第四百三十七話 王子と皇子
審査室にいた王子と王女を四人とも面接会場に呼び出した。
シャルル以外は第四王子と並んでイスに座っている。
「マリン、審査室のみんなには聞かれてないよな?」
「大丈夫。さっきの途中からずっと遮断してるから」
さすがマリン。
「ごめんなさい……」
シャルルは第四王子が座るイスの隣で床に正座している。
別に俺がそうしろって言ったわけじゃないし、イスもちゃんとあるからな。
「適性試験のとき、わざとDグループにしたか?」
「……ジジイがCかDで悩んでたから、魔物との戦闘経験はなさそうだからDでいいじゃないって言ったわ」
「……まぁそれはいい。一次試験を通過させるように助言してきたのもお前だったよな?」
「だって……ほかに飛びぬけた人もいなかったからいいじゃない……若いのは事実だし……」
隠してたのは第四王子のことだったのか。
ララもこのことをユウナから聞いて知ってるんだろう。
おそらくあえて俺のほうで面接を受けさせたな。
「ほかにはなにか隠してないか?」
「……もし魔物にやられても諦めずにすぐ復活しなさいって言ったわ」
「おい……」
それはダメだろ……。
「第四王子が試験を受けることをいつから知ってたんだ?」
「今朝よ。受付でゼッケンを貼ってるときに会って初めて知ったの。私だって驚いたんだからね」
ということは偶然か。
シャルルが受付を手伝うことになったのは今朝だもんな。
本当なら今日はダンジョンに入ってる予定だったんだし。
「許してやる。イスに座れ」
「うん」
「お兄ちゃん、甘すぎ」
「今は話を進めないと時間がないからだ。あとでたっぷり絞る」
「だよね。シャルルちゃんがした罪は重いよ。出禁も考えないとね」
「嘘でしょ? 出禁って……」
シャルルは今にも泣きだしそうだ。
マリンの冗談なのに。
……冗談だよな?
「リアムさん、隠してた理由を教えてもらえますか?」
「騎士たちと同じように実力で試験に臨ませるためだ。試験が終了したら話そうと思ってた。俺たちもシャルが受付にいるとは思わなかったし、シャルがこういうことをするとも思ってなかった」
「あれ? シャルルちゃん、お兄様からも見捨てられちゃったみたいだよ?」
「うぅ……」
マリンも少し煽りすぎだな……。
あとで優しく注意しておこう。
「リアムさん的には合格不合格どちらを望んでるんですか?」
「……不合格だ。パラディン隊どころか王国騎士隊にも入ってほしくない」
あ、そっちなのか。
弟に危ないことはさせたくないし、騎士にならなくても城の中でできる仕事がもっとあるだろってことか?
王子が騎士隊にいたらみんなもやりづらいだろうしな。
「ダイアナさんはどうなんですか?」
「私は……バナ君が好きなようにしてくれたらと……」
バナ君か。
バーナードよりは呼びやすいな。
「ジェラードさんは?」
「僕もバーナードの決断を応援するよ。それに将来は王都に戻りたいって言ってるんだしね」
ジェラードさんは弟に甘そうだもんな。
「シャルルは?」
「……」
出禁という言葉がショックで俺の声が聞こえてないようだ……。
でも合格させようとしてたくらいだから応援派なんだろう。
「バナ君はリアムさんの反対を押し切ってでもパラディン隊に入りたいんですか?」
「無論だ。将来のリアムお兄様のためでもあるからな」
バナ君にもツッコんでくれないんだな。
みんなは俺の冗談に軽く引いてるのに。
でもどうしようか。
面倒事が増えるだけだから正直不合格にしてしまいたい。
「ロイス君、いいんじゃないかな? 第四王子までマルセールに来るとなると町もより活気付くしさ」
バーゼルさんも賛成なのか。
「でも公にはできませんよ? バナ君が狙われるかもしれませんからね」
「ははっ、パラディン隊が誘拐でもされたら笑いものだよ。当然そのくらいの覚悟はあるさ」
「もちろんだ! 逆にわざと狙わせてやるさ! ははっ!」
「冒険者が襲ってきても対応できますか?」
「「え……」」
無理に決まってる。
パラディン隊に護衛を付けるなんてことは本末転倒だしな。
「バナ君さぁ、シャルルちゃんの強さがどれくらいかは知ってる?」
「当然だ! この前氷魔法を見たからな! シャルロットお姉様はEランクだし、大樹のダンジョンの冒険者の中でも最強クラスだ!」
「氷魔法の威力だけならね」
「どういうことだ?」
「例えばシャルルちゃんとウチの冒険者が一対一で戦ったとするでしょ? シャルルちゃんに勝てる冒険者は軽く百人はいるよ?」
「え……」
「攻撃力があったり魔法が使えるってだけではダメなのが冒険者の世界なの。本気でバナ君を狙いにきた凶悪冒険者パーティがいたら太刀打ちできるわけないじゃん。シャルルちゃんだってユウナちゃんがいるからこそEランクになれただけなんだからね? わかる?」
「……」
マリンの言う通りだな。
「……ロイス君、少し相談いいかな」
ん?
なぜこのタイミングでバーゼルさん?
そしてなぜ不安そうなんだ?
「相談ってこの件に関することですか?」
「少し個人的なことになるのかもしれないんだが……」
「今ですか?」
「できれば今がちょうどいいと……」
ちょうどいい?
