第四百二十六話 適性試験
適性試験は魔道士職とそれ以外の一般職に分かれて行う。
どちらもランダムに選ばれた十人の受験者がまとまって転移してきて、説明が行われてから試験のスタートとなる。
「開始の合図と共にここから一歩進んで転移されますと、転移先にはまずブルースライムが十体出現します。その十体を倒してから走り出してください。道中にはオレンジスライムやダークラビットも出現いたします。ただし、その魔物たちはすぐ近くまで寄ってくることはあっても魔物側から攻撃してくることはございません。ですが一度攻撃しますと相手も反撃してきますのでご注意を。では武器をお持ちでない方はこちらの武器からお好きな武器をお選びいただき、順にお並びください。前の人がスタートしてから三十秒後に次の方のスタートとなります。なお、転移先は全員違う場所でございます」
一般職向けの現場説明員はセバスさんと役場の方数名。
ウチの従業員だけじゃ全然回らないからな。
適性試験でウチから貸し出す武器はウチで作ってる銅製品の武器のみとした。
次の一次試験では鉄製品の武器も用意している。
そして試験がスタートした。
「やっと始まったのう~楽しみじゃのう~」
なぜかジジイは最初から試験官にかなり乗り気だった。
まぁ冒険者を見る目はあるって普段から自分で言ってるくらいだからな。
「ふむ、こやつは戦いなれておるようじゃ。Bで」
「はい」
ジジイの審査内容をカトレアがすぐに審査システムのデータベースに反映させる。
「お、三十秒って早いのう~。これじゃお茶を飲む暇もないぞ?」
「喋ってる暇もないですよ。それとカトレアがわかりやすいように番号もちゃんと言ってください」
「お~厳しいのう~。35番はCグループじゃな。むむ? さっきの255番は風魔法も使えるようじゃ。う~ん、この80番の子はほぼ初心者じゃな。Dで」
ジジイのくせにいくつもの画面を同時によく見れてるじゃないか。
このグループ分けは次の試験のためのものだ。
一次試験はA~Dグループに分かれており、Aグループのほうが強い敵が出る。
別にAグループだから絶対に合格するってものでもない。
あくまで参考程度のものだ。
それにこの適性試験はあくまでウォーミングアップだから、まだまだ本気を出してない人もたくさんいるだろうし。
「みんな気合入っとるのう~」
でも最初から本気でやるのが普通か。
適性試験とは言っても審査されてることには間違いないんだからな。
「ロイス君や、少し多くなってきたからそろそろ頼むぞ」
「了解です。どんどん次の組がスタートしますからね」
「そりゃ大変じゃのう~。あ、こやつ帝国騎士におったやつじゃな。……Bで」
帝国での戦場を経験してるからBなのか?
「お兄ちゃん、早く。462番の人」
ってジジイのことは気にしてる場合じゃないな。
俺の隣には記録係にとしてマリンが付いてくれてる。
「……ん? 素手ってことは武闘家か。ウチの爪も使ってみたらいいのに」
「そんなことはいいから審査して」
「……Cで。次は……少し保留で。弓使いだからこの先を見てから判断する」
「わかった」
「魔道士組もスタートしたみたいじゃの」
「あっちは百人ちょっとですからすぐ終わりそうでいいですよね」
魔道士職の現場説明および試験官はギャビンさん、ディーナさん、ルーナさん、そしてスピカさんの四人。
攻撃魔法はギャビンさんとディーナさん、回復魔法はルーナさんという分担だ。
スピカさんは記録係だが、錬金術師に向いてそうな人がいないかどうかも同時に探してるようだ。
魔道士職の適性試験は一般職の試験とは違い、遠距離攻撃での魔法を見る試験がメインとなっている。
魔力はあるがまだ攻撃魔法が使えないという人や、回復魔法や補助魔法しか使えないという人は魔法杖での攻撃となる。
まぁそっちの適性試験は四人に任せておけば間違いないだろう。
きっとどの系統の魔法がどの程度の強さなのかも詳細に調べてるはず。
今後魔力量が成長しそうかどうかも経験でわかったりするんだろう。
でもそこまで詳しく調べようとすると時間がかかりそうだな。
……ん?
