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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十一章 マナの守り人

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第四百四十四話 試験二日目の朝

「ミャ~(朝よ)」


 ……わかったから尻尾でペチペチ叩くなって。


 なんだか凄く眠い。

 温泉にたっぷりつかって疲労もそこそこ取れてるはずなのに。

 昨日はずっと座ってただけだから体はそこまで疲れてないんだろうが、目と頭の疲労って結構残るからな。


「ミャ~(もう七時半よ?)」


「あと五分だけ……」


「ミャ~(三回目よ?)」


 それはわかってるんだけどさ……。


「お兄! まだ寝てるの!?」


「いや、ストレッチをしてたところだ」


 ララの声が一番の目覚ましだな。


「……早く起きてよね。着替えて顔洗ったらすぐリビングに来て」


 バレてる……。


 急いで身支度を整え、リビングに向かう。

 どうやらララしかいないようだ。

 まだみんな寝てるのか?

 それとももう仕事してくれてるのかな?

 あ、よく見たらダイフクがソファの前で寝てるようだ。


「ご飯準備できてるから」


「うん、ありがとう」


 白米に味噌汁にアジジの塩焼きか。

 美味そうだ。


 食べ始めてすぐララが俺の向かいの席に座った。


「今ユウナちゃんとジジイとギャビンさんたちが適性試験の審査方法を教えてくれてるから」


「ん? もう審査員見つかったのか? 味噌汁美味いな」


「七時ちょうどにダンジョン酒場で依頼を表示したんだけどさ、十分もしないうちに希望者が二十人近くも来たの」


「へぇ~。みんな早起きなんだな。アジジの焼き加減最高だぞ」


「やっぱり試験のことが気になるらしくて小屋の外にまで出てきてる人が多いんだよ。列車も七時過ぎからもう何本も来てるし、駅から人が出てくるのを見てるだけでも面白いんだってさ」


「わかるわかる。今日は日曜でダンジョンも休みだし、いっそのこと小屋の前にベンチでも並べておいてあげたらどうだ? ははっ」


「もうそうしてるよ」


「え……」


「みんな勝手に駅から試験会場入り口までの案内もやってくれてるんだもん。だから向こうは任せちゃった」


「……協力的な冒険者が多くて助かるな、ははっ」


 でも報酬は出ないぞ?

 審査員だけだからな?


「で、審査員は何人雇った?」


「十人。もちろん全員Eランクで、パーティ内から試験を受ける人がいないって条件でね。報酬は時給200G。でもみんな報酬なんかより試験官をやってみたいって人ばかりだけどさ」


「ふ~ん。誰がいるんだ?」


「ゾーナさん、ブレンダさん、ジェイクさん」


「お~? 同じパーティから三人もか。アシュリンさんはさすがにまだ経験が浅いもんな」


「ほかにはサイモンさんとかナイジェルさんとか、昔から来てくれててある程度信頼がある人にお願いしたから。魔道士も五人いるから二人一組で適性試験の審査をしてもらうつもり」


「うん、それでいい。というかその人たちになら適性試験だけじゃなく一次試験も任せていいんじゃないか?」


「それは受験者の数次第かな。千人超えるようなら考えるけど」


「ははっ。さすがに千人は超え……超えそうなのか?」


「たぶん。さっきで八百人超えてたもん」


 マジか……。


「カトレア姉に頼んで待合室も大きくしてもらったから。どうやらマルセールでも昨日の試験の話で持ち切りだったらしくてさ。なんだか付き添いも来ていいみたいに思われちゃってるみたいなんだよね……」


「……まぁ料理販売魔道具の売り上げが伸びるから良しと考えよう。魔道列車の運賃もな」


「そうだね。でも今日だけって言っとかないと普段から観光客が来ちゃうかもしれないよ?」


「普段は列車が朝と夜しか動いてないんだから大丈夫な気もするけど。念のため冒険者専用路線ということをさらに強調しておくか」


「うん。メロさんにも言っとくね」


「頼んだ。……そういやシャルルは? まだ寝てるか?」


「それがさ、朝六時くらいに起きてきて、マルセールに行ってくるって言って出ていっちゃったの。シルバといっしょに」


「また王子たちのところか?」


「たぶんね。もしかしたら王子たちは朝一で王都に帰るんじゃない? それの見送りとか?」


「いや、それはないだろう。護衛のことを考えたら明日みんなでまとまって帰るだろうし」


「そっかぁ」


 昨日の夜はジェマですら部屋に入れてもらえなかったらしいからな。

 バナ君が自分のせいで不合格になったのがそんなに申し訳ないのか?