どうしたんだ?
「実は私の弟も試験を受けていてね……」
「「「「え?」」」」
なにを言ってる?
「もう合格が出てるんだよ……」
「「「「え……」」」」
弟ってことは……皇子ってことでいいのか?
「つまりだね、今のバーナード君と同じような状況かなと思ったわけであって……」
「……今になって心配になってきたってことですか?」
「うん……だから名前とかは変えたほうがいいのかなって思ってさ……」
そういう問題なのか?
やっぱり合格を取り消してほしいとかじゃないんだな。
「一応聞きますけど、皇子なんですよね?」
「あぁ、第四皇子だ」
「「「「え……」」」」
「年齢もバーナード君と同じ十五歳。なにか縁を感じるだろ? はははっ」
笑ってる場合かよ……。
でも裏工作なしで合格できたのは凄いじゃないか。
「合格を知ってるってことはここで面接したんですよね? 名前を教えてもらえますか? 」
「ピエットだよ」
ピエット?
ここで面接したような気もするが、今日はたくさん名前を見たり聞いたりしすぎてあまり覚えてない……。
「あ、この人かぁ~~~~。二番目に面接した260番の人」
マリンはすぐにピンときたようだ。
二番目ってことは騎士隊長の次か。
「……あ~~~~。なるほど」
満点合格の少年じゃないか。
そういやバーゼルさんもこの人のときだけやけに厳しい質問をしてた気がする。
あれも弟の決意が本気かどうかを確認するためだったんだな。
「ピエットさんは実力はまだまだですが、人間的には素晴らしい方なのでいいパラディンになってくれそうですね。でもいいんですか? 役場の仕事とかも推薦してあげられるでしょう?」
「いや、ピエットは魔物の脅威から人々を救いたいと心から思ってるんだよ。だからパラディンがピッタリだ」
「あれだけしっかりしてるのならいずれは町長とかにもなれそうなんですけどね。ウチの従業員にも欲しいくらいですよ、ははっ」
「でもバーゼルさん。帝国がなくなった今、皇子を狙う人なんているんですか?」
「え……」
さすがマリン、鋭い指摘だ……。
バーゼルさんもなんとか絞り出そうとしている。
「……例えば、帝国の皇子に活躍されたら困る人とか?」
そんな人いるのか?
バーゼルさんの失脚を狙ってる可能性はあるが。
でも今さら帝国の復権なんて誰がおそれ……あ。
「それはつまり我々のことを言ってるのですか?」
リアムさんが反応した……。
「いえいえ、例えばの話でして、誰も王都のことなんて一言も言ってないじゃないですか」
「それならいいのですが」
「「「「……」」」」
かなり険悪な空気だぞ……。
なんでこんなことになってるんだっけ……。
「あの……ロイス様……」
様?
ダイアナさんはみんなを様付けで呼ぶタイプなのか?
って猫かぶってるんだっけ。
「なんでしょうか?」
「バナ君の合否はどうなりますか?」
あ~、そうだった。
バナ君のせいでこんなことになってるんだったな。
バーゼルさんがピエットさんの話を持ち出すもんだから話が余計ややこしくなったんだ。
「ダイアナさんはバナ君に王子としてパラディン隊に入ってほしいですか?」
「王子として……いえ、こちらではみなさんと同じように普通の男の子として任務に務めてほしいです。王国騎士隊に入るときにはそうはいかないでしょうし、強くない王子が入ってきても騎士のみなさんは戸惑うだけでしょうから」
「なるほど。本当は冒険者になるのが一番お勧めなんですけどね」
「冒険者にはならないって言ってるだろ。俺は町の人の声を常に聞いていたいんだ」
生意気だけどたまに王子っぽいこと言うんだよな。
……はぁ~。
面倒になるのはわかってるが引き受けてみるか。
やる気はあるみたいだし。
「マリン、いいよな?」
「私は反対。ララちゃんも間違いなく反対」
「でもピエットさんも入るんだしさ」
「ピエットさんはいい人そうだもん。バナ君は絶対トラブル起こすって」
「そんなことない! 会ったばかりのお前が俺のなにを知ってるんだ!?」
「あ、私面接官なのわかってる?」
「う……すまん……」
どっちもどっちなんだよな……。
でもララのほうに行かせなくて良かったのは間違いない。
「マリン、なにかあったら俺が責任取るからさ」
「ダメ。どうしてもって言うならせめて責任は身内に取らせて」
まぁそれが妥当か。
「じゃあジェラードさん」
「え? 僕?」
「当たり前じゃないですか。バナ君関連でなにか問題あったときは全ての責任はジェラードさんでお願いしますね」
「え……わかったよ……」
町長の話がなくなって王都に帰るだけだから別に難しい話じゃない。
「それとバーゼルさん」
「えっ!? 私もなにかあるのかい!?」
「ピエットさんがいるでしょう。ピエットさんのことが問題になったときはバーゼルさんが責任取ってくださいよ?」
「……わかった。兄としてそれは当然のことだ」
うん、兄弟は助け合わないとな。
「私も責任取ります」
「ん? ダイアナさんは別にいいですよ」
「いえ、私もバナ君といっしょにマルセールに住みますからそういうわけにはいきません」
「「「「は?」」」」
またわけわからないこと言い出したな……。
 