「なんでユウナが向こうにいるんだ?」
「試験官やりたいってララちゃんにお願いしてたよ」
あいつ……。
試験官ごっこじゃないんだぞ。
「私もやりたいって言ったら無視されたわ……」
「まだ冒険者になって半年のお前に試験官なんかできるわけないだろ。審査されるほうの身にもなってみろ」
「……」
「お兄ちゃん、一応後ろには第一王子様、第二王子様、第二王女様がいるんだよ? それに騎士隊の人たちだってたくさんいるんだからね? シャルルちゃんに失礼な口聞いてるとみんな怒っちゃうかもよ? まぁ怒ったところでお兄ちゃんには指一本触れることもできないけどね」
俺の後ろではボネとペンネがしっかりと見張ってるからな。
それにマリンだってわざわざみんなに聞こえるように言わなくてもいいのに。
これ絶対に楽しんでる言い方だろ。
「じゃあ仕方ないからシャルルは俺の手伝いだ。補助魔法使ってる人がいたら言ってくれ」
「わかったわ! 私の目は誤魔化せないわよ!?」
誰も誤魔化すつもりなんてないと思うが。
むしろ気付いてくれって感じだろ。
「シャルルちゃんや、こっちの手伝いもお願いしていいかの?」
「仕方ないわね! ジジイなんだから無理せず後ろで寝ててもいいのよ!」
「おお……こういう扱いもなんだか久しぶりじゃのう……たまにはいいもんじゃ」
シャルルは俺とジジイの間に割り込んできた。
兄や姉にカッコいい姿を見せたいのかもしれない。
というか第二王女の……ダイアナさんだっけ?
なにも話さずにずっと静かな割に、画面を食い入るように見てる気がするのは気のせいだろうか。
まさか自分もシャルルと同じで戦闘に興味があるとか言い出さないよな?
これ以上面倒事を持ち込まないでくれよ?
すると後ろから、俺たちに遠慮してるのか少し小さめの声で話してるジェラードさんとリアムさんの会話が聞こえてきた。
「なぁ……こんなにいくつもの画面を同時に見ながらよく審査できるよな……」
「普段ロイス君はもっと多くの画面を同時に見てるんだよ。今それぞれの画面には一人しか映ってないだろ? いつもはこれがパーティで、もっと激しい戦闘風景なわけだしね。しかも長時間ずっと見てるからこれくらい朝飯前なんだと思う」
いや、いつもはとりあえず画面をつけてるだけで全部を見てるわけじゃないからな?
気になった画面一つをなにも考えずにぼーっと見てるだけだし。
「どうだ騎士隊長、いい素材はいそうか?」
「はい。弱い魔物とはいえ、魔物相手に試験ができるとやはり実力が浮き上がってきますからわかりやすくていいですね」
「今度の騎士隊試験でも取り入れてみるか?」
「ご冗談を。これはこのダンジョンでしかできないやり方ですから。ご所望なら王都の外でやってもいいですが、魔物があっという間にいなくなりますな」
「魔物がいなくなるなら一石二鳥じゃないか、ははっ」
本気で言ってるのだろうかこの人たち?
というか集中できないから出ていってもらおうかな。
「騎士隊長、それにリアムお兄様」
ん?
シャルルは画面から目を離さずに後ろの二人に呼びかけた。
「二か月後、王都がどうなってるか想像できないかしら? 十中八九魔瘴で覆われてるわよ?」
「「え……」」
「だから試験をするなら魔物の数に困ることはないわね。でも出現する魔物の種類は選べないから色々と考えることが多くなるわよ。犠牲者もいっぱい出るだろうしね。その前に王都が無事かどうかもわからないけど」
「「……」」
ふふっ。
シャルルらしくない間接的な言い方じゃないか。
おかげで後ろは静かになりそうだな。
 