 でもあの調子じゃシャルルがなにもしなくても不合格になってた可能性のほうが高いと思うが。


「ほかのみんなも起きてるのか?」


「スピカさんとモニカちゃん以外はね」


「まぁ八時半までに準備してくれればいいしな。というか審査員増やしたのはいいが、記録係のカトレアたちが大変だな」


「今日はモニカちゃんにもやってもらうから」


「ん? でも受験者たちの番号案内はどうするんだ?」


「それは私がやるね。適性試験や一次試験の案内は鍛冶職人さんや防具職人さんたちが手伝ってくれることになったの」


「へぇ~。少し意外だな」


「自分たちが装備品を仕立てることになる相手を見ておきたいのかもね」


「なるほど。これから長い付き合いになるかもしれないもんな」


 パラディン隊の武器や防具のメンテナンス頻度のことも考えないといけないよな。


「でもララは六時に起きてたってことはもしかして今朝もバイキング会場に行ってきたのか?」


「もちろん。ユウナちゃんといっしょにね。今日は昨日より人が多いからか緊張感もいっぱい伝わってきて楽しかったよ?」


 楽しそうでなにより……。


「ミャ~(シルバが帰ってきたわよ)」


「ん? シルバが帰ってきたってさ」


「じゃあシャルルちゃんもかな?」


 そして魔物部屋のほうからシルバがやってきた。


「わふ(ただいま)」


「おかえり。シャルルは?」


「わふ(あと五分後くらいに来るよ)」


「五分後? 先に走って帰ってきたのか?」


「わふぅ(うん。一応話聞いてあげてくれる?)」


 話?


 そして五分後、シャルルが帰ってきた。


「ハァ、ハァ、ハァ……ただいま……」


 息を切らしてるようだ。

 外は寒いはずなのに、汗もかなりかいてる。


「もしかしてマルセールから走ってきたのか?」


「えぇ……初心を思い出そうと思ってね……」


 いい心がけだ。

 でもシャルルはこの道を歩いて来たことすらなかっただろ?

 確か初めて来たときにはもうトロッコがあったもんな。


「……美味しそう」


「ん? まだ朝ご飯食べてないのか?」


「うん……」


「ララ、準備できるか?」


「魚は時間かかるからご飯とお味噌汁だけね」


「そんな……ってその前に少しいいかしら……」


「なんだ? バナ君たちのことか?」


「えぇ。……バーナード、入ってきなさい」


「「え?」」


 シャルルが玄関に向かって声をかけた。

 バナ君が来てるのか?


 ……ん?


「誰だ?」


「バーナードよ」


「「え……」」


 なんだよその頭は……。


 なぜか髪をかなり短くしてきてる……。

 短いというかほぼ坊主に近い……。

 バナ君も走ってきたようで、かなり疲れている様子だ。


「ララ、水を」


「え、うん……」


 ララが水を差し出すと、バナ君は一気に飲み干した。

 そしてもう一杯要求してくる。


「ちょっとは遠慮とかしないの?」


「喉乾いて死にそうだ……」


「そんなんでパラディンになろうとしてたなんてウチもなめられたもんね」


 ララはご立腹のようだ……。


「で、なんのためにバナ君を連れてきたんだ?」


「……ほら、バーナード」


「あ、あぁ……その……」


 大体察しはつくけどな。


「もう一度試験を受けさせてくれ!」


「ダメだ」


「嘘だろ……髪までこんなんにしてきたのに……」


「そんなこと俺に言われても知らん。自分で勝手にやったことだろ」


「お姉様が誠意を見せればって大丈夫って言ったのに……」


「なんで私のせいにするのよ!? というかこのくらいで諦めていいの!?」


「だって二人ともこわいし……」


「世の中にはもっとこわい魔物がいっぱいいるのよ! そんなんでパラディンが務まるわけないでしょ!」


「でも……」


「でもはもう聞き飽きたわ! いつもみたいに強気で生意気になりなさいよ!」


「……」


 なんだか可哀想になってきた……。

 シャルルの前ではバナ君も普通の弟に見えるな。


「ララ」


「ダメ」


 早い……。

 俺がなにを言うかわかってるんだな……。


「昨日のことは誰も知らないし、今日は審査も途中まで冒険者がやるんだしさ」


「ダ~メ」


「これで落ちたらさすがに諦めもつくだろうしさ」


「この程度で試験受けさせてたらキリがないでしょ? 王子なんだからお城でふんぞり返っとけばいいのよ。どうせお城を飛び出してまでパラディン隊になろうとしてる自分カッコいいみたいに思ってるんでしょ?」


