできた。
「いや、大丈夫だ。お二人もよろしいですか?」
「もちろん」
「はい!」
バーゼルさんはもう慣れた感じだな。
騎士さんは初めてだから緊張してるようにも見える。
昨日面接官をしてくれた三人の騎士さんたちは、今日は王国騎士隊のほうの面接官を務めている。
昨日の経験が早速活かされてることだろう。
そして本日の一人目の受験者がやってきた。
今日の面接順はほぼ二次試験のタイムが早い順だ。
「……311番、アリアと申します。ジャポング出身です」
「よろしくお願いします。どうぞおかけください」
「はい。よろしくお願いします。失礼します」
アリアさんが座るのと同時に、マリンが俺の足をポンポンと叩いてきた。
この声の感じで確信したのか。
「表情を見ながらお話したいので、兜を取ってもらうことは可能でしょうか? 無理ならそのままで結構ですので」
でもこう言われて取らない人なんているのだろうか?
というか兜を被ったまま面接を受けようってほうが驚きだぞ……。
「できればこのままでお願いできますか……」
え……。
試験官に対する印象はかなり悪いし、このまま素顔を見せないまま入隊なんてことはさすがにあり得ないと思うんだが……。
……まぁ俺がそのままでいいって言ったんだしな。
「わかりました。イメージもおありですもんね」
「……ありがとうございます」
もしかしたらパラディン隊に入る気なんて最初からさらさらないのかもしれない。
暇つぶしに遊びにきただけかもな。
そうだとしてもどうにかしてウチで冒険者をしてもらわないと。
こんな人材を逃したらララに怒られる。
「年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あ、そうでしたよね、すみません。十八歳です」
「十八歳!?」
「え……」
「あ、すみません」
思わず驚いてしまった。
南マルセール駅の映像を見てそれなりに若いことはわかっていたがまさか十代だとは。
ってまだその人と同一人物かどうかはわからないが。
それよりまだ十八歳か。
伸びしろがまだまだありそうじゃないか。
尚更引き留めないといけなくなったな。
「お声の感じからお若いとは思っていたんですが、なかなかその黒い鎧や戦い方とのギャップが埋まらなくて驚いてしまいました」
「……」
「ところで、パラディン隊の鎧は白なんですが、どうしても黒じゃなきゃ嫌だとかあります?」
「え……」
「兜は顔が見えてるんですけど、頭全体を覆うほうがいいですかね? マリン、サンプルをお見せして」
マリンはレア袋からパラディン装備を着せたマネキンを取り出した。
「どうですか?」
「カッコいいですね」
「ちなみにミスリルを使ってます」
「ミスリルですか? 凄いですね」
「アリアさんの鎧はなんの鉱石を使われてるんですか?」
「鋼です」
「鋼ですか。鋼ってそんな色艶も出せるんですね、へぇ~」
「……」
「じゃあ剣も鋼なんですか?」
「はい」
「それであの強さとは相当お強いですね。ミスリルの剣を使えばもっと簡単に魔物を倒せたでしょう」
「……」
「ところで、どうして今回はパラディン隊の採用試験を受けようと思われたんですか?」
長い前置きになったが、この面接がただ事務的にやってるんじゃないってことはわかってもらえただろう。
まだかなり警戒されているようだが。
「なんとなく……です」
「は?」
今なんとなくって言った?
なんとなくなになにですじゃなくて、ただなんとなくとしか言わなかったよな?
「ジャポングご出身ということはもしかして避難者の方ですかね?」
「はい」
「では南マルセールで募集のビラを見られたんですか?」
「はい」
「で、なんとなく受けてみようと?」
「はい。……変ですよね、すみません」
うん、変だ。
こんなに実力がある人がなにも考えずにただなんとなく試験を受けてみようかな~なんて変でしかない。
「冒険者なんですか?」
「いえ……冒険者では……」
「ジャポングには冒険者はいないって聞きますもんね」
「はい……」
「でも魔物もめったに出現しないくらい平和なジャポングでよくそこまで強くなられましたね」
「え……」
表情は見えなくても動揺してることはわかるな。
「明らかに戦闘に慣れてますよね? 人間と戦われてたりしたんですか? それとも別の国で修行してたんですか? ジャポング出身で冒険者になりたい人はよその国に行くとお聞きしますし」
「……」
「それも言いたくないですか?」
「いえ、そういうわけでは……ただまだ色々と頭の中の整理がついてないものでして」
ジャポングから避難してきたばかりでって意味か?
「それは失礼しました。私の配慮が足りてませんでしたね」
「いえ、お気遣いありがとうございます。お若いのに凄く丁寧ですよね。失礼ですけど、どういう立場のお方なんでしょうか?」
ん?
あ、そうか。
今日の受験者はまだ俺と会ってないんだっけ。
昨日は朝と面接と夜に顔出してたもんだから少し混同してた。
「名乗るのが遅れて申し訳ありません。私はここ大樹のダンジョンの管理人をしておりますロイスと申します」
「えっ? 管理人さんだったんですか……」
「一応魔物使いでもあります。魔物使いって知ってますか? 例えばこの猫、この子は魔物ですけど俺の仲間なんです。俺とはちゃんと会話もできるんですよ?」
「……ミャ~(なに? おやつの時間?)」
試験中に寝るなよ……。
「……」
これはどういう反応なんだろう……。
……ん?
「「「「えっ!?」」」」
アリアさんがいきなり兜を脱いだ。
「「「「……」」」」
そして手で目をこすっている。
……いや、もしかして涙を拭いているのか?
いつから泣いてたんだろう……。
俺がなにか傷つけるようなことでも言ってしまったんだろうか。
でもマリンの言う通りあの女性で間違いなかったようだ。
「……すみません。魔物使いなんて本当にこの世に存在したんですね。しかも直接お会いできるなんて」
ん?
もしかして魔物使いに会えたことに感動して泣いてたのか?
というかウチが魔物使い必須のダンジョンってことを知らないのか?
「アリアさんは大樹のダンジョンのことをどれくらい知ってます?」
「ほぼなにも知りません。大樹のダンジョンのことだけでなく、私が住んでた国ではほかの国の情報があまり入ってきませんでしたので」
「ジャポングがですか?」
「あ…………すみません。実はジャポングには二か月と少しほどお世話になってただけなんです」
ということはそういうことだよな?