「ララ」


「冒険者たちがどれだけの覚悟を持ってウチで修行してるかわかる? 命をかけて戦う重みがバナ君にはわかるの?」


 ダメだ……とまらなくなった。


「冒険者たちのこと絶対見下してるでしょ? 私やお兄のことだって、ド田舎の礼儀も知らないやつらが王子様である俺に生意気な口を叩きやがってって思ってるでしょ?」


 いや、さすがにそこまでは……。


 というかバナ君もなにか言い返せよ……。


「でも私たちからしても王子や王女なんて私たち庶民に偉そうにしてる生意気なやつらとしか思ってないもん。国王やお城の人たちがすることになんか誰もなにも期待してないの知ってる? きっとバナ君なんて騎士隊の人からだってバカにされてるよ?」


「……」


「そんなんでパラディン隊に入ったら余計に世間の風当たりが強くなるよ? 間違いなく王国騎士隊の人たちはいい顔しないし。パラディン隊から騎士隊に戻ったときには、俺はパラディン隊で修行してきたからお前らより強くて凄いんだぞって自慢するわけでしょ? そんな王子に誰が付いていきたいと思う? 本当に強ければ許されるかもしれないけど、それはそれで浮いた存在になるよ?」


「……」


 あ……バナ君の目から涙が……。

 必死に堪えてたのに。


「ララ、そのへんで……」


「どうせお城では末っ子王子ってだけで甘やかされて育ってきたんだよ。でも今世界が大変な状況で、自分の周りの状況も刻々と変化していく中で、このままじゃ王子としての立場上マズいと思ったからウチに来たんでしょ?」


「……」


「国王になれない王子なんて悲惨そうだもんね。しかも上にはもう一人王子がいるわけだし。自分が二人より優れていることを探したら剣術だったってところ? それでもたいしたことないけどね。マリンちゃんから言われたでしょ? 初心者レベルだって」


「ララ、お願いだからやめて……」


 シャルルは聞いているのがツラくなったようだ。


「今まで剣術習ってたっていってもさ、言われたから仕方なくであって所詮お遊びでだもんね~。ウチのダンジョンに来る初心者の人は誰にも剣を習ってない人ばかりだけど、冒険者としてお金を稼いで生活していかないとって思ってるからその分の覚悟が剣の振りに表れてるの」


 不格好な剣の振りだろうが魔物を倒せればいいわけだしな。


「昨日の一次試験を見ててもまず必死さが足りない。剣をきれいに振ろうとしてるせいで動きが僅かに遅くなる。そしてなにより臆病。とりあえず合格するために痛みやこわさを我慢して魔物に向かっていってるって感じ? まぁその我慢強いところは唯一褒められる点でもあるけど、本当の戦場だとそれはただの無謀なバカ。シャルルちゃんにDグループにしてもらわなかったらきっと二度と試験を受けようなんて気にならなかったと思うよ」


 的確な指摘だ。


 昨日の試験で魔物のこわさを思い知った人は山ほどいたはずだからな。

 でもそれは悪いことだとは思わない。

 いずれ克服しなければいけない壁が早めに来たと思ってほしい。


「どうする? 私にこれだけ言われてももう一度試験受ける? 今日はコネが使えないし、受けるとしても昨日より敵が強いCグループにするからね?」


 お?

 なんだかんだ言って受けさせてやってくれるんじゃないか。


「……」


 悩んでるのか?

 受けるなら早く返事したほうがいいぞ?


「バーナード? やめてもいいのよ? 昨日より確実にボロボロになるわ……精神的にも……」


「……受けるよ。俺もお姉様みたいに強くなりたい」


「バーナード……」


「……そう。仕方ないから特別に受けさせてあげる。最初の説明も適性試験もパスでいいから、一次試験が始まるまではこっちのトレーニングエリアでシャルルちゃんとアップでもしとけば。じゃあ私は手続きしてきてあげるから。ダイフク、行くよ。あ、もうすぐ魚焼き上がるから食べていいよ」


 ダイフクはゆっくりと起き上がり、俺の足に尻尾でタッチしてからララといっしょに玄関から出ていった。

 バナ君はダイフクを見て驚いている。

 こんな大きな猫あまり見かけないからな。


 それより今話してる間にアジジを焼いといてくれたのか。

 どれどれ……しかも二人分あるじゃないか。


「ララも優しいところあるだろ?」


「……あぁ」


「そんな状態で試験を受けられるのか?」


「大丈夫……だと思う」


 目が真っ赤だけどな。


「シャルル、ご飯食べたらトレーニングエリアに行く前にとりあえず美容院連れてってやれ。その雑にカットした髪をちゃんと整えてもらってこい。混雑してたらメイナードに頼んでこっそりやってもらうんだぞ」


「わかったわ。クラリッサに借りたハサミも返さなきゃいけなかったしちょうどいいわ。やっぱりプロにやってもらうのが一番ね」


 ダイアナさんよりシャルルのほうが親身になって心配してるよな。


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